琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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実はとっくに全部書き終わりました(ぇ
5巻編はこれで終了となります。
児童書でもこれくらい激しいバトルが欲しいですネ。


57 超能力者

『黒鬼様!』

『問題ガ発生シマシタ!』

 関本和也と伊藤孝司が階段を駆け登って来た時、

 黒鬼は、上機嫌で大翔達の燻り出しを眺めているところだった。

 姿は人間のものに戻っている。

 皆に好かれる杉下先生のニコニコ笑顔で、出てくるのを待っている。

「なんだよ、騒がしいな。今、いいところなのに」

『申し訳アリマセン!』

『デスガ、至急ノゴ報告ヲト!』

 関本と伊藤は、黒鬼の足元に跪いた。

 どんよりと光のない目。

 最早黒鬼の忠実な下僕だ。

「何?」

『超能力者ガ暴レテオリマス!』

『校長ガ抑エテイマスガ、騒ギガ収マリマセン!』

「……なんだ、超能力者か。……超能力者?」

 黒鬼は眉を顰めた。

 目を閉じ、そっと耳を澄ませた。

 黒鬼の聴覚は人間のものよりも遥かに優れている。

 すぐに校門前の騒ぎをキャッチした。

 

―悪いが、親御さんの代わりでな。

―デモ、帰リノ会ノ最中デスノデ……。誰モ入レルナト、言ワレテマスノデ……。

―問答無用、超能力者に不可能はない。

 

 超能力者が、校長と押し問答をしているようだ。

「……やれやれ。校長の手には負えなそうだね」

 黒鬼は大袈裟に肩を竦めると生徒達に笑いかけた。

「ちょっと鎮めてくる。すぐ戻るよ。燻り出しを続けておいて」

 生徒達は廊下に片膝をつき、イッテラッシャイマセ! と頭を垂れた。

 黒鬼は満足そうに頷いた。

 関本と伊藤を連れて、校門へ向かう。

「彼らは一体、何を怒っているんだい?」

 階段を降りながら、黒鬼は首を傾げた。

「どこから、来たんだろうね。まったく、人間の文化は……」

 人間の、特に子供に関わる文化について、黒鬼は書物を通して学んだ。

 先生になりすますのに必要だったからだが、どうでもいい事ばかりだった。

 中でも黒鬼が理解できないと思うのは、ある本に書いてあった「超能力」という概念だった。

 超能力者は類稀なる力を有し鬼をも上回るという。

 黒鬼には理解不能だった。

(まぁ、どうでもいいけどね)

 黒鬼はニコニコと笑顔を作った。

 人間の文化なんて理解できなくても不都合はない。

 この笑顔と口先さえあれば、どんな人間であっても上手に操る事ができる。

 所詮、全ては黒鬼の掌の上。

 人間が大事にする事は、取るに足らない事だった。

 

「親達に言われてここに来たが……」

 校門の前には、琉球から来た超能力者、結城(ゆうき)(ぼん)が来ていた。

 司令官はテレパシーで、梵に指令を出している。

 校長が虚ろな、だが困り果てたような目つきで、黒鬼を見やっている。

「大変すみません!」

 黒鬼は、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、門の前へと進み出た。

 集まった観衆を前に舞台に登る、アイドルのような気分だった。

 ニコニコと笑う黒鬼を、梵は黙ったままじっと見つめている。

「子供達は今、帰りの会で鬼ごっこの最中です。校外学習後の、学校行事なんですよ~。

 どうか心配せず、お待ちください!」

 黒鬼は、ドン、と自分の胸を叩いた。

 彼には自信があった。

 先生として小学校に入り込んだこの数ヶ月間、

 彼が好感を持たれなかった事なんて一度もなかったからだ。

 子供からも親からも。

 ちょっと甘いマスクに変身してやれば、面白いほど簡単に黒鬼に心酔する……。

 

