琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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あの鬼がまたまた登場します。
エージェントも、結構強いですよ。


25 鬼と納豆

 ガツガツ、ガツガツ……

 

 餓鬼達の食欲はとんでもなかった。

 ものの一分で、たくさんあった肉類が全て食いつくされた。

 豚挽肉、牛ステーキ肉、鶏もも……。

 ずらりと並んだ棚に、一斉に群がると、奪い合うように貪っていく。

 ただ、食事のマナーは最低だった。

 手掴みし、生のままブチブチとかじりつく。

 あっという間に骨だけにして、骨もバリバリ噛み砕く。

 その食べかすを全部ボロボロと床に落としていく。

(あああ、高級サーロインをあんなにばくばく……。ちょっと許せないよ。

 うちはバーゲンの肉しか食べられないのに……)

(文化の違いを考慮しても、あの食べ方は酷いわ。ちょっと許せないわね。品のない……)

 台の隙間から様子を伺って悠と葵が怒りを燃やす。

 まあ、二人の怒りポイントは、ちょっと違っているようだが。

 

 あっという間に、棚はからっぽになった。

 所要時間一分。

(餓鬼の食欲は、並ではないな)

(まさしく、鬼ね)

 

 餓鬼達は隣の海鮮コーナーに移動した。

 順番に食べていくつもりだろうか。

「ありがとうございまーす。ご好評につき、お肉全品、完売でございまーす」

 聞き覚えのある声がした。

 六人は顔を見合わせた。

 見やると、群がった餓鬼達の脇に、見覚えのある鬼が立っていた。

 全身を覆った、ふわふわした真っ白な毛並み。

 頭から生えた二本のツノに、つぶらな瞳。

 背中にはちょこんと、コウモリのような翼。

 ウサギのようなその鬼は……。

 

(ツノウサギ!?)

(なんでここに!?)

 小学校に閉じ込められた時、散々大翔達を追い詰め、

 そしてエージェントに懲らしめられた鬼だった。

 可愛い姿をしているが、ノコギリのような牙を持っていて、イスでもなんでもガリガリかじる。

 ツノウサギは今、毛皮の上に深緑色のエプロンをかけて、元気よく声を張り上げていた。

「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー! どなたさまも、ぜひぜひご賞味くださいませー!

 買って嬉しい、食べて美味しい、地獄ショッピングモールの食料品セールー。

 どうぞご利用くださいませー!」

 

(……何してるんだ? アイツ)

(さあ?)

 大翔達は台の下で息を殺したまま、顔中にハテナマークを浮かべた。

 タイムセール終了まで、まだ八分もある。

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、

 っしゃいませぇー、しゃぁませえー、っしゃぁせえーっ!

 どなたさまもお気軽にご利用くださいませーっ」

 ツノウサギは短い足でちょこちょこと、食材の棚の間をうろうろ歩いている。

 どうやら並んだ食材に、『10%オフ』『3割引き』など、

 割り引きシールを貼りつけているようだ。

 注意して見ると、ツノウサギのかけたエプロンの胸には、

 『アルバイト(見習い)』と名札がついていた。

 

(あ、アルバイト、してるっぽいね……。しかも、まだ見習いだ)

(鬼もバイトって、するもんなのか……?)

(きっと、小学校で僕達を食べられなかったから、食生活貧しくなっちゃったんじゃない……?)

(そんな生活かかってたのかよ……)

 とりあえず、ツノウサギは割引きシール貼りに夢中で、こちらに気づく気配はない。

 鬼達の動きを警戒した方がよさそうだ。

 ちょっと目を放していた間に、海鮮コーナーも食いつくされていた。

 高級マグロ、エビ、カニ……残骸が床に散らばっている。

 肉と魚が品切れになると、餓鬼達は色んなところへ散っていった。

 リンゴ、バナナ、ブドウ、キウイ……フルーツコーナー。

 牛乳、コーラ、オレンジジュース……飲み物コーナー。

 ポテトチップス、チョコ、キャンディー、マシュマロ……お菓子コーナー。

 

 ―ガツガツ、グチュベキッ、ゴクゴクッ、バキベキバリンッ

 

 あっという間に空っぽにしていく。

(あああ、僕もお腹空いたよう! 少し分けてよ~)

(マナーは大切! 落ちた物は拾う!)

 悠と葵は怒り心頭だ。

 残り六分。

 フロアにいっぱいあった食材のうち、3分の1がもうなくなっている。

 こうして見ていると、鬼にも食べ物の好みがあるようだ。

 一番好きなのは、なんといっても肉。

 次に魚介類、果物、パン、おやつと続く。

 逆に不人気なのは、ブロッコリー、ピーマン、カリフラワー……緑黄色野菜。

(野菜をバランスよく食べないから、あんな見苦しい体つきになるのよ)

 葵は手厳しい。

 飲み物は、アルコール類は避けているようだ。

 

(地獄でも、お酒はハタチになってから?)

 悠が首を捻って、ビールを飲むマネをする。

 きのこの山は食べ尽くしたのに、たけのこの里は残している。

(俺はたけのこ派)

(僕はきのこ派)

(あたしは……って今、それどうでもいいでしょ)

(ああ、至極どうでもいい)

 そして、大翔達の隠れた生鮮食品コーナーの一角は、人気0だった。

 他の棚には、1匹2匹は寄っていくのに、こっちにはさっぱり近寄ってこない。

(なんで……?)

