琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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どんな時でも大翔は友達を大事にする優しい人物です。
でも、その優しさも仇になるとだけは言っておきます。


62 小夜子は友達

 必要な材料と手順を確認すると、大翔達は早速行動を開始した。

 イカダの作り方は単純だった。

 簡単に言えば、丸太や竹を横に並べて、ロープで結び上げるだけだ。

 もちろん、結び方が難しかったり、色々コツはあるみたいだが、

 祖父のメモにはその辺りの事が事細かに記されていた。

 これさえあれば、子供だけでも作れるだろう。

「それにしても、あたし達以外で鬼に追いかけられてる子がいるなんて、驚いたわ」

「こいつは護衛対象だしな」

 荷物をまとめながら、葵と阿藍が言う。

 イカダの材料となる丸太とロープは、雑木林まで調達に行く事にした。

 章吾、有栖、大翔は浜辺で角ばった石を拾い、悠が虫カゴに詰めている。

「わたしこそ、驚いた。みんな、鬼、怖くないの?」

 てきぱき動く大翔達を見ながら、小夜子が言った。

「そりゃ怖いけど……こっちには、不思議な力を使う人達がついてるからね」

「よかった。わたしのせいで危ない事に巻き込んじゃったって、心配しちゃったよ。

 みんななら、全然平気だね」

「……ま、一人じゃないからな」

 大翔は鼻の下をこすった。

 島の中ほどに広がった雑木林に向かった。

 丸太ならいくらでも手に入りそうだ。

「木を切るノコギリが必要だな」

「オレが斧を使ってやるが?」

 そう言うと、狼王は超能力で空間にしまっておいた斧を出した。

 ノコギリの代わりにこれを使えばいいと、狼王は思っていたのだが、小夜子は固まっていた。

「どうした、小夜子?」

「な、なんで何もないところから、斧が出たの? そんなの、あり得ないよ」

「これが超能力なの、だからあまり驚かないでね」

「で、でも……」

 小夜子の前で無闇に超能力を使うのは、やはり、よくないと思った狼王だった。

 次は丸太とロープだ。

「ロープの代わりには、ツル草を使えばいいわね。ツル植物は引っ張りに強いし」

 林に伸びた木々に巻きつくようにして、ツル草が茎を伸ばしている。

 それを指しながら、葵が解説する。

「どうして引っ張りに強いかっていうと、ツル植物は縦方向の繊維が多いのね。

 それはどうしてかっていうと、光合成のためには太陽の光が必要だから。

 林では木が密集してるから、低いところにいると陽の光を受けられないでしょ?

 だからツル植物は、より上方に伸びていって、その自重を支えるために……」

 男子達は黙々とツル植物をナイフで切った。

 太すぎず、細すぎず、ちょうどいいのを選ぶ。

 葉っぱを落とし、ぎゅっと引っ張るとピンと張る。

 くるくると巻き取って、デイパックに詰めた。

 

