琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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今回は戦闘シーンをかなり多くしています。


63 鬼虫と超能力者

――ミーンミンミンミンミンミン……ジー……

 

 林の中を歩いていくと、ぽっかりと開けた、広場のような場所に出た。

「うわあ、すっごいなぁ!」

 辺りを見回して、悠が感嘆の声を上げる。

 広場を囲うように伸びた木々。

 その木々にたくさんの昆虫がとりついているのだ。

 アブラゼミ、カナブン、コガネムシ。

 カミキリムシ、タマムシ、スズムシに、コオロギ、ヒグラシ、ツクツクボウシ、その他色々。

 昆虫達は広場の木々にとりつき、樹液を啜っているようだった。

 トンボやアゲハチョウが、ひらひらと飛び回っている。

 草の間をバッタが跳ね、アリがぞろぞろと行進している。

 

「これは虫取りしたいところだね」

 悠が虫取り網をブンブンとふりながら言った。

 ちなみに、悠はゲームアプリの虫取りは得意だが、本当の虫取りはてんで下手だ。

「ちょっとだけやっちゃう? 鬼も、近くにいないっぽいしさ」

「……ま、あんだけでかい音を出して動き回る奴、嫌でも分かるしな」

 頭の後ろで手を組んで、大翔は頷いた。

 あの、轟音を立てて木々を破壊していた鬼達。

 恐らく、かなり巨大な虫だろう。

 時折音が聞こえてきたので、避けて歩いてきた。

 あの五月蠅さなら警戒していれば大丈夫のはずだ。

 

「ううん。すぐに離れましょう。この辺、危ない」

「あるある」

 注意深く辺りを見まわしていた小夜子が、そう言って地面を指差した。

 剥き出しの土、そのところどころに穴が開いているのだ。

 大きさは、2メートルくらい。

 地面が掘り起こされ、巨大な何かが這い出してきたような穴が、いくつも開いている。

「時々見かける穴なんだけど……鬼のテリトリーなんだと思う。

 あの大きな音を立てる二匹と、この穴の主。合わせて、わたしは三鬼って呼んでる」

 小夜子が難しい顔をする。

「穴の近くには決まって、生き物の骨がたくさん転がってるの。見つかったらマズイわ」

「ひいいいい」

 悠が青い顔で呻く。

「大丈夫。今、ここにはいないみたい。早く離れましょ」

「アタシ達も、無駄に戦いたくないしね」

 全員頷き、広場に背を向けた。

 と、トンボが一匹、スイスイッと宙を飛んできた。

 掌くらいのサイズもある、大きなトンボだ。

 くるくると子供達の周りを飛び回ると、悠の肩に止まって、

―ガブッ

「――いたっ!」

 悠が喚いた。

 どうやら、咬まれたようだ。

「このーっ!」

 ぶんぶんと肩を払って、トンボを追っ払う。

 トンボはスイスイ逃げるように飛んでいった。

「いててて……」

「悠、昆虫にまで舐められてるんじゃないの?」

「昆虫にまでって、なんだよう。ちょっと咬まれただけ……わっ」

 飛び回っていたトンボが数匹、くるくる悠の周りを旋回した。

 肩に、腕に止まったところで、麻麻が叫ぶ。

 

「……動かないで!」

 麻麻が電撃を放つと、トンボが一斉に墜落した。

 ばっと振り返ると、視界に飛び込んだのは、

 立ち並んだ木々にとりついている、大量のコガネムシだった。

 光沢のあるエメラルド色の体の、小さな虫だ。

 丸みのある硬い殻が、宝石みたい光っている。

 見る間に、何匹かがクルッと体を丸めた。

 木から飛び立ち、弾丸のように降り注いできた。

―ビュビュビュッ

 麻麻は集中し、的確に虫を電撃で撃ち抜いていく。

 圏外であっても、超能力の前には意味がない。

 墜落した虫を見て、阿藍が一言。

「……ツノが生えているな、この虫達」

 辺りを見回す。

 木々にとりついた無数の昆虫を注意深く見やり……呟いた。

「ていうかこいつら全部、ツノ生えてる。鬼昆虫ってか」

 ぽつりと、付け加えた。

「……悠、虫取りするか?」

「いや、無理!」

「だったら俺達から離れるなよ!」

 エージェントは、超能力で次々と鬼昆虫を倒していく。

 

