荒木先生も生き残ってほしかった、と思ったのが、この小説のきっかけです。
エージェント達は鬼祓いについて調べる事にした。
「このページを見て。図書館の郷土資料コーナーにあった本なんだけど」
そう言って葵が見せたのは、地域の文化や風習を伝える歴史の本だった。
開いた本のページには、墨絵で描かれた鬼が載っている。
大柄な人型で、上半身裸。
頭からはツノが生え、ガラス玉のような瞳をした、古典的な鬼の姿だ。
場所は上の宮の広場のようで、空に真ん丸の満月が描かれている。
鬼の脇に転がっているのは喰いちぎられた人の首。
神主装束を着た男が立ち、白い紙がたくさん釣られた棒を構えて、
額のツノに押し当てていた。
「大幣を使った修祓みたいね」
「おおぬさ……?」
「十字架のような奴だろ?」
「そう。祓具の一つで、榊の枝に紙垂をたくさん結んだ棒の事。
神主さんがよく持ってるって、昨日話したでしょ? 聞いてなかったの?」
「そんなのいちいち覚えてないよ……」
「まあ、普通の小学生なら、そんな事はあまり覚えないしな」
「大幣ならあの小屋の中にもあったわ。
ガラクタ置き場みたいになってたけど、売ればお金になりそうなもの、結構あったのよね。
泥棒に気をつけた方がいいって、管理してる人に言っておいた方がいいかも」
「僕はあの状況でそんな観察してるアオイの方に気をつけた方がいいと思うよ……」
「やめなさい」
織美亜は悠に軽くビンタした。
夜……群青色に染まった空に綺麗な満月が昇った。
大通りの方から聞こえてくる、太鼓の音や、お囃子の笛の音。
浴衣姿の人達が、笑いながら通り過ぎていく。
四人とエージェントは学校の校門に集まった。
大翔は藍色の甚平姿だ。
お祭りに行くならこれを着ていきなさい、と母に言われたからだ。
遊びに行くんじゃないのにと思ったが、鬼祓いの事を言うわけにもいかない。
悠、葵、章吾は浴衣を着てきいた。
葵は薄桃色の浴衣に同じ色の草履を履いて、得意そうにくるりと回って胸を張ってみせた。
「お洒落……だな」
「ふっふっふ。あたしだって女の子。やる時はやるのですよ。
どう? この見事にお洒落した葵ちゃんの感想は。大翔?」
「葵。あの長い階段を昇るんだぜ? 草履じゃ歩きづらいんじゃねえ? 俺、靴履いてきたけど」
「0点。落第。……悠?」
「……うん。似合ってる、んじゃないかな……」
「60点。まあ、ぎりぎり及第点ね。章吾は?」
章吾は具体的に話して、80点。
「先生は、まだみたいだね……」
「そうね……」
荒木先生と白井先生とは、校門前で待ち合わせて、一緒に上の宮まで行く約束だった。
絵に描かれていた鬼祓いの様子を、実際に再現してみるのだ。
そのために四人ともお祓いについて勉強し、作法を頭に叩き込んでいた。
「ま、駄目で元々よ。上手く行かなかったら、その時はその時。また別の方法を探しましょ」
大翔、悠、章吾は頷いた。
正直なところ、これですんなり鬼が祓えるとは、エージェント以外、誰も思っていなかった。
エージェントならば、超能力が使えるので、何とかできるのだが、あくまで彼らは切り札。
はっきりしているのは、何も行動をしなかったら、
先生は鬼のまま大翔達の前からいなくなってしまうという事だ。
それだけは嫌だった。
(少しでも先生を助けられる可能性があるなら、なんだってやってやるんだ。
けど……。何故だろう。何か、嫌な予感がする)
冷たい指が、ひたひたと、背筋をなぞっていくように。
「それにしても、二人とも、遅いわねぇ……」
待ち合わせの時間を、もう30分近くも過ぎていた。
お祭りに向かう人々の流れの中で、四人とエージェントはぽつんとして先生を待っている。
「どうしたんだろう。約束したのに」
「ひょっとして……すっぽかし?」
「はあ……生徒との約束をすっぽかすとはな……」
大翔達との約束なんてさっさと忘れて、
出店を巡ってたこ焼きを食べている先生の姿が、簡単に想像ついた。
「冗談じゃないぜ。今日を逃したら、満月、しばらく来ないんだぞ。
満月の日にやるって事だったよな?」
「探しに行くか?」
「でも、人でごった返してるから、見つかるかなぁ……」
「まずは家まで行ってみましょ。まだ部屋にいるかもしれないしね」
こうして、大翔、悠、葵、章吾とエージェントは、まだいない先生を探しに行くのだった。
エージェントは鬼祓いというよりは鬼殺しが得意なのです。
次回は、白井先生の正体を暴きます。