(……これのせい、なのかしら)

 と、葵が指したのは、ずらりと並んだ特売品の納豆パックだ。

 一つ手に取り、解説する。

(鬼は外――節分で鬼避けとして使われるように、大豆には霊的な力が宿るとされているの。

 まめ=魔滅 とかけて、魔を滅する食べ物として、ありがたがられてきた。

 餓鬼達、この豆を嫌がって、寄ってこないんだと思う)

(ドラキュラがニンニクを嫌うようにな)

(魔を滅する……でも、納豆だよ?)

 3パック78円の納豆パックを見上げて、納得いかなそうに悠が言う。

(しかも、特売品だよ? 霊的な力、宿りそうにないよ?)

(きっと特売品でも、ありがたみは変わらないものなのよ。

 むしろ、きっと、増すんだわ、ありがたみ)

(現代にも退魔の力はあるんだな)

(超能力が使える人が言うセリフかしら)

 

 残り四分を切った。

 何匹かの鬼達が、食材コーナーを離れて、隅のテーブルコーナーへ移動した。

 イスに座るが、餓鬼の体重を支え切れず、イスは脚が折れて潰れた。

 テーブルに座るが、これも潰れた。

 餓鬼達はひとしきりイスとテーブルを壊して楽しむと、床に座り込んだ。

 ブチッブチッとスルメの足を噛みちぎっている。

 あそこに隠れていたら、今頃噛みちぎられているのは大翔の足だ。

 持つべきものは、親友だ。

 

 ……後三分。

 大丈夫そうだ。

 餓鬼達はまるで近寄ってこない。

 このままタイムセール終了まで、息を潜めてじっとしていれば……。

 

「いらっしゃいませいらっしゃいませー! どうぞご賞味くださいませーっ。

 こんにゃく、お豆腐、納豆などは、いかがでしょうかー? いらっしゃいませー!」

 ツノウサギが張り上げた声に、三人はびくっとして振り向いた。

 エージェントの三人は、冷静だ。

「只今、納豆の特売セールを実施しております!!

 納豆は、栄養満点、たんぱく質・鉄分・食物繊維豊富ー、

 さらには血液サラサラ効果もございますーっ。

 美味しい納豆、美味しい納豆ー。この機会に是非、ご賞味くださいませー!」

 ツノウサギは豆腐のパックにいそいそと半額シールを貼りつけながら、

 やたら元気よく声を張り上げている。

 やばいよ……と悠が青ざめた。

 幸い、餓鬼達はまだ興味を示していない。

 時折ちらっと顔を向ける者もいるが、すぐに別の食品に目を移す。

 ツノウサギは構わず、言った。

「工場で、十分に熟成してお届けしておりますーっ。

 私などは毎日必ず1パック、ご飯と一緒にいただいておりますーっ。

 納豆、納豆ぉー、美味しい納豆ぉー。是非是非、ご賞味くださいませぇー!」

 

(……やっぱり豆は関係なかったみたいね。増してなかったわ、ありがたみ)

(その話はもういいよ! それより、あいつ、黙らせないとやばいよ!

 餓鬼が寄ってきちゃうよ!)

(ていうか、なんであんなに納豆推しなんだ、あいつ! あのこだわり、いらねえよ!)

(黙らせるなら、俺が超能力を使いたいが、目立つからな)

「納豆ー、納豆ー、美味しい納豆~う」

 大翔達の密かな猛抗議も空しく、ツノウサギは納豆を勧め続けている。

(ていうか、やばい!)

 シールを貼りつけながら、ゆっくりこちらへ近づいてくる。

 六人は息を殺して、身を縮こまらせた。

 傍までくれば、すぐに見つかってしまう。

 そうして仲間を呼ばれたら、大勢の餓鬼に群がられて終わりだ。

 あと一分ちょっと。

 

「いらっしゃいませー。いらっしゃいませー! 何でも揃う、地獄ショッピングモールー。

 買って嬉しい、食べて美味しいー。どなたさまもお気軽にご利用――」

 ペタリと納豆のパックに半額シールを貼りつけて……ツノウサギが、

 のほほんとこちらを振り向いた。

 隠れていた大翔達と、目が合った。

 

「……いらっしゃいませー……?」

 ツノウサギはしばらく、ぽかんとしていた。

 あれ、なんだっけ、この食材、どっかで見たような……みたいな顔で、

 じーっと大翔達を見つめている。

 

「――お、お前らっ」

 ガバリと口を開いた。

 口の中には、ギザギザの牙が、びっしりと生え揃っている。

 二又に分かれた舌がチロチロ揺れる。

 

「……食らえ」

 すると、眩い光が、ツノウサギの目を眩ませる。

 阿藍の超能力だ。

「黙れ」

 さらに狼王がツノウサギを怪力で黙らせている。

 織美亜はというと……乱闘時の傷を癒すために、待機していた。

 

「やっぱり、この人達は、強いわね……」




うちの子達はホラーにとても厳しいのです。
相手が鬼や怪異であっても、チカラを使って黙らせます。
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