琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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原作とは話が脱線しているので、こういう教師にしました。


31 新たな先生

「やだ、怖ーいっ!」

「葵ちゃん、やめて~っ」

 教室の片隅で、女子達がきゃあきゃあと盛り上がっている。

 大場大翔は、お守りを指にぶら下げたまま、顔を向けた。

 このところの雨のせいで、昼休みでも外で遊べない日が続いている。

 最初のうちは体育館でバスケをしていたが、

 全学年の生徒が集まって遊ぶと、流石に体育館も狭すぎた。

 仕方なく、教室でトランプ、古今東西、漫画やゲームの話、

 部活の話に家族の面白話、色々やって時間を潰した。

 だが、それも何日も続くと、いい加減、みんなも飽きてきていた。

「一口にお祭りといっても、色んな由来のものがあるのよね」

 桜ヶ島小、6年2組の教室。

 今、女子の輪の中心で得意げに喋っているのは、大翔の幼馴染の宮原葵だ。

 勉強大好き、テスト大好きな女の子。

 学年トップの成績だけど、鼻にかけたりせず、

 他の子達に勉強を教えたりと、面倒見がいい。

 この前、隣のクラスの関本和也が、葵にラブレターを出した。

 ドキドキと待っているとすぐに返事が戻ってきた。

 漢字の間違いや文法のミスが、全て赤ペンで丁寧に修正されて。

(オレ、ラブレター出したつもりだったのに、

 宮原の奴、これ完全に作文の添削指導かなんかと勘違いしてるだろ……)

 恨めしそうな顔をする和也の肩をぽんと叩いて、

 その日はみんなで飲みまくった……ドリンクバーが。

「お祭りって、みんなでわいわい盛り上がるものってイメージあるわよね。

 由来も、神様への感謝とか、豊穣の祈願とか、プラスのイメージのものが多いじゃない?」

 葵は女子の輪の中で、何やらお祭りについて語っているようだ。

 うんちくを語り出したら、葵は止まらない。

「でも、マイナスの事……人に悪さをするものを鎮めたり、

 呪いを祓ったり――そういう事から始まったお祭りもあるの。

 何を隠そう、あたし達の街、桜ヶ島のお祭りも、元々は、そうした祭礼だったらしいわ」

 得意げに喋っていた葵はそこで一旦言葉を切った。

 これは聞いた話なんだけどね……と、一転、声を顰めて続ける。

「お祭りをやってなかった時代にはね。

 この辺りで、たくさん、人が死ぬ惨劇が起こったらしいの。特に……子供。

 ……あたし達と同じ、小学生が、無残な犠牲者となる事件が、多かったんですって……」

「きゃー!」

「やだ、怖ーい!」

「やめてー、葵ちゃん!」

 女子達がきゃあきゃあと盛り上がっている。

 どうも、怪談でもやっているようだ。

 ずっと芸能人の話やドラマの話をしていたが、男子と同じく、あっちもネタ切れしたらしい。

 大翔は手に持ったお守りを隠すと、周りにいた人達に顎をしゃくった。

「葵の話、聞いてみようぜ。日頃は退屈な女子達の長話だけど、怖い話とあっちゃ別だ」

 みんな、耳を傾けてみる事にした。

 

 昔々、百年以上もの事。

 ここ、桜ヶ島の村に、一人の善良な男が住んでいたそうだ。

 男は真面目で、礼儀正しく、よく働いた。

 村の人々から、たいそう慕われていたという。

 

 ある年、村に神隠しの噂が広がった。

 子供達が遊びに出かけたきり、家に帰らなくなったのだ。

 最初は、一人、二人の事だった。

 大人達は、家出をしたか、川へ落ちたのだろうと考えた。

 三人、四人といなくなった。

 大人達が探しても、見つからない。

 何か事件があったのかもしれないと思い始めた。

 10人消え、三人がいなくなった頃、その噂が囁かれ始めた。

 子供達は神隠しにあって、地獄へ連れていかれたのだと。

 

 子供達が見つかったのは、ちょうど今の季節の満月の夜。

 木の生い茂る裏山の中腹で、子供達は発見された。

 肉をかじられ、骨だけになった無残な姿で。

 変わり果てた子供達の屍の脇に、あの善良な男が蹲っていた。

 美味そうに、ガツガツと、子供達の腸を貪り喰いながら。

 男は街の人々に気づくと、身を翻し、そのままいずこかへ消え去った。

 男の顔は、人間のそれではなかった。

 「神隠し」は、化け物と化した男の仕業だったのだ……。

 

 後日、相談を受けたさる高名な退魔師は、村の人々にこう助言した。

「この地には、魔の地へ通ずる穴が開いているのだ。

 そこから這い出た魔の者が、男を仲間に引きずり込んだ。

 鎮める方法はただ一つ。月明かりに最も近い地に神を祀る社を建て、

 祓いの儀式を執り行って、男にとりついた魔を祓う事だ」

 言う通りに神社を建てて祭礼を行うと、男は化け物から人へと戻り、神隠しは止んだ。

 それ以来、毎年行われるようになった祭礼が、

 百年以上の時を経るうちに、今のお祭りの形になっていったという。

 めでたし、めでたし。

 