「きゃああっ!」

 葵の悲鳴が響いた。

 慌てて振り向くと、葵がへなへなと地面にへたり込んでいた。

 その前に立っているのは……カマキリなんだろう、多分。

 大翔はまた昆虫図鑑の記述を記憶から引っ張り出した。

 カマキリ、鎌状に変化した前脚でエモノを押さえつけ、

 大顎でかじって食べる肉食昆虫で、体長は数センチ。

 だが、葵の前に立つカマキリは、大翔達とそう変わらないサイズだった。

 鎌状の前脚、その前脚に何故かさらに草刈り鎌を持って武装している。

 巨大カマキリが、草刈り鎌を振り上げた。

「逃げろっ!」

 葵は腰が抜けたのか、動かない。

 虫が苦手なのだ、葵は。

―ガキンッ

 間一髪、振り下ろされた草刈り鎌を、斧の先で受けた。

 巨大な緑色の複眼が、なんだこいつ、というように狼王を睨んだ。

 近くで見るとさらに不気味だ。

 カマキリが両脚を持ち上げた。

 

「待って!!」

 その時、織美亜、阿藍、麻麻が駆けつけてきた。

 鬼を倒すのが、エージェントの仕事だからだ。

 

「鬼は……皆殺しにしてやる!」

「皆殺し……!?」

 四人は鬼に対する殺意が強くなっていた。

 狼王の身体はオーラが輝いて見え、麻麻の服は破れそうになっていた。

「せいっ!」

 狼王が勢いよく鬼を振り下ろすが、鬼カマキリは素早く動いてかわす。

 身体は大きいが、動きはかなり機敏だ。

 続いて、織美亜は癒しの力を逆流させ、鬼カマキリの身体に傷をつける。

「ぐぅっ!」

 鬼カマキリが狼王の身体を切り裂く。

 阿藍は精神を集中し、鬼カマキリに光を放った。

 光は何よりも素早く、浅くない傷を負わせた。

「とどめよ、電撃投射!!」

 そして麻麻の電撃が鬼カマキリにクリーンヒット、鬼カマキリは黒焦げになった。

 

「鬼カマキリをあっという間に倒しちゃうなんて」

 あの大きな鬼カマキリを倒したエージェントを見て小夜子は驚きを隠せない。

「一体いただけだ、複数だとオレ達でも相手できるかは分からない」

「うわぁぁぁぁっ!」

 悠が走り回りながら、ブンブンと虫とり網を振るっている。

 鬼トンボや鬼コガネムシや鬼ゼミや鬼何とかが、次々網に引っかかる。

 すぐに入り切らなくなる。

―ギッチギッチギッチ! ギッチギッチギッチ!

―ミンミンミーンミン! ミンミンミーンミン……!

「こんな昆虫採集、嫌だようううっ!」

「数が多すぎるわ……!」

―シュシュッ

 どこからか伸びてきた糸が、大翔の右腕に絡みついた。

 思わず首を巡らせると……木の上に大きなクモがいた。

 鬼グモが腹から糸を噴き出して、大翔の腕に巻きつけている。

―シュシュシュッ!

「うわああっ!」

 左手首にも絡みつく。

 両腕を無理やり持ち上げられ、デイパックが地面に落ちた。

「くそっ! ……は、放せぇっ……!」

 大翔はもがくが、鬼グモの糸は丈夫だった。

 細いのに、まるで切れない。

 鬼グモが糸を枝に巻きつけ、引っ張った。

 大翔の体が地面から釣り上げられていき、大翔はもがいた。

「く、くそっ……おっ!」

 何とか足で、デイパックを引き寄せようとするが、

―シュシュシュッ!

