琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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その名の通りです。
鬼を欺くためには、こうすればいいのか? なお話。


48 囮作戦

 そうして囮作戦を開始して15分。

 クラブのピエロが1匹、広場に入ってきた。

 迷彩柄の服とフェイスペインティングを落とし、他のピエロ達と同じような格好をしている。

 葵の背中側に回り込み、何気なさを装って忍び寄っていく。

 エージェントも、気付かれないように近づく。

 入り口ゲートを入ってすぐの中央広場。

 その真ん中にある噴水の脇に、葵は立っていた。

 広場内のどこからでもよく見える位置に、目立つように。

 

 大翔、狼王、阿藍はベンチの陰に身を隠したまま、周りの様子を伺った。

 他のピエロとの連係攻撃を食らったら……。

 

 広場のそこここには、他の客たちの姿がある。

 芝に座って昼食のお弁当を広げている桜ヶ島小の生徒。

 ベンチに座って話し込んでいるカップル。

 誰も葵とピエロを気にかけた様子はない。

 ピエロは1匹だけのようだった。

 ピエロは素早く距離を詰めると、葵の口を塞いだ。

 耳元で何か囁いた。

 大声を出したら仲間の命はない、とでも言ったのかもしれない。

 ピエロは葵の両手を掴み上げると、懐からロープを取り出し、縛りつけようとする。

 くすん、と、葵はぽろぽろ涙を零した。

「お願い、酷い事しないで……」

 葵がうるんだ目でピエロを見上げると、ピエロはロープをしまった。

 

(あれは色仕掛けね。女スパイがよくやる手段だわ)

 織美亜はじっと葵を見守っている。

 葵の手を引っ張って、広場の出口の方へ歩かせ始める。

 葵がちらりとこちらへ目配せした。

 瞬きする間に涙を引っ込め、大翔と阿藍へ向かって頷きかける。

(任せたわよ)

 大翔、狼王、阿藍は頷いた。

(……行くぜ)

 大翔、狼王、阿藍は広場の向こうへ目線を送った。

 それぞれ別の物陰に隠れていた章吾、有栖、杉下先生が、頷き返した。

 追跡開始だ。

 

 葵とピエロの周りに距離を取って、散る。

 突然ダッシュされても、方向転換されても、引き離されたりしないようにだ。

 ピエロは葵を連れて園内をぐるぐると歩いていく。

 アイスクリーム屋の脇を抜け、お化け屋敷の横を通り過ぎ、観覧車の前を通過する。

 ……すぐに牢屋に向かう気はないようだ。

 葵を連れて歩き回りながら、キョロキョロと回りを見回している。

 尾行を警戒しているのかもしれない。

 だがエージェントにはそんなものは効かなかった。

 

 じりじりと時間が過ぎていき、時計の針がみるみる進んでいく。

 ポツ、ポツ……と雨が降り始めた。

 大翔、狼王、阿藍は空を見上げた。

 

―ゴーン、ゴーン

 

 鐘が鳴り響いた。

 もう13時だ。

 大翔はじれてきて、このまま突っ込んでいきたくなる。

(ピエロを捕まえて牢屋の場所を言わせてやろうか)

(やめろ)

 阿藍は大翔を制止する。

 無理に突っ込んだらもう打つ手がなくなるからだ。

 と、ピエロがくるりと方向を変えた。

 ジェットコースターへ向かって歩いていく。

 入場ゲートをくぐり、外階段を登り始める。

(まずい。どうする? チカラを使うか?)

 ジェットコースターは、園内をぐるぐると回りながら、半周する形になっている。

 乗降口は東と西の二ヶ所あって、乗り口と降り口が違っていた。

 東乗車口から乗れば、西降車口で降りる事になる。

 ピエロがジェットコースターで移動するなら、こちらも乗らなければ追いかけられない。

 同じ車両に乗り込めば、追跡に気づかれてしまうが、後ろの車両に乗れば、

 車両が降車口へ到着する時間差で、ピエロ達を見失ってしまうかもしれない。

(大翔君、西の降り口へ先回りをしてくれ。僕と章吾君と有栖君はこのまま奴を追いかける)

 杉下先生が目線で伝えてきた。

 大翔は頷いた。

 ここは流石にバラけるしかなさそうだ。

(章吾、有栖、先生、気をつけろ)

 三人に頷きかけると、大翔は西の降り口へ走り始めた。

 時刻は13時5分、残り時間、2時間足らず。




次回は有栖のターンです。
杉下先生にどう立ち向かうのか、楽しみに待っていてください。
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