琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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子供達が悠救出作戦を考えます。


47 牢屋探し作戦

 11時50分。

 

「なんだっていうの? みんな、もう信じられないわ!」

「落ち着いてよ、葵~」

 しばらくしてやってきた葵は、怒りに顔を真っ赤にしていた。

 織美亜は、葵を宥めようとしている。

「悠を探すのを手伝ってって、頼んで回ったんだけど……誰も協力してくれないの!」

「うーん」

 

『まあ、見かけたら連絡してあげるよ』

『わざわざ探すほどの事じゃない。それとも何か事情でもあるの?』

『ピエロの鬼? 宮原さん、勉強しすぎで疲れちゃったんじゃない?』

 

「冷たすぎじゃない? いつから桜ヶ島小は、こんなに人情のない小学校になったのよ?」

「確かにおかしいわよね。あの先生が来てから」

 葵はキレてまくしたてているのに対し、麻麻は顎に手を当てている。

 杉下先生のせいで、みんなはみんなを疑っているらしい。

「どうしたんだい?」

「あ!」

 突然、声をかけられた。

 振り向くと、杉下先生が手を振っていた。

 サマーセーターに、チノパン姿。

 軽く息を弾ませて、大翔達のもとへ駆けてくる。

「宮原さんが走り回ってるって聞いて、気になって探してたんだ!

 変な人もいたけど……。何かあったのかい?」

 顔を曇らせ、心配そうに葵を見やった。

 麻麻は眼中にないらしい。

 そして、人を安心させるいつものニッコリ笑顔で、大翔達に笑いかける。

「困った事があったなら、相談してくれよ! 何でも、相談に乗るからさ!」

 大翔達は顔を見合わせ、頷き合った。

 エージェントは何故か、気付けなかったようだ。

 葵が、手早く状況を説明する。

 

「……そ、それは大変じゃないか!」

 話を聞き終えると、杉下先生はそう言って声を震わせた。

「ぼ、僕の大事な教え子を、ピエロ達がさらっていったなんて……!

 なんて事だ……。ゆ、許せないっ! 許せないよ……!」

 腕を赤くして、ぶるぶると拳を震わせている。

 本気で生徒の事を思ってくれる素敵な先生……杉下先生は評判なのだ。

「信じてくれるの? あの人達以外、誰もあたしの言う事、信じてくれなくて……」

 葵は俯いた。

 気の強い葵とはいえ、自分の言う事を誰一人信じてくれない中で、

 声を張り上げるのはやはりキツかったのだろう。

(気の弱い悠なら、なおさらだったよな……。なのに、俺……)

 大翔はそう思って俯いた。

「先生が生徒の言う事を信じるのは当然だろう? 大事な教え子なんだから!」

(……? どうもおかしいよな……)

 杉下先生は拳を握り締め、力強く頷きかけている。

 葵が嬉しそうに笑い、有栖と章吾も頷いた。

 悠の事を考えながら……大翔は何故だか、素直に頷く気になれなかった。

 エージェントは、やはり気付けなかったようだが。

 

「さて、そう言う事なら、ここからは先生に任せてくれよ!」

 杉下先生はドンッと自分の胸を叩くと、次々と指示を下し始めた。

「まず、他のみんなに助けを求めるのはナシだ。僕らだけで探す事にしよう!」

「何故だ?」

「その方が僕の都合が……いや、捕まった悠の身の安全が最優先だからさ!

 事件で下手に周りを巻き込んで、犯人を刺激するのは良くないからね!」

「なるほど」

「そうかもな」

「いいわね」

 葵、章吾、有栖が頷いた。

 ふと、大翔の頭に疑問がよぎった。

(なんで、先生が主導権を取ってんだろう……?)

 葵、章吾、有栖は、先程まで相談して考えを出し合っていたのに、

 今は先生の言う事に頷くだけで、意見を出さない。

(そりゃ、先生がいるんだから、当然か。先生に従ってれば、間違いないんだから)

 そう思って、頭をよぎった疑問を、大翔は気にせず捨てようとした。

 エージェントは杉下先生の悪意に気付こうとしたが、やはり、できなかった。

「そして時間を節約するためには、一人一人、バラバラになって探さないとね!

 “各個撃破”だよ!」

 杉下先生は得意げにまくしたてる。

 葵、章吾、有栖は顔を見合わせ、首を捻った。

「バラバラになって牢屋を探すんだ。その方が捕まえやす……探すのが効率的だろう?

 そうだね、地図の、ここと、ここと、ここなんかいいね!

 きっと牢屋はこのどこかにあると思うんだ! よし、すぐ行動だ!」

 

 ――ブフフッ!

 

 杉下先生は堪え切れなくなったように噴き出した。

 ごめんごめん、風邪気味でさ……と、ごほごほ咳き込む。

 これにようやく、狼王が気付いたようで……。

 

「違う、お前は敵だ!」

 狼王は杉下先生に近づくと、彼を殴った。

「……ぐ……」

「何をするんだ!」

「騙されんぞ、騙されんぞ。死ね!

