このお話に登場するエージェントは、中学生編のあるキャラの関係者となります。
58 行先は地獄島
「ママ、パパ……」
そこは、小さな無人島だった。
寄せては返す波の音が響く、どこまでも広がった砂浜。
背の部い木々が鬱蒼と生い茂り陽の光を遮る密林。
人の手の及ばない自然の中で、鳥や、魚や、昆虫や……無数の生き物達が動き回っている。
「ママぁ、パパぁ……。会いたいよぉ……」
その島に、たった一人、女の子がいた。
小学校の高学年くらいだろう。
地面にへたり込み、しゃくり上げている。
もうどれくらい泣き続けているのか、顔に涙が跡になっていた。
女の子の脇の地面には、古びた立て看板があった。
もう随分昔に立てられたものらしく、書かれた文字はあちこち剥げて、掠れている。
『鬼ごっこのルール
ルール1:子供は、鬼から逃げなければならない。
ルール2:鬼は、子供を捕まえなければならない。
ルール3:超能力は使用しても構わない。
ルール4:子供は、島を脱出すれば勝ち。
ルール5:鬼に捕まった子供は、地獄行き』
「誰か、助けてぇ……。ママ、パパ、誰かぁ……」
女の子はもうずっと、独りぼっちだった。
気が遠くなるほどの時間を、たった一人で、鬼から逃げ回っている。
捕まってしまったら、『地獄』行き。
お父さんとお母さんと、二度と会えなくなってしまう。
必死で逃げたが、もう限界だ。
「ひろくん……」
血のように真っ赤に染まった空を見上げて、女の子は呟いた。
「助けて……。ひろくん……」
女の子はまた、ぽろぽろと泣き始めた。
泣きながら、その名を呼んだ。
「ひろくん……。ひろくーん……っ!」
叫ぶ声は空に吸い込まれ、風に乗って流れていって……ある男の子の耳に届いた。
その頃、沖縄県のとある島。
ある建物の中には、車椅子の少年と、五人のエージェントがいた。
「No.5も他のエージェントも、ご苦労だった」
「御意」
司令官、糸村一が島に戻って来た五人を労う。
結城梵がやって来たのは緊急だったらしく、特に彼に対しては惜しみなく報酬を与えた。
「僕の弟は……無事だろうか」
梵には光哉という義理の弟がいる。
今は離れ離れになってしまっているが、いずれ会いに行きたい、と思っているのだ。
「弟の事よりも、今は任務を成功した事を喜べ」
「……御意」
一は天才的な頭脳と、個より全を重視する考えを持っている。
そのため、一は梵の義弟の心配を蹴ってしまった。
「今回の任務は、現世と冥界の狭間の島に行く事だ」
「ちょっと待ってください! それではアタシ達、死んでしまいますよ!?」
織美亜が任務の行き先を心配するが、一は首を横に振った。
「その島は、生者でも来られるらしい。とはいえ、そこには鬼がいる、油断大敵だ」
「……」
「そして、任務の内容は……一人の霊を導く事」
現世と冥界の狭間の島には、霊がいる事は珍しい事ではない。
だが、導くというのは、どういう事だろうか。
狼王の頭にはたくさんの?マークが浮かんでいた。
「よく分からないぜ、何をすりゃいいんだ?」
「その霊を鬼から守って、成仏させるという認識でいいのだな?」
「うむ」
阿藍の言う通り、エージェントの目的は、霊を守りながら正しい道に向かわせるのだ。
「余談だが、その島は霊感がなくても霊が見えるぞ。現世と冥界の狭間だからな……」
司令官の言葉を聞いた四人は頷いて、テレポートで目的地の島に向かった。
梵はこの任務に向かないので、本部で休んだ。
「頼んだぞ、エージェントよ。必ず、鬼から世界を守るのだ……」
誰もいない地獄島。
エージェントは、そこに住む霊を導けるだろうか。
次回は南の島でバカンスです。
日常回となりますので、ご安心ください。