琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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桜ヶ島祭りに、エージェントが潜入します。


35 祭りの会場へ

 着いた先は、お祭りの準備真っ最中の、桜ヶ島神社だった。

 だだっ広い敷地の中に、たくさんの出店が並び、賑わっている。

 電柱の間にずらりと吊るされた提灯が、空を覆っている。

 空き地には神輿が置かれ大人達が櫓を組んでいた。

 白井先生は屋根の張り出したテントへ入り、荒木先生は別の場所で準備をしていた。

 中では他の先生達が肩からタオルをかけて、紙コップでジュースを飲みながら笑っている。

「どう見ても、お祭りの準備の手伝いに来ただけにしか見えないけどさ、ヒロト」

 先生達は、お祭りの準備の手伝いや巡回の確認で、数日前から忙しくなる。

 白井先生と荒木先生は放課後の集まりのために、やってきただけのようだった。

「よしっ! せっかくこっちまで来たんだ。出店でなんか食べてこうぜ!」

「あ、ヒロト誤魔化した」

「でも、いい匂いするわね。お腹空いちゃった」

「ああ……」

 設営が終わった出店は、ちゃっかりもう商売を始めているらしい。

 様々な匂いが漂ってくる。

 焼きとうもろこしの醤油の焦げる匂い。

 たこ焼きのソースと青のりの匂い。

 五人のお腹が、ぐうっと鳴った。

「僕、おこづかい、あんまりないや。みんなは?」

「同じく」

 

「やあ! 大場君と桜井君……金谷君に金谷さん……それに、宮原さんじゃないか。どうした?」

 出店の間をぐるぐると回って、見つけたのは杉下先生だった。

 広場の隅に松葉杖を突いて立ち、ぺろぺろとリンゴ飴を舐めていた。

 エージェントの姿は、目に入っていないようだ。

「……ははーん、分かったぞ。キミら、こづかいがなくてスポンサー探してたんだろ?

 仕方ないなあ。他の子に言うなよ? 何、食べたいんだ?」

 ニコッと笑ってウインクする。

 葵が、やった! と三人を見て笑った。

 大翔もガッツポーズを取り、章吾と有栖が頷く。

 悠だけは、大翔の背中に隠れたまま、苦手な犬でも見るような目で杉下先生を見ている。

 エージェントの一人、麻麻は、今にも杉下先生を殺そうとしている。

「さよな……」

「何?」

「なんでもない」

「そういえば、さっき荒木先生と白井先生が上の神社へ登っていくのを見たよ」

 出店で熱々のたこ焼きを買うと、杉下先生は大翔達に差し出した。

 自分は只管、親の仇のようにぺろぺろとリンゴ飴を舐め続けている。

 大翔、葵、章吾、そしてエージェント達はふうふうとたこ焼きを冷ましながら、首を傾げた。

「山の上にも神社があるの?」

「上の宮の事ね。神社は、山の麓に人々が刻揮するための下の宮を、

 山の上に実際に神様を祀る上の宮を建てる事が多いの。

 桜ヶ島神社にも上の宮があるって聞いた事あるわ。

 凄く長い階段を登らなくちゃいけないから、参拝する人はほとんどいないらしいけれどね」

「……流石、宮原さんは物知りだなあ。学年トップは伊達じゃないね」

 杉下先生が、ほうっと感心したような息を吐く。

 葵は、え、それほどでもないです……と言っているが、もっと褒めてオーラ全開だ。

「桜ヶ島神社の上の宮はね。昔は有名な場所だったんだよ」

「何がだ?」

 狼王が問うと、杉下先生はリンゴ飴を舐めながら言った。

「悪いモノを祓う力が、とても強い場所だって信じられていたんだ」

「魔女を火あぶりにするような感じか?」

「うん。だから、たくさんの人々が、呪いや祟りを解くために、桜ヶ島神社を訪れたらしいよ」

「ほかの街からも?」

「うん。人間にとりついた悪いモノを祓う儀式をお祓いと言うけど、

 桜ヶ島神社のそれは、特に効き目が強かったらしくてね」

 埒が明かないとばかりに杉下先生はリンゴ飴をバリバリと噛み砕いて飲み込んだ。

 杉下先生はリンゴ飴を食べ終えると、とっておきの秘密を打ち明ける子供のような顔で笑った。

 

「それはもうただのお祓いじゃない。

 地獄からやってきた鬼を祓う……鬼祓いの儀って、呼ばれてたらしいよ」




エージェントは杉下先生の正体を知っているので、こういう態度ができるのです。
司令官の影響か、鬼に対してはとことん厳しい態度を取ります。
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