琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

47 / 89
ホラーの定番といえばピエロ。
ですが、エージェントはそれすら動じないそうです。


46 ピエロ鬼

 10時45分。

 

「葵! あのさ、悠、見なかった?」

 グッズショップの近くで話している女子グループの中に葵の姿を見つけて、大翔は声をかけた。

「……知りません。あたしは大翔達のお母さんじゃないんですからね」

 バスの中で無視した事を怒っているのか、葵はフンッとそっぽを向いた。

 出店で買ったチュロスをがじがじとかじりながら、ジト目で大翔を睨む。

 一緒にいた女の子達が、にやにや笑う。

「葵ちゃん、連れないよ~」

「ケンカするほど仲がいいって~?」

 葵は女の子達を見やると、はあっと溜息を吐いた。

 チュロスの包み紙をゴミ箱に捨てると、無言で大翔を引っ張っていく。

「きゃ~、ごゆっくり~!」

 女の子達の黄色い歓声が遠ざかる。

 メリーゴーランドの脇まで引っ張ってきた。

 周りに客の姿はなく、馬達がぐるぐると寂しげに回り続けている。

 女子達がついてきていないのを確認すると、葵はげっそりと疲れたように肩を落とした。

「しょっちゅうあんた達と一緒にいるからか、

 女の子トークについていけなくなっちゃったじゃない……。どうしてくれるのよ……」

「? なあ、悠見なかった?」

 何やら落ち込んでいる葵に構わず、大翔は訊いた。

 章吾達には先に回っていてもらう事にして、大翔一人で園内を探し回っていたのだ。

「あんた、気楽そうでいいわね……」

 葵が恨めしそうな顔をすると、織美亜、狼王、阿藍がやってくる。

 どうやら、超能力を使って、ここにやって来たらしい。

「あなた達もここに来たのね。悠を探しに?」

「……まあ、ね」

 と、その時、ちょうど大翔のカバンの中でメロディが響いた。

―チャラララッチャッチャッチャー♪

 ドラクエのレベルアップ音だ。

 悠と二人で同じ着メロに設定している。

「悠からのメールでしょ?」

 葵が肩を竦めた。

「音、他になんかなかったの? 子供っぽいわね」

「いいだろ、別に」

(まあ、アナタ達は子供だしね)

 大翔はカバンからケータイを取り出し、メールを開いた。

 長文の文面が、画面にずらずらと表示される。

 

『:) みんなのケイドロ ルール説明 :)』

 

「……どうしたの? 悠からだったんでしょ?」

 青くなった大翔の顔色に気づき、葵が繭を顰めた。

 ケータイを覗き込むと、ひゅっと息を呑んだ。

 

『クソガキのみんな、Welcome to FUNNY FUNNY Land(ようこそ、きみょうでいかがわしいせかいへ)!!

 遊園地でのひと時は、楽しんでくれているかい?

 この後11時から、特別イベント、ケイドロを始めるよ!

 またの名をドロケイ、助け鬼ともいう、鬼ごっこのバリエーションの一種なんだ!

 みんなは、ドロボウチームだよ! 力を合わせてケイサツチームから逃げ切ろう!

 ルール1 ドロボウは、ケイサツから逃げなければならない。

 ルール2 ケイサツは、ドロボウを捕まえなければならない。

 ルール3 ドロボウは、あり得ない力を使っても構わない。

 ルール4 捕まったドロボウは、遊園地内の“牢屋”に連行される。

 ルール5 “牢屋”のドロボウにタッチすれば、捕まったドロボウを助ける事ができる。

 ルール6 15時までケイサツから逃げ切れば、そのドロボウは勝ちとなる。

 ルール7 15時の鐘が鳴った時点で“牢屋”に捕まっていたドロボウは……(黒塗りされている)』

 

 ずらずらと並んだ文面を、二人は青ざめた顔で読み込んでいった。

 

『次は参加者の名簿だよ! 参加者は以下の15名だ! 嫌って言っても抜けられないよ!

