私は、こういうキャラには必ず女の子のオリキャラを付けたくなるタイプです。
13時5分。
(……一人で大丈夫かな、あいつ)
(また、無茶しなけりゃいいけど)
走っていく大翔を見送ると、章吾と有栖は草陰から外へ出た。
油断なく周囲を警戒する。
他のピエロ達の気配はない。
ほっとすると同時に……何だか不気味だった。
さっきから園内を歩き回っていても、クラブピエロがこちらを探している気配がないのだ。
(俺達を捕まえる気はないのか? それとも……)
(何にせよ、いざとなったら、動くのよ)
ジェットコースター乗り場の前で、章吾と有栖は杉下先生と合流した。
ゲートを潜って外階段を登る。
ポツポツと降り始めた雨は、だんだん強くなってきていた。
ジェットコースターの列も、客の姿はまばらだ。
とんだ校外学習だと思った。
章吾、有栖、杉下先生は、クラブピエロと葵の後、間に何人か挟んで後ろにつけた。
ピエロがアトラクションに並んでいるのを、他の客達がちょっと変な目で見ている。
「アトラクション名『FUNNY・コースター』。
園内各所を低空飛行で突き進んでいく、迫力満点のコースター。
特徴は、螺旋状に360度回転するウルトラコークスクリュー。
不思議な世界を、どうぞお楽しみください。……だってさ」
杉下先生はポケットから園内マップを取り出し、アトラクション説明を読み上げている。
(楽しんでるヒマなんて1ミリもないわよ)
八つ当たりのように有栖は思った。
葵とピエロが車両に乗り込んだ。
係の残金確認を受け、発車する。
章吾と有栖は並んでいた人達の列を飛ばした。
「ちょっと君、順番を守りなさい!」
係員が怒って声を張り上げた。
「緊急なのよ、乗せなさい!」
「順番を守りなさい。まったく、これだから子供は」
係員はムスッと首を振って、列の後ろを示した。
はやる有栖を抑えて、杉下先生が進み出た。
「すみません、緊急なんです。乗せてください」
ぺこりと頭を下げて……係員の目をじっと覗き込んだ。
「……それは大変失礼いたしました。どうぞ、いってらっしゃいませ」
怒っていたのも一転、係員は深々と頭を下げた。
三人を車両へ案内する。
章吾と有栖は車両に乗り込み安全ベルトを閉めた。
杉下先生が乗り込むと、頭の後ろから安全バーが降りてきた。
「あれ? 他の客は?」
「ああ、三人だけにしてもらったんだ。緊急事態だからね」
(……いつの間にそんな事、頼んだんだ? 先生)
章吾は不思議に思った。
時々、杉下先生はよく分からないのだ。
いい先生、信頼できる先生……頭の中にそうインプットされているのに、
どうしてそう思うようになったのか、章吾はよく覚えていない。
有栖はますます、杉下先生に疑いを抱く。
何気なく、杉下先生の方を見た。
サマーセーターの胸元に編み込まれた、ハートマークに目がいった。
「どうしたんだい? この柄、何かおかしい?」
「まあね。あなた、あのピエロとつるんでるの?」
姉は物怖じせず、杉下先生に質問する。
「つるんでる、か。まあ、半分正解だね。君は女の子なのに、よく見るんだね」
「私は章吾の姉だもの。性別で侮るのは間違いよ」
有栖は弟が術にかかっているのを薄々ながら勘づいていた。
それを解きたいのだが、有栖のチカラはエージェントより遥かに弱い。
ライトノベル風に言うと、レベル0なのだ。
前の車両が頂上に達し、ゴウッ! と音を立てて落ちていった。
スピードを増し、ぐるんぐるんと右へ左へ揺れながら進んでいく。
と、足元のスピーカーから機械の声が流れてきた。
『スリル満点のジェットコースターいかがでしたか? ご利用ありがとうございました。
安全バーを解除します。お気をつけてお帰りください』
―ぷしゅうっ
気の抜けた音と共に、章吾と有栖の掴んでいたバーが頭上へ持ち上がり、ベルトも外れた。
「……!」
二人は目を瞬いた。
「……あれ、どうしたんだろうね?」
杉下先生は不思議そうに首を傾げた。
自分の安全バーをしっかりと抱えたまま、章吾と有栖を見やっている。
「機械の故障かなあ? その席だけ、降りるモードになっちゃってるっぽいね」
「……おおい、係の人! 止めてくれ! 機械の故障だ!」
章吾は叫んで手を上げた。
向こうの監視台に、さっきの係民がいる。
係員は章吾達を見たが、いってらっしゃいませ、と深々と頭を下げるだけだ。
「おい! 止めろよ!」
「騙されたわ……!」
「遅すぎるぞ有栖!」
車両が頂上に達した。
カクンと揺れて、一度止まる。
「さあ、振り落とされないように、注意、注意と♪」
杉下先生がウインクするのと同時に……車体がグンッと、急加速した。
レールに沿って――落下する。
「助けて!!」
章吾と有栖はとっさに体を屈めて、フロントバーを握り締めた。
体が浮き上がる。
宙に放り出されそうになるのを、バーにしがみついて堪えた。
「わーっ! 速いねぇー!」
必死に掴まる二人の横で、杉下先生は歓声を上げてバンザイをしている。
「頑張れ! 手を放したら駄目だ!」
「よくも私達を騙したわね!」
「くっそ!」
章吾は毒づき、有栖は超能力を使うが、なかなかスピードは遅くならない。
車両は底につくと、そのまま円を描いてカーブしていく。
外側に吹っ飛ばされそうになるのを、靴先を座席に引っかけて堪える。
「私達の安全ベルトをつけて!」
有栖は叫んだ。
「なんだって? 風で聞こえないよ!」
「安全ベルトをつけて!」
「ぜんっぜん! 聞こえないよー!」
(私があの人達みたいにチカラが強かったら、あっという間に打開できるのに!)
