エージェントも、結構強いですよ。
ガツガツ、ガツガツ……
餓鬼達の食欲はとんでもなかった。
ものの一分で、たくさんあった肉類が全て食いつくされた。
豚挽肉、牛ステーキ肉、鶏もも……。
ずらりと並んだ棚に、一斉に群がると、奪い合うように貪っていく。
ただ、食事のマナーは最低だった。
手掴みし、生のままブチブチとかじりつく。
あっという間に骨だけにして、骨もバリバリ噛み砕く。
その食べかすを全部ボロボロと床に落としていく。
(あああ、高級サーロインをあんなにばくばく……。ちょっと許せないよ。
うちはバーゲンの肉しか食べられないのに……)
(文化の違いを考慮しても、あの食べ方は酷いわ。ちょっと許せないわね。品のない……)
台の隙間から様子を伺って悠と葵が怒りを燃やす。
まあ、二人の怒りポイントは、ちょっと違っているようだが。
あっという間に、棚はからっぽになった。
所要時間一分。
(餓鬼の食欲は、並ではないな)
(まさしく、鬼ね)
餓鬼達は隣の海鮮コーナーに移動した。
順番に食べていくつもりだろうか。
「ありがとうございまーす。ご好評につき、お肉全品、完売でございまーす」
聞き覚えのある声がした。
六人は顔を見合わせた。
見やると、群がった餓鬼達の脇に、見覚えのある鬼が立っていた。
全身を覆った、ふわふわした真っ白な毛並み。
頭から生えた二本のツノに、つぶらな瞳。
背中にはちょこんと、コウモリのような翼。
ウサギのようなその鬼は……。
(ツノウサギ!?)
(なんでここに!?)
小学校に閉じ込められた時、散々大翔達を追い詰め、
そしてエージェントに懲らしめられた鬼だった。
可愛い姿をしているが、ノコギリのような牙を持っていて、イスでもなんでもガリガリかじる。
ツノウサギは今、毛皮の上に深緑色のエプロンをかけて、元気よく声を張り上げていた。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー! どなたさまも、ぜひぜひご賞味くださいませー!
買って嬉しい、食べて美味しい、地獄ショッピングモールの食料品セールー。
どうぞご利用くださいませー!」
(……何してるんだ? アイツ)
(さあ?)
大翔達は台の下で息を殺したまま、顔中にハテナマークを浮かべた。
タイムセール終了まで、まだ八分もある。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、
っしゃいませぇー、しゃぁませえー、っしゃぁせえーっ!
どなたさまもお気軽にご利用くださいませーっ」
ツノウサギは短い足でちょこちょこと、食材の棚の間をうろうろ歩いている。
どうやら並んだ食材に、『10%オフ』『3割引き』など、
割り引きシールを貼りつけているようだ。
注意して見ると、ツノウサギのかけたエプロンの胸には、
『アルバイト(見習い)』と名札がついていた。
(あ、アルバイト、してるっぽいね……。しかも、まだ見習いだ)
(鬼もバイトって、するもんなのか……?)
(きっと、小学校で僕達を食べられなかったから、食生活貧しくなっちゃったんじゃない……?)
(そんな生活かかってたのかよ……)
とりあえず、ツノウサギは割引きシール貼りに夢中で、こちらに気づく気配はない。
鬼達の動きを警戒した方がよさそうだ。
ちょっと目を放していた間に、海鮮コーナーも食いつくされていた。
高級マグロ、エビ、カニ……残骸が床に散らばっている。
肉と魚が品切れになると、餓鬼達は色んなところへ散っていった。
リンゴ、バナナ、ブドウ、キウイ……フルーツコーナー。
牛乳、コーラ、オレンジジュース……飲み物コーナー。
ポテトチップス、チョコ、キャンディー、マシュマロ……お菓子コーナー。
―ガツガツ、グチュベキッ、ゴクゴクッ、バキベキバリンッ
あっという間に空っぽにしていく。
(あああ、僕もお腹空いたよう! 少し分けてよ~)
(マナーは大切! 落ちた物は拾う!)
悠と葵は怒り心頭だ。
残り六分。
フロアにいっぱいあった食材のうち、3分の1がもうなくなっている。
こうして見ていると、鬼にも食べ物の好みがあるようだ。
一番好きなのは、なんといっても肉。
次に魚介類、果物、パン、おやつと続く。
逆に不人気なのは、ブロッコリー、ピーマン、カリフラワー……緑黄色野菜。
(野菜をバランスよく食べないから、あんな見苦しい体つきになるのよ)
葵は手厳しい。
飲み物は、アルコール類は避けているようだ。
(地獄でも、お酒はハタチになってから?)
悠が首を捻って、ビールを飲むマネをする。
きのこの山は食べ尽くしたのに、たけのこの里は残している。
(俺はたけのこ派)
(僕はきのこ派)
(あたしは……って今、それどうでもいいでしょ)
(ああ、至極どうでもいい)
そして、大翔達の隠れた生鮮食品コーナーの一角は、人気0だった。
他の棚には、1匹2匹は寄っていくのに、こっちにはさっぱり近寄ってこない。
(なんで……?)
