鬼を欺くためには、こうすればいいのか? なお話。
そうして囮作戦を開始して15分。
クラブのピエロが1匹、広場に入ってきた。
迷彩柄の服とフェイスペインティングを落とし、他のピエロ達と同じような格好をしている。
葵の背中側に回り込み、何気なさを装って忍び寄っていく。
エージェントも、気付かれないように近づく。
入り口ゲートを入ってすぐの中央広場。
その真ん中にある噴水の脇に、葵は立っていた。
広場内のどこからでもよく見える位置に、目立つように。
大翔、狼王、阿藍はベンチの陰に身を隠したまま、周りの様子を伺った。
他のピエロとの連係攻撃を食らったら……。
広場のそこここには、他の客たちの姿がある。
芝に座って昼食のお弁当を広げている桜ヶ島小の生徒。
ベンチに座って話し込んでいるカップル。
誰も葵とピエロを気にかけた様子はない。
ピエロは1匹だけのようだった。
ピエロは素早く距離を詰めると、葵の口を塞いだ。
耳元で何か囁いた。
大声を出したら仲間の命はない、とでも言ったのかもしれない。
ピエロは葵の両手を掴み上げると、懐からロープを取り出し、縛りつけようとする。
くすん、と、葵はぽろぽろ涙を零した。
「お願い、酷い事しないで……」
葵がうるんだ目でピエロを見上げると、ピエロはロープをしまった。
(あれは色仕掛けね。女スパイがよくやる手段だわ)
織美亜はじっと葵を見守っている。
葵の手を引っ張って、広場の出口の方へ歩かせ始める。
葵がちらりとこちらへ目配せした。
瞬きする間に涙を引っ込め、大翔と阿藍へ向かって頷きかける。
(任せたわよ)
大翔、狼王、阿藍は頷いた。
(……行くぜ)
大翔、狼王、阿藍は広場の向こうへ目線を送った。
それぞれ別の物陰に隠れていた章吾、有栖、杉下先生が、頷き返した。
追跡開始だ。
葵とピエロの周りに距離を取って、散る。
突然ダッシュされても、方向転換されても、引き離されたりしないようにだ。
ピエロは葵を連れて園内をぐるぐると歩いていく。
アイスクリーム屋の脇を抜け、お化け屋敷の横を通り過ぎ、観覧車の前を通過する。
……すぐに牢屋に向かう気はないようだ。
葵を連れて歩き回りながら、キョロキョロと回りを見回している。
尾行を警戒しているのかもしれない。
だがエージェントにはそんなものは効かなかった。
じりじりと時間が過ぎていき、時計の針がみるみる進んでいく。
ポツ、ポツ……と雨が降り始めた。
大翔、狼王、阿藍は空を見上げた。
―ゴーン、ゴーン
鐘が鳴り響いた。
もう13時だ。
大翔はじれてきて、このまま突っ込んでいきたくなる。
(ピエロを捕まえて牢屋の場所を言わせてやろうか)
(やめろ)
阿藍は大翔を制止する。
無理に突っ込んだらもう打つ手がなくなるからだ。
と、ピエロがくるりと方向を変えた。
ジェットコースターへ向かって歩いていく。
入場ゲートをくぐり、外階段を登り始める。
(まずい。どうする? チカラを使うか?)
ジェットコースターは、園内をぐるぐると回りながら、半周する形になっている。
乗降口は東と西の二ヶ所あって、乗り口と降り口が違っていた。
東乗車口から乗れば、西降車口で降りる事になる。
ピエロがジェットコースターで移動するなら、こちらも乗らなければ追いかけられない。
同じ車両に乗り込めば、追跡に気づかれてしまうが、後ろの車両に乗れば、
車両が降車口へ到着する時間差で、ピエロ達を見失ってしまうかもしれない。
(大翔君、西の降り口へ先回りをしてくれ。僕と章吾君と有栖君はこのまま奴を追いかける)
杉下先生が目線で伝えてきた。
大翔は頷いた。
ここは流石にバラけるしかなさそうだ。
(章吾、有栖、先生、気をつけろ)
三人に頷きかけると、大翔は西の降り口へ走り始めた。
時刻は13時5分、残り時間、2時間足らず。
次回は有栖のターンです。
杉下先生にどう立ち向かうのか、楽しみに待っていてください。