琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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ここもオリキャラがいるおかげで原作とは展開が変わります。
くれぐれも、原作が好きな人はご注意ください。


45 第一犠牲者

 校外学習当日 9時30分

 

 子供達を乗せた観光バスが、次々と駐車場へ滑り込んでいく。

 エージェントはバスの後を追っていた。

 『FUNNY LAND』は桜ヶ島からバスで一時間ちょっとの郊外にある、(ひな)びた遊園地だ。

 入り口ゲートのずっと向こうに、背の高い塔のような建物が聳え立っているのが見えた。

 生徒達には校外学習の栞と一緒に、遊園地のマップが配られている。

 あの塔はイギリスの有名な時計塔を模した建物で、遊園地のシンボルになっているらしい。

 園内のどこからでも見る事ができて、一時間おきに鐘を鳴らして時間を知らせる。

 桜井悠と大翔は互いに目を合わせ、構えている。

 

「雨が降ってるわね」

 バスを降りると、外は今にも雨が降りそうな、嫌な天気だった。

 鉛色の分厚い雲が空を覆っている。

 桜ヶ島小のバスが並んでいる以外、駐車場車場に停まった車に車の数は少ない。

 遊園地のゲートに書かれた文字は、『Welcome to FUNNY FUNNY Land!!』。

 看板にはトランプの体をしたジョーカーのキャラクター達が描かれ、

 楽しげにウインクして子供達を見下ろしている。

(全然愉快じゃないよ……)

 心の中で抗議しながら、悠はゲートを潜った。

 エージェント達は、鬼を討つため、真剣な表情でゲートを潜る。

 そこは広場になっていた。

 正面向こうに聳え立った時計塔は、ただの時計とは思えないほど大きく立派だ。

 ジェットコースターのレールが、ぐるりと園内を巡っている。

 広場の隅には、ポップコーンや土産物屋の売店。

 マスコットキャラのピエロ達がそこここに立って、

 おどけたポーズをして手を振ったり、風船を配ったり。

 生徒達は広場の隅に集まって、先生達の諸注意を聞いた。

 他の入園者に迷惑をかけない事、羽目を外し過ぎない事、

 あくまで今日は校外『学習』なのであり……お決まりの注意を聞き流す。

「集合時間は守ってね! 15時までに、広場に戻っておく事!」

 担任の三好先生が声を張り上げた。

 白井先生同様、若い女の先生で、気は優しいがちょっと頼りないところがある。

 

「あ、10時になったわ」

―ゴーン、ゴーン……

 ちょうど、時計塔の針が10時を指した。

 鐘の音が園内に鳴り響いていく。

 広場の噴水がリズミカルに水を噴き上げ、

 ピエロ達がプップーと陽気なラッパを鳴らして行進を始める。

 諸注意が終わると、いよいよ自由行動の時間になった。

 皆、あらかじめ決めたグループで集まっていく。

 わいわいと連れ立って、それぞれの目当てのアトラクションへ歩き始める。

 

(……どうしよう……)

「大翔と組めばいいんじゃないかしら?」

 次々にグループを組んでいく生徒達の中で、悠は一人おろおろした。

 どのアトラクションを回ろうか、大翔と話し合ったのはつい先週の事だ。

 マップに顔を突き合わせて、ああだこうだと二人で笑い合った。

 今も大翔は、楽しそうに笑っていた。

 一緒にいるのは、章吾、有栖、和也、孝司達。

 夢中になって話し込み悠の方を振り返りもしない。

 悠は、ぎゅっ、とカバンのベルトを握り締めた。

 くるりとみんなに背を向けると、皆が歩いていくのと逆方向へ、逃げるように歩き始めた。

 楽しそうに笑う皆の声が、ガマンできなくなったから。

 

 ――僕はひとりぼっちなんだ。

 

 人のいない方を目指して、悠はとぼとぼと歩いていく。

 あちこちから鳴り響く音楽、皆の笑い声。

 ジェットコースターからの歓声。

 全て、遠くなっていく。

 

「……ったく。やれやれだぜ。なんだってオレ様が、こんなところへ来なきゃならんのだ」

「電撃投射」

「何しやがる!」

 小さな生き物、ツノウサギが黒焦げになって姿を現す。

 悠は思わず、木の陰に隠れた。

 すると、エージェントの一人、麻麻がテレポートで悠の前に現れた。

「お姉さん?」

「しーっ、静かにして。ここに鬼がいるの」

 麻麻は悠の口に手を当てる。

「鬼?」

「そう。様子を見て」

 悠は麻麻に促されて、向こうを見た。

 

「やあ、お待たせ」

 そう言って姿を表したのは……杉下先生だった。

 クリーム色のサマーセーターにチノパン姿。

 セーターの胸には、ハートマークの刺繍が編み込まれている。

 悠は一瞬、杉下先生が、自分に呼びかけているのかと思った。

 辺りには悠、麻麻、ツノウサギ以外、誰もいなかったからだ。

「いやあ、先生達の打ち合わせが長びいちゃってね」

 杉下先生は悠と麻麻の方には目もくれていない。

 ツノウサギに向かってニコニコと笑いかけている。

 麻麻は、杉下先生の目が笑っていないのを、真っ先に理解した。

「先生って、思ったよりも大変なんだね。子供達には分からない気苦労が多いんだよ。

 校外学習も、引率する先生達にとっては仕事。大変なお仕事だよなあって思うよ」

「さいですか」

 ツノウサギは興味なさそうに翼を竦めている。

 悠と麻麻は会話する一人と一匹を木陰から見やりながら、ごくりと息を呑んだ。

「……んで? 学校の先生なんてやってる鬼さんが、地獄の鬼さんたるオレ様になんの用?

