それを、エージェントが暴いていきます。
『桜ヶ島祭り開催のお知らせ!』
通学路にある電柱に、そのチラシが貼り出されたのがいつなのか、
一部のエージェント以外は知らない。
コピー用紙にプリントされた、どこにでもあるお祭りのお知らせだった。
書かれているのは、お祭りの日時、場所、交通規制の情報。
それに、美味しそうなたこ焼きや焼きそば、半被を着た子供達がお神輿を担ぐイラスト。
登校中の子供達が次々にその前を通り過ぎていく。
「わあ、今年もお祭りの季節だね!」
「一緒に行こうね。お母さんに新しい浴衣、買ってもらったんだ」
「いいなあ。ねえ、今年は金谷君、誘ってみない?」
「え? もしかして優花ちゃん、金谷君の事……」
「もしそれが本当だったら、あの有栖が黙ってるわけ、ないよなー」
わいわいと喋りながら歩く子供達は、それがいつ貼られたのか知らないし、
誰が貼ったのかとか考えない。
いちいち立ち止まってチラシをじっと眺めたりなんかしないし、
ましてや、チラシの四隅に貼られたセロハンテープを剥がして、
裏を見てみようだなんて思いもしない。
そりゃそうだ。
だって、ただのチラシだから。
街中の、どこにだってあるものを、いちいち気にする人がどこにいるのだろうか。
「ん? どうした?」
「……いや。なんでもないんだけど……」
二人組の少年が通りかかった。
背の低い方が、チラシを見ると、何か引っかかったように立ち止まった。
身を乗り出して、じっと覗き込む。
「もうすぐ、お祭りだな」
「……ねえ、ヒロト。このチラシ、なんか、おかしくない?」
「ん? なんだよ、悠。間違いでも見つけたの?」
ヒロトと呼ばれた少年も、頭の後ろに両手をやって、チラシを覗き込んだ。
「……別になんも、間違ってないと思うけど」
「うん。間違ってはないんだけど……」
「フツーじゃねえ? 何が気になるんだ?」
「分かんない。ただ、なんか、引っかかるんだよね……」
「…もしかして、また直感か?」
真顔になって、腕を組み、考え込む。
「悠の直感、当たるからな……」
悠と呼ばれた少年は、穴が開くほど真剣にチラシを見つめている。
まるでチラシが騙し絵になっていて、
全く別の文面と絵が浮かび上がるとでも思っているように。
しばらくして、手を伸ばし、右下隅に貼られたセロハンテープに、
指を引っかけ、剥がしていく。
―キーンコーン カーンコーン
「やべっ、予鈴だ! 行くぞ、悠。遅刻するぜ!」
「あ、待ってよヒロト!」
二人はチラシの事なんて頭から吹っ飛んだ様子で、慌てて駆け出した。
前後を歩いていた他の子供達も、焦った様子で走っていく。
犬の散歩をしていたおばあさんが、そんな子供達を見てにこにこと笑う。
ジョギング中のお兄さんも笑っている。
いつもと何一つ変わらない、穏やかな朝の時間。
その時。
ヒュウッと強く、風が吹きつけた。
チラシが風にパタパタと揺られる。
もう片隅のテープが剥がれて……裏へひっくり返った。
『鬼ごっこのルール』
チラシの裏面には、物々しい文字でそう書かれていた。
プリントアウトされたルールがいくつも、箇条書きになって並んでいる。
ルール1 子供は、鬼から逃げなければならない。
ルール2 鬼は、子供を捕まえなければならない。
ルール3 能力者は、鬼と戦わなければならない。
ルール4 街を越えて、逃げてはならない。
ルール5 お祭り終了まで鬼から逃げ切れれば、その子供は勝ちとなる。
ルール6 鬼に捕まった子供は、――
誰も知らないし、思いもしない。
平和な朝の街前の、みんなが笑って歩いていくすぐ脇に、
地獄の世界への招待状が、何食わぬ顔して貼りつけられているなんて。
風に煽られ、チラシは剥がれて空に舞い上がった。
誰もルールを確認しないまま、どこか遠くへ飛んでいく。
『ルール7』
並んだルールの最後は、こんなものだった。
一際大きいフォントで書かれていた。
赤い字で、警告するように。
『お祭り終了まで鬼だった奴は、チカラが無ければ人間に戻れない』
「……ん?」
「どうしたの、麻麻?」
エージェント達が桜ヶ島にやって来た時、麻麻の顔にチラシが当たった。
彼女がそれを確認してみると、桜ヶ島祭りの開催を知らせるものだった。
「わぁ、美味しそうなたこ焼きに焼きそば! ねえこれ、食べられるの?」
麻麻は祭りのチラシを見て、わいわいと騒ぐ。
「……花より団子だな、お前」
「しょうがないでしょ、歩いているとお腹空くんだから。あれ、織美亜、どうしたの?」
「……」
織美亜はチラシの裏を、超能力で透視した。
すると、織美亜の顔が青くなった。
「これって……また、あの、鬼ごっこ……!」
次回は新たな教師が加入します。
原作とは大きく違いますので、ご注意ください。