琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

3 / 89
地獄小学校に潜入したエージェント。
地獄小学校に閉じ込められた生徒達。
そこで待ち受けるのは……。


2 地獄になった小学校

「大丈夫かしら?」

 狼王と共に鬼を撃退し、子供を助けた織美亜が、子供を優しく保護する。

「あ……あなたは……」

「アタシは、No.6よ」

「オレは、No.8だ」

 織美亜と狼王は偽名、というよりもコードネームを名乗った。

 殺鬼軍に属する能力者は正体を隠し、鬼と戦うのが任務である。

 なので、本名は島以外では名乗らないのが普通だ。

 子供は震えて、逃げようとしていたが、足をくじいていて動けないようだ。

「いたた……さっき鬼に追いかけられて、怪我をしちゃって……」

「まぁ、大変! 今、治してあげるわ」

 織美亜はそう言って、逃げようとする子供を優しく宥めて、子供に手をかざした。

 光が現れ、子供の傷口に触れると、傷が瞬く間に消えた。

「痛くない……」

「うふっ、お姉さんに任せなさい」

 妖艶な声で織美亜が言う。

 この子供は男の子なので織美亜は誘いたいようだ。

「……そろそろこいつを連れていくぞ」

 狼王は呆れながら、子供の手を引いていく。

 織美亜は子供を見つめながら、彼の後ろについていった。

 ちなみに、性的な理由は全くなく、純粋に子供を守りたいためである。

 

「そういえばアナタの名前を聞いていなかったわね。アナタ、名前はなんていうの?」

「……伊藤孝司」

「よろしくね、伊藤君」

「オレについてこい」

 笑顔の織美亜と、頼もしい狼王に、孝司の不安が和らいだ。

 この二人なら、鬼から守ってくれると、孝司は二人を信頼するのだった。

 

 その頃……。

 

「……」

 しばらく、皆、黙り込んでいた。

 誰も何も喋らなかった。

 

「今の光はなんだよ!?」

 沈黙を破ったのは、1組の関本和也だった。

 普段はお調子者で、しょっちゅう他の子をからかって遊んでいるのだが今は声が上ずっている。

「一体何があったんだよ?」

 職員室に向かった生徒は、伊藤孝司。

 和也とはよく一緒に遊んでいる友達だったはずだ。

 誰も何も答えられない。

 分かるわけがなかった。

 

―ガタッ

 その時、教室のドアが揺れた。

 全員、ビクっとして入り口を振り返った。

 そろそろと静かにドアが開いて、ぴょこんと何かが入ってきた。

 見た事のない生き物だった。

 全身がふわふわした真っ白な毛並みに覆われていながら、いくつか傷がついている。

 見た目はウサギっぽいが、頭から生えているのは耳ではなく、小さな2本の角だった。

 くりくりとしたつぶらな瞳。

 背中にはちょこんと、コウモリみたいな翼。

 足はやたら短い。

「……なんだ? こいつ」

 皆、顔を見合わせた。

 角の生えたウサギみたいなその生き物は、

 短い足を懸命に動かし、とことこと教室に入ってきた。

 唖然として見守る皆の輪の中心に、トテンっと座り込んだ。

 つぶらな瞳で子供達を見上げ、キュウン、と口を閉じたまま鳴いた。

「な、なんだ……? おい、誰のペットだよ?」

 和也がうろたえている。

「何これ! かっわいーっ!」

 声を上げたのは、3組の杉本優花。

 可愛い生き物が大好きで、ウサギの飼育当番をやっている。

「何か餌、食べるかな?」

 机の横にかけたビニール袋をごそごそやった。

 飼育当の餌が入れてあるらしい。

 ニンジンを取り出すと、ツノの生えたウサギみたいな生き物――ツノウサギに差し出した。

 ツノウサギは、ぷるぷるっと首を振った。

 口を閉じたまま、またキュウンと鳴いた。

「これは嫌い? じゃあ、こっち?」

 ツノウサギは、またぷるぷるっと首を振った。

 そして、つぶらな瞳で子供達を見回すと……ボソリと口を開いた。

 

「食いたい」

「………………え?」

「お前らの肉を食いたい」

 ぱかっと口を開けた。

 ノコギリのようにギザギザの牙が、口の中にびっしりと生えている。

 大小長短バラバラで、好き勝手な方向に突き出している。

 細く伸びた舌が先っぽで二又に分かれ、ちろちろと不気味に揺れた。

「キュウン」

「きゃあっ」

 その姿のまま鳴き、ツノウサギが優花に飛びかかった。

 手を引っ込められて、勢い余って椅子に激突する。

 そのまま、大口開けて、椅子をかじり始めた。

―ガジガジ、ガジガジ、ミリミリッ、バキッ、ベキッ、ゴクン

 みるみる椅子を噛み砕き、飲み込んでしまった。

 

