琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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大翔達が謎の先生を追いかけます。
彼らも逃げてばかりじゃないのですよ。


34 白井先生尾行作戦

「テスト、テスト。ヒロト、聞こえる? どうぞ」

「聞こえるけど……普通に話した方が早いぜ、悠」

 大翔、悠、葵、章吾、有栖とエージェント達は、

 校門脇の植え込みの陰に身を隠して、白井先生が出てくるのを待っていた。

 左右に分かれた植え込みの向こう側から、悠は首を振ってトランシーバーを揚げる。

「駄目だよ、ヒロト。発言の終わりには、どうぞ、ってつけるんだ。

 トランシーバーでの会話はそうするのがルールなんだよ。分かった? どうぞ」

「分かったよ、悠。ところで、これ、わざわざ買ったのか? どうぞ」

「お父さんの持ち物だよ。ちょっと借りてきたんだ。どうぞ」

「悠のおじさん、トランシーバー使う仕事でもしてんだっけ? ……どうぞ」

「ううん。お母さんとケンカした時に、トランシーバー越しに謝るのに使ってるんだ。

 顔を合わせると凄く怖いからって。どうぞ」

(なんかもう、どうぞって気分じゃないな)

 

 しばらくすると、昇降口から先生が出てきた。

 優雅な足取りで校門を出ていく。

「……よし、尾行開始だ。気をつけろよ」

 大翔と章吾はバットを掴んで立ち上がった。

 万が一の時のために体育倉庫から持ち出してきた。

 悠と葵と有栖と頷き合うと、植え込みの陰からエージェントと共に飛び出した。

 校門を出て、電柱の陰へ滑り込む。

 尾行の鉄則は、相手と適切な距離を保つ事だ。

 身を乗り出して、様子を伺う。

 白井先生は、通学路を優雅と歩いていく。

 低学年の子達が遊びながら歩いている脇を、しなやかに進んでいく。

 先生に気づくと、子供達は元気よく挨拶した。

「せんせい、さよーなら!」

「せんせー、さよーならぁー!」

 挨拶を受けた白井先生は「どういたしまして」と言った。

 

「……女ほど恐ろしいものはない」

「何か言った?」

「いや、別に」

 金谷姉弟が言う。

 

「もし先生を見失っても、私が超能力を使うからね」

 麻麻が言う。

 

 商店街へ差し掛かると、白井先生はラーメン屋へ入っていった。

 大翔達は首を傾げてガラス越しに先生を見張った。

 白井先生はねぎラーメンを注文すると、

 出されたラーメンをあっという間に完食して店を出てきた。

 さらに続いてファストフード店に入った。

 パンパンに膨らんだ紙袋を持って出てくると、

 フィッシュバーガーにかじりつきながら歩き始める。

 

「ちょっと食べすぎじゃない……?」

 呆れたように葵が言う。

 

「フードファイトにでも挑戦するつもりなのかな」

 本気か冗談か分からない口調で悠が言う。

 

 大翔と章吾はだんだん、違和感を感じ始めていた。

 あの時、大翔と麻麻を追ってきた鬼の気配と、

 今、見ている先生の印象が、何だか、噛み合わない気がしたのだ。

 

「家に帰るんじゃなさそうだな。どこへ向かっているのか……」

 先生は家のある方向から、どんどん遠ざかって歩いていく。

 古い民家や空き地、田んぼが広がる一帯。

 人通りのない畦道に入っていく。

 しばらく歩いていくと……子供の泣き声がした。

 ガードレールの脇で、野球のグローブを嵌めた小さな男の子がわんわんと泣きじゃくっている。

 どうやら、ボールを下に落としてしまったらしい。

 白井先生は、無視して脇を通り過ぎた。

 大翔達は電柱の陰から飛び出した。

 数歩行ったところで先生はピタリと立ち止まった。

 くるりと振り返る。

「な、何……?」

「しっ」

 大翔達はあわてて電柱の陰に戻った。

 白井先生はゆっくりと、泣いている男の子の方に近寄っていく。

 伺うように、周りを見回した。

 男の子の肩に、ぐっ、と両手をかける。

「……やばい。あの子、喰われちまうぞ……」

「あの女は、鬼かもしれない……」

「え、え……?」

 大翔と章吾はバットを握り締めた。

 悠はおろおろして、葵と有栖はじっと先生を見ている。

 エージェントは既に、身構えていた。

「俺が助けに行く。もしも俺がやられたら、みんなは全力で逃げてくれ」

「ヒロト……」

「まあ、大丈夫だろう」

「……あと、母さんと妹に、よろしく伝えておいて。今まで、ありがと、って」

 大翔は、ぐっ、と親指を立てて頷いて見せた。

 エージェントと共に、颯爽と電柱の陰から飛び出した。

 

「だから、どの辺に落としたのよ」

 急ブレーキ。

「……ひっ、ひっく……ひっく……」

「ボールをどの辺に落としたの?」

「えぐっ……ひっく……」

「どこなのよ」

 白井先生は、泣きじゃくる男の子に、

 怒っているのか質問しているのか、ボールの行方を問いただしている。

 大翔達は電柱の陰に戻った。

「『やばい。俺が助けに行く』」

「……なんてかっこいいムードじゃなさそうね」

「『もしも俺がやられたら、全力で逃げてくれ』なんてかっこいいムードではなさそうね」

 悠と葵、有栖が言う。

 怒ったように問いかける先生に、

 男の子はひっくひっくとしゃくり上げながら、ガードレールの下を指差した。

 白井先生はひらりとガードレールを飛び越えた。

 ぼうぼうと草の伸びた地面に着地すると、掻き分けて進み、ボールを探し出す。

 見つけたボールを掲げて振りかぶって投げた。

 ボールはぽーんと高く飛んで……男の子の構えたグローブに収まった。

 

「……」

 大翔と章吾は構えていたバットを降ろした。

 やっぱり、違う。

 あの足音の主と白井先生が、同一人物だとは思えない。

 白井先生は、笑顔で上ってきた。

 

「あ、あの……。あ、ありが……と……」

 彼女は、お礼を言う男の子に微笑んだ。




あの先生はエージェントの行動のために、この物語には登場しません。
なので、代わりに白井先生を出したのです。
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