オリキャラも結構踏み込んでおりますので、ご注意を。
―くーん、ひろくーん……
風に乗って、かすかに声が聞こえてきた。
大翔は、ハッとして顔を上げた。
女の子の声が、あの島の方から聞こえてくる。
「え? 女の子の声? ……何も聞こえなかったけどなあ」
「気のせいじゃないの? 人が住んでるのはこの島だけで、他は無人島のはずよ?」
悠と葵が首を傾げた。
「……確かにな」
すると、四人のエージェントが現れ状況を話した。
どうやら、ここには幽霊が住んでいるらしい。
幽霊と聞いて怯える悠だが、織美亜が安心させた。
ふと、砂浜の向こうに、桟橋があるのを見つけた。
古びたボートが一艘繋がれているのを見つけて、大翔は駆け寄った。
脇には『貸しボート(1回100円)』と看板が立てられ、木箱が置かれている。
長い事、使われていないのか、雨風で酷く汚れている。
大翔は対岸の島を見つめたが、声はもう聞こえてこない。
「誰かが助けを呼んでいるみたいだな」
「例えば、ボートで向こうの島へ渡ったまま……ボートが流されて、帰れなくなったとか?」
「ねえ。これ、見て!」
看板を読んでいた葵が声を上げた。
みんなで走り寄り、看板を覗き込む。
赤いペンで、妙な落書きが書き殴られていた。
「このボートは、鬼ヶ島行き専用です。鬼ヶ島へご用の方のみお使いください」
『天国へご用の方は、渡し守の案内に従ってください』
「向こうの島へ行こう」
大翔はみんなに頷きかけた。
「誰か分かんないけど……助けてやんないと」
「賛成、俺達も任務のために来たのだからな」
10分もしないうちに、ボートは向かいの島の浜辺へと着いた。
二つの島を隔てる海は、てんで大した距離ではなかった。
いざとなったら、泳いででも渡れそうだ。
「こっちは完全に無人島だな」
「観光地といっても、本島以外はこんな感じなのね」
漕いでいたオールを置くと、章吾は額に手をやって、辺りを見回している。
有栖は、のんびりとしていた。
本島の七里島も裏側は人がまばらだったが、こちらの島は本当に人の住んでいる気がなかった。
海岸に人が一人もいないしゴミ一つ落ちていない。
それに、砂、岩、草、木だけで……人工物がない。
―……ミーンミンミンミンミンミンミン……
セミの鳴き声が、洪水のように響き渡っている。
―……ミンミンミンミンミンミン
「ねえ。なんか……この島、ヘンな感じ、しない?」
自分の体を抱きしめるようにして、悠が言った。
悠は、妙に直感が鋭いところがあるのだ。
「ヘンな感じって?」
「あのボートもなんだけど、なんか、こう……違う、っていう感じ」
「違うって、何が……?」
「いや、僕も、よく分かんないんだけど……」
悠は首を傾げている。
「ふむ……」
阿藍は、この島に鬼が潜んでいる事に気づいた。
鬼ヶ島という名前は、伊達ではないという事だ。
「行こう。大きな島じゃない。大丈夫だ」
「子供が帰れずにいるなら、助けてあげないとね」
近くの岩にボートを繋ぎ、流されないように固定した。
葵が小石を拾い集めて、ポケットに突っ込む。
「……アオイ、何やってんの?」
「迷子になったら大変でしょ? 地図もないし、ケータイも圏外になっちゃったし。
ヘンゼルとグレーテル方式よ」
(アタシ達は超能力者だけどねぇ……)
歩きながら道々地面に石を落として、帰る時の目印にするという事だ。
九人は歩き始めた。
草っぱらが伸びた地面、砂利石がごろごろと転がった地面、
土が剥き出しになった地面を進んでいく。
雑木林に踏み込んだ。
「あら、あれは何かしら」
麻麻が、生い茂った木々を指差した。
天高く伸びたコナラの木に、カブトムシ、
クワガタムシ……他にもたくさんの昆虫がとりついているのだ。
「あ、ホントだ! 大物がたっくさん……! 穴場だね、ここ!」
「後で虫取りしようぜ。せっかく、虫とり網虫も虫カゴもある事だし」
章吾も頷いた。
「うう、キモチワルイわね……」
「同感、まあ私は悪くないと思うけど」
葵は虫が苦手だが、有栖は嫌いではない。
喋りながら、島を進んでいく。
虫だけではなく、島は、動植物で溢れていた。
チチチ……と鳥のさえずりが絶え間なく聞こえる。
パタパタ飛んでいく羽音。
キツツキが、カンカンと木をつつく音。
アサガオ、ヒマワリ、アジサイ……花々が、色とりどりの花弁を広げている。
小高くなった崖。
下には、綺麗な小川が流れている。
底が見えるほど澄んでいて、アメンボやタニシ、ザリガニが見える。
魚が跳ねて、水しぶきが散った。
「凄い島じゃない。日本にこんなところがあったとは思わなかったわ」
有栖が感心している中、エージェントは何故か苦笑していた。
葵がうんうん頷いた。
「楽園って感じよね。こういうところで勉強したら、捗るでしょうね……」
どうして楽園に来てまで勉強したいのか、大翔にはさっぱり分からない。
「でも、なんか……やっぱりヘンな感じがするなあ……」
悠がまだ首を傾げている。
エージェントは阿藍以外は気付いていないようだ。
「おい、見ろ! 向こうに、家があるぞ」
阿藍が丘の向こうを指差した。
島の奥、開けた場所に寄り集まって、古い民家が建っていた。
……ほとんど、壊れて廃屋のようになっている。
柱がへし折れ、窓ガラスが粉々に割れて……大きな家々が、ぺしゃんこになっている。
まるで、怪獣に轢かれたように。
「な、何、これ……」
「盛大にぶっ壊されてるな……」
「昔は人が住んでたみたいだけど……過疎で廃村になって、取り壊したのかしら?
ブルドーザーで」
葵が首を捻った。
「いや、これは……」
と、章吾は警戒したような足取りで、壊れた家の方へ近づいていく。
「ブルドーザーというよりは……」
―ガサッ
突然、近くで音がした。
エージェント以外、跳ね上がった。
振り向くと、向こうの草むらの茂みが、がさがさと大きく揺れていた。
大翔達は顔を見合わせ、油断なく茂みを睨んだ。
「……ひろくん……?」
ガサリと、女の子が顔を覗かせた。
大翔達と同じくらいの年だろう。
ぽかんと口を開け、ぱちぱちと目を瞬いて、信じられない事でも起こったように、
まじまじと大翔を見つめている。
「……ほんとに、助けに来てくれたの……?」
「な? いたろ? 空耳じゃなかった」
大翔はエージェント以外の四人に頷きかけ、女の子に近づいて、手を差し出した。
「大丈夫か? ボートが流されて、帰れなくなっちゃったんだろ? 一緒に乗せてってやるよ」
「……ひろくんだ! ほんとに、ひろくんだ!!」
女の子は大翔の言う事も聞かず、跳び上がらんばかりだ。
その喜びっぷりに、大翔はぽかんとした。
「会いたかったよ! ひろくん!」
女の子はだだだっと駆け寄ってくると、大翔の腕に、力いっぱい、抱きついてきた。
「……この島では、霊体も、実体を持つんだな……」
ここで、二次創作に対してケチをつける人に一言言います。
「そんなに嫌なら見なけりゃいいのに」。
次回は大翔が女の子に……? です。