琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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荒木先生がどこに行ったのかは……ご想像にお任せします。
と、言うしかない展開にして、申し訳ありません。
だって能力者が何とかしたんですもの。


43 体育教師の謎

 織美亜、狼王、阿藍、麻麻は、桜ヶ島小学校に潜入していた。

 杉下先生を探し、隙あれば殺すために。

「で、またテレパシーを使うのね?」

「ああ。力には力で対抗するからな」

 狼王は前に出て、そっと、テレパシーを使う。

 できるだけ、杉下先生の話を長く聞くために。

 

「はい、それじゃ全員集合~!」

 杉下先生がホイッスルを吹いた。

 ピィーッと音が鳴り響く。

 皆、一斉に駆け出した。

 送れないように、先生の前に急いで整列する。

 ピシッと気をつけ。

 背筋を伸ばして、体の横で両手を揃えて。

 笛の音と共に地面に腰を下ろし、体育座り。

 一点の乱れもなく。

 整列が完了すると、杉下先生はストップウォッチのボタンを止めた。

 一昨日より5秒早く整列できましたと皆を褒めた。

 「おっしゃあ!」と皆、喜んでいる。

 大翔の隣で、悠が不思議そうに首を捻った。

「それじゃ、100メートル走は今日でおしまいです。次回からは、ドッジボールになります」

 並んだ皆の顔を見渡し、杉下先生が元気よく言う。

「みんな、僅かな間にとても速くなったね。

 授業を始めた時はどうなるかと思ったけど、心身共に成長し、以前とは見違えるようです。

 先生の指導がいいのかな?」

 杉下先生がおどけて笑う。

 皆、答えてどっと笑った。

 大翔もおかしくなって笑った。

 悠は黙っている。

 それから杉下先生は、生徒達一人一人にコメントした。

「小杉君、速くなったね」

「関本君、良くなったよ」

「伊藤君、上達したね」

 別に突っ込んだ事を言うわけではなく、ちょっと褒めるだけだ。

 それでも皆、嬉しそうに喜ぶ。

 へへっと照れて、鼻の下をこする。

 杉下は大人達の間で、生徒のやる気を引き出すのが抜群に上手いと評判らしい。

 あまりにも上手いので、他の先生達は、杉下先生の授業を見て参考にしているのだとか。

「大場君も速くなった。いい走りだったよ」

 大翔は嬉しくて頭を掻いた。

 母に褒められても、こんなには嬉しくないだろう。

「桜井君。桜井君も、とてもよくなったよ」

(……)

 悠だけは、反応が薄かった。

 瞬きを数度しただけで、にこりともしない。

 周りで盛り上がる皆を見渡し、鼻歌を歌う大翔を横目で伺って、何か言いたそうにしている。

 

「……さて! 今日は授業を終える前に、みんなに少しマジメな話をしておこうかな」

 授業の最後。

 杉下先生は皆を見回し、改まった調子で言った。

 皆、不思議そうに首を傾げて、先生の話に聞き入った。

「君達子供にとって一番大切な事って何だと思う?」

―はい、はい! メシ! いっぱいのメシ!

―おまえ、ここは知恵とか知識とか言っとくとこだろーっ?

―恋よ! 愛だわ!

―ばーか、遊ぶ時間だろーっ!

 皆が一斉にわいわいと答える。

 静まるのを待ってから、杉下先生は続けた。

「先生達は、みんなに色々なアドバイスをするだろ?

 みんなの走りが速くなるように、テストの点が上がるように、立派な人間になれるようにさ。

 でも、せっかくのアドバイスも、みんなが素直に聞いてくれないと意味がない。

 だから、みんなには、是非これだけは守ってほしいんだ。……それはね。『考えない事』です。

 余計な事を、考えない。頭を空っぽにして、先生に言われた事をやる。

 先生に今、言われた通りに行動する。先生に言われた通りに、自分の手足を動かす。

 そうした素直な心を持ってください。

 それさえ守っていれば、君らは立派な大人に成長していけるし、毎日が楽しくなっていく。

 逆に、それができない子は、必ず辛い目に遭うでしょう。

 考えない事。忘れないでいてほしいと思います」

「……いい先生だよね、杉下先生」

 伊藤孝司が話しかけてきた。

 孝司はこの頃、体育の授業を楽しみにしている。

 元々はそんなタイプではなかった。

 本を読むのが好きで、運動は苦手、体育の時が来ると溜息を吐いている方だった。

(杉下先生に、言われたんだ。本なんて読んでいたら、余計な事、考えるようになるって。

 それは良くない事だって)

 そのため、孝司は持っていた本を全部捨てて、昼休みに図書室に通うのもやめた。

(先生の言う通りだった。本を読むなんてムダな事だって、ようやく気づいたよ)

 

「……鬼が」

 狼王は悪態をついていた。

 生徒は教師の所有物ではないのに。

 何も考えるな、なんて、先生が言うはずがない。

 間違いなく、杉下先生は子供に敵対する、最凶最悪の鬼である事が分かった。

 何としてでも殺す、と狼王は思った。

 子供に牙を剥くものは、何が何でも殺すのが、エージェントの役目だからである。

「良い鬼は、死んだ鬼だけだ」

 

「……そんなにいい先生かな?」

 呟く声に、大翔と孝司は、はっとして顔を向けた。

 口にしたのは、悠だった。

 皆と同じように、体育座りで膝を抱えたまま、じっと杉下先生を見上げている。

 だが、その目つきは、皆とは全く違っていた。

 危険な猛獣でも見るような……警戒の目だ。

「……どういう事?」

 孝司が不満そうに唇を尖らせる。

「杉下先生が、嫌な先生だっていうの?」

「そういうわけじゃないよ。でも荒木先生は、あんな事、言わなかったんだ。

 何も考えるななんて、言われた通りに動けなんて、絶対、言わなかった」

 悠の言葉に、大翔は首を傾げた。

「この頃、みんな、おかしいよ。

 なんで先生をちょっと待たせたくらいで、友達にあんな酷い事言うの?

 考えるななんて、本を読むのをやめろだなんて、ヘンだよ。

 荒木先生は言ってたよ。自分の頭で判断しろ、自分の頭で考えろって」

 悠は杉下先生の顔を、食い入るようにじっと見つめている。

 まるで先生のニコニコ顔が騙し絵になっていて、

 その下に何か間違ったものが潜んでいるとでもいうように。

「……僕、桜井君が何を言ってるのか、全然分かんないよ。杉下先生を悪く言うなんて」

 孝司が不満げに鼻を鳴らしプイとそっぽを向いた。

 杉下先生は、大翔達が何か話しているのに気づいたらしい。

 こちらへ顔を向けたが、別に怒りはしなかった。

 ただ、ニッコリと笑みを深くして、じっと悠を見返した。

 

―そうだ、こいつは信じるな。

「テレパシー!?」

 うっかりテレパシーの力を強めてしまい、悠に狼王の考えが届いてしまった。

―すまん。今、テレポートで向かうからな。

 狼王のテレパシーがぷつんと切れる。

 しばらくすると、織美亜、狼王、阿藍、麻麻がテレポートで悠達の前に姿を現した。




次回は杉下先生を追いかけます。
能力者が無双しますので、ご注意ください。
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