琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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金谷姉弟のターンです。
姉より強い弟はいない、と言っておきましょう。


54 対決! 水鬼

 先生達が体育館を出ていくと、金谷章吾と姉・有栖は、隠れていた緞帳の陰から外へ出た。

 気配を殺し、超能力を使いながら、後を追う。

 外に出ると、さっきまでの静かな空気は跡形もなかった。

 校庭に散った生徒達の足音が、夜の桜ヶ島小に響き渡っている。

『黒鬼様ニ逆ラウ子供ニ罰ヲ!

 大場大翔、桜井悠、宮原葵、金谷章吾、金谷有栖……コイツラヲ引キズリダセ!』

 校内のスピーカーから繰り返し響く声が、生徒達を煽り立てている。

「絶対ニ学校カラ外ヘ出スナ!」

「草ノ根分ケテデモ見ツケダセ!」

 走り回る生徒達の声。

 上空から差し込んできた光を、章吾はとっさに身を伏せ、有栖は気配遮断の超能力で逃れた。

 見上げると、校舎の上から幾筋もの懐中電灯の光が、

 サーチライトのように地上を照らし出し、子供がいないか探している。

 校外への脱出ルートは厳重に封鎖されていた。

 敷地をぐるりと囲むフェンスには、一定間隔置きに見張りの生徒が立ち、子供を警戒している。

 校門は閉じられ、南京錠をかけられていた。

 脇には校長先生が立って、外部の人間が不信に思わないように対応している。

「はー。超能力が強かったら、みんな吹き飛ばせるのにねー」

「有栖……やめてくれ」

 無能力者の有栖は愚痴を吐いていた。

 子供が勝つか鬼が勝つまで、ゲームは終わらない。

 宣戦布告の通り、術を解かない限り、外への脱出は不可能だ。

「まずは、あいつらをなんとか助けねえと……」

 連れ立って歩いていく先生達。

 取り囲まれるように連れられていく、和也と孝司。

 見つからないように注意深く後を尾けながら、章吾は深く溜息を吐いた。

「……やっぱり、トランプやってる場合じゃなかったじゃねぇか……」

「……そうね……」

 

 章吾が異変に気づいたのは、バスが学校に帰り着き、エンジンを止めた時だった。

 トランプを置いてふと車内を見回した時には、もう遅かった。

 光のない目をした生徒達が、一斉に襲い掛かってきた。

 章吾は姉の超能力の助けもあり、窓から外へ転がり出て逃れた。

 和也と孝司は間に合わなかった。

 集合していく生徒達の後を尾け、体育館に忍び込み、様子を伺っていたのだ。

 後から入ってきた大翔達が追い詰められるのを見て、とっさに電気を消したというわけだった。

 宮原葵と、琉球エージェントまで体育館に潜んでいたとは、気づいていなかったが。

 

(あの子達なら、無事に逃げたでしょうね)

 先生達の後を尾けながら有栖は彼らを信じていた。

(さて、どうしようかしら……能力、使ってみる?)

 取り囲まれて歩く、和也と孝司。

 二人は囚人のように、後ろ手に縄跳びで縛られている。

 腕を俯かせ、表情は見えない。

 先生達のガードが引っかかる。

 四方から和也達を囲み、周囲の気配を伺っている。

(これは、やっぱり……)

 

『マモナク、処刑ヲ開始シマス』

 先生達が声を張り上げた。

 辺りへ向かって、大声で呼びかける。

『捕マッタ子供達、関本和也、伊藤孝司ノ処刑ヲ、盛大ニ行イタイト思イマス。

 興味ノアル方ハ、プールサイドマデ、オ集マリクダサイ』

 のろのろとプールの方へ歩いていく。

 校庭の生徒達は気にした様子もなく、見張りと探索を続けている。

(……まあ、完全に罠よねえ……。

 生徒達に聞かせるふりをして、隠れてる私達に聞かせたいのがバレバレよ)

(バーカ。そんな見え見えの罠に、引っかかるかっつーの)

 黒鬼のトラップには遊園地で散々手こずらされた。

 そう何度も引っかかってたまるか、と双子は思っていた。

 

 章吾と有栖はプールの裏へ回り込んだ。

 暗がりの林を駆け抜けると、プールを囲むフェンスに足をかけて登った。

 こっちは死角になっていて、見つかりにくいのだ。

 双子は中を見下ろす。

 プールサイドでは、子供達がずらりと気をつけをして並んでいた。

 人数は20以上で、同じクラスの顔もちらほらある。

 見ながら双子は分析した。

 やりあって勝ち目があるかどうか。

(……流石に、厳しいかもな……)

