琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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3巻編のキーキャラクター、白井先生の正体が明かされます。
原作と大幅に物語を変えているので、ご注意ください。


37 白井先生の秘密

 石段を登り切って最後の鳥居を潜ると、小さな広場に拝殿と小屋が建っていた。

 小屋の仲は、うっすらと埃が積もっていた。

 古びた鏡や、汚れた皿、白い紙がたくさん垂れ下がった木の枝……色んな物が置かれている。

「……あたしを討ち取るのね」

「すまないな……迷惑かけて」

 白井先生はビニール袋からパックを取り出して並べた。

 たこ焼き、焼きそば、唐揚げ、イカ焼き、お好み焼き、オムそば、じゃがバタ、

 焼きとうもろこし、アメリカンドッグ、今川焼き、クレープetcetc……。

「……お腹が空いてたのよ」

「ああ、美味いな。大場、早く食えよ」

「ああ」

 阿藍は先生を見ながら、緊張した声で問いかけた。

「お前は……妖鬼妃なんだろう?」

「……ええ」

「妖鬼妃……聞いた事がないな、そんな鬼。しかも、見るからに女性だろう?」

「でも、山姥とか、女性の鬼はいるにはいるわよ。

 まあ、話は変わるけど、とにかく、お腹が空いて仕方なくて。

 近所に美味しいラーメン屋を見つけるまではかなり辛かったわ。

 色んな店を食べ歩いて、コストパフォーマンスのいい店を探し、

 ボリュームのある定食屋を見つけて、自前のファストフードマップを作るまでは、

 本当に苦しい毎日だったわ……」

 葵と阿藍は眉を顰める。

「そのうち、外食だけだと栄養が偏る事に気づいて、自炊を始める事にしたわ。

 近所のスーパーを巡ってセールになる時間を調べ上げ、

 ネットのレシピでボリュームのある食事の作り方を覚えたわ。

 包丁を上手く使えるようになるまでは、かなり苦労したわよ」

 狼王と阿藍はチキンステーキを食べている。

「……なるほど。それは辛かったですね……」

 葵は納得したように頷いた。

「……いやいやいや、食事の事しか言ってないじゃないか」

「もっと他に、色々あったんでしょう? 話してください、先生」

「いや、特にないわよ」

 マスタードたっぷりのフランクフルトにかぶりつき、白井先生は微笑んだ。

「それでも、白井は鬼なんだろ? 討つのか?」

「ああ、何としてでも鬼を討つんだ」

「頑張れよ」

 鬼を倒す事を誓った阿藍を、荒木先生は応援した。

 阿藍には助けられていないが、織美亜と狼王と、同じ力を感じたからだ。

 

 だが、阿藍は白井先生を倒す事を躊躇っていた。

 何故なら、白井先生は、阿藍の恋人だったからだ。

 

「う……」

「大丈夫か、しっかりしろ!」

 鬼との戦いで傷ついた彼女は、地獄からの使者だと名乗る大蝦蟇に告げられた。

 

―キミはあるヒトの計らいによって、生きたまま鬼になる事になっタ。

 ほんとは喰われて死ぬはずだったんだけど、運がよかったネ。

―そのヒトは、キミが鬼としての生活に慣れられるかどうか心配していル。

 それで、キミがきちんと食事ができるようになるまで、ボクに見張っていろってご命令なんダ。

 

 さっさとガキども、喰っちまエ。

 

 日を追うごとに、阿藍の恋人は、自分の心が鬼に近づいていくのが分かった。

 子供を見ると、頭の中で、喰え、喰え、喰え、と声が囁くのだ。

 ガキを喰っちまえ。

 まるで自分の中に腹を空かせた鬼が一匹棲みついて、声高に自己主張しているようだ。

 

「……あたしは……」

 八人を見つめる白井先生の顔は、全てを諦めたような暗い表情を浮かべていた。

「もう、教師なんてやめにする。

 どこか、人里離れた山奥にでも移り住んで、人目を忍んで生きていく」

 ゴミを詰めたビニル袋を放ると、せいせいするわ、と伸びをした。

「元々、向いてなかったのよね」

「まだ、方法はあるよ」

 白井先生を遮って、大翔は口を開いた。

「……鬼祓いをするんだ。先生の中の鬼を、祓う」

「はぁ? やめなさいよ。魔法使いや超能力者じゃあるまいし」

 織美亜は大翔が戦う事に反対していた。

 自分達はエージェントで超能力が使えるが、大翔達は鬼と戦う力を持たない一般人だ。

 はっきり言って、足手まといか、護衛対象にしかならなかった。

「白井先生が鬼になったのは分かった。だから、その鬼を祓えばいい。単純な事だろ」

「……」

「先生やエージェントは知らないだろうけど、

 この神社は、昔、鬼を祓うために作られたものなんだぜ」

「……おい、そんなのは、ただの作り話だろ?」

 荒木先生は疑っている。

「はい、それは違うと思います。

 地域に伝わる作り話というのは、過去の史実に基づいて伝わったものが多いんです。

 そこに込められた先人の知恵を汲み取り活かすのは、決してバカな事ではないと思います」

 澄ました顔で言う葵に、白井先生は嫌そうな顔をした。

 悠が、そうだそうだと、にやにや笑って援護射撃。

「……魔女狩りで解決しようとした外国とは大違い」

 狼王と章吾は、ふふっと笑みを浮かべ、荒木先生は大笑いした。

 

「だから、お前を討つ」

 阿藍が身構えると、白井先生は顔を黒く染め、血走った目で睨みつけた。

「……食べられたいの……?」

 その額に、うっすらとツノが生えてくる。

 口の中の歯が、みるみる伸びて尖った牙になる。

「……食べられたくなければ、言う事を聞きなさい……ッ」

 睨みつける白井先生に、阿藍はきっぱりと首を振った。

「……お断りだ」

言う事を! 聞きなさいッ!

光の力!

 阿藍は光を放ち、白井先生を怯ませた。

 そして、子供達を引き連れて白井先生から離れた。

 

 何としてでも、妖鬼妃を討つ。

 たとえ、かつての恋人だったとしても。




3巻編は阿藍を主軸に置きたかったのです。
次回は鬼祓いをするための対策を探します。
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