琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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今回は金谷姉弟と賑やかし組のターンです。
これの原作、女性キャラが男性キャラと比べてかなり少ないんですよね。
そういうわけで、オリキャラは女性を多めにしています。


22 脱出のためには

 同時刻。

 ショッピングモール三階、アパレル・ファッションエリア。

 

「ふふっ。キマってるな、オレ。これで宮原のハートは、オレに釘づけだぜ」

「僕のも見てよ。これで優花ちゃんも、僕に一目置いてくれるんじゃないかと」

「ははは、似合ってるわね」

「……お前らに緊張感というものはないのか……」

 偵察から戻って来た金谷章吾と金谷有栖は、

 店の服を手当たり次第に引っ張り出して遊んでいるクラスメイトを見て、深い溜息を吐いた。

 服が散乱したショップの中、同じ桜ヶ島小6年1組の関本和也と伊藤孝司が、

 何やらポーズをキメている。

「お、金谷姉弟、帰ったか」

 と、関本和也が振り返った。

「どうよ、これ。荒野のガンマンって感じしねぇ?」

「かっこいいわね! 私だったら、カウガール?」

 これからは男もファッションの時代だよなと笑う。

 クラス一のお調子者で、一言でいえばバカでアホ。

 しょっちゅうふざけて先生に叱られている。

 和也は矢鱈派手な柄シャツと、穴だらけのジーンズを着ていた。

 カウボーイハットをくいっと持ち上げ、カッコいい……と一人でうっとりしている。

「僕のはね、武士をイメージしてみた。新撰組とか、好きなんだよね」

 と、同じくポーズをキメているのは、伊藤孝司。

 普段は読書好きで大人しいのに、和也と一緒にいるとお調子者になる。

 孝司は渋い色の半着にゆったりとした袴を履いて、頭に鉢巻きを結び付けている。

 揃って口を開き、うっとりと言った。

 

「「「カッコいい……」」」

 

(……どうして、こんな事になってるんだ。有栖まで乗るなんて……)

 章吾は、頭が痛くなってきた。

 

「あら、練習? 章吾にしては、珍しいわね」

「有栖……」

 

 その日、章吾は元々、ショッピングモールに来るつもりはなかった。

 朝から一日、ランニングをする予定だった。

 何故ランニングを始めたかというと……理由は、癪だが、隣のクラスの大場大翔。

 桜ヶ島小では、1組と2組の体育の授業は、合同で行われる事になっている。

 20m走、100m走、走り幅跳び、高跳び、ドッヂボール、サッカー、バスケ……。

 どんな競技でも、章吾はいつもトップだった。

 今に始まった事ではなく、小さい頃から、ずっとそうだ。

「金谷君、凄い」

「尊敬しちゃうわ!」

 周りの皆や、姉の有栖によく言われる。

 よく言われるが……章吾はピンと来ない。

 だって、それは章吾にとって、いたって「普通」の事だったから。

 

 だが、この頃、事情が少し変わってきた。

 20m走、100m走で、大翔がタイムを伸ばしてきたのだ。

 体育の授業で走っていると、すぐ後ろをぴったりついてくる。

 まだ負けた事はないが、時々、かなりやばい。

 

 章吾は、週末、ランニングを始めた。

 桜ヶ島の街をぐるりと走り、体を鍛え直すのだ。

 スポーツで練習するだなんて、生まれて初めての経験だった。

 練習なんてしなくても、章吾の相手になる者は、有栖ぐらいしかいなかったのに。

(くそ、カッコ悪いなぁ……)

 そう思っているのに、走る足取りは軽かった。

 この頃、有栖にこう言われる。

「章吾、少し変わったわね。話しやすくなったわ。ねぇ、私と一緒に、映画に行かない?」

 そんな姉の有栖には逆らえなくて、章吾はショッピングモールに行った。

 

 ……そうこうしているうちに、ふっと、電気が消えたのだ。

 なんの前触れもなく。

 いつの間にか、他の客達の姿がなくなって、館内放送が鬼ごっこの開始を告げた。

 何とか逃げ道を探そうと、章吾と有栖が偵察に行って戻ってきてみれば、

 アホ二人は全く危機感もなく、ファッションショーをして遊んでいた……というわけだった。

 

「一階の出口は、全部封鎖されてたわ。私が超能力を使っても、壊せなかった。

 そんなに強い力じゃなかったしね……」

 二人に元の服に着替えさせると、有栖は作戦会議を始めた。

 最初にいたのがスポーツ用品店だったため、装備についてはばっちりだった。

 小学校に閉じ込められた時の経験で、武器があれば大体の事には、

 対抗できる事は知っている……できないのもいるが。

 武器になりそうな用具は、デイパックの中に詰めて持ってきた。

 和也と孝司はあまり話を聞かず、カッコいいのに……とぶつぶつ文句を言っている。

「あなた達、鬼に食べられるのとカッコ悪いの、どっちを選ぶの?」

「「キューキョクの二択だ……」」

 なんかもう諦めて、有栖はショッピングモールの地図を広げた。

 南北に伸びたモールの一階には、いくつもの出入り口がある。

 何千人もの客が出入りするガラスドア、自動ドア。

 今は、全て強固なシャッターで封鎖されている。

 有栖でも、破壊できなかったらしい。

 日曜大工コーナーからハンマーを借りてきて、叩いてみたが、もちろんびくともしなかった。

 他にも色んな道具で試したが、破れそうにない。

『ぴんぽんぱんぽん。当ショッピングモールの防犯シャッターは、業界屈指、安心の固さ。

 大砲でも撃ち込まない限り、破れません!

 あ、大砲以上の破壊力を持つ超能力者は勘弁してください。

 鬼ごっこはぜひ店内でお楽しみください。ぴんぽんぱんぽーん』

 館内放送にしっかり釘を刺される始末だ。

 地階、屋上には駐車場があるが、これも通路が封鎖されている。

 エレベーターは電源が切れており、エスカレーターは逆流している。

 和也と孝司が逆走しまくったが、やっぱり館内放送に注意された。

『エスカレーターの逆走はキケンです。ぴんぽんぱんぽーん』

 

「あのシャッターを何とかしない限り、脱出はできそうもないな……」

 何とかして、開ける事はできないだろうか。

 四人は首を捻って考え込んだが、いいアイデアは出てこなかった。

 ふと、有栖がぽつりと呟いた。

 

「本当に大砲でもあったら、いいのにね」




有栖の発言は後々フラグになるでしょう。
次回は彼らがある人物と出会います。

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