 子供(エサ)に授業やってる変わり者がいるって評判だぜ? あんた」

「ふふ。何、大した用事じゃない。たまにはごちそうでもしてあげようと思ってさ」

「……ほんとぉ? なーんか……怪しいなぁ」

 ツノウサギは、あからさまに疑わしそうに目を細めて、杉下先生を見上げている。

「言っとくけど、オレ、あんたの事信用してないんだよね。

 あんたの言う事って、いちいち聞こえはいいけど、なーんか信用できないんだよなぁ。

 上っ面だけで中身がないっていうの?

 誠実さとか、真心って奴? 感じられないっていうかさぁ」

 ツノウサギはぶつくさと杉下先生に絡んでいる。

「そもそも催眠術とか使う鬼って、信用できないっていうかさぁ。

 オレの事だって、道具としか見てないんじゃないの? って不安になっちゃうっていうかさぁ。

 オレ様、他の鬼に利用されるような、安い鬼じゃねえんだよね。

 そこんとこは、分かってもらわんとさあ」

「じゃあ、いらないの? 食事」

「……ま、くれるってんなら、もらってやってもいいけど」

「それをもう少し素直に言うと?」

「喰いたい! ガキの肉が喰いたい! 腹減ってんだよ!」

 バタバタ翼を揺らしてせがむツノウサギを見下ろし、杉下先生は満足そうに頷いた。

 この頃、納豆ご飯しか喰ってねぇんだよ……とツノウサギはしょぼくれている。

 

(……ヒロトに知らせなきゃ)

(そうね、エージェントにもやらないと)

 悠はポケットを探り、スマホを取り出した。

 カメラアプリを立ち上げると、杉下先生とツノウサギの姿を一緒に写真に治める。

 メールに写真を添付して、大翔のアドレスに送信した。

 麻麻は自身の脳に電気を通し、記憶能力を一時的に高める。

(ほら、やっぱり杉下先生は鬼だったじゃないか)

 悠はふふん、と鼻から息を吐いた。

 何だか得意になっていた。

(よくやったわね。後は報告だけよ)

 

「――それでね、牢屋をどこにするかの駆け引きによって、有利不利が決まるんだ。

 迷って、色々遊園地の事調べちゃった」

 杉下先生はニコニコ笑いながら、ツノウサギに何か話している。

 ツノウサギはさっぱり興味なさそうに、ツノをぽりぽり掻いている。

(何を話してるんだ?)

 悠は返信を待ちながら、二人の会話に聞き耳を立てた。

 麻麻も、そっと彼らの会話を聞いている。

「あとは、やっぱり捕まえたドロボウをどうするかが、一番面白いポイントかな。

 このゲームは一人ドロボウを捕まえてからが、本当の始まりだと思うんだ。

 それでキミに協力してもらおうと思ってさ」

「やっぱりあんたはよく分からん。そんなゲームして何が楽しい?

 さっさと喰っちまえばいいのによ」

「ゲームは楽しいじゃないか」

 

―チャラララッチャッチャッチャー

 

 突然、悠の手の中でスマホがメロディを発した。

(しまった! 着信音消してなかった!)

 悠は慌てて、音が漏れないようにスマホを抱え込んだ。

 息を殺しながら画面を見ると、電波の圏外アイコンと、

 『メッセージを送信できませんでした』というメールの件名が表示されている。

 麻麻の超能力は、そんなものを無視したのだが、既にエージェントは周知だった。

 

(気づかれなかったよね……?)

 恐る恐る顔を出し、ツノウサギ達の様子を伺った。

 杉下先生の姿が見当たらない。

「そんな訳で最初の囚人はキミに決めた。……桜井悠くん」

 耳元で声がして、悠は、わっ、と跳び上がった。

 麻麻には目を向けておらず、彼女は鋭い目で、杉下先生を睨んでいた。

 向こうでツノウサギが翼を竦め、やれやれ、と呟いた。

「……まぁ、ウサギを追いかけるとろくな事になんねーのは、

 不思議の国のアリスで学んどけって話だ」

「殺したいわね、あなた」

 青ざめて見上げる悠の手からスマホをもぎ取ると、杉下先生はニコッと笑った。

「あり得ない力は毒になるから、近づけやしない。だから……僕の目を見て」

 屈み込んで、じっと悠の目を覗き込んだ。

 白い眼球。コーヒー色の虹彩。真っ暗な瞳孔。

 悠は魅入られたように先生の目を見つめる。

(まずいわ、電撃を……!)

「よし。じゃあ、立って。気をつけ」

 杉下先生はパチンと指を鳴らした。

 悠は弾かれるように立ち上がり、くるりと背を向け、逃げ始めた。

「……ううん、やっぱりキミ、効かないんだ。なんでだろう」

(この子は、精神が強いから。私には、分かる)

 杉下先生は不思議そうに首を捻った。

 それから地面を蹴ると、あっという間に悠の前に回り込んだ。

「でも、足はクラスで一番遅かったよね」

 悠はくるりと逆を向いて逃げようとしたが、うっ、と踏みとどまった。

「……ま、立場上な!」

 ツノウサギが行く手を塞いでいた。

 翼を広げ、二股に分かれた舌を伸ばして威嚇する。

(間に合わない!)

「……はい、タッチ。まず一人、捕まえた、と」

 立ち尽くした悠の肩にぽんと手を乗せ、杉下先生は囁きかけた。

 麻麻は完全に無視されていた。

 

「始めようよ。……ケイドロ、面白いよ?」

「だったら、私が壊してやるわ」




エージェントでも防げないものがある、とだけ言っておく会でした。
次回は悠を救出するために鬼ごっこします。
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