琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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大翔がきょうだいとの思い出を語ります。


27 思い出

 階段を上がると、ショッピングモール1階に出た。

 全面開けた吹き抜けのフロアになっていて、手すり越しに4階まで見通せる。

 幅の広い通路にたくさんのショップが並んでいる。

 おしゃれなカフェ、ハンバーガーショップ、まだ甘い匂いの漂うクレープ屋、

 お菓子屋、土産物屋、旅行カウンター……。

 

結衣ーっ!

 妹の姿はどこにも見当たらない。

 夕暮れのような光が射し込み床に濃い影を落とす。

 噴水から流れる水が血のように赤く染まっている。

 大翔の声が、だだっぴろいフロアに、どこまでも空しく響き渡っていく。

結衣ー、返事しろよーっ!

 大翔は、だんだん頭がぼんやりしてきた。

 左足が腫れ上がってきている。

 それと一緒に、体まで熱っぽくなってきたようで、ふらふらする。

 ここは、織美亜に治してもらうしかなかった。

「アタシが治してあげようか?」

「頼む」

「といっても、アタシは傷専門なんだけどね……」

 

 織美亜に癒してもらいながら、大翔はふと、昔、結衣が迷子になった時の事を思い出した。

 結衣が今よりも、もっと小さかった頃の事だ。

 家族三人で、海に出かけた事があった。

 真夏の海、晴れ渡った空、人でごった返した砂浜。

 久しぶりの家族旅行で、大翔はすっかりはしゃいでしまい、失敗した。

「ちょっと買い物に行ってくるから、結衣をお願いね」

 母に頼まれたのに、つい目を離して、砂浜で遊んでいたのだ。

 そのちょっとの隙に、結衣はいなくなっていた。

 母さんは真っ青になって、結衣を探して走り回った。

「誘拐されたんじゃないか、警察を……」

 大人達が深刻な顔で相談している。

 自分のせいだと思い、大翔は浜辺を走り回った。

 目を離したからとかではない。

 

 妹なんて欲しくなかった――結衣が生まれてから、事あるごとに、そんな事を思っていた。

 だからきっと、神様が、結衣をどこかへやっちゃったんだ……そう思った。

 結衣の名前を叫んで、大翔は走り回った。

 夕暮れになっても、結衣は見つからなかった。

 

「これで、治ったかしら」

「ああ……全然痛くない」

 織美亜のおかげで大翔の体力は回復したが、まだ、大翔は真剣な表情をしていた。

「結衣を……結衣を、早く見つけないといけないんだ。あいつ、鬼に見つかって食われちまう」

「でも……」

「結衣、歩くのすげえ遅いんだ。保育園の運動会でもビリばっかなんだ。

 年少の頃から、ずっとだぜ。

 そもそも歩けるようになるまでだって、他の子より遅かったくらいなんだ」

 

 結衣が初めて歩いた日の事を思い出した。

 母さんが結衣にかまけて自分を構ってくれなくなって、大翔が拗ねていた頃の事。

 遊びに出かけようと玄関で靴紐を結んでいたら、結衣がハイハイして寄ってきたのだ。

 大翔の服の裾をぎゅっと掴んで、立ち上がった。

 にーに、と舌たらずに言って笑うと、大翔を追いかけるように1歩、歩いた。

 直後に転んで、大泣きした。

「……初めて歩いたの、そんな感じなんだ。運動音痴なんだよ。

 鬼なんかに見つかったら、逃げ切れなくて、すぐに捕まって食われちまうよ。

 それに、体力もねぇんだよ……」

 大翔は喋り続けて、文句ばかり出てくる。

「どっかに出かけたら、すぐにさ。もう歩けない、おぶってって、ぐずりだすんだよ」

 一緒に出かけると、いつもそうだ。

 おにーちゃん、つかれた。おにーちゃん、おんぶ。ワガママばっかり。

 根負けして仕方なくおぶってやると、

 結衣は大翔の肩に掴まって、安心したように寝息を立て始める。

「グズで。泣き虫で。我儘で。甘ったれで。……ほんと、どうしようもない妹なんだよ」

 文句を並べながら、大翔はなんだか、泣きたくなってきた。

 あの日、結衣を見つけたのは、絶局、浜辺のすぐ近くの岩場の陰だった。

 大翔が見つけた時、結衣は岩の上に寝そべって、幸せそうに寝息を立てていた。

(なんだよ、こんなところで眠りやがって)

 大翔は腹が立って、どんどんムカついてきた。

「結衣、起きろよ。みんな、探してたんだぞ。バカ」

 肩を揺すって呼びかけると、結衣はようやく目を開けた。

 起こしたのが大翔だと分かると、まだ眠たそうに瞼をこすりながら、

 はい、と大翔の手に何かを押しつけてきた。

 それは、貝殻だった。

 綺麗な貝が、たくさん。

 プレゼントだよ、と結衣は胸を張った。

「おにーちゃんに。たくさんあつめたの」

 怒りたかったのに、それで大翔は、怒れなくなってしまう。ずるい。

 

「おにーちゃん、だいすき」

 

 結衣はそう言って、にっこり笑った。




人にとって大事なのは、絆です。
だから、鬼にも対抗できるんですよね。
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