 一方、エージェント達は、葵の話を超能力で盗聴していた。

「なるほどな」

「これが外国だったら、誰がやったんだ、と疑心暗鬼になって、処刑だっただろうな」

「そうよねえ」

 以前に語っていたが、日本と外国では考え方が違うため、災いへの対抗手段も違う。

 唯一神に逆らうものがいて、それを倒せば災いも治まると。

 実際は、そう呼ばれた者はほとんどが無実であり、倒して解決した問題は一つもない。

 時間が戻る「魔法」があれば、現実も改変できるのだが、

 生憎と、エージェントは「魔法」が使えないのだ。

「災いを人間の力で何とかできると思い込んでいたから、外国では悲劇が起きたのよね」

「まぁ、そんな事はどうでもいい。まずは、あの杉下……を探そう」

 

「おーい、ニュースだぜ! ニュース、ニュース!」

 と、教室のドアが開いた。

 「大ニュース!」が口癖の割に、いつも大した情報ではないと評判の、新聞委員の今井雄大だ。

「なんだよ、また今井の大ニュースかよ」

「今井のニュースは、大きかったためしがない」

「今回はほんとに大ニュースだって!

 スギやんのヘルプで、新しい先生が来たんだけどさ! すげーの!」

 雄大は興奮気味にまくし立てている。

 スギやんというのは、体育抵当の杉下先生の事だ。

 先週、杉下先生は学校の帰りに事故でケガをして、しばらく授業ができなくなってしまった。

 それで、ピンチヒッターの先生が来る事になっていたのだ。

「それがさ、その新しい先生、女の人なんだよ!」

「女?」

「ああ、そうだよ、女!」

 退屈していた男子達が、一斉に騒ぎ始めた。

 女子達も、美人かなー、と盛り上がっている。

「ほら、あそこ、あそこ!」

 雄大はベランダへ飛び出すと、階下を指差した。

 他の子達も好奇心丸出しで飛び出した。

 大翔も立ち上がり、お守りをポケットに突っ込むと、ベランダに出た。

 中庭の向こう、一階職員室前の長廊下を、校長先生と教頭先生が歩いている。

 その後ろを、女性と荒木先生がついて歩いていた。

 雪のような白い肌と髪、青い瞳、長身。

 

「美しい……」

「……あれは、荒木先生……?」

 

「荒木先生は戻ってきたけど、あの女の先生は、誰だ?」

「さあね」

 美人女教師を無視していたのは、6年1組、金谷有栖。

 章吾の双子の姉である彼女は、簡単に言うと気が強い優等生である。

 数ヶ月前、運動会の日。

 学校の校庭に開いた地獄へと通じる穴から、恐ろしい鬼達が這い出してきた。

 荒木先生を守ってくれた、超能力を自在に操るエージェントのおかげで、

 何とか脱出できたが……。

 

「そのエージェントとは、オレ達の事かな?」

「あ、お兄さん!」

 現れたのは、織美亜、狼王、阿藍と、見た事がない女性エージェント。

「誰ですか?」

「私は上……こほん、No.16よ」

 麻麻はコードネームを大翔達に言った。

 もし、素性が鬼にばれたら、間違いなく超能力に対抗するかもしれないからだ。

 エージェントは密かに鬼を討ち取る、それがエージェントの役目なのだ。

「それで、新たな先生とは誰だ?」

「今、来るから、待ってて!」

 体育館の隅、男子達は黒板の前で体育座りをして、先生を待った。

 チャイムが鳴って入り口の扉が開くと、みんな、興味津々で顔を向けた。

 スギやんこと杉下先生は、ひょろっとした男の先生だ。

 いつもニコニコと楽しそうな笑顔をしていて、男子からも女子からも人気が高い。

 杉下先生は足にギプスをして松葉杖をついていた。

 新しい先生と荒木先生は、そんな杉下先生に連れられて、ゆっくりと歩いてきた。

 やっぱり、荒木先生は、生き残っていた。

 エージェントは、無敵だったのだ。

 

「さて、みんな」

「今日は新しい先生を紹介するぞ!」

 杉下先生がゴホンと咳払いする。

 誰かが、待ってました! と、ピュウウッと口笛を吹いた。

 女の先生は、杉下先生の横に立ち、じっとみんなを見下ろしている。

(……あれ?)

 荒木先生は相変わらず、暖かい目で生徒達を見ている。

「今日からしばらく、僕の代わりに授業を見てもらう事になった……」

 杉下先生は隣を示した。

「……白井先生?」

 大翔は体育座りをしたまま、ぱちぱちとゆっくり二度、瞬きした。

 横を見ると、同じく不思議そうに首を傾げて、こっちを向いた悠と目が合った。

「それでは先生、自己紹介をおねがいします」

「あたしは白井雪よ。よろしくね」

 白井先生は丁寧に自己紹介した。

 荒木先生は「みんな、仲良くしろよ」と言った。

 だが、エージェント、特に阿藍は、訝しい表情をしていた。

 

「……あの女、どこかで……」




しつこいようですが、エージェント達の考えは西洋人を元にしています。

次回は、奇妙な鬼が登場します。
といっても、エージェントの敵ではない、と思うのですが。
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