 ケイサツチーム:4名 ダイヤ、スペード、クラブ、ハート

 ドロボウチーム:11名

 大場大翔・桜井悠・宮原葵・金谷章吾・金谷有栖・関本和也・伊藤孝司・謎の四人組』

 

 メールの送信元の欄には確かに、悠のスマホのアドレスが表示されていた。

 

『最後に、現在のドロボウの状態だよ! 捕まっちゃった奴、ザンネン賞~!

 逃走中のドロボウ:10名

 大場大翔・宮原葵・金谷章吾・金谷有栖・関本和也・伊藤孝司・謎の四人組

 拘束中のドロボウ:1名 桜井悠』

 

 メールの最後に……写真が添付されていた。

 どこかの部屋の中を撮ったものらしい。

 薄暗い中、スマホのカメラのフラッシュらしき光が、部屋を照らし出している。

 服の上に、悠の姿があった。

 両手を腰の後ろに回し、紐でぐるぐると縛りつけられている。

 悠は、ミノムシのように床に転がされていた。

 カメラの方を見上げ真っ青な顔で何か叫んでいる。

 麻麻は必死で悠を助けようとしていた。

 

―キーンコーンカーンコーン

 

 時計塔の文字盤の針が、ちょうど11時を指した。

 音が高らかに鳴り響き園内の人々に時刻を告げる。

 噴水がリズミカルに噴き上がり、ピエロ達が下手なラッパを鳴らして行進する。

 目を閉じ、大翔は一つだけ深呼吸した。

「……葵は、先生や他の子達に、協力を頼んでくれ。君達は、戦ってくれ」

 ケータイをしまって大翔が言うと、葵は青ざめた顔のまま頷き、エージェントは身構える。

「俺は章吾達と牢屋を探す。悠、閉じ込められてるんだ。助けに行かないと」

「そうだな」

 大翔は不思議と落ち着いていた。

 もう何度もこんな目に合っているから、感覚がおかしくなっているのだろうか。

 エージェントはもちろん、その逆なのだが。

「問題は、場所ね。

 園内の建物で、他の客の立ち入らないところと来れば、候補はだいぶ限られるはずよ」

 葵はマップを取り出して広げた。

「人の入るアトラクションやフードコート、お土産物屋さんは除外していいわ、

 倉庫室とか従業員スペース、アトラクションの制御室なんかを見て回るべきね。

 とすると、ここと、ここと……」

 ポシェットからペンを取り出すと、次々とマップに印をつけていく。

「大丈夫。みんなで手分けして探せば、15時までに十分、回りきれると思う」

「オレ達も、ついているからな」

 マップを受け取り、大翔は頷いた。

 

―プップーッ

 

 と、近くでラッパの音が聞こえてきて、五人は振り返った。

 彼らの脇では、がら空きのメリーゴーランドの馬達が、ぐるぐると輪を描いて回り続けている。

 その向こうから、真っ直ぐ大翔達の方へ向かってくる人影があった。

 ひょろりと補足背が高い。

 真っ白に塗りたくられた笑顔。

 真っ赤に染まった唇。

 