有栖は念力を使いたかったが、チカラが弱いため、できなかった。
そのため、有栖はただ、祈り続けるしかなかった。
その時……。
突然、電撃が走ったかと思うと、急ブレーキをかけて停まった。
二人の身体はふわりと浮かび上がり、ゆっくりと地面に降り立つ。
電撃を放ったのは……麻麻だった。
「何事!? どうしてここに来たの!?」
「あなたの祈りが届いたのよ。もしかしたら、あなたも私と同じじゃないかって」
麻麻も有栖も、力の強弱関係なく超能力者。
だから、お互いに通じ合って、麻麻をここに呼ぶ事ができたのだろう。
「運が悪かったね。機械の故障だってさ。……十中八九、あいつのせいだけど」
「……」
杉下先生は安全バーを上に押し上げるとのんびりと足を組んで章吾、有栖、麻麻を見下ろした。
麻麻に対する目は、殺意そのものだったが、
スマホを取り出し、はい笑って、と、三人にカメラを向けている。
「……先生、急ぐわよ」
辺りは林で、人の気配はなく、ひっそりと静まり返っている。
雨の勢いが増してきた。
ぱたぱたと顔を、服を濡らしていく。
嵐にでもなりそうだ。
(くそ、状況は悪くなる一方だ)
(とりあえず、私がピエロを倒すしかないわ)
「先生! 前の車両まで走ろう!
きっとピエロの奴、ここでコースターから降りて、こっちを撒くつもりだ!」
「このままじゃ、葵を見失うわ!」
「ええっ? それは気づかなかった! 大変だ!」
(作りね)
杉下先生は驚いた顔で答えたが、なかなか降りてこない。
「先生っ!」
「……アハハ、アハハハハハハ……」
「ギャハハハハハハハハハハハハ……」
林の間から、笑い声が聞こえてきた。
章吾と有栖は振り返って、息を呑んだ。
麻麻はとっくに身構えている。
前と後ろから姿を現したのは……ダイヤとスペードのピエロだった。
ダイヤは投げ縄を持ち、スペードは低く構えて、ニヤニヤ笑って章吾と有栖を見つめている。
「アハハハハハハ!」
「ギャッハー」
「こいつら……」
章吾は奥歯を噛み締めた。
明らかに待ち伏せで、罠だった。
すると、麻麻が二人の前に出た。
「……大丈夫よ。私が全部、倒す。あなた達は下がりなさい」
普段は明るい麻麻だが、本当はクールな女性だ。
子供を守るために、彼女は今、チカラを使おうとしているのだ。
「一人でいけるの!?」
「いけるわ。下がりなさい」
麻麻は一人で二体のピエロに挑もうとしている。
有栖は驚くが、麻麻の顔には、余裕が見えていた。
「あのピエロを倒せば、あなた達は捕まらないわ。私を信じて、電撃投……」
電撃を放とうとした麻麻だったが、
真っ先にスペード型ピエロに狙われ、電撃を放つ暇なく攻撃される。
やはり、一人で戦うのは、無謀だったのだ。
「ぐっ……ピエロの癖に……!」
撤退しようとした麻麻の目の前に、衝撃的な光景が広がる。
章吾の目の前に、杉下先生は立っていた。
ニコニコの笑顔。
その手に、真っ黒な箱のようなものを持っている。
さっと手を伸ばし小箱の先端を章吾の腹に当てた。
「……はい、タッチ」
「章吾……!」
「ダメだったわね……!」
―バチバチバチバチッ
章吾は目を見開いた。
視界が一面真っ白に染まった。
ガクガクと全身が震え、地面の感覚がなくなった。
体が軽くなった。
……気づけば、地面の上にへたり込んでいた。
有栖と麻麻は、その隙にテレポートで、撤退した。
「う……有、栖……」
杉下先生はウインクする。
ぐったりした章吾の手足を、縄で結び始めた。
章吾は力なく、腕と足をもがかせる。
「無駄な抵抗はやめな、上手く結べないじゃないか。先生、あまり器用な方じゃないし。
……ほら、雨も強くなってきたし」
ざあざあと降ってきた雨が、体を打ちつける。
もがく章吾の手足を押さえつけ、杉下先生は縄を結ぶ。
何度も外れたが、ようやくぐるぐると縛り上げた。
林の間から、葵の腕を引っ張って、クラブのピエロがやってきた。
葵は杉下先生と、捕まった章吾を見て、ひゅっと息を呑んだ。
「嘘をつかせたら右に出る者なし。騙して捕まえるハートのピエロとは、先生の事でした♪」
杉下先生はニコニコと笑った。
「さあ、牢屋へ!」
二人を袋の中に押し込むと、ピエロ達に持たせて歩き始める。
降りしきる雨の中、杉下先生は楽しそうに口笛を吹いた。
茂みの中では、有栖が泣きそうになっていた。
「……弟を守りたかったのに、なんでこんな事になったのよ……!」
「流石の私でも、一人で二体に挑むのは無謀だったみたい」
麻麻の超能力は強力だが、狼王や阿藍と違って体力はない。
体力があるピエロに挑まれては、麻麻は撤退せざるを得なかった。
超能力者も万能ではない。
麻麻はこの状況を、痛いほど思い知った。
(雨が降っている……これなら、私の電撃も広範囲に及ぶかもしれない。
けれど、みんなも巻き込む可能性がある。やめた方がよさそうね……)
次回はケイドロ終盤戦。
子供達は鬼に反撃できるでしょうか。