琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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ケイドロも終盤となります。
大翔達とエージェントは、杉下先生を倒す事ができるでしょうか?


50 終盤戦

 14時。

 

―ゴーン、ゴーン……

 響き渡る鐘の音に、壁や天井にびりびりと震えが走っていく。

「途中経過発表。逃走中のドロボウ:8名 拘束中のドロボウ:3名

 何か書いといた方がいい事はあるかな? どう? みんな」

「今のところこっちが優勢。あの人達のおかげだね」

「しかし、スマホって便利なんだねえ。先生、初めて使ったよ」

 杉下先生は全く気にしない。

 埃っぽい部屋の中。

 悠から奪ったスマホの画面に盛んに指を滑らせながら、ぺらぺらと一人、喋り続けている。

「外、すっかりどしゃ降りになっちゃったねぇ……」

 杉下先生は、部屋に作り付けの椅子に、足を組んで座り込んでいた。

 傍らではピエロの一匹が、ドライヤーで先生の髪を乾かしている。

 熱風で髪を揺らしながら、杉下先生はニコニコと足元に笑いかけた。

「先生、雨、嫌いなんだよね。生乾きの服とか着てると最低の気分になるんだ。みんなはどう?」

 哀れっぽく泣き真似をしながら、床を見下ろす。

 捕まった三人は、手足をぐるぐるに縛られて、床にうつぶせに並べられていた。

 全員、顔を上げ、杉下先生を睨みつけている。

「……畜生。こんな奴に騙されるなんてな。俺とした事が迂闊だったぜ……。

 有栖、無事だといいんだがな……」

 章吾が悔しそうに呻いた。

「何かおかしいと思ってたのよ。

 傷ついてる女の子に優しくしてくる男には気をつけなさいってお母さんに言われてたのに……」

 葵が不満そうに唇を尖らせた。

「ふふっ、みんな、ありがとう! 先生、負け犬の遠吠えって、大好きです!」

 杉下先生はニッコリ笑って、スマホのカメラを子供達に向けた。

「さあみんな、怖い顔せずに笑って!」

「騙されんじゃねえぞっ!」

「杉下先生は鬼だ! 言う事聞いちゃ駄目だ!」

「助けて! 牢屋の場所は……」

「はい、チーズ、カシャッ と。……うん、みんなとてもいい顔に撮れたよ。

 必死に助けを求める哀れな感じ……先生、とてもいいと思います! 送信、っと」

 メールの送信を完了させると、杉下先生はスマホをポケットにしまった。

 さて、と立ち上がると、パチンと指を鳴らした。

「……じゃあ、そろそろみんな、スタンバイしておこうか」

 脇に控えていた三匹のピエロ達が、スイッチが入ったように素早く動いた。

 子供達をひょいと両肩に抱え上げる。

 みんな喚いたが、虚しく声が響くだけだ。

 杉下先生を先頭に、部屋を出た。

 部屋の外も薄暗かった。

 殺風景なレンガ造りの建物の底。

「ふふ。遊園地で一番目立つ建物を牢屋にするなんて、先生、シャレてるだろ?」

 杉下先生は満足そうに笑って、建物を見回した。

 遥か頭上で、大きな歯車が回っている。

 鉄柵つきの階段が、円を描いてぐるりと上まで伸びている。

 ここは、『FUNNY LAND』のシンボル、時計塔の中なのだ。

「ケイドロの牢屋をどこにするか……色々考えたんだけど、

 まさか遊園地のど真ん中にあるなんて、みんな思わないじゃない?

 人間、目立つところほど案外目につかない。そういうの、いいなって思ってここに決めました」

「灯台下暗し……ってわけね」

 葵が悔しそうに呻いた。

「それにね。

 すぐ目の前に牢屋があるのに、気づかずにみんな焦ってる……そういう子供達の顔を見てるの、

 先生、大好きなんで……?」

 杉下先生は誰かの気配に気づいたが、そこには誰もいなかった。

 それもそのはず、麻麻がテレパシーを使っているからだ。

 

「……灯台下暗しは、あなたも同じ」

 良い鬼は死んだ鬼のみ、それがエージェントのモットーだ。

 

 先生を先頭に、ピエロ達は一段一段、渦を巻く階段を登っていった。

 壁のところどころに、文字やイラストが描かれている。

 古くなって剥げかけたペンキの跡。

『待ち時間60分地点』

『引き返す人はこちらから←』

『(お客様への注意事項)心臓の弱いお客様は、ご利用をご遠慮ください』

「元々はここもアトラクションの一つだったんだよ」

 恐々と壁を見つめる子供達に、杉下先生はニコニコと笑いかけた。

「昔は凄く人気があったらしいんだけど、今は封鎖されてしまってね。

 入り口の扉にカギをかけて、誰も入れないようになってるんだ」

「アトラクション……?」

 壁にはマスコットキャラのピエロが描かれている。

 階段を登っていくのにつれて、コマ送りの漫画のようにピエロが走った。

 ピエロは息せききって階段を駆け上がり、遥か塔の頂上に登りつく。

 足をぐるぐるロープで結ぶと、真っ逆様に飛び降りる……。

「『バンジージャンプ』って、知らないかなぁ?」

 杉下先生は壁のイラストを指で示しながら続けた。

「足首を長いゴムで結んで、崖やビルの屋上からジャンプする遊び。

 スリルがぞくぞくしてたまらないって、一時期とても流行ったんだよ。

 この時計塔型のバンジーは、当時作られたアトラクションでね。

 みんな喜んで登っては、頂上から真っ逆さまに落下していった」

 子供達は青い顔で呻いた。

 葵が代表して呟いた。

「……みんな、バカだったんじゃないの」

 