「アハハハハハハハハハハ……」

 ピエロだった。

 両手にぐるぐると巻いた縄を持ったピエロが、高笑いしながらこちらへ向かってくるのだ。

 園内の他のピエロ達とは違う。

 目の下に、ダイヤのマークが描かれている。

 そして、その額からは――短いツノが生えている。

「……時間がない。後で合流するぞ」

 大翔、狼王、阿藍は腰を落として構えた。

 ピエロはまるでサンタクロースのように、肩に大きな白い袋を担いでいる。

 子供一人くらい、すっぽり入れて持ち運べそうな袋だ。

「大翔、大事な確認なんだけど……いい?」

「……なんか、大体予想つくけど。何?」

「あたしはか弱い女の子。大翔は強い男の子。あの人達は女も強い。ここ、異論ある?」

「……異論はあるけど、あいつは俺が引き付ける。葵とお姉さん達はみんなに知らせて」

「オーケー」

「後でコーヒーカップの前で合流するわよ~」

 三人と二人は逆方向に走りはじめた。

 葵、織美亜、麻麻は広場の入り口へ、大翔、狼王、阿藍は奥へ。

 ピエロがどちらを追おうか、迷うように首を巡らせた。

 大翔はぐるっと回り込み、ピエロの方へ向かっていった。

「まずは葵から注意を逸らすぞ。来い!」

 ピエロは狙いを狼王に決めたようだ。

 握った縄をくるりと振ると、狼王へ向けて放り投げた。

 狼王はとっさに、横っ飛びに跳んだ。

 一瞬前までいた場所を、ビュンッと縄が横切っていく。

 狼王は集中し、超能力で斧を取り出し、大翔達と共にメリーゴーランドの隣に飛び込んだ。

 ピエロがくいっと腕を引くと、縄はシュルルッとピエロの手元に戻った。

 ポケットの中で大翔のケータイがレベルアップ音を鳴らした。

 大翔はピエロの方に注意しながらメールを開いた。

 

『ケイサツ達は一筋縄ではいかない奴らだ! 油断してるとコロッと捕まるぞ!

 そこでドロボウチームのみんなには、ケイサツチームのメンバー紹介をお届けしよう!

 役に立ててくれよな! 立てられるもんならだけど!

 ダイヤ[遠距離タイプ]:投げ縄を投げさせたら右に出る者なし。縛って捕まえる!

 スペード[近距離タイプ]:体力なら右に出る者なし。走って捕まえる!

 クラブ[潜伏タイプ]:物陰に潜ませたら右に出る者なし。隠れて捕まえる!

 ハート[知能タイプ]:嘘をつかせたら右に出る者なし。騙して捕まえる!』

 

「……?」

 大翔はケータイをしまった。

 敵は、奪った悠のスマホでメールを送ってきているのだ。

 大翔は狼王と阿藍に情報を教え、二人は頷く。

「ダイヤの弱点は、近接攻撃。スペードの弱点は、遠距離攻撃。クラブの弱点は、千里眼。

 ハートの弱点は、テレパシー」

「な、何言ってるんだよ……」

 ダイヤのピエロが歩いてくる。

 メリーゴーランドの脇を、ゆっくりと回り込んでくる。

(あんな縄で、人を捕まえられるもんか? いっそ、掴んで引きずり倒してやるか?)

(油断大敵だぞ)

 ピエロが縄を投げると大翔はとっさに頭を下げた。

 縄は大翔の頭上を逸れて白馬の首に引っかかった。

 ぐるぐる回ろうとする馬の首に食い込み、ガキガキガキキ……と嫌な音を立てる。

―バキィッ

 馬の首がもげて宙を舞った。

 大翔の足元に転がった。

(ダメだ、馬鹿力だ!)

(ふん、オレに敵うのか?)

 引っかけられたら逃れる術はない。

 狼王でもなければ、解放できない。

 大翔、狼王、阿藍は飛び出した。

 縄が宙を飛び、三人の脇を逸れた。

 三人はゴミ箱の陰に転がり込み、すぐ飛び出して、狼王がピエロを斧で切り裂く。

「ちっ! 縄を切り裂かったがな!」

「うっわあぁぁぁぁ!」

「助けてええぇぇぇ!」

 狼王が舌打ちすると、叫び声が聞こえ、和也達が駆けてきた。

 和也と孝司は必死な顔で、章吾と有栖は後ろを気にしながら、

 広場の入り口からこちらへ向けて、一直線に走ってくる。

 その後ろから追いかけてくる人影一つ。

 

「ギャハハハハハハハハ……」

 ピエロだった。

 頬にスペードマーク、背が低く太っちょ。

 足を高らかに振り上げて、猛牛のような勢いで走ってくる。

「アハハハハ、アハハハハハハ!」

「ギャハハハハ、ギャハハハハハハ!」

「消えてよ……!」

 有栖は念力を使うが、ピエロには効いていない。

「あ、大翔! 止まれ、こっちくんな! オレら、ピエロに追われてんだっ! 止まれ!」

「こっちもピエロに追われてんだ! 危ねえ! 止まれっ!」

「止まれるかああっ!」

「アーッハッハッハッハ!」

 シュンッと耳元で風を切る音がして、大翔は目を見開いた。

 その時、阿藍が前に現れて、光で目眩しした。

「子供は食べさせないぞ!」

章吾、有栖、横に跳べ!

