エージェントは子供より強く鬼と互角、を目指してみました。
『ただいまをもちまして、タイムセールは終了とさせていただきます。
引き続き、地獄ショッピングモールでの素敵なひと時をお楽しみくださいませ』
餓鬼達が去っていくのは早かった。
食べかけの食料品を放り捨てると、もう用はないとばかりに、
階段やエスカレーターを上って引き上げていく。
大量の食べカスが散乱して、滅茶苦茶になったフロアが残った。
「……いや、お前ら、いきなり何すんのよ……」
餓鬼達が全員いなくなったのを確認すると、狼王は斧をしまった。
解放されたツノウサギは、はあっと深い溜息をついた。
パタパタと翼を揺らして、迷惑そうに六人を見上げた。
「勝手に納豆食わすわ、服で縛るわ、斧で脅すわ。酷過ぎるだろ。
親や学校は、どういう教育してんの? まったく……」
「……鬼に教育について言われたくないけど……」
「あーもう……口が納豆臭い……」
長い舌をちろちろと動かし、牙の間に挟まった食べカスを取る。
パンパンとエプロンの皺を伸ばして、名札の位置を直した。
身構えたままの六人を見上げ、面倒くさそうに首を振る。
「警戒しなくても、ショッピングモールの品物に手を出すほど、オレは命知らずじゃない」
散らかったフロアを見回した。
「ていうか、仕事って忙しい。くそ、餓鬼ども、散らかしやがって。
――ほら、どいたどいた、ジャマジャマ」
大翔達を押しのけると、よいしょと毛の中から箒と塵取りを取り出す。
食べカスの散らばった床をせっせと掃除し始めた。
「……なあ。訊きたいんだけど。結衣がどこにいるか、知らないか?」
大翔が言うと、ツノウサギは面倒くさそうに、不機嫌そうに、振り返った。
「オレの言った事、聞いてた?」
「え?」
「仕事で忙しい。サボってると、怒られんの。
鬼づかい荒いんだ、地獄ショッピングモールは……」
『ぴんぽんぱんぽん。業務連絡、業務連絡。
地下1階食品売り場担当は、すみやかに掃除を完了してください。ぴんぽんぱんぽーん』
「ほらぁ!」
ツノウサギは、めんどくせえなぁと言いつつ、せっせと箒を動かしている。
「俺の妹なんだ。探してるんだ」
「へー」
「まだ小さいんだ。今朝はアニメキャラのシャツを着てた。5歳。見かけなかったか?」
「ふーん」
完全に生返事だ。
悠と葵が顔を見合わせ、肩を竦め、織美亜は苛立った。
大翔は仕方なく、背中を向けた。
「なんで探してんの?」
ツノウサギが訊いた。
「助けに行かなきゃ」
「なんで?」
「だって、まだ小さいんだ」
「だから?」
「俺が守ってやんないと……」
「なんで?」
「なんでって……だって、きょうだいなんだ」
ツノウサギは、あー、もう、と首を振って箒をしまうと、
今度は掃除機を取り出し、床にかけながら言った。
「自分以外は全部他人。それが地獄の常識だ。きょうだい? それウマい?
そいつ助けると、おまえにどんな得があるの?」
「……」
「お前になんかしてくれんの? 食い物か金でもくれんの? 優しくしてくれんの?
ジャマじゃないの? いない方がお菓子もおもちゃも増えたりしない?
親が構ってくれるようになったりしないの? そこんとこどうよ?」
ツノウサギは掃除機をかけながら、フンフンと鼻歌を歌っている。
「ふざけないで。彼女が、怒るわよ」
「なっ!?」
織美亜がツノウサギの頭を掴んで言う。
「彼女」とは、同じエージェントの一人であり、電撃を操る能力者だ。
三きょうだいの一番下だが、超能力はきょうだいの中で最強である。
そんな仲間を馬鹿にしたのだから、織美亜は怒りを隠せなかったのだ。
「少しは大人しくするんだな」
「電撃を浴びたくなければね」
狼王はツノウサギを気絶させて、大翔達と共に地下1階を後にした。
鬼はきょうだいを邪魔者だと思っているようですが、後半では……ですよね。
やっぱり鬼は嘘つきです。あっちとは違って。