(せめて、超能力が強ければいいけどねえ……)

 双子は唸った。

 人数が多すぎて、この数を相手に一般人と無能力者は流石に厳しい。

 更衣室を抜けて先生達がプールサイドに出てきた。

 後ろに連れられた和也と孝司は、相変わらず項垂れている。

 ぐったりとした様子で顔を伏せ、されるがままだ。

(何だか、あいつららしくねぇな……)

 ついさっきまで……体育館に引っ立てられてきた時までは、

 いつも通り、ぎゃあぎゃあと五月蠅く暴れ回っていたのに。

 有栖は何か、引っかかるものを感じた。

 

『ソレデハ処刑ヲ開始シマス』

 先生が言った。

『関本ト伊藤ニハ、コノ地獄プールニ飛ビ込ンデモラウ』

 別の先生が言った。

『プールニハ、今、水鬼様ニ来テイタダイテイル』

『トテモキレイデ美シイ姿デ、“天使”トカ、“妖精”トカ、言ワレテイルソウヨ』

『鬼ナノニ』

『ミンナ、呼ンデミマショウ。水鬼様!』

 先生達が、プールに向かって呼びかける。

 何も答えない。

 章吾は目を凝らしたが、プールの中に何かいるようには見えない。

 有栖の顔は、何故か青くなっていた。

「……有栖?」

「……いる……。何かを食べるのが、いる……」

 いつも強気な有栖が、ぶるぶると震えている。

 明らかに様子がおかしい有栖に章吾は首を傾げた。

 

『オカシイナ……。マアイイ。関本、伊藤、ソコへ並ベ』

『10数エタラ、プールニ飛ビコメ』

『セイゼイ、ガンバッテ泳ゲ。数分クライナラ、長生キデキルダロウ。ケケッ』

 先生達が和也と孝司を引っ立てる。

 二人はされるがまま、スタート台に登らされる。

 後ろ手に縛られたまま落とされたりしたら、いくら小学校のプールとはいえ、

 溺れてしまう……特に孝司はカナヅチなのだ。

『10、9、8、7……』

「……はあ……」

 有栖は溜息をついた。

 罠なのは分かっていても、敵の数も多すぎる。

 冷静に考えて、飛び出すべきではなかった。

 念力を使えば、引き寄せはできるが、有栖の超能力では1mくらいが関の山だ。

 

「やるしかないわよ」

「……もうぜってぇ、お前らとトランプなんかしねぇからな……!」

 それでも、有栖に促されて、章吾は動いた。

 一息にフェンスを乗り越えると、プールサイドへ飛び降りた。

 高さをものともせずに着地しそのまま床を蹴った。

 有栖は念力を使い、着地の衝撃をある程度抑えた。

 先手必勝、先生達が振り返りその懐に飛び込んだ。

 機を掴み、ぐるっとプールへ投げ飛ばす。

 有栖も念力で先生を気絶させた。

 先生は飛沫を立ててプールに落ちた。

 もう一人、さらに一人、水の中へ投げ飛ばす。

「来るなら来なさい、私達が相手よ!」

 近づいてこようとしていた生徒達は、有栖が章吾を盾のように守ると目に見えて怯んだ。

 操られていても、元の性格や記憶が少しは残っているらしい。

 金谷姉弟に挑戦しようだなんて、身の程知らずはそうはいない。

 生徒達が怯んだ隙に、二人は和也と孝司に駆け寄った。

「おい、逃げるぞっ……」

「待って!」

 二人の肩に手をかけようとすると、有栖が止める。

 彼女の予測通りだった。

『……ドコヘ』

『逃ゲルッテイウノ?』

 顔を上げた和也と孝司の目を見た瞬間、章吾は自分で自分を殴りたくなった。

「……やっぱり」

 きっと、章吾が体育館の電気を消した時だ。

 黒鬼は暗闇の中で既に、和也達に術をかけていたのだ。

 二人の手を縛っていた縄跳びが外れた。

 章吾と有栖を捕らえようと腕を伸ばしてくる。

 周りには、ずらりと他の生徒達。

「やめて!」

 章吾はとっさにプールサイドを蹴り、有栖は念力を使い、宙に浮く。

 大きく息を吸い込みながら、真っ暗な水の中へ頭から飛び込んだ。

―バッシャアアアアンッ

 章吾の全身が冷たい水に包まれた。

 耳の中に水が入り込み、プールサイドのざわめきが遠くなる。

 目を開くと、薄暗い世界が広がっていた。

 すぐさま、章吾は向こうのサイドへ向けて泳ぎ始め、有栖は浮遊し続けた。

 だが、なかなか向こうに辿り着かない。

 いつもなら、25mくらい十数秒で泳げるのに。

 章吾は辺りを見回した。

―ぷくうううう

 まるきり風船のような。

 拳大、ボール大、さらにみるみる膨れ上がって、章吾と有栖よりずっと大きくなる。

(『妖精』とか『天使』とか呼ばれるクリオネですが、エサを食べる時は怖いんですよ~)

