琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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大翔が女子との恋? に発展します。
しかし、その恋は……。


61 彼女は大翔の許嫁?

「ひっろくんだ♪ ひっさしぶっりの、ひっろくんだ♪」

 大翔の服の裾を掴むと、仔犬がじゃれつくように、周りをスキップし始めた。

「ヒ、ヒロト……」

 何故だか悠が、涙目になって大翔を見た。

「ぼ、僕には『恋愛とか全然興味ねーよな!』って言ってたのに……。

 いつの間に、大人になってたの……」

「遠く離れた土地で、愛人を囲う……男子ってフケツだわ」

「ちょ、ちょっと待った! ちげーよ! ゴカイだ! 知らないって、こんな子!」

 ジトーッと見つめてくる葵に、大翔は慌ててぶんぶん首を振った。

 

「……あなた、名前は?」

 成り行きを見守っていた有栖が、女の子に問いかけた。

「ご、ごめんなさい。わたしったら、久しぶりにひろくんに会えてすっかり舞い上がっちゃった」

 女の子は慌てた様子でこほん、と咳き込みをした。

 スカートの裾をパンパンと伸ばし、背筋を正して丁寧にお辞儀し、はきはきした声で、言った。

「わたし、本田小夜子っていうの。12歳、小学6年生。ひろくんの、許嫁です!」

「げふごほがはごへぐへっ」

 大翔は激しくむせ込んだ。

「皆さんは、ひろくんのお友達ですよね? ひろくんのお友達は、わたしのお友達です。

 うちの人が、いつもお世話になってます。今後とも、よろしくお願いいたします!」

「ちょ、ちょっと待った! 誤解だ! 誤解があるぞ!」

 大翔は、首がもげそうな勢いで、ぶんぶん首を横に振った。

「初対面だろ、俺達!」

「え……? 初対面……?」

「今、初めて会ったばっかりじゃないか!

 どうして、イイナズケなんて、そんな事を言うんだよ!」

「……ひろくんこそ、どうして、今、初めて会ったばかりだなんて、そんな事を言うの?」

 不思議そうに首を傾げて、正面から大翔を見やる。

「……ひょっとして、小夜の事、忘れちゃったの?」

 大きな瞳を丸く見開いて、大翔を見つめる。

 みるみる涙が溜まり始めた。

「そっか……。ひろくん、小夜の事、忘れちゃったんだ……。

 大きくなったら、お嫁さんにしてくれるって、約束したのに……」

「は、はあ……?」

「小夜には大切な約束だったけど……

 ひろくんにとっては、大した事ない、誰とでもしてる、約束だったんだ……。

 だから、すっかり忘れちゃったんだね……」

「え、う……? ちょ、ちょっと。助けてくれよ、みんなぁ……」

 おろおろと振り向くと、葵、悠、章吾、有栖は、じっと大翔を見やっていた。

 穏やかな、仏のような顔で。

 ぽろぽろと泣く女の子と、大慌ての大翔を交互に見つめる。

「……判決。大場大翔被告を、女の子の敵の罪で、無期懲役の刑とします」

 そして、スピード判決が下った。

「もう! いい加減にしろってば!」

 大翔は流石に、怒った声を出した。

 このままでは、酷い濡れ衣だ。

 女の子に向き直ると、ムスッと唇を尖らせる。

「俺は、大場大翔! 桜ヶ島小学校の、6年2組。お前とは、初対面だぞ!」

「ひろと……? あれ?」

 女の子は首を傾げた。

 あれ? あれ? と首を捻り、何やら考え込んでいる。

 ややあって、ポンと手を打った。

「あ、そっか! 血筋だね! ごめん、ごめん! 早とちり!

 大翔くん、わたしの幼馴染のひろくんにすっごく似てるから。間違えちゃったみたい!」

「ほら、見ろ」

「……うん、まあ、ほんとは分かってたよ、ヒロト」

「大翔に限って、愛人なんてね」

「お前にそんな甲斐性があるとも思えねーしな」

「そんなの夢物語かしらね」

 悠達が口々に言う。

 

「改めて、わたし、この島の小学校6年生の、本田小夜子」

「アタシ達は、保護者よ」

「しかし、ほんと、そっくりだなぁ」

 女の子……小夜子は言いつつ、大翔の頭からつま先までしげしげと見やっている。

 大翔は思わず、赤くなった。

「小学校があるんだ? 人の気配がないから、てっきり、無人島だと思ってたよ」

「無人島で合ってるよ。以前は人がいたんだけど、過疎で廃村になっちゃったからね。

 もう50年以上も、人は住んでないの」

「ほら、あたしの言った通りじゃない」

「でも、家まで壊なくてもいいのに。あんな乱暴に」

「あ、あれはね……」

―ズガガガガガッ!

 突然、遠くから轟音が響いてきた。

 振り向くと、向こうの林に生えた大木が二本、

 メリメリと悲鳴を上げながら、地面に倒れていくところだった。

 大翔達は顔を見合わせた。

「な、なんだ?」

―ズガガガガガガガガッ!

 また音が響いた。

 巨大な何かが、ぶちかましをかけるような音だ。

 木々がどんどんと倒れていく。

 大翔は、林の中で巨大なブルドーザーが、木々を薙ぎ倒していくところを想像した。

「まだ、工事、やってるの……?」

―ジャキンッ!

 すると、今度は別の方角から鋭い金属音が響いた。

「……鬼か!?」

「鬼!?」

―ジャキンッ! ジャキンッ!

