でも、その優しさも仇になるとだけは言っておきます。
必要な材料と手順を確認すると、大翔達は早速行動を開始した。
イカダの作り方は単純だった。
簡単に言えば、丸太や竹を横に並べて、ロープで結び上げるだけだ。
もちろん、結び方が難しかったり、色々コツはあるみたいだが、
祖父のメモにはその辺りの事が事細かに記されていた。
これさえあれば、子供だけでも作れるだろう。
「それにしても、あたし達以外で鬼に追いかけられてる子がいるなんて、驚いたわ」
「こいつは護衛対象だしな」
荷物をまとめながら、葵と阿藍が言う。
イカダの材料となる丸太とロープは、雑木林まで調達に行く事にした。
章吾、有栖、大翔は浜辺で角ばった石を拾い、悠が虫カゴに詰めている。
「わたしこそ、驚いた。みんな、鬼、怖くないの?」
てきぱき動く大翔達を見ながら、小夜子が言った。
「そりゃ怖いけど……こっちには、不思議な力を使う人達がついてるからね」
「よかった。わたしのせいで危ない事に巻き込んじゃったって、心配しちゃったよ。
みんななら、全然平気だね」
「……ま、一人じゃないからな」
大翔は鼻の下をこすった。
島の中ほどに広がった雑木林に向かった。
丸太ならいくらでも手に入りそうだ。
「木を切るノコギリが必要だな」
「オレが斧を使ってやるが?」
そう言うと、狼王は超能力で空間にしまっておいた斧を出した。
ノコギリの代わりにこれを使えばいいと、狼王は思っていたのだが、小夜子は固まっていた。
「どうした、小夜子?」
「な、なんで何もないところから、斧が出たの? そんなの、あり得ないよ」
「これが超能力なの、だからあまり驚かないでね」
「で、でも……」
小夜子の前で無闇に超能力を使うのは、やはり、よくないと思った狼王だった。
次は丸太とロープだ。
「ロープの代わりには、ツル草を使えばいいわね。ツル植物は引っ張りに強いし」
林に伸びた木々に巻きつくようにして、ツル草が茎を伸ばしている。
それを指しながら、葵が解説する。
「どうして引っ張りに強いかっていうと、ツル植物は縦方向の繊維が多いのね。
それはどうしてかっていうと、光合成のためには太陽の光が必要だから。
林では木が密集してるから、低いところにいると陽の光を受けられないでしょ?
だからツル植物は、より上方に伸びていって、その自重を支えるために……」
男子達は黙々とツル植物をナイフで切った。
太すぎず、細すぎず、ちょうどいいのを選ぶ。
葉っぱを落とし、ぎゅっと引っ張るとピンと張る。
くるくると巻き取って、デイパックに詰めた。
「……っていう事なの。分かった?」
「おう、完璧に分かったぜ」
「まとめると、ツル草超強い、って事だよね?」
「まとめすぎ」
さて、問題は丸太だった。
メモにはペットボトルや牛乳パックでも作れると書いてあったが、ここでは逆に手に入らない。
流石の超能力者でも丸太を直接出す事はできない。
大翔達は、ちょうどよさそうな木を探しながら、雑木林の中を進んだ。
クヌギ、コナラ、ヤナギ……他、よく分からないものたくさん。
林にはたくさんの木が生えているが、なかなか手ごろなものはなかった。
どれも、太すぎるか細すぎるか、あるいは曲がっているか。
「竹があるといいんだけどね……」
葵が携帯電話とにらめっこしながら言った。
木の情報を調べているのだ。
葵の携帯電話には、図鑑や辞典のアプリがたくさんインストールされている。
「葵ちゃん。それ、なあに?」
小夜子が首を傾げて、葵の持った携帯電話を指差した。
葵の家では、昔の携帯電話のみが所有を許される。
「何って……ただのケータイよ?」
葵が携帯電話をパカパカやりながら応える。
「ケータイ?」
小夜子が首を傾げる。
「携帯電話よ」
「ケイタイデンワ……?」