(……これのせい、なのかしら)
と、葵が指したのは、ずらりと並んだ特売品の納豆パックだ。
一つ手に取り、解説する。
(鬼は外――節分で鬼避けとして使われるように、大豆には霊的な力が宿るとされているの。
まめ=魔滅 とかけて、魔を滅する食べ物として、ありがたがられてきた。
餓鬼達、この豆を嫌がって、寄ってこないんだと思う)
(ドラキュラがニンニクを嫌うようにな)
(魔を滅する……でも、納豆だよ?)
3パック78円の納豆パックを見上げて、納得いかなそうに悠が言う。
(しかも、特売品だよ? 霊的な力、宿りそうにないよ?)
(きっと特売品でも、ありがたみは変わらないものなのよ。
むしろ、きっと、増すんだわ、ありがたみ)
(現代にも退魔の力はあるんだな)
(超能力が使える人が言うセリフかしら)
残り四分を切った。
何匹かの鬼達が、食材コーナーを離れて、隅のテーブルコーナーへ移動した。
イスに座るが、餓鬼の体重を支え切れず、イスは脚が折れて潰れた。
テーブルに座るが、これも潰れた。
餓鬼達はひとしきりイスとテーブルを壊して楽しむと、床に座り込んだ。
ブチッブチッとスルメの足を噛みちぎっている。
あそこに隠れていたら、今頃噛みちぎられているのは大翔の足だ。
持つべきものは、親友だ。
……後三分。
大丈夫そうだ。
餓鬼達はまるで近寄ってこない。
このままタイムセール終了まで、息を潜めてじっとしていれば……。
「いらっしゃいませいらっしゃいませー! どうぞご賞味くださいませーっ。
こんにゃく、お豆腐、納豆などは、いかがでしょうかー? いらっしゃいませー!」
ツノウサギが張り上げた声に、三人はびくっとして振り向いた。
エージェントの三人は、冷静だ。
「只今、納豆の特売セールを実施しております!!
納豆は、栄養満点、たんぱく質・鉄分・食物繊維豊富ー、
さらには血液サラサラ効果もございますーっ。
美味しい納豆、美味しい納豆ー。この機会に是非、ご賞味くださいませー!」
ツノウサギは豆腐のパックにいそいそと半額シールを貼りつけながら、
やたら元気よく声を張り上げている。
やばいよ……と悠が青ざめた。
幸い、餓鬼達はまだ興味を示していない。
時折ちらっと顔を向ける者もいるが、すぐに別の食品に目を移す。
ツノウサギは構わず、言った。
「工場で、十分に熟成してお届けしておりますーっ。
私などは毎日必ず1パック、ご飯と一緒にいただいておりますーっ。
納豆、納豆ぉー、美味しい納豆ぉー。是非是非、ご賞味くださいませぇー!」
(……やっぱり豆は関係なかったみたいね。増してなかったわ、ありがたみ)
(その話はもういいよ! それより、あいつ、黙らせないとやばいよ!
餓鬼が寄ってきちゃうよ!)
(ていうか、なんであんなに納豆推しなんだ、あいつ! あのこだわり、いらねえよ!)
(黙らせるなら、俺が超能力を使いたいが、目立つからな)
「納豆ー、納豆ー、美味しい納豆~う」
大翔達の密かな猛抗議も空しく、ツノウサギは納豆を勧め続けている。
(ていうか、やばい!)
シールを貼りつけながら、ゆっくりこちらへ近づいてくる。
六人は息を殺して、身を縮こまらせた。
傍までくれば、すぐに見つかってしまう。
そうして仲間を呼ばれたら、大勢の餓鬼に群がられて終わりだ。
あと一分ちょっと。
「いらっしゃいませー。いらっしゃいませー! 何でも揃う、地獄ショッピングモールー。
買って嬉しい、食べて美味しいー。どなたさまもお気軽にご利用――」
ペタリと納豆のパックに半額シールを貼りつけて……ツノウサギが、
のほほんとこちらを振り向いた。
隠れていた大翔達と、目が合った。
「……いらっしゃいませー……?」
ツノウサギはしばらく、ぽかんとしていた。
あれ、なんだっけ、この食材、どっかで見たような……みたいな顔で、
じーっと大翔達を見つめている。
「――お、お前らっ」
ガバリと口を開いた。
口の中には、ギザギザの牙が、びっしりと生え揃っている。
二又に分かれた舌がチロチロ揺れる。
「……食らえ」
すると、眩い光が、ツノウサギの目を眩ませる。
阿藍の超能力だ。
「黙れ」
さらに狼王がツノウサギを怪力で黙らせている。
織美亜はというと……乱闘時の傷を癒すために、待機していた。
「やっぱり、この人達は、強いわね……」
うちの子達はホラーにとても厳しいのです。
相手が鬼や怪異であっても、チカラを使って黙らせます。