 刃物を、ハサミを噛み合わせるような音だった。

 しかし、それにしては大きすぎる。

 大翔は、巨大な、一握りで木を切り倒せるような巨大ハサミを想像した。

「いけない……。もう来た……」

「場合によっては、戦うしかないようね……」

 小夜子と麻麻が声を強ばらせた。

 じっと睨むように、音のする方を見ている。

「……あの家壊したの、ブルドーザーとかじゃねえな?」

 章吾が、薙ぎ倒された家々を指差した。

 小夜子が頷いた。

「早く離れた方がいいわ。あいつらに見つかると、すごくキケン。

 家くらいまるごと薙ぎ倒しちゃう奴らだから……」

「私達なら、相手できるけど」

「……事情は後で聞く事にして、この場を離れた方がよさそうね」

 薙ぎ倒す轟音と、ハサミのような音……それらが、だんだん、近づいてきている。

 みんな、判断は早かった。

 顔を見合わせ、頷き合った。

 

「よし、海岸まで戻るぜ!」

 地面に落としておいた小石を逆に辿って、走り始めた。

 壊れた民家の群れを背にして、丘を越え、船の脇を抜ける。

 しばらく行くと先を走っていた葵が立ち止まった。

「おかしいわ」

 置かれた小石をじっと見下ろして眉を顰めている。

「どうした? 葵」

「あたしの記憶では、海岸はここから東の方向だったと思うんだけど……」

 ぽつぽつと地面に一定間隔で落とされた小石は、西の方へ向かって伸びている。

「気のせいじゃないの? 同じような景色だもん」

「風で飛ばされるような石でもないしな」

「違うわ、これは絶対に罠よ」

 麻麻は、これが鬼の罠である事に気づいていた。

 どうやら、ここから出さないつもりのようだ。

 皆、小石の続いている方に急いだ。

 走りながら見上げると、先程まで綺麗に晴れ渡っていた青空が、

 じわじわと赤く染まっていっている。

 大翔は奥歯を噛み締めた。

「これは良くない前兆ね……」

 ぽつん、ぽつんと置かれた小石を追って急ぐ。

 草っぱらを抜け、林を駆け抜けるが、ボートを停めた浜辺は、まるで見えてこない。

 

「ぜぇっぜぇっ……い、いつまで走るのぉっ……?」

 悠が息も絶え絶えに言った。

「……はぁっはぁっ……な、何かヘンだわ」

 もう随分走っている。

 上陸してから歩いてきた距離を考えれば、とっくに浜辺に着いていていい距離だ。

 小石は相変わらず、ぽつん、ぽつんと続いて、道を示している。

 迷ったわけではないのに、ゴールに辿り着かない。

 まるで、ぐるぐると円を描いて、同じところを走っているように。

「待って。私達は、罠にはまったみたい。小石の目印を隠してるみたいよ」

「罠?」

 さらに進むと、小石は途絶えていた。

 最後の小石の置かれた脇に、真新しい看板が立っている。

 

『お疲れ様です。余計なものは処理しておきました。豊かな自然と、溢れる鬼。

 心ゆくまで鬼ヶ島の観光をお楽しみください』

『天国へご用の方へ。渡し守は鬼ヶ島までは迎えに上がれません』

 大翔達は顔を見合わせ、ごくりと唾を飲んだ。

 エージェントは皆、頷いている。

 

「いけない……」

 小夜子が唇を噛んだ。

「みんな、ボートはどこ?」

―ズガアアアアアアアンッ! ジャキンッ! ジャキンッ!

 遠くから、またあの音が響いてきた。

 同時に、メリメリッと、何か固いものが裂けるような音が聞こえてくる。

「い、今の音は……?」

「まさかっ……!」

 身を翻し、音のした方へ走った。

 葵が先程止まった道を今度は東へ一目散に駆ける。

 ようやく、海岸へ出た。

 

「……あの能力者がいれば、すぐに直せたのに」

 ボートは、バラバラになって壊れていた。

 真ん中から二つにへし折られた上、ぶつ切りに切断されて、

 打ち寄せる波にぷかぷかと揺れている。

「ど、どうやって帰るの? これ……」

 悠が口もとを引きつらせる。

 大翔は対岸の島を見やった。

 七里島は、さっきよりもずっと遠くに見えている。

 まるで……島が移動したように。

 強くなってきた風のせいで、波が高い。

 これでは、向こうまで泳いで戻るのは、流石の超能力者でも不可能に近い。

 

「奴らのしわざだわ……」

 小夜子が項垂れた。

「この島には、強力な三匹の鬼達が棲みついてるの。家を破壊したのも、そいつらよ」

 ぺたんと砂浜に座り込み、膝を抱えてしまう。

「だったら倒せばいいじゃないか」

「鬼を倒す!? それは無理よ!」

「安心しろ、オレ達は必ずお前を天国に導いてやるからな……霊体」

 狼王の呟きに、大翔は首を傾げる。

 霊体とは、何の事だろうか。

 とりあえず、脱出手段を考えなければならない。

 大翔は肩からかけていたデイパックを降ろした。

 サイドポケットにしまっておいた、クリップ留めの紙束を取り出す。

 『七里島の自然工作』……表に大きく書かれた万年筆の文字。

 大翔は、孫と友達が遊びに来ると聞いて、夜なべしてこれを作っている祖父の姿を想像した。

 竹とんぼ、独楽に釣り竿、自然の草木で作れる様々なものが、

 大翔の祖父の手でまとめられている。

 最後の章に、あった。

 

『イカダの作り方』

 

「……親達へのお土産にしようぜ」

 大翔はにやりと笑った。

「来年もまた、来られるようにさ」




次回は脱出手段確保回です。
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