 ……その足首にも、糸が絡みついた。

 こなれた感じでグルグルと、鬼グモが大翔の足を結び上げる。

 腕も足も、びくともできなくなった。

 

「燃やせれば、いいんだけど……」

 動けなくなった大翔の眼前に、鬼グモが糸を引いて滑るように降りてきた。

 毛むくじゃらの八本の脚。

 ビーズのような目で、こちらを見つめている。

 口を開けると、針のように小さな牙が生えている。

 クモ、肉食、エモノに糸を絡めて身動きできなくして捕食する事が多い。

 エサの食べ方は、消化液をエモノの体内に注入し、内側から溶かしてから飲み込む体外消化。

 思い出したくもない知識が、正確に頭に浮かんでくる。

「や、べえ……」

 章吾には鬼カマキリが群がっている。

 悠と有栖は鬼トンボから、葵は大量のチョウから悲鳴を上げながら逃げ回っている。

 血のように真っ赤な吸血チョウだ。

 エージェントは何とか戦っているが、疲労が溜まっている。

「ちく、しょう……」

 糸に絡め取られ、体を動かせない。

 文字通り、手も足も出ない。

 枝から吊り下げられ、ぶらぶら揺れるだけだ。

 鬼グモが大翔にとりついた。

 顔を背ける大翔の首筋に、牙を立てた。

 ガブリ、ジュウジュウ、消化液が注ぎ込まれる。

 ゆっくりと、ゆっくりと、大翔の体が体内から溶かされていく。

「燃やす力が使えないなんて……私は、なんて弱いの……」

 麻麻は己の無力さを悔やんだ。

 

「大翔くんっ! 諦めちゃだめ!」

 小夜子の叫びに、はっとした。

 顔を上げると、小夜子が虫から逃れ、こちらへ走ってくるところだった。

「今、助けるからっ!」

デイパックを開けてくれっ!

 大翔は叫んだ。

 小夜子が頷き、飛び込むように地面をさらった。

 落ちたデイパックを取り上げる。

 クモが気づいて後ろを振り返った。

 小夜子を認めると、また後ろを向き、体を持ち上げた。

 クモは腹部の後端から糸を出すのだ。

 必死にデイパックの中を探る小夜子に向けて、糸を……。

―ガツンッ!

 出しかけた鬼グモ目がけて、大翔は勢いつけてヘッドバットを叩き込んだ。

 小気味良い音と共に、鬼グモがひっくり返る。

「それ! 小夜ちゃん、その缶を!」

 小夜子が取り出したものを見て、葵が叫んだ。

「3、2、1で、めいっぱい噴射してっ! みんな、息を吸って! はい、止めて!

 そのまま止めててっ! 3、2、1!」

 小夜子が缶を構えた。

 ラベルには、『むしむしコロリ』。

 大翔が祖父から貰った虫よけスプレーだ。

 銃のように両手で支えると、レバーに指をかけ、一気に引いた。

―ブシュウウウウウウウウウッ

 白い噴霧がチョウを飲み込み、トンボを飲み込み、コガネムシを飲み込み、クモを飲み込んだ。

 小夜子は円状にそこらじゅうに煙を噴射している。

 大翔達は全員、息を止めて目をつぶっている。

―ギッギッギッチ! ギッチギッチギッチ!!

―ミンミンミーン! ミンミンミーン!

―ガチャガチャガッチャ! ガチャガチャガッチャ!