 楽しそうに喋るテレビのナレーターの解説が、頭に蘇った。

(獲物を見つけると、まず頭がパカッと割れるんです。怖いでしょ~。

 頭の中に触手があって、それを突き出して獲物を捕まえる。

 死ぬまでじわじわ養分を吸い取る。触手の名は……バッカルコーン)

―パカッ

 巨大クリオネ……水鬼の頭部が、薬玉のようにパカリと割れた。

 中から6本、触手が伸びた。

 鋭い槍にしか見えなかった。

 ドリルのように全身をグルグルと回す。

 バッカルコーンを突き出しながら、水鬼が水中を飛びかかってくる。

(名前の響きがいいでしょ。バッカルコーン!)

(うるせえ!)

 章吾は強く水を蹴った。

 間一髪、水鬼の突撃をかわした。

 慌てて動いた拍子に、酸素を失う。

 水鬼は水中を突き進んでいく。

 急な方向転換はできないらしい。

 大きく弧を描いて、Uターン。

 

(ごめん、章吾、私は助けられないわ。無能力者だから……)

 せめて超能力が強ければいいのに、と有栖は思っていた。

 

 章吾は【EXIT】の方へ、一直線に泳いだ。

 二度、水鬼の突撃をかわし、そのたび息が苦しくなる。

 何とか端まで辿り着いた。

 プールの壁面で、緑色の非常灯が明かりを灯している。

 だが、肝心の出口が見当たらない。

(どこだ……? 出口……!)

 章吾は焦って、まわりの壁を探した。

 EXIT、どこかに出口があるはずだが、見つからない。

 ふと、【EXIT】のランプの脇に、小さく文字が書かれているのを見つけた。

『EXIT 意味1:出口、出ていく事』

 隣に書いてあった。

『意味2:死ぬ事☆』

 

 がぼっ……。

 ついに息がもたなくなり、章吾は水を飲み込んだ。

 大量に水を飲み込みながら意識が遠くなってくる。

 体から力が抜けていく。

 水鬼が突進してくるのが見える。

 

(まぁ……仕方ねえか……)

 章吾はそれを、受け入れようとした、その時。

 

章吾!!

有栖!?

 どぼん、と飛び込んだのは、有栖だった。

 弟の無様な姿を見て耐えられなくなった有栖は、自分の命を省みず、弟を助けに来たのだ。

 何故自分を助けたのか分からず、章吾は困惑した。

「章吾、私が来たのが意外って思ってるでしょ?」

「……」

「あの人達は超能力は強いけど、私に力は全然ない。

 けれど、章吾を助けたいという思いはあるの。力で戦えなくても、心で戦うの。

 私は……絶対に、章吾を守るんだから!

 有栖は章吾を抱えながら必死にプールを走り出す。

 水鬼は速いが、有栖の超能力により、少しだけだが有利になっている。

 身体は水に沈み続けるが、有栖の精神力が必死に耐えていた。

「もうひと踏ん張りよ、章吾。せいやあっ!」

 有栖は大きくジャンプして、プールを思い切り飛び越え、非常灯の前に着いた。

 そして、章吾の肺に溜まった水を念力で取り出し、服が乾くまで超能力で守り続ける。

「……大丈夫だった?」

「有栖……」

「……章吾、あなたは本当に馬鹿だわ。こんなになるまで無茶するなんて。

 こうしないといけないくらい、迷惑をかけて。……あの人達が来れば、いいんだけど」

 章吾を乾かしている間際、有栖の中で、鬼に対する怒りがふつふつと湧き出ていた。

 弟をこんな目に遭わせるなんて、誰であっても許せないのだから。




私は大切な男の子のために戦う強い女の子に萌えます。
日本でウケないのはどうしてでしょうか?
やはり男女平等と言えど実際は男尊女卑だからでしょうかね?
次回は杉下先生が登場します。
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