小夜子は新種の生き物でも見るように、パチパチと瞬きして、
まじまじと携帯電話を見つめている。
「ひょっとして……電話なの? これ」
「ひょっとしなくても、電話よ」
「だって……受話器は? ダイヤルは?」
「これ自体が受話器よ。ダイヤルって……ボタンの事?」
「それに、電話線がないし……」
「電波でやりとりするから、線はないの。今は圏外だけど」
「電波……? あ、葵ちゃん、オカルト信じる方なの? それは助かるけど」
なんだか、話がさっぱり噛み合っていないようだ。
「アナタの時代に、携帯電話はなかったの?」
織美亜が問いかけると、小夜子は頷いた。
「わたしの知ってる電話って、黒くって、ダイヤルをジーッジーッて回す奴だもん。
知らない間に、小さくなってたんだねえ、電話……」
しげしげとケータイを眺め回し、カチカチとボタンを連打している。
大翔達は顔を見合わせ、頷き合った。
「これが田舎の生活って奴か……」
「ケータイとか、当たり前と思ってたわ……」
「僕ら、文明に毒されてるんだね……」
大翔達の街も、渋谷よりは都会ではないが……それにしても、
今時携帯電話も知らない子がいるだなんて思わなかった。
「やっぱり、ネットとかも見ないの? スマホで遊ばないの?」
悠が訊く。
デジモノ大好きな悠には、ケータイも知らないだなんて、信じられないらしい。
「ネット?」
小夜子が不思議そうに首を傾げる。
「虫よけネットの事? あんなもの、見てどうするの?」
「インターネットだよ」
「いんたー……?」
「全世界が繋がってて、一瞬でアクセスできる奴。
無料ゲームとか、実況動画とか、SNSとか……」
「世界中が、一瞬で……? ふふ。何、それ。悠君って、想像力が豊かなんだね。
作家になったらいいよ」
小夜子がくすくすと笑う。
「どうしよう。文化が違いすぎる……」
「遊びは、ひろくんとは、よくトランプしたよ」
小夜子は、にこっと目を細めて笑った。
ひろくんというのは、小夜子の幼馴染らしい。
家が隣同士だったのだそうだ。
「わたし、体が弱くて外で遊べなかったんだけど、ひろくん、一緒に遊んでくれたんだ。
それで、幼稚園の時、結婚の約束をしたの! 生涯変わらぬ愛って奴を誓ったんだよ!」
小夜子はふふんと胸を逸らせる。
ひろくん――大翔そっくりらしい少年の話になると、小夜子は嬉しそうだ。
「……ふふ。ひろくんを見る限り、約束、破られちゃったみたいだけどね!」
幼稚園の時の約束は、ひろくんとやらも覚えていないだろう。
「わたし、ずっと病気で体が弱かったから、友達はひろくんだけだったんだ。
だからこういうの、ちょっと楽しいな。そこのお兄さんやお姉さんも、友達だよね」
小夜子は言うと、懐かしそうに目を細めた。
「ひろくんに会いたいなあ。……まあ、もう! 小夜の事なんて、覚えてないだろうけどさ」
「そんな薄情な奴なのか?」
「じゃあ、脱出したらひろくんも一緒に遊ぼうぜ」
「賛成! そんなに大翔とそっくりだなんて、あたし達も見てみたいしね」
「みんなで海で、打ち寄せる波に、いつまで一歩も揺らがずに、
その場に立っていられるかゲーム、しようよ!」
「アナタはまたそれね」
「後は花火大会だな!」
わいわい話しながら、歩いていく。
小夜子は、ちょっと――かなり世間知らずだが、大翔達にとっては楽しい人物だった。
エージェントにとっては、鬼から逃げるため、護衛対象だが……。
(へへ。仲間増えたな!)
―そういえば、小夜、こっちの島で何してたんだ? 50年以上も前に廃村になったっていうのに。
みんなで話すのが楽しくて、その質問は、大翔は訊きそびれてしまった。
次回は鬼ヶ島から脱出するために奮闘します。
エージェントも超能力で活躍しますよ。