 効果はてきめんだった。

 群がっていた吸血チョウと鬼トンボが、慌てたようにひらひらと逃げていく。

 コガネムシ達がぽとぽとと地面に落ちた。

 クモが糸をそそくさと巻きとり、すうっと上へ引っ込んでいった。

 群がっていたアリ達が回れ右して巣に戻っていく。

「よ、よし。みんな、今のうちだっ!」

 糸から解放されると、大翔は首を押さえた。

 消化液はまだほとんど注入されてない。

「走れ! 元来た道を戻るんだ!」

 大翔達は広場に背を向け、金速力で走り始めた。

 遠ざかっていた虫達が、またわらわらと集まってくる気配。

 雑木林の中を、全力で駆ける。

―ズガガガガガガガガガガガガガッ!

 と、後方から、あの轟音が響き渡ってきた。

 黒い影が差し、太陽が遮られた。

 大翔が思わず後ろを振り返ると、青ざめた。

「う、嘘だろ……」

 見上げるほど巨大なこげ茶色の体には……なじみがあった。

 先端でYの字形に分かれた、巨大な一本ヅノにもなじみがあった。

 それは見上げるほどに大きなカブトムシだった。

 コウチュウ目・コガネムシ科・カブトムシ亜科・真性カブトムシ族。

 大きさは3センチから5センチだが、この虫はその、数百倍はある。

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 ツノで木々を次々に薙ぎ倒しながら追ってくる。

 ほとんど重戦車だった。

 あれでは建物も壊されるはずだ。

 あんなのに体当たりされたら、地球の果てまでぶっ飛ばされるかもしれない。

「ま、前からも来るよおっ!」

 悠が悲鳴を上げ、大翔は振り向いた。

 後ろ脚で立ち上がったその姿にも、大翔はなじみがあった。

 クワガタムシで、見上げるほどの巨体。

 二叉にわかれた大きな顎は、内側がギザギザ。

 ノコギリクワガタだ。

 その巨大な顎で、生えた木を挟んだ。

―ジャキンッ!

 木が一瞬にして、切り倒された。

 メリメリと音を立てて、地面に倒れる。

 ハサミでマッチ棒でも切るように、林の木々を切り倒す。

「燃やすか吹き飛ばすかでもしたいが……」

―ズガガガガガガッ! ズガガガガガガガッ……

 巨大鬼カブトが木を薙ぎ倒しながらやってくると……大翔達の背後で止まった。

―ジャキンッ! ジャキンッ! ジャキン!

 前後を挟まれた。

 大翔達を間に挟んで、二匹の巨大な鬼がじっと様子を伺っている。

「……やるか?」

 巨大鬼カブトが、ツノを下げた。

 飛びかかろうと構えたところで、阿藍が精神を集中する。

「光の盾!」

 阿藍達の周りにバリアが張られた。

 巨大鬼クワガタが、顎を開き、飛びかかろうと構えた。

―ドガッッッッッッッッッッッッッッッッッ!

 地面が激しく揺れた。

 眼前で繰り広げられていた光景は酷かった。

 巨大鬼カブトと巨大鬼クワガタが取っ組み合っているのだ。

 カブトがクワガタへ一本ヅノを食らわせている。

 クワガタが負けじとカブトの体を顎で挟み込んでいる。

「ヒ、ヒロト……。む、昔、言ってたよね……」

 青ざめた顔で二匹を見上げながら、悠がぽつりと呟いた。

「カブト対クワガタの夢の対決、見てみたいよな、って……。よ、よかったね、見られて……」

「いいわけねえだろ、サイズが酷過ぎる」

―ズガッ! ズガッ! ズガガァッ! ジャキッ! ジャキッ! ジャキィッ!

 二匹がどつき合いを始めた。

 ずしんずしんと地面が波打つように揺れるが、バリアのおかげで何とかなる。

 小夜子は、阿藍にしがみついていた。

 もう上と下も分からず、地面が崩れていく。

 やがて、バリアは砕け散り……大翔達は転がり落ちた。




児童書で中二っぽいものが来ると間違いなく穢れてしまいますよね。
それでも私はそういう描写を追加しました。
次回は大翔とエージェントサイドになります。
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