「……っていう事なの。分かった?」

「おう、完璧に分かったぜ」

「まとめると、ツル草超強い、って事だよね?」

「まとめすぎ」

 さて、問題は丸太だった。

 メモにはペットボトルや牛乳パックでも作れると書いてあったが、ここでは逆に手に入らない。

 流石の超能力者でも丸太を直接出す事はできない。

 大翔達は、ちょうどよさそうな木を探しながら、雑木林の中を進んだ。

 クヌギ、コナラ、ヤナギ……他、よく分からないものたくさん。

 林にはたくさんの木が生えているが、なかなか手ごろなものはなかった。

 どれも、太すぎるか細すぎるか、あるいは曲がっているか。

「竹があるといいんだけどね……」

 葵が携帯電話とにらめっこしながら言った。

 木の情報を調べているのだ。

 葵の携帯電話には、図鑑や辞典のアプリがたくさんインストールされている。

「葵ちゃん。それ、なあに?」

 小夜子が首を傾げて、葵の持った携帯電話を指差した。

 葵の家では、昔の携帯電話のみが所有を許される。

「何って……ただのケータイよ?」

 葵が携帯電話をパカパカやりながら応える。

「ケータイ?」

 小夜子が首を傾げる。

「携帯電話よ」

「ケイタイデンワ……?」

 小夜子は新種の生き物でも見るように、パチパチと瞬きして、

 まじまじと携帯電話を見つめている。

「ひょっとして……電話なの? これ」

「ひょっとしなくても、電話よ」

「だって……受話器は? ダイヤルは?」

「これ自体が受話器よ。ダイヤルって……ボタンの事?」

「それに、電話線がないし……」

「電波でやりとりするから、線はないの。今は圏外だけど」

「電波……? あ、葵ちゃん、オカルト信じる方なの? それは助かるけど」

 なんだか、話がさっぱり噛み合っていないようだ。

「アナタの時代に、携帯電話はなかったの?」

 織美亜が問いかけると、小夜子は頷いた。

「わたしの知ってる電話って、黒くって、ダイヤルをジーッジーッて回す奴だもん。

 知らない間に、小さくなってたんだねえ、電話……」

 しげしげとケータイを眺め回し、カチカチとボタンを連打している。

 大翔達は顔を見合わせ、頷き合った。

 

「これが田舎の生活って奴か……」

「ケータイとか、当たり前と思ってたわ……」

「僕ら、文明に毒されてるんだね……」

 大翔達の街も、渋谷よりは都会ではないが……それにしても、

 今時携帯電話も知らない子がいるだなんて思わなかった。

「やっぱり、ネットとかも見ないの? スマホで遊ばないの?」

 悠が訊く。

 デジモノ大好きな悠には、ケータイも知らないだなんて、信じられないらしい。

「ネット?」

 小夜子が不思議そうに首を傾げる。

「虫よけネットの事? あんなもの、見てどうするの?」

「インターネットだよ」

「いんたー……?」

「全世界が繋がってて、一瞬でアクセスできる奴。

 無料ゲームとか、実況動画とか、SNSとか……」

「世界中が、一瞬で……? ふふ。何、それ。悠君って、想像力が豊かなんだね。

 作家になったらいいよ」

 小夜子がくすくすと笑う。

「どうしよう。文化が違いすぎる……」

「遊びは、ひろくんとは、よくトランプしたよ」

 小夜子は、にこっと目を細めて笑った。

 ひろくんというのは、小夜子の幼馴染らしい。

 家が隣同士だったのだそうだ。

「わたし、体が弱くて外で遊べなかったんだけど、ひろくん、一緒に遊んでくれたんだ。

 それで、幼稚園の時、結婚の約束をしたの! 生涯変わらぬ愛って奴を誓ったんだよ!」

 小夜子はふふんと胸を逸らせる。

 ひろくん――大翔そっくりらしい少年の話になると、小夜子は嬉しそうだ。

「……ふふ。ひろくんを見る限り、約束、破られちゃったみたいだけどね!」

 幼稚園の時の約束は、ひろくんとやらも覚えていないだろう。

「わたし、ずっと病気で体が弱かったから、友達はひろくんだけだったんだ。

 だからこういうの、ちょっと楽しいな。そこのお兄さんやお姉さんも、友達だよね」

 小夜子は言うと、懐かしそうに目を細めた。

「ひろくんに会いたいなあ。……まあ、もう! 小夜の事なんて、覚えてないだろうけどさ」

「そんな薄情な奴なのか?」

「じゃあ、脱出したらひろくんも一緒に遊ぼうぜ」

「賛成! そんなに大翔とそっくりだなんて、あたし達も見てみたいしね」

「みんなで海で、打ち寄せる波に、いつまで一歩も揺らがずに、

 その場に立っていられるかゲーム、しようよ!」

「アナタはまたそれね」

「後は花火大会だな!」

 わいわい話しながら、歩いていく。

 小夜子は、ちょっと――かなり世間知らずだが、大翔達にとっては楽しい人物だった。

 エージェントにとっては、鬼から逃げるため、護衛対象だが……。

 

(へへ。仲間増えたな!)

 

―そういえば、小夜、こっちの島で何してたんだ? 50年以上も前に廃村になったっていうのに。

 

 みんなで話すのが楽しくて、その質問は、大翔は訊きそびれてしまった。




次回は鬼ヶ島から脱出するために奮闘します。
エージェントも超能力で活躍しますよ。
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