「……と思っていたのか?」

 梵が、パチンと指を鳴らすと、子供達の目に、光が戻った。

「何!?」

 黒鬼は狼狽えるが、梵の能力を知らないためだ。

 梵の能力「正気」は、精神を正常に戻す力なのだ。

 それは、黒鬼に対しても、例外ではない。

 梵は校長から南京錠の鍵を取ると、鍵を外し、大急ぎで小学校に向かった。

 

「止まった……?」

 鬼達の動きが、止まった。

 煙はまだ充満しているがもうすぐ脱出できそうだ。

 

 子供達は次々に走り始め、階段を駆け降りていく。

 誰かが声を上げ、みんな叫び始めた。

 校舎は子供達の歓声に包まれた。

 昇降口に飛び込んだ黒鬼は、歓声を上げながら駆けてくる子供達を見て、呆然と立ち尽くした。

 全員、術が解けている。

「おい! 待てっ! 何してる! 大場達はどうしたっ!

 持ち場を離れろなんて命令、していないぞ! 戻れっ! 外に出るんじゃないっ!」

 慌てて叫ぶが、子供達は聞く耳を持たない。

 サバンナを移動する獣の群れのように、黒鬼の脇を掠めて走っていく。

 その勢いに黒鬼も手を出せない。

 子供の一人が、ちらっと黒鬼の方を見て、べえっ、と舌を出し、逃げていった。

 その目には、光が灯っていた。

 

(何故だ……?)

 黒鬼は、訳が分からなかった。

 

「……くそおっ! 不愉快だ! 犯人は誰だ!」

 黒鬼は早足で急いだ。

 東棟廊下を駆け抜けると、放送室のドアを叩き開けた。

 狭い放送室の中、ミキサー卓の前にちょこんと座り込んでいたのは、

 ツノウサギと一人の青年だった。

「……何してるんだ、お前は……。しかも、人間を連れて……」

 黒鬼は、ジロリとツノウサギと青年を睨みつけた。

 その目は怒りに血走っている。

「……べっつにい?」

「No.0の緊急だ」

 ツノウサギはひょいと翼をすくめ、青年は答える。

「こいつが、親代わりなんだよ。キャキャキャッ」

「何を言っている?」

 黒鬼は訳が分からないと首を振って、苛立たしげにツノウサギを睨みつけた。

「やれやれ。強い奴って、自分の事は、てんで分かってなかったりするんだよなぁ」

 ツノウサギはくりくりとしたつぶらな瞳で、二股の舌を垂らしてちろちろと笑った。

「覚えとけよう? 『約束は守りましょう』。

 小学生でも分かる事、できない奴は身を滅ぼすぜぇ? キャキャキャッ。では、アデュ~」

 ツノウサギはバッと翼を広げると、開いた窓から外へ飛び去っていく。

 

「仲間割れ」

「クッ……おい、待てっ!」

 黒鬼は窓へ駆け寄った。

 と、背後から足音が黒鬼の耳に飛び込んできた。

 黒鬼は放送室を飛び出した。

 

 大翔達が、階段を駆け降りてきたところだった。

 大場、桜井、宮原、金谷姉弟、琉球エージェント。

 黒鬼を見下ろし、息を呑んでいる。

 九人を見上げ、黒鬼は笑みを浮かべた。

 まだゲームは終わっていない。

 1VS9の鬼ごっこになっただけだ。

 黒鬼の体から、シュウシュウと煙が上がっていく。

「「逃げろっ!」」

 大翔と章吾が同時に叫んだ。

 階段を一気に飛び降りてくると、黒鬼へ飛びかかってきた。

 黒鬼は二人のタックルを食らって、廊下の壁際へ押さえ込まれた。

「これ以上、悪ささせねえぞ……!」

「学校を滅茶苦茶にされると、困るんだよ……っ!」

 二人は歯を食いしばり、黒鬼の手足を押さえつけてくる。

 なかなかの力で、人間の体では、とても対抗できない。

 黒鬼の体から、シュウシュウと煙が上がっていく。

 ニコニコと笑みを浮かべて、二人に笑いかけた。

「……キミ達、いい加減、理解してくれよ……」

(……)

「子供は鬼に勝てないって、何度も言ってるでしょう?

