琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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誤って投稿し忘れてしまいました。


64 地獄島サバイバル生活

「……ん……」

 夜になり、織美亜の周りの空間が少し歪む。

 しばらく歩いていくと、せせらぎの音が聞こえてきた。

 小川が流れているのだ。

 月明かりを反射して、水面がきらりと光った。

 大翔と織美亜はは屈み込むと、流れる水に手を浸した。

 ひんやりと冷たくて、気持ちいい。

 水を掬って、少しだけ口に含んだ。

 大翔はがぶ飲みしたいのを我慢して、軽く口をゆすぎ、地面に吐き出す。

 しばらく待った。

 舌がピリピリしたり、痺れたりはしなかった。

 恐らく、飲んでも大丈夫だろう。

 大翔と織美亜は両手で水を掬うと、ゴクゴクと飲んだ。

 美味しく冷たく、大翔はバシャバシャと顔を洗い、汗だくの頭にかけた。

 意識がしゃん、とした。

 デイパックを川原に置き、靴と靴下を脱いで、小川に踏み込む。

 大翔はもう我慢できず、シャツとズボンとパンツも脱いで、飛び込んだ。

 

「……ぜってえ、死んだと思ったもんなぁ……。あいつらがいたからよかったのだが」

 大翔は深く息を吐いて、水脈にだらりと仰向けになった。

 悠達とははぐれてしまったが、

 あんなところから雪崩落ちて大翔も小夜子もケガ一つしなかったのは幸運だった。

 織美亜、狼王、阿藍、麻麻が来たのは、予想外だったが。

 

 五人が仰向けになって見上げると、遮るものが何もない空に、丸い月と星が浮かんでいる。

 これで空が赤くなければ、キャンプにでも来ているようだったのに。

 流れる水の音、聞こえてくるスズムシの声。

 何故か不思議と、五人は落ち着いていた。

 自然の中にいると、人間も、野性に戻ってしまうのだろうか。

 

 大翔は悠達の事が心配だったが、暗い中、下手に探して歩き回るのは危険だ。

 向こうには章吾と有栖、双子の姉弟がついている。

 彼らがいるなら、心配ないはずだ。

 

「おっしゃああっ!」

「あら、大翔?」

 何故だか大翔は妙にテンションが上がって、川でバシャバシャ泳ぎ始めた。

「きゃ!」

「……うし! さっぱりしたぁ! 復活!」

 小川から上がると、大翔は行動を開始した。

 力がみなぎり、生まれ変わったように勇気が出た。

 泥だらけになったシャツとズボンを小川でゆすぐ。

 ぎゅうぎゅうと絞ると、パンパンと皺を伸ばして、手近な木の枝に引っかけた。