琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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今回は有栖のターンです。
彼女の内面も、ここで描写してみました。


33 先生を追うために

「……それ、和也君には言わないでね」

 昼休み、教室の隅っこ。

 6年1組、金谷章吾の双子の姉、有栖は大翔の話を聞くと、少し考えてからそう応えた。

「なんでだよ?」

 大翔は不思議そうに訊いてくる。

 納得いかなそうに首を傾げて有栖を見た。

「私、ちょっぴり予知能力があるのよね。だから、話すとまずい、って」

「二人とも」

「何、話してるんだ~?」

 校庭に遊びに出ようとしていた和也と、姉を心配した章吾が、

 話し込む二人に気づいてやってきた。

 和也は有栖の後ろに回り込むと、ガタガタと椅子を五月蠅く揺らす。

「有栖、ほんとに祭り、来ないのかよ~?」

「楽しいだろ?」

「あのねー、私は忙しいの」

「忙しいと言いながら忙しくないのが有栖だ」

「行ってくるなら、章吾が行きなさい」

 章吾は、有栖には逆らえず、渋々行く事にした。

 わっしょおおおいっ、と叫びつつ、和也はサッカーボールを持って教室を出ていった。

 有栖は椅子を元に戻すと、大翔と章吾を見据えた。

 

「私はね、白井先生を知りたいの。一緒に尾行しましょうよ」

「……分かった」

 大翔は納得したように頷き、ズボンのポケットからブルーの小箱を取り出し、

 有栖の机の上に置いた。

「まずは、俺達だけでやろうぜ。悠が持ってきてくれたんだ、連絡用のトランシーバー」

「ありがとう」

「交替で見張りを立てて、何かあったらこれで連絡するようにするんだ。

 他の子が襲われたりしないように、先生を見張っておかなきゃ」

「ええ」

「後、放課後、先生を尾行する」

「いつも鬼に追っかけられてばかりじゃ、いられねえもんな」

 随分強くなったわね、と有栖は思った。

 一般人なら、一人で逃げ出したっておかしくないのに。

 大翔は他の生徒を守った上に、敵の正体を突き止めようっていうのだ。

「二人とも来るだろ?」

「……ああ」

 章吾は有栖に逆らえないため、渋々ながら、首を縦に振った。

「当然だよな。有栖がいるもんな」

「……有栖……」

 

 放課後、有栖は超能力を使い、自分の分身を作り出した。

「これ、結構疲れるのよね」

 有栖の超能力はエージェントと比べて弱く、分身を作るのにも体力が必要だ。

 それでも、有栖の分身は一人でバスに乗り込んだ。

 桜ヶ島総合病院は、街で最も大きな病院だ。

 分身はカウンターで受けつけを済ませて、病室へ向かう。

 ドアを開けると、有栖と章吾の母はベッドに起き上がって本を読んでいた。

「あら、いらっしゃい」

 有栖と章吾の母は本を閉じ、嬉しそうに笑った。

 元々双子を産んで体は弱っていたが、心なしか、また痩せたような気がする。

 有栖の分身はカバンから着替えを取り出すと、ベッド脇の籠の服と入れ替えた。

 90点の小テストの答案と、持ってきた漫画をテーブルに置く。

 窓を開けて空気を入れ替え、花瓶に生けられた花の水を新しいものに替えた。

 カバンからお見舞いのリンゴを取り出した。

「……有栖も、章吾も、我が子ながら出来過ぎた子なのよねぇ」

 てきぱきと部屋を片づけ、リンゴの皮を剥く有栖の分身を見やりながら、

 母さんはううむと唸って腕を組んだ。

 言葉は褒めているのに、口調はなんだか物足りなそうだ。

 その後は、リンゴを食べながら話をする。

 大抵は母が読んだ本の感想や、他の患者や看護師の噂話だ。

 とはいっても、分身は口を聞けないのだが。

 

 窓の向こうはもう夕焼けに染まり始めている。

 有栖の分身は病室を出た。

 廊下の曲がり角で、看護師達がひそひそと話しているのが耳に入った。

 

「305号室の患者さん、亡くなったんだって」




次回は大翔達のターンです。
エージェントもバリバリ活躍しますよ。
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