彼女の内面も、ここで描写してみました。
「……それ、和也君には言わないでね」
昼休み、教室の隅っこ。
6年1組、金谷章吾の双子の姉、有栖は大翔の話を聞くと、少し考えてからそう応えた。
「なんでだよ?」
大翔は不思議そうに訊いてくる。
納得いかなそうに首を傾げて有栖を見た。
「私、ちょっぴり予知能力があるのよね。だから、話すとまずい、って」
「二人とも」
「何、話してるんだ~?」
校庭に遊びに出ようとしていた和也と、姉を心配した章吾が、
話し込む二人に気づいてやってきた。
和也は有栖の後ろに回り込むと、ガタガタと椅子を五月蠅く揺らす。
「有栖、ほんとに祭り、来ないのかよ~?」
「楽しいだろ?」
「あのねー、私は忙しいの」
「忙しいと言いながら忙しくないのが有栖だ」
「行ってくるなら、章吾が行きなさい」
章吾は、有栖には逆らえず、渋々行く事にした。
わっしょおおおいっ、と叫びつつ、和也はサッカーボールを持って教室を出ていった。
有栖は椅子を元に戻すと、大翔と章吾を見据えた。
「私はね、白井先生を知りたいの。一緒に尾行しましょうよ」
「……分かった」
大翔は納得したように頷き、ズボンのポケットからブルーの小箱を取り出し、
有栖の机の上に置いた。
「まずは、俺達だけでやろうぜ。悠が持ってきてくれたんだ、連絡用のトランシーバー」
「ありがとう」
「交替で見張りを立てて、何かあったらこれで連絡するようにするんだ。
他の子が襲われたりしないように、先生を見張っておかなきゃ」
「ええ」
「後、放課後、先生を尾行する」
「いつも鬼に追っかけられてばかりじゃ、いられねえもんな」
随分強くなったわね、と有栖は思った。
一般人なら、一人で逃げ出したっておかしくないのに。
大翔は他の生徒を守った上に、敵の正体を突き止めようっていうのだ。
「二人とも来るだろ?」
「……ああ」
章吾は有栖に逆らえないため、渋々ながら、首を縦に振った。
「当然だよな。有栖がいるもんな」
「……有栖……」
放課後、有栖は超能力を使い、自分の分身を作り出した。
「これ、結構疲れるのよね」
有栖の超能力はエージェントと比べて弱く、分身を作るのにも体力が必要だ。
それでも、有栖の分身は一人でバスに乗り込んだ。
桜ヶ島総合病院は、街で最も大きな病院だ。
分身はカウンターで受けつけを済ませて、病室へ向かう。
ドアを開けると、有栖と章吾の母はベッドに起き上がって本を読んでいた。
「あら、いらっしゃい」
有栖と章吾の母は本を閉じ、嬉しそうに笑った。
元々双子を産んで体は弱っていたが、心なしか、また痩せたような気がする。
有栖の分身はカバンから着替えを取り出すと、ベッド脇の籠の服と入れ替えた。
90点の小テストの答案と、持ってきた漫画をテーブルに置く。
窓を開けて空気を入れ替え、花瓶に生けられた花の水を新しいものに替えた。
カバンからお見舞いのリンゴを取り出した。
「……有栖も、章吾も、我が子ながら出来過ぎた子なのよねぇ」
てきぱきと部屋を片づけ、リンゴの皮を剥く有栖の分身を見やりながら、
母さんはううむと唸って腕を組んだ。
言葉は褒めているのに、口調はなんだか物足りなそうだ。
その後は、リンゴを食べながら話をする。
大抵は母が読んだ本の感想や、他の患者や看護師の噂話だ。
とはいっても、分身は口を聞けないのだが。
窓の向こうはもう夕焼けに染まり始めている。
有栖の分身は病室を出た。
廊下の曲がり角で、看護師達がひそひそと話しているのが耳に入った。
「305号室の患者さん、亡くなったんだって」
次回は大翔達のターンです。
エージェントもバリバリ活躍しますよ。