 何度も、何度もっ! 何度も何度もっ!!

「だったら、オレ達がやるしかないようだな!」

 狼王が叫ぶと同時に、その額から、みるみるツノが生えてくる。

 体が漆黒に染まり、膨れ上がっていく。

 全身からどす黒いオーラを放つ。

 鬼の姿に変じた黒鬼は大翔と章吾を睨みつけた。

 強引に二人をもぎ放すと、両手で二人の頭を掴み上げた。

「電撃投射!」

 麻麻の電撃が黒鬼の両手に命中し、その衝撃で二人は地面に落ちようとしたが、

 狼王と阿藍がキャッチし、悠、葵、有栖が二人を守る。

 

「後は、アタシ達がやるわ」

「あなた達は、待っててね」

 琉球エージェントは子供達を後ろに下がらせる。

 そして結界を展開し、黒鬼を引きずり込む。

 黒鬼とまともにやり合えるのは、秘密の超能力者・琉球エージェントだけ。

 だから、早めに仕留めるのだ。

 

「覚悟しろ、黒鬼!」

 阿藍の光を、黒鬼は両手で受け止める。

 鬼は光に弱いらしいが、強力な鬼は素手でも攻撃を防げるらしい。

 そのまま黒鬼は阿藍に反撃しようとするが、阿藍は光の速さで攻撃をかわした。

「くそっ、これがあり得ない力か……!」

「気が動転しているわよ。電撃投射!」

 麻麻は黒鬼の隙を突いて、電撃を放ち痺れさせる。

 直後に、狼王が斧で黒鬼に斬りかかった。

「ぐああぁぁぁっ!」

「これが人間の力だ、思い知ったか黒鬼!」

 強者の最大の弱点は、油断し、慢心する事。

 対し、エージェントは超能力者だが、誰が相手でも決して手を抜かない。

 それが鬼とエージェントを分ける決定的な違いだ。

 

 織美亜と阿藍は黒鬼の攻撃をかわしながら、黒鬼の様子を伺っている。

 相手はかなり焦っており、遊園地の時よりキレが悪かった。

 狼王は黒鬼の首を掴んで、締め上げる。

 彼の怪力によって普通の人なら即死するのだが、黒鬼は鬼なので、死ぬ事はなかった。

「ぐうぅぅぅ……何故、人間が鬼に立ち向かえる!」

「確かに子供は鬼より弱くて逃げるしかない。けれど、オレ達は強いから怖くない」

「強いのは、鬼も同じだろ……」

「違うな。強さというのは、体だけじゃない。心だって強ければそれは強い人の証だ。

 お前は弱い奴相手に手を抜くくらい、心が弱い!」

「ぐあっ!」

 狼王の怪力を生かした拳が黒鬼に見事に命中。

「私がとどめを刺すから、狼王は離れて」

「ああ」

 麻麻は精神を集中し狼王は素早く黒鬼から離れる。

 この一撃で、黒鬼にとどめを刺すようだ。

 

これで、とどめよ!!

 そして、麻麻は両手から電撃を放ち、黒鬼目掛けて勢いよく放った。

 数百万ボルトの電撃を浴びた黒鬼の上げる絶叫が、結界の中に響き渡っていく。

 それは呪いの言葉のようだった。

 この世の恨みつらみを全て集めて、まとめてぶちまけたようだった。

 何度も何度も繰り返される言葉だったが、四人のエージェントは必死に耐え続けた。

 声は小さくなっていき……やがて、尾を引いて消えた。

 

「これで終わりと思うな……」

 

 その言葉を最後に、完全に消えた。

 結界もまた消滅し、気が付いたら、小学校は元通りに戻っていた。

 

「任務完了」

 エージェントはテレポートで去っていく。

 黒鬼が消えた事によって、テレポートが使えるようになったのだ。




次回は6巻編です。
相も変わらずエージェントが無双しますのでご注意ください。
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