琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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(児童書であるというメタ的な理由以外で)鬼は何故子供を狙うのでしょうか?
でも逆に言えば、大人は狙われない……のでしょうか?


3 子供を守れ

「……いたた!」

 織美亜が孝司を連れていこうとすると、彼が足を痛めて動けなくなった。

「どうしたの、伊藤君!」

「ちょっと、駄目、肩と足が痛い……」

「見せてちょうだい」

 織美亜が孝司の傷を見ると、まだ塞がっていない箇所があった。

 まだ治癒が足りなかったのね、とがっかりする。

「ちょっと待って。……あぁ、鬼のせいで呪いを受けちゃったのね。

 ただの怪我じゃないから、治すのは難しいと思うけど……やってみるわ」

 鬼の傷を受けたとしても超能力なら治せるはずだ。

 織美亜は目を閉じて精神を集中し、「治癒」の力を発動しようとした。

「……狼王、先に行ってちょうだい。アタシは伊藤君を治すから」

「ああ」

 孝司を織美亜に任せた狼王は、子供達を助けるために行くのだった。

 

 その頃……。

 

ふざけんなよ! 一体なんなんだよ!

 堪え切れなくなったように、和也が喚いた。

「テレビのドッキリ番組……なわけないか。流石に、こんな事できるわけないわね……」

 口調こそ冷静だが、流石の葵も口元がひきつっている。

「きっと神様の仕業なんだ。

 僕が昨日、運動会中止にしてくださいって祈ってたから、叶えちゃったんだ」

 悠は、本当の本気で運動会が嫌だったみたいだ。

 

「……やれやれ。鬼、ね」

「ちょっと面白くなってきたわ」

 章吾と有栖が、ぱしんと拳で掌を打った。

 怯え切った皆の中で、章吾と有栖は、落ち着いていた。

 ちっとも怖くない……むしろ、面白がっているみたいだ。

 

(大翔、それで本気か、って弟が言ってたわよ)

 運動会の練習で、大翔は一度、章吾に聞かれた事がある。

 トラックを一周競走して、最初から最後まで章吾に追いつけなかった時だ。

 章吾は不満そうに、唇を尖らせていた。

 大翔はムカつき、それから練習量を倍に増やした。

 章吾に勝てるはずないだろと、皆には笑われたが。

 ……ちなみに、有栖はというと、大翔に期待をかけていたという。

 

 そして、やはり大翔は章吾に勝てなかった。

 走り終えて息を荒らげる大翔を、章吾は遠くからじっと見ていた。

 有栖は「ごめんね」と大翔に声をかけていた。

 

「助けを呼びましょう。学校から出られない以上、外に助けを呼ぶしかないわ。

 ケータイ持ってる子は?」

 葵の言葉に、何人かがポケットを探った。

 桜ヶ島小では、親の適切な指導・監督を前提としてケータイを持ってくるのが許可されている。

 大翔も自分のケータイを出した。

 母の番号が登録してある。

 手分けして、電話をかけた。

 

『今、オレ達は職員室にいる。子供を保護しているから、大丈夫だ』

 そこから出てきたのは、男性の声だった。

 大翔達を安心させたいようだが、

 閉ざされていたはずの小学校に知らない人の声が聞こえたのは、逆に不気味だった。

「な、なんだ、今の声は……!?」

 大翔が男性の声に怯えると共にケータイは切れた。

 

 以前は廊下のドアからも入れたのだが、低学年の間で、

 校長室はかくれんぼの穴場スポットと広まってしまって以来、カギがかかるようになった。

 今では、職員室経由でしか入れない。

「……誰が行くんだ?」

 答える者は、誰もいなかった。

 皆、誰とも視線が合わないように俯いてしまう。

 大翔も、俯いていた。

 ふと、彼が視線を感じて顔を上げると、章吾と有栖と目が合った。

 章吾と有栖は、じっと大翔を見つめていた。

「それで本気なのかよ?」

「あなたは何をやりたいの?」

 不満そうに言ったあの時と、同じ目で。

 結局、ジャンケンで決める事になった。

 こういう状況になった時、行き着く先はいつもこれだ。

 ジャンケンは運勝負で、公平だ。

 皆、そう思ってるから。

 ただ……世の中には、とてもジャンケンに弱い者、というのもいたりして。

 

「どうしてこんなにあっさり負けるんだよう……」

 ジャンケンを終えると、悠は半泣きになった。

「普通こういうのって、徐々に人数が減っていくものだろ。

 どうして一回目で全員に負けるんだよう。どうして全員グーで、僕だけチョキなんだ。

 学校中のみんながグーを出して僕に襲い掛かってくる悪夢を見る勢いだよ……」

 悠はよく分からない事を言いながら、「やだよ、やだよ」と頭を抱えている。

 流石にみんなも拍子抜けしてしまって、顔を見合わせた。

 悠は足が遅い。

 体育の成績は常に、もう少し頑張りましょう。

 おまけに、大の怖がりだ。

 大翔と一緒に町内の肝試しに参加した時も……。

(僕は見ないよ。嫌なものは見ない主義なんだ)

 と、最初から最後まで目を閉じたまま歩こうとして、

 躓いて転んで大翔を巻き込んで池に落ちたほどだ。

 悠はこの役に、一番向いていない。

 「鬼」に追いかけられたら、ひとたまりもない。

 でも、じゃあ自分が行く――だなんて、誰も言い出せるわけがなかった。

 

「みんながそんなに困ってるなら、私が代わりに行くわよ」

 困り切った皆の中、言い出したのは有栖だった。

 大翔は、ハッと顔を上げた。

「桜井君は正直、向いてないでしょ? 私なら、追われても逃げ切れる自信があるわ。

 それに、私には特別な力があるみたいだし」

 笑顔で有栖は皆に言った。

 有栖は少しだが超能力を使う事ができ、軽い物体を浮かせたり本を開かずに透視したりできる。

「ほ、本当? 金谷さん、代わってくれる?」

 悠がまだ涙目のまま、助けを求めるように有栖を見た。

「ええ、本当よ。私達は仲間、友達だもの」

 それを聞いて――大翔は体の横で拳を握り締めた。

(何を迷っているんだ。悠は、俺の友達なのに……。

 今、声を上げなかったら、これから一生、友達だって名乗れない。

 あんなチンケな鬼なんかより、そっちの方がずっと怖いだろ。

 しかも、有栖には嫌味がない。これだから……)

 

「……俺が行く」

 大翔が声を張り上げると、皆が驚いた顔をして大翔を見た。

 震える足を押さえつけて進み出ると、有栖を睨むように見据えて、大翔は言った。

「ヒロトは僕の、親友だもん」

 それを聞いて、足の震えなんて止まってしまった。

 なんでガクガクしてたのか、分からないくらい簡単に。

「……分かったわよ」

 有栖は素直にその場から身を引いた。

 愉快そうに笑う章吾と、大翔を見守る有栖。

 双子だが、正反対だった。

「あたしも行くわ。電話の件を言い出したのはあたしだしね。

 自分だけ待ってるわけにもいかないわ。ちょうどいいんじゃない?

 いつもの帰りの班で行くって事で」

 葵が手を挙げた。

 話はそれでまとまった。

 三人は頷き合うと、皆に向き直り、背筋を伸ばして声を張り上げた。

 

「桜ヶ島小学校6年2組、チームB班。校長室まで行ってくる!」




有栖は「女版出木杉」をイメージして描写しました。
差別化するために気を強くしましたが、やっぱりいつものうちの子です。
強い女の子、大好きですからね。
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