琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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大翔を待ち受けていた鬼の罠とは?
一応これもホラーらしいですが、エージェントの前には無力です。


32 放課後の罠

 荒木先生は明るく親しみやすかったが、白井先生はどこか影があった。

 授業をちゃんとサポートしないし、体育の時間に指示をし、皆を見ているのは最初のうちだけ。

 美人だが、やはり、怪しかった。

 

「そんなに白井先生が気になるのか?」

「ああ」

 荒木先生も、生徒と同じく白井先生が気になるらしい。

「先生が授業をサボるなんて話、聞いた事ないわ」

 下駄箱に上履きをしまいながら、葵が首を捻った。

 放課後、お祭りが近くなり、下校時間がいつもより早い。

 神輿やお囃子の練習に参加する子が多いからだ。

「先生という職の品位が問われるわね。子供が正しい道に進むか否かは教え導く先生次第なのに。

 そんな無責任な事じゃ、安心して子供達を任せておけないわ」

「……アオイ、時々、お母さん目線だよね」

「自分も子供なの忘れてるよな」

「だって、あたし達はもう6年生でしょ?」

 顔を見合わせる悠と大翔に、葵は不思議そうに首を傾げる。

 大翔は小学6年生も子供だと思っているが、葵と言い合っても勝てないし黙っておく事にする。

「あ……やべ。忘れ物した」

 大翔はふと気づいて、履きかけた靴を脱いだ。

「どうしたの?」

「体操服入れ、教室に置いたまんまだった。

 毎日洗濯しないとすぐ汚れるって、母さんに怒られるんだよ。先に行ってて」

「待ってる」

「私、心配だからついていく」

 大翔は上履きを履き直すと、廊下を戻った。

 麻麻も、大翔と一緒に行く。

 桜ヶ島小の校舎は、中庭を中心にした凹の字型をしている。

 東棟の廊下を、奥まで進んだ。

 階段を3階まで上がり、左に折れると6年2組の教室がある。

 ピタリと閉められたドアを開けると、ガラガラと大きく音が響いた。

 この頃、建てつけが悪いのだ。

 

「うーん、誰もいないわね」

 放課後の学校は、いつになく静まり返っていた。

 いつもなら校庭で遊んでいる子供達の声が聞こえているが、みんな、もう帰宅したらしい。

 教室もがらんとしている。

 大翔は机に引っかけてあった体操服入れを手に取った。

 紐を掴んでくるんと回し、ドアへ足を向ける。

 

「待って!」

 その時、麻麻が何かに気づき、どこかに電撃を放った。

 そこにいたのは……奇妙な触手だった。

「なんだ、これ?」

「私から離れないで。危険よ」

 麻麻は大翔を守るように立つ。

 触手は、ジリジリと麻麻と大翔に近づいていく。

 色は毒々しい赤。

 固くも柔らかくもなく、ゴムのような感触。

 表面には、ブツブツと小さな突起。

「消えなさい」

 麻麻は弱い電撃を触手目掛けて放ち、牽制する。

 だが、触手は勢いが弱まりながらも近づく。

 麻麻と大翔は、急いで放送室に飛び込んだ。

―ヒタ、ヒタ

 足音がして、麻麻と大翔は動きを止めた。

―ヒタ、ヒタ、ヒタ

 近づいてきて、麻麻と大翔は息を殺した。

 逃げ場はない。

 放送室の窓は高い位置にあって、外に出られないのだ。

―ヒタ、ヒタ、ヒタ……

 足音は放送室の前で止まった。

―コン

 軽く、一度だけノック。

―コン、コン

 今度は少し強めに、またノック。

 

 大翔はドアを押さえたまま、固まっていた。

 麻麻はいつ敵が来てもいいように、身構えている。

 ドクドクと打つ心臓の鼓動の音が、外に漏れ出しているような気がした。

―ガタン

 ドアが揺れた。

 大翔は指に力を込めて押さえた。

―ガタガタ、ガタン

 開けようとしている。

 大翔は必死にドアを押さえつけた。

 向こうの方が力が強い。

 ドアは怪物のようにガタンガタンと揺れた。

(だ、駄目だ!)

―ガタンッ!

 勢いをつけて引かれ、大きな音と共に扉が開いた。

 大翔は身を竦ませ、目を瞑った。

 

「何やってるの?」

 声が降ってきた。

 はっとして顔を上げると、立っていたのは白井先生だった。

 ドアに手をかけたまま、麻麻と大翔をじっと見下ろしている。

「物音がするから、誰がいるのかと思えば、あなた達だったのね。

 放送室は、係以外は立入禁止のはずだけど」

「……」

「もう下校の時間は、とっくに過ぎているわよ」

「はいはい」

 麻麻と大翔は立ち上がると、先生の脇を抜けて廊下に出た。

 恐る恐る、階段を見上げるが、何もいなかった。

 隠れていた太陽がまた姿を現し、窓から明るい陽射しが差し込んで校舎を照らしている。

 大翔はほっと息を吐いた。

 ランドセルと体操服は、もう回収している。

 だが、麻麻には、白井先生の真の姿が見えていた。

 見下ろす先生の頭、その額。

 そこに、うっすらと、奇妙な物……ツノが見えた。

 小さなツノが一点、先生の額から突き出していた。

「……どうしたの? あたしの顔に、何かついているの?」

 白井先生が眉を顰める。

 麻麻は、白井先生が鬼である事を見破っていたが、口には出さなかった。

「ふぅん、これから食事にしたいのよね」

 その口から――牙が生えていた。

 人間の物ではなく、肉を喰い裂き噛みちぎる、鋭い獣の牙。

「この頃、お腹が空いてたまらなくて。今日は極上の肉を腹いっぱい食べると決めてるのよ」

「やはり、あなたは……よう……」

 麻麻は白井先生を睨みつけて言った。

 その時だった。

 

「ヒロト、何やってんのさ!! 遅いよぉー」

「忘れ物を取りに行くだけで、いつまでかかってるのよー。置いてくわよーっ」

「麻麻、大丈夫か!」

 廊下の向こうから悠と葵、狼王の声が響いて、麻麻と大翔ははっとした。

「あら、白井先生。こんにちはー」

「こんにちはー」

 ひょいと顔を出し、麻麻、大翔、白井先生を見やると、

 五人は顔を見合わせて、とりあえずといった感じでちょこんと頭を下げた。

 白井先生はそそくさと麻麻と大翔から離れた。

 不審そうな顔をした悠、葵、織美亜、狼王、阿藍の脇を通り過ぎる。

 その額に、もうツノは見えず、牙も見えない。

 

「早く帰りなさい。子供がいつまでも家に帰らずにいると、良くない物に襲われるわ」

 振り返ると、大翔を見上げた。

 

「……分かるでしょ?」




次回は白井先生を追いかけます。
章吾と関係のあるオリジナルキャラも、登場しますよ?
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