琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

43 / 89
杉下先生とケイドロについて。
鬼って本当に、子供を食料としか思ってないんですよね。
だからこそエージェントがいるんですが。


42 杉下先生、実は何?

「やあ、何して遊んでるんだい?」

「ケイドロ!」

 桜ヶ島小学校の校庭では、日々色々な遊びがされているが、

 特に低学年の子供達の遊びは、流行がころころ変わって見ていて飽きない。

「先生も、ケイドロやろうよーっ!」

 男の子はそう言って笑いかけた。

 まだ1年生だろう。

 学校にも慣れてきて、休み時間に外で遊ぶのが、楽しくてたまらないようだ。

 杉下先生は、花壇の雑草を刈りながら、「ケイドロ?」と首を傾げた。

 ぼうぼうに伸びた草を掴み草刈り鎌を当てて引く。

 ブチッブチッと草が裂ける。

「ケイドロ、面白いよ! 鬼ごっこの一種なんだってさ!」

「へえ……鬼ごっこの?」

 杉下先生は、草を刈る手を止めた。

 握り締めていた雑草をゴミ袋に入れると、男の子に向き直り、興味深そうに問いかける。

「どうやって遊ぶんだい?」

「ケイサツチームとドロボウチームに分かれて、追いかけっこするんだ。

 ドロボウはケイサツから逃げ切れれば勝ち。ケイサツはドロボウを捕まえれば勝ち」

「確かに、鬼ごっこと同じだね」

「面白いのは、“牢屋”なんだ! ケイサツに捕まったドロボウは、牢屋に入れられてしまう」

 言われて足元を見ると、地面に丸い線が引かれて、男の子をぐるりと囲んでいた。

 その円の中が、ゲームにおける「牢屋」という設定なのだろう。

「つまり、君は敵チームにタッチされて、捕まっちゃったってわけだ」

「そう、俺は無念にもケイサツの手に落ち、こうして牢屋に連行されてしまった!

 どうなる、俺! ……でもただ捕まって終わりじゃない。

 ケイドロが面白いのは、ここからなんだ!」

 男の子はゲームが心底面白いのか、興奮した様子で続けた。

「仲間が助けにきてくれるんだ! 一度捕まっても、仲間にタッチしてもらえれば脱出できる。

 もちろん敵チームはそうさせまいと見張ってるけど、

 ドロボウ達はその目を掻い潜り、捕まった仲間を助けに向かう!」

 鼻息荒くまくしたてる。

「ただ逃げるだけじゃない、その辺の駆け引きのミョウってやつが、

 ケイドロのダイゴミなんだな! どう? 分かった? 先生」

「なるほど、よく分かったよ」

 得意そうに、えへん! と胸を張る男の子に、杉下先生はニコニコと頷いてみせた。

 

「ちなみに、ドロボウは最後、どうなっちゃうの?」

 杉下先生はニコニコ顔のまま、問いかけた。

「え? 後ってどういう事?」

 男の子はよく分からないというように首を傾げた。

「最後は最後だよ。

 捕まったまま逃げられなかったドロボウは、最後、どういう目に遭ってしまうのかなって」

「……? チャイムが鳴ったら、終わりだよ?」

「例えばさ」

 と、杉下先生は膝を抱えて、男の子の目をじいっと覗き込んだ。

「処刑の方法って、色々あるじゃない?

 首を切断されるギロチン刑。同じく吊るされる絞首刑。高電圧に晒される電気椅子。

 牢屋に入れられたドロボウは、どうやって処刑されてしまうの?」

「そんなの……分かんないよ……」

「それに、仲間が助けに来なかったらどうなるの?」

「え?」

「仲間が助けに来てくれなかったら、捕まった君はどうなるの? 死ぬの?」

「来てくれるよ……。だって、チームの仲間が……」

「ドロボウが仲間なんて持つかなあ?

 君がみんなを仲間だと思っていても、みんなはそう思ってないかもしれないじゃないか。

 仕方なく遊んでるだけかもしれないじゃないか。

 ほんとはジャマだって思ってるかもしれないじゃないか」

 怯えて後ずさりしそうになる男の子の肩を、杉下先生は優しく掴んで止めた。

 子供達の笑い声があちこちから聞こえてくる、平和な昼休みの校庭。

「仲間って何? 友達って何?

 自分の危険を顧みず、ピンチの君を助けに来てくれる仲間なんて、君にいるのかな?

 いいや、いないよ」

 ニコニコと喋る杉下先生の目の奥を見つめたまま……。

 男の子の顔からゆっくりと表情が抜け落ちていく。

 

「君は牢屋から外に出る事もできずに、ここで無残に処刑されちゃうんじゃないの?」

 杉下先生は草刈り鎌を構え、持っていたゴミ袋の口を開けた。

 ゴミ袋は大きい。

 男の子の頭から足先まで、全身すっぽり入れられるほどに。

 手を伸ばすと、棒立ちになった男の子の首を、ぎゅううっと掴んだ。

 雑草を刈り取る時と同じ手つきで。

 男の子は本物の囚人のように暗い目つきで、何もできずに立ち尽くしている。

 

「……というくらい真剣に遊ぶと、さらに楽しくなりそうだね」

 杉下先生は手を放すと、パチリとウインクした。

 男の子は、呪縛から解けたように、ぱちぱちと瞬きして先生を見上げる。

「教えてくれてありがとう。凄く面白そうだ。今度、先生もやってみるよ。

 ちょうど楽しそうな遊びを探してたんだ」

「……おーい、助けにきったぞぉーっ!」

 と、子供が一人ダッシュでかけてきた。

 円の中の男の子にタッチする。

「逃げるぞ!」

「しまった、逃げられたぁ!」

 校庭に子供達の歓声が響き渡っていく。

 走っていく子供達をニコニコと見送ると、杉下先生は草刈りを再開した。

 伸びた雑草を掴み上げ、刃を当てて引く。

 

「……本当、面白そうな遊びだ」

 ブチッ! ブチブチィィッ!

 手の中で草を引き裂きながら、杉下先生は呟いた。

 

(……火炙りと言わなかったのが、意外だったわね)

 杉下先生の話は麻麻がテレパシーで盗聴していた。

 エージェントは沖縄県に住んでいるので、考え方が少々西洋っぽいところがある。

(やっぱり、こいつは殺すべき存在よ)

 麻麻は頷き、超能力を使おうとする。

 超能力者であるエージェントに、隠し事などできないのだ。

 他のエージェントも頷く。

 織美亜はそっと、遠くからサイコキネシスを使う。

 

「……ぐっ? なんだか首が痛いような……」

 杉下先生は首を絞められたような感覚を味わう。

 織美亜の超能力には気付かなかったようだ。

 

「せいぜい威嚇攻撃。殺すのはまた後でよ」

 織美亜達はそっと、学校に忍び寄るのだった。




次回は子供達のターンです。
エージェントは大活躍すると思います(自画自賛)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。