 大翔は叫んだ。

 後から走ってきていた章吾と有栖は頷き、横に跳んだ。

 大翔は投げ縄を、ピエロの足元へ放り投げた。

 ピエロは気づいてジャンプし縄をかわそうとする。

「ふふふ」

 その鼻先へ、有栖が蹴りを繰り出した。

 飛びすさりながらの後ろ回し蹴りだ。

 動きを止めたスペードの右足を、縄が引っかけた。

 大翔はそのまま、勢いよく縄を引いた。

 ピエロの体が宙を舞いズドンと地面に倒れ込んだ。

 二匹のピエロを倒すと、全員、互いの顔を見た。

「「「「無事?」」」」

「あっちへ!」

 七人は林の中へ突っ込んだ。

 園内にはあちこちに植林がされている。

 林の中を移動すれば、縄は木が邪魔で投げにくいだろうし、

 ダッシュで追われても木々の陰に隠れてやり過ごせるはずだ。

「アハハハハハハハ」

「ギャハハハハハハハ」

 ピエロ達が高笑いしながら追ってくる。

「なんであんなテンション高ぇんだよ、うるせえ!」

「和也に言われたらおしまいだよね!」

「何よそれ! とにかく、私が引きつけるわよ!」

「「「分かった!」」」

 孝司と和也が先へ走っていく。

 大翔、章吾、有栖は太い木の陰に身を隠し構えた。

 二人のピエロの笑い声が近づいてくる。

 

「うわああっっ!」

 背後から響いた悲鳴に、大翔ははっとして振り返った。

「……そこか」

「……ウフフフフフフ……」

 猿のように木にぶら下がっているピエロと目が合った。

 クラブマーク、迷彩柄の服に、顔に同色のペイントを塗りたくり、周囲の木々と同化している。

 阿藍はすぐに見つけたようで、構える。

「光よ!」

 阿藍の光がクラブピエロに当たり、孝司が地面に落ちる。

 急いで孝司は阿藍の後ろに隠れる。

 和也が慌てて戻ってきて、そのピエロにタックルをかます。

「大翔っ! 前!」

 叫びと共に、大翔は有栖に突き飛ばされた。

 大翔の目の前をシュルルッと縄が横切っていく。

「あ――うわわっ?」

 縄は和也の体に巻きつくと、ピンと張って動きを封じた。

「おいこら放せっ! 馬じゃねーぞ!」

「か、和也っ! ぐっ」

 章吾に襟首を掴まれて、大翔は走り出そうとするのを引き戻された。

 そのまま章吾は大翔を放り茂みの陰へ飛び込んだ。

 有栖の前に、狼王と阿藍が立つ。

「ギャハハハ、ギャハハハハハ……ギャーッハハハハハハ……」

 脇をスペードのピエロが物凄い勢いで駆けていく。

 和也へ向けて、戦車のように突っ込んでいく。

 すると、斧を構えた狼王が、ピエロ目掛けて斧を振り下ろした。

 さらに、衝撃波によって、和也を縛っていた縄がバラバラになった。

 

「気をつけろよ、オレがいなかったらお前は死んでいた」

「お兄さん……」

(織美亜……麻麻……無事でいろよ……!)

 狼王は女性エージェントを心配しながら、ピエロを倒すべく、身構えた。




原作よりかなり“生存者”が増えていますが、これも私クオリティです。
次回は女性エージェントが活躍する予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。