原作と大幅に物語を変えているので、ご注意ください。
石段を登り切って最後の鳥居を潜ると、小さな広場に拝殿と小屋が建っていた。
小屋の仲は、うっすらと埃が積もっていた。
古びた鏡や、汚れた皿、白い紙がたくさん垂れ下がった木の枝……色んな物が置かれている。
「……あたしを討ち取るのね」
「すまないな……迷惑かけて」
白井先生はビニール袋からパックを取り出して並べた。
たこ焼き、焼きそば、唐揚げ、イカ焼き、お好み焼き、オムそば、じゃがバタ、
焼きとうもろこし、アメリカンドッグ、今川焼き、クレープetcetc……。
「……お腹が空いてたのよ」
「ああ、美味いな。大場、早く食えよ」
「ああ」
阿藍は先生を見ながら、緊張した声で問いかけた。
「お前は……妖鬼妃なんだろう?」
「……ええ」
「妖鬼妃……聞いた事がないな、そんな鬼。しかも、見るからに女性だろう?」
「でも、山姥とか、女性の鬼はいるにはいるわよ。
まあ、話は変わるけど、とにかく、お腹が空いて仕方なくて。
近所に美味しいラーメン屋を見つけるまではかなり辛かったわ。
色んな店を食べ歩いて、コストパフォーマンスのいい店を探し、
ボリュームのある定食屋を見つけて、自前のファストフードマップを作るまでは、
本当に苦しい毎日だったわ……」
葵と阿藍は眉を顰める。
「そのうち、外食だけだと栄養が偏る事に気づいて、自炊を始める事にしたわ。
近所のスーパーを巡ってセールになる時間を調べ上げ、
ネットのレシピでボリュームのある食事の作り方を覚えたわ。
包丁を上手く使えるようになるまでは、かなり苦労したわよ」
狼王と阿藍はチキンステーキを食べている。
「……なるほど。それは辛かったですね……」
葵は納得したように頷いた。
「……いやいやいや、食事の事しか言ってないじゃないか」
「もっと他に、色々あったんでしょう? 話してください、先生」
「いや、特にないわよ」
マスタードたっぷりのフランクフルトにかぶりつき、白井先生は微笑んだ。
「それでも、白井は鬼なんだろ? 討つのか?」
「ああ、何としてでも鬼を討つんだ」
「頑張れよ」
鬼を倒す事を誓った阿藍を、荒木先生は応援した。
阿藍には助けられていないが、織美亜と狼王と、同じ力を感じたからだ。
だが、阿藍は白井先生を倒す事を躊躇っていた。
何故なら、白井先生は、阿藍の恋人だったからだ。
「う……」
「大丈夫か、しっかりしろ!」
鬼との戦いで傷ついた彼女は、地獄からの使者だと名乗る大蝦蟇に告げられた。
―キミはあるヒトの計らいによって、生きたまま鬼になる事になっタ。
ほんとは喰われて死ぬはずだったんだけど、運がよかったネ。
―そのヒトは、キミが鬼としての生活に慣れられるかどうか心配していル。
それで、キミがきちんと食事ができるようになるまで、ボクに見張っていろってご命令なんダ。
さっさとガキども、喰っちまエ。
日を追うごとに、阿藍の恋人は、自分の心が鬼に近づいていくのが分かった。
子供を見ると、頭の中で、喰え、喰え、喰え、と声が囁くのだ。
ガキを喰っちまえ。
まるで自分の中に腹を空かせた鬼が一匹棲みついて、声高に自己主張しているようだ。
「……あたしは……」
八人を見つめる白井先生の顔は、全てを諦めたような暗い表情を浮かべていた。
「もう、教師なんてやめにする。
どこか、人里離れた山奥にでも移り住んで、人目を忍んで生きていく」
ゴミを詰めたビニル袋を放ると、せいせいするわ、と伸びをした。
「元々、向いてなかったのよね」
「まだ、方法はあるよ」
白井先生を遮って、大翔は口を開いた。
「……鬼祓いをするんだ。先生の中の鬼を、祓う」
「はぁ? やめなさいよ。魔法使いや超能力者じゃあるまいし」
織美亜は大翔が戦う事に反対していた。
自分達はエージェントで超能力が使えるが、大翔達は鬼と戦う力を持たない一般人だ。
はっきり言って、足手まといか、護衛対象にしかならなかった。
「白井先生が鬼になったのは分かった。だから、その鬼を祓えばいい。単純な事だろ」
「……」
「先生やエージェントは知らないだろうけど、
この神社は、昔、鬼を祓うために作られたものなんだぜ」
「……おい、そんなのは、ただの作り話だろ?」
荒木先生は疑っている。
「はい、それは違うと思います。
地域に伝わる作り話というのは、過去の史実に基づいて伝わったものが多いんです。
そこに込められた先人の知恵を汲み取り活かすのは、決してバカな事ではないと思います」
澄ました顔で言う葵に、白井先生は嫌そうな顔をした。
悠が、そうだそうだと、にやにや笑って援護射撃。
「……魔女狩りで解決しようとした外国とは大違い」
狼王と章吾は、ふふっと笑みを浮かべ、荒木先生は大笑いした。
「だから、お前を討つ」
阿藍が身構えると、白井先生は顔を黒く染め、血走った目で睨みつけた。
「……食べられたいの……?」
その額に、うっすらとツノが生えてくる。
口の中の歯が、みるみる伸びて尖った牙になる。
「……食べられたくなければ、言う事を聞きなさい……ッ」
睨みつける白井先生に、阿藍はきっぱりと首を振った。
「……お断りだ」
「言う事を! 聞きなさいッ!」
「光の力!」
阿藍は光を放ち、白井先生を怯ませた。
そして、子供達を引き連れて白井先生から離れた。
何としてでも、妖鬼妃を討つ。
たとえ、かつての恋人だったとしても。
3巻編は阿藍を主軸に置きたかったのです。
次回は鬼祓いをするための対策を探します。