こういうのほど群れるのはお約束ですよね。
「はい、これで少しは痛みが和らいだでしょ。
……といっても、アタシが治せるのは傷だけ。痛みは苦手なのよね」
織美亜は大翔の左足首を能力で治した。
治癒の超能力を持っている織美亜だが、痛みを和らげる事は不得意なのだ。
「それにしても……ここって、食べ物がいっぱいあるんでしょ?」
地下1階、食品売り場。
だだっぴろいフロアの中に、たくさんの食材が詰め込まれている。
肉、魚のパックに、冷凍食品の袋。
コロッケやフライのお惣菜。
ずらりと並んだジュースの、ペットボトル、酒瓶。
ポテトチップスにチョコレート。
焼きたてのパン。
試食コーナーでボイルされたウインナー……。
「なのに、ここも、誰もいないわね……」
何百人分もの食材を抱え込んだまま、フロアは眠っているように静まり返っている。
「結衣! いないか? 結衣ーっ! どこにいるんだーっ!」
大翔は叫んだが、返事はない。
『ぴんぽんぱんぽん。ご来店のお客様にお知らせいたします』
アナウンスが流れてきて、六人は身構えた。
このショッピングモールの放送は、碌な事を伝えないのだ。
『ただいまより、日頃のご愛顧に感謝して、10分間のタイムセールを実施いたします。
地下1階、食品売り場にお集まりください』
「地下1階食品売り場……ここじゃないか」
「今度はなんなの……」
悠は、おろおろ周りを見回した。
『タイムセールの10分間は、品物を全品無料にてご提供いたします。
現在、食品売り場にある食品、そして、いる食品を、無料にてお召し上がりいただけます。
どなたさまも心ゆくまでお楽しみくださいませ』
「た、食べていいってよ。これ全部、無料で……」
フロアにずらりと並んだ商品を示して、悠が言う。
「凄いサービスだね……。ぼ、僕、このショッピングモールのファンになっちゃいそう……」
「……食品売り場にある食品」
「そして、いる、食品といえば?」
葵と織美亜が言った。
「うう……そこ、聞かなかった事にしようよ……。きっとそんな事、言わなかったんだ……」
「食品売り場にある食品」
葵は並んだ食材を指差した。
「そして……いる、食品」
「あー、あー、聞かないよー」
悠は耳を塞いで目を瞑っている。
嫌な事は見ない、聞かない、が悠の信条だ。
天井が揺れた。
床を振動が響き渡ってくる。
「何、この音……。いや、聞かなかった……っ」
「隠れるぞっ」
「えっ」
大翔は素早く周囲を見回した。
このままここにいるのはまずいと、本能が告げている。
「あそこにっ!」
売り場の隅の、テーブルコーナーが目に入った。
並んだ長机の下に、ちょうど隠れられそうなスペースがある。
あそこなら目立たないし、テーブルクロスを被せれば、完全に身を隠せそうだ。
「駄目だっ」
駆け出そうとした大翔の腕を引っ張って、悠がストップをかけた。
大翔は、え? と振り返った。
「あそこは駄目だ、ヒロト。別の場所の方がいいよ」
「……なんでだよ。よさそうなのに」
大翔は首を捻った。
大きなゲーム機や家具のあるフロアと違って、食品売り場で隠れられそうな場所は少ない。
あそこの他は、レジカウンターの衝立の陰とか、商品台に山と積まれたオレンジの下とか。
衝立の陰は、すぐに見つかってしまいそうだし、鬼達はきっと食材に押し寄せてくる。
なるべく離れていた方がいいと思う。
「テーブルコーナーが、一番じゃないか?」
「何だか、嫌な予感がするんだ……。あそこに隠れたくないよ」
大翔はごくりと唾を呑んだ。
悠は怖がりだが、その分、直感が鋭いところがあるのだ。
牙も爪も持たない小動物が、敏感に危機を察知するように。
……もっとも、そんなものすらも能力で対抗できるエージェントの前では形無しだが。
「でも……じゃあ、どこへ?」
「……あそこはどう?」
悠が指したのは、生鮮食品コーナーの一角だった。
棚には、納豆のパックや豆腐、こんにゃくなどが並んでいる。
棚の前に台があって、その下のスペースを悠は指差している。
(正直、ないだろ)
隠れ場所は狭いし、身動きが取れない。
食材が並んだど真ん中だし、何より棚の前まで近づいてこられたら、丸見えになるのだ。
「足音が近づいてくるわ。迷ってる時間はない」
「ヒロト……」
「よし、そこに隠れようぜ」
大翔は頷いた。
別に何の確信もないけど、親友がそうしようと言っている。
(エージェントは堂々と出るほど、アホじゃない)
大翔達は台の下に身を隠した。
体を小さくまるめて、体育座りになる。
エージェント達は大きかったが、それでも、不思議な力によってみんな隠れられた。
六人が隠れ終えた直後、フロアに鬼達が降りた。
階段から、エスカレーターから。
次々、フロアに降り立った。
餓鬼の群れだ。
「……また、か」
「生前に贅沢をしすぎた人間が、鬼になったものよ。
常に飢えて湧いていて、決して満たされる事がないと言われてるわ」
背丈は人間の大人くらい。
悠は、おろおろまわりを見回した。
数は、10、15、20……30、40、50……100……駄目だ、数え切れない。
一体どこから湧いてきたんだ。
餓鬼達は並んだ食品を見渡して、歓喜の雄たけびを上げている。
獣のものとも人間のものともつかない気持ち悪い遠吠えが、フロア中に響き渡る。
フロアはあっという間に、鬼で溢れ返った。
といっても、まだ大翔達に戦う力はないので、逃げるのみですが、
エージェント達は戦う事ができるのです。