「……まじぃ」

―ペッ

 折れ曲がった椅子の脚が床に転がった。

「お前らの肉を食いたい。ガキの味は美味い」

 また大口を開けると、子供達に飛びかかってきた。

 といっても足が短いので、動きは鈍かった。

 教室の仲を逃げ惑う皆に飛びかかるのだが、もたもたとまるで追いつかない。

「……疲れた」

 しばらく飛びかかり続けていたが、諦めたのか、ぺたんと床に座り込み、毛繕いを始めた。

 遠巻きに様子を伺う子供達を見上げると、不満そうに言った。

「逃げるのは、よくない」

「いや、よくない、って言われても困るような……」

 悠が呟いた。

「どうせお前ら、ここで皆死ぬ。お前ら、ここから出られない」

「……」

「ここは地獄の支配下となった。オレの仲間の鬼達が、お前ら全員、食っちまう!

 せっかくだから、オレに食われちまえよう。おいしーく、食ってやるからよう。

 キャキャキャキャキャ」

 パタパタと翼をはばたかせながら、また椅子をがじがじとかじり始めた。

「ま、能力者の奴が邪魔に入ったけどな。大人は本当に嫌な奴だ。今度こそ……」

 ツノウサギはふわふわした毛の中からナイフとフォークを取り出すと、

 チャンチャンと打ち鳴らした。

「せっかくのごちそうどもだ! 他の奴らに取られる前に……オレがお前ら、全員、食っちまう!

 いっただっきまーす!

 ナイフとフォークを構えると、また子供達目がけて飛びかかり始めた。

 だが、足が短いので、誰も捕まらない。

「皆、外へ!」

「あっ! 逃げるのはよくない!」

 葵が勢いよくドアを開けると、全員、教室から飛び出し、廊下を走った。

 みるみるツノウサギを引き離していく。

――もうちょっと足長く生まれたかったあぁぁぁぁぁ!

 恨めしそうに叫ぶツノウサギの声が、背中越しに響いて消えていった。

 構わず皆、階段を駆け降りた。

 一目散に昇降口に向かうと、遮二無二外に飛び出した。

 

「な、なんなんだよ、これは!」

 校舎の外に出た子供達は、周りを取り囲むものを見上げて悲鳴を上げた。

 桜ヶ島小学校の敷地は、回りを背の高いフェンスで囲われているが、

 そのフェンスにベタベタと、奇妙な文字の書かれたお札が貼りつけられているのだ。

 フェンスの向こうには道路があるはずだが、

 煙のように濃い霧が立ち込めていて、何も見えなくなっている。

 フェンス下の地面には、鋭い針がびっしりと突き出していた。

 隙間なく、学校の敷地まるまる1周分。

 校庭の隅にあった池は、すっかり変色していた。

 普段はザリガニが釣れるような澄んだ池なのに、今は血のように赤く濁っている。

 プールからは、湯気が経っていた。

 ぐつぐつと沸騰しているのだ。

「なんなんだ、誰がこんな事しやがったんだよっ!」

「でも、よく能力者は平気で入ってきたわね」

 真っ青な顔で、和也が叫んだ。

 有栖は冷静に呟く。

「校門から出るわよ!」

 葵が叫び、皆走った。

 校庭には、3m以上ありそうな大きな穴が開いていた。

 深くて暗く、底が見えない。

 叫んでも、声が穴の奥にすっぽりと吸い込まれ、返ってこない。

「地獄まで続いていそうな穴だな……」

 穴の縁に立って、章吾が呟いた。

 

 敷地の南端。

 毎朝、数百人の子供が通り過ぎていく桜ヶ島小学校校門。

 校門は今、封鎖されていた。

 閉ざされ、ぐるぐると太い鎖が巻かれて、赤銅色の巨大な錠前がかけられている。

 門の上側には、真っ赤に熱せられた鉄の棒が何本もあり、乗り越えて出る事を阻んでいる。

 能力者はそれも、能力で突破したのだろう。

 

「おっまえっらこっこで、皆死ぬっ! おっまえっら、こっこから、出られなーいっ!」

 校舎の方から、ツノウサギがキャキャキャと笑う声が聞こえてくる。

「さあ、ガキども! オレらが鬼だ! 鬼ごっこしようぜええええっ!」




デスゲームものに超人を入れたいけど、
強大な敵を単独で倒すのは私のプライドが許さないので、パーティー制にしました。
要するにチートキャラはいらないという事です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。