 階段を登り切ると今度は短いハシゴが伸びていた。

 ハシゴを登るとぽっかりと拾い部屋になっていた。

 がらんとした空間。

 中央にたくさんの歯車とパイプ。

「あそこがジャンプ場所だったんだ」

 杉下先生は部屋の隅を指差した。

 四角く張り出した、狭いスペースがあった。

 床に黄色い線が引かれ、ぐるりを金網で仕切られている。

 金網の一ヶ所が、扉になっていた。

 取っ手には鎖が巻かれ、『関係者以外立入禁止』と書かれた札が取り付けられている。

「安全上の理由から、勝手に人が立ち入らないような造りになっているんだけど……

 何だか本物の牢屋っぽくて雰囲気出るよね」

 杉下先生は口笛を吹いて、金網を指した。

「床もね。事故が起きないように、係員の操作で開閉するようになってるんだ」

 張り出したスペースと反対側の壁に、操作ボックスがつけられていた。

 杉下先生が手をかけると、かかっていた鍵が弾け飛ぶ。

 中には、黒のレバーと白のレバーが一本ずつ。

 それから緑色のランプが一つ。

「白のレバーは安全装置。係員が解除するまで、床の開閉をロックするんだ。

 お客さんが勝手にいじったら危ないからね。そして、黒のレバーが……」

 杉下先生は黒のレバーを握ると、ぐいっと下へ引いた。

―ガシャンッ

 箱の底が抜けるように、張り出したスペースの床が音を立てて開いた。

―ビュウウッ!

 吹き上げてきた外からの風が、青くなった子供達の髪を巻き上げていく。

「地面へ向かって、レッツ・バンジー! ってわけ。

 ……どうだい? バンジージャンプ。スリル満点で面白そうだろう?」

 子供達はぶんぶんと首を振る。

「ははは、遠慮しないでみんな楽しんで。

 しかも今回は特別に、余計なゴムやハーネスをつけないで楽しめるよ。

 うん、ただの落下だね、やったね。――さあ、みんな並ぼう!」

 レバーを上げて床を閉めると、杉下先生はパチンと指を鳴らした。

 ピエロ達が金網の扉の鎖を外し、錠前を壊した。

 埃のたまった開閉口に、子供達を順番に押し込む。

 全員入れると扉を閉めて、ピシリと三方を向いて直立した。

「先生ね。常に真剣に子供と向き合うのが、教育者の務めだと思ってます。

 ゲームだって、子供の遊びだとバカにしない。真剣にやる。

 なので、ルール通りほんとに処刑します。

 みんなも、遊びだからと気を抜かず、真剣に死を覚悟してください。いいですね?」

 葵は顔色をなくして黙り込んでいる。

 章吾はピエロ達の陰に移動し、背中に回した手を注意深くごそごそと動かした。

 杉下先生は、スマホのカメラで、カシャカシャと子供達を撮っている。

「大切な生徒達との思い出の記念撮影。感動です。先生、皆さんの事、しばらくは忘れません」

 腕を伸ばして自撮りをしつつ、カシャカシャと子供達を写真に収める。

「せっかくだからツイッターとかYouTubeに投稿しちゃおうかなぁ。

 桜井君、アプリはやってます?

 先生のアカウントで上げると、ほら、炎上しちゃうんで……桜井君?」

 ふと気づいたように、悠を見やった。

 不思議そうに首を傾げた。

「どうしたんですか? 桜井君。そういえば、さっきから、ずっと黙ってますが」

「……調子に乗ってられるのも今のうちだよ」

 悠はようやく口を開いた。

 泣かず、焦りもせず、じっと杉下先生を睨みつけたまま、はっきりした声で主張する。

「ドロボウは、有り得ない力を使ってもいいんだね」

「ん」

「……今から君は、倒されるんだ。あの人達は、強いから。そして、ヒロトもじきにやってくる」

「……」

「僕、アオイや金谷さんみたいに頭が良くないしさ。金谷君みたいに運動もできないしさ。

 関本君や伊藤君みたいに度胸もないしさ。あの人達みたいに不思議な力も使えないしさ。

 ……みんな凄いのに、僕は弱虫で……。

 なのにどうしてヒロトは僕と一緒にいてくれるのかなって……考えちゃって……」

 ぽつぽつ喋る悠の瞼から、ぽろっと涙がこぼれ落ちた。

「前からたまに、思ってたんだ。

 ヒロトは、みんなは、僕の事……本当は仲間だなんて、思ってないんじゃないのかなって……。

 と、友達だって思ってるの、僕だけなんじゃ、ないのかなって……」

 ぐすぐすと鼻をすすりあげながら話す。

 二人は泣くのも騒ぐのもやめて、黙って耳を傾けている。

「……だから、ツノウサギを見つけた時、みんなを呼ばずに追いかけたんだ。

 ……ひ、一人で捕まえたら、みんな、僕の事、

 と、友達だって、認めてくれるんじゃないかと思って……。

 でも、それで、また、みんなに迷惑かけて……」

 ぐすっぐすっと鼻水を垂らして、噛み締めるように悠は呟いた。

「僕……バカだ……」

 葵が、考え込むように、うーむと唸った。

「まあ、それは確かに……バカというしかないわね」

「……え?」

「バカ・オブ・バカだよな」

 皆、口々に言って頷いた。

「うう、同意しちゃうの?」

 さらに顔を歪めて、えぐえぐと泣きそうになる。

 杉下先生は、かなりイライラしていた。

 次の瞬間、四人が目の前に姿を現した。

 

処刑するというなら、せめて火炙りにしろ!




悠はこういう時にこそ「男」を見せるんですよね、あの二尾の子狐のように。

次回は杉下先生との直接対決です。
激しいバトルとなる事は間違いないでしょう。
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