鬼って本当に、子供を食料としか思ってないんですよね。
だからこそエージェントがいるんですが。
「やあ、何して遊んでるんだい?」
「ケイドロ!」
桜ヶ島小学校の校庭では、日々色々な遊びがされているが、
特に低学年の子供達の遊びは、流行がころころ変わって見ていて飽きない。
「先生も、ケイドロやろうよーっ!」
男の子はそう言って笑いかけた。
まだ1年生だろう。
学校にも慣れてきて、休み時間に外で遊ぶのが、楽しくてたまらないようだ。
杉下先生は、花壇の雑草を刈りながら、「ケイドロ?」と首を傾げた。
ぼうぼうに伸びた草を掴み草刈り鎌を当てて引く。
ブチッブチッと草が裂ける。
「ケイドロ、面白いよ! 鬼ごっこの一種なんだってさ!」
「へえ……鬼ごっこの?」
杉下先生は、草を刈る手を止めた。
握り締めていた雑草をゴミ袋に入れると、男の子に向き直り、興味深そうに問いかける。
「どうやって遊ぶんだい?」
「ケイサツチームとドロボウチームに分かれて、追いかけっこするんだ。
ドロボウはケイサツから逃げ切れれば勝ち。ケイサツはドロボウを捕まえれば勝ち」
「確かに、鬼ごっこと同じだね」
「面白いのは、“牢屋”なんだ! ケイサツに捕まったドロボウは、牢屋に入れられてしまう」
言われて足元を見ると、地面に丸い線が引かれて、男の子をぐるりと囲んでいた。
その円の中が、ゲームにおける「牢屋」という設定なのだろう。
「つまり、君は敵チームにタッチされて、捕まっちゃったってわけだ」
「そう、俺は無念にもケイサツの手に落ち、こうして牢屋に連行されてしまった!
どうなる、俺! ……でもただ捕まって終わりじゃない。
ケイドロが面白いのは、ここからなんだ!」
男の子はゲームが心底面白いのか、興奮した様子で続けた。
「仲間が助けにきてくれるんだ! 一度捕まっても、仲間にタッチしてもらえれば脱出できる。
もちろん敵チームはそうさせまいと見張ってるけど、
ドロボウ達はその目を掻い潜り、捕まった仲間を助けに向かう!」
鼻息荒くまくしたてる。
「ただ逃げるだけじゃない、その辺の駆け引きのミョウってやつが、
ケイドロのダイゴミなんだな! どう? 分かった? 先生」
「なるほど、よく分かったよ」
得意そうに、えへん! と胸を張る男の子に、杉下先生はニコニコと頷いてみせた。
「ちなみに、ドロボウは最後、どうなっちゃうの?」
杉下先生はニコニコ顔のまま、問いかけた。
「え? 後ってどういう事?」
男の子はよく分からないというように首を傾げた。
「最後は最後だよ。
捕まったまま逃げられなかったドロボウは、最後、どういう目に遭ってしまうのかなって」
「……? チャイムが鳴ったら、終わりだよ?」
「例えばさ」
と、杉下先生は膝を抱えて、男の子の目をじいっと覗き込んだ。
「処刑の方法って、色々あるじゃない?
首を切断されるギロチン刑。同じく吊るされる絞首刑。高電圧に晒される電気椅子。
牢屋に入れられたドロボウは、どうやって処刑されてしまうの?」
「そんなの……分かんないよ……」
「それに、仲間が助けに来なかったらどうなるの?」
「え?」
「仲間が助けに来てくれなかったら、捕まった君はどうなるの? 死ぬの?」
「来てくれるよ……。だって、チームの仲間が……」
「ドロボウが仲間なんて持つかなあ?
君がみんなを仲間だと思っていても、みんなはそう思ってないかもしれないじゃないか。
仕方なく遊んでるだけかもしれないじゃないか。
ほんとはジャマだって思ってるかもしれないじゃないか」
怯えて後ずさりしそうになる男の子の肩を、杉下先生は優しく掴んで止めた。
子供達の笑い声があちこちから聞こえてくる、平和な昼休みの校庭。
「仲間って何? 友達って何?
自分の危険を顧みず、ピンチの君を助けに来てくれる仲間なんて、君にいるのかな?
いいや、いないよ」
ニコニコと喋る杉下先生の目の奥を見つめたまま……。
男の子の顔からゆっくりと表情が抜け落ちていく。
「君は牢屋から外に出る事もできずに、ここで無残に処刑されちゃうんじゃないの?」
杉下先生は草刈り鎌を構え、持っていたゴミ袋の口を開けた。
ゴミ袋は大きい。
男の子の頭から足先まで、全身すっぽり入れられるほどに。
手を伸ばすと、棒立ちになった男の子の首を、ぎゅううっと掴んだ。
雑草を刈り取る時と同じ手つきで。
男の子は本物の囚人のように暗い目つきで、何もできずに立ち尽くしている。
「……というくらい真剣に遊ぶと、さらに楽しくなりそうだね」
杉下先生は手を放すと、パチリとウインクした。
男の子は、呪縛から解けたように、ぱちぱちと瞬きして先生を見上げる。
「教えてくれてありがとう。凄く面白そうだ。今度、先生もやってみるよ。
ちょうど楽しそうな遊びを探してたんだ」
「……おーい、助けにきったぞぉーっ!」
と、子供が一人ダッシュでかけてきた。
円の中の男の子にタッチする。
「逃げるぞ!」
「しまった、逃げられたぁ!」
校庭に子供達の歓声が響き渡っていく。
走っていく子供達をニコニコと見送ると、杉下先生は草刈りを再開した。
伸びた雑草を掴み上げ、刃を当てて引く。
「……本当、面白そうな遊びだ」
ブチッ! ブチブチィィッ!
手の中で草を引き裂きながら、杉下先生は呟いた。
(……火炙りと言わなかったのが、意外だったわね)
杉下先生の話は麻麻がテレパシーで盗聴していた。
エージェントは沖縄県に住んでいるので、考え方が少々西洋っぽいところがある。
(やっぱり、こいつは殺すべき存在よ)
麻麻は頷き、超能力を使おうとする。
超能力者であるエージェントに、隠し事などできないのだ。
他のエージェントも頷く。
織美亜はそっと、遠くからサイコキネシスを使う。
「……ぐっ? なんだか首が痛いような……」
杉下先生は首を絞められたような感覚を味わう。
織美亜の超能力には気付かなかったようだ。
「せいぜい威嚇攻撃。殺すのはまた後でよ」
織美亜達はそっと、学校に忍び寄るのだった。
次回は子供達のターンです。
エージェントは大活躍すると思います(自画自賛)