 狼王の斧が杉下先生を切り裂こうとした時、章吾が割って入った。

「何をする、どけ!」

「いくらなんでも、先生を殺すのはやめろ。大人でも、許さねえぞ」

「……オレは10代だがな」

 章吾に言われた狼王は、杉下先生から身を引いた。

 

 数分後。

 

「うーん……」

「バラバラにか……」

 葵、章吾、有栖は顔を見合わせて居る。

 内心、あまり賛成はしていないが、杉下先生の言う事だし、従おうか、という顔。

「章吾に有栖に葵の意見は?」

 とっさに、大翔は口を開き、三人に訊いた。

 杉下先生が、むっとした様子で眉を顰めた。

 先生の自分が指示を出しているのに、何を相談の必要があるんだ? というように。

「私は、正直……バラけて探すのは危ないと思うわ」

 促されて、まず有栖が口を開いた。

「ああ。あのピエロ達、誰かに統率されてる。凄く連係した動きしやがるんだ」

「こっちも連係して動かないと、きっとやられるわ」

「だからみんなで動くべき、っていうのが俺と有栖の意思だ」

「え、そうかなぁ……」

 杉下先生が不満そうに唇を突き出した。

「あたしも、二人と同意見です。

 バラけて探してもこの人数じゃ、残り時間で園内を探し切れません」

「効果的な作戦だとは思えないわねぇ」

 葵と織美亜が続いた。

 ええ! と杉下先生がますます眉を顰め、阿藍は頷く。

「それに探索ポイントも袋小路で、危険なところばかり。

 罠にかけられたら、簡単に捕まっちゃうわ。

 もっと確実な作戦を立てるべきだっていうのが、あたしの考え。

 ……それと、各個撃破はこの場合、使い方、間違ってます。

 それだと撃破される側になっちゃうでしょ、あたし達」

「よく言ったな、葵」

 一度考えを述べ始めると、葵は容赦ないのだ。

 阿藍も、そんな葵を褒めている。

「ええぇ? そうかなぁ? 僕の作戦に反対なの? 間違ってると思うの?」

「当たり前でしょ、アナタはアタシ達の敵だから」

 織美亜は杉下先生をはっきり敵と言った。

 エージェントは、杉下先生を殺害対象としか見ていないのだ。

 

「……イレギュラーめ」

 杉下先生の唇から、ぼそりと言葉が漏れるのが聞こえた。

「……え?」

「なんだい? 何も言っていないよ?」

 杉下先生はニコッと笑って大翔を見て、気を取り直したように続けた。

「君達の意見は分かったよ。でも、じゃあ、どうすればいいと思うんだい?

 バラけて探しても時間が足りないのに、

 まとまって探してどうやって時間内に牢屋を見つけ出す?」

「それについては、あたしに考えがあります」

 そう言って、葵は作戦内容を大翔達に話した。

 

「「囮作戦だってぇ?」」

「そうよ。

 知らない場所に辿り着くにはどうすればいいか、

 というと、知ってる人に案内してもらうのが一番って事よ」

 葵は算数の問題の解き方でも解説するように、ピンと指を立てて話している。

「ケイサツはドロボウを捕まえたら、牢屋まで連れていくわけでしょ?

 だから、あたしが囮になって、わざとピエロに捕まるの。

 連れられていく囮の後を、後のメンバーで追いかける。

 それが一番確実な、牢屋の探し方ってわけ」

「それは危険すぎない? あなた、チカラを持たない癖に」

 織美亜は首を振った。

 葵は普通の人間で、超能力を使えないからだ。

「大丈夫よ。なるべく人通りの多い場所で、抵抗せずに捕まるから。

 人の目がたくさんあって、こっちが大人しくしてれば、向こうも手荒な事はできないでしょ。

 ……それに、論理的、客観的に考えて、可愛い女の子相手には、

 鬼とはいえそうそう乱暴な事もできないんじゃないかしら」

「どこが論理的、客観的なの?」

「この人の言う通りよ。葵は分かってるでしょ?

 私達がピエロを見失ったら、あの人達がいないからそのまま捕まるのよ。自分が囮でいいの?」

「金谷さんこそ分かってるでしょ?

 追いかける役は、ピエロを見失わないように、足が速い人がなった方がいいの。

 囮役は、この中で一番足が遅いあたしがなるべき」

「……けど」

「それに、あたし、信じてるもの」

 まだ反対しようとする三人を制し、葵は大翔、章吾、有栖を見やった。

 ふふっと笑ってウインクする。

「桜ヶ島小6年1組2組のエースとそのマネージャー……。

 最強トリオが揃って追ってくれるんだから。必ず助けてくれるでしょ?」

 大翔、章吾、有栖は顔を見合わせた。

 ぐっと拳を握り締めると、三人揃って頷いた。

 エージェントも、同じくチカラを使おうとした。




チカラがある人は、チカラがない人を見下す傾向にある。
あるあるですけど、やっぱり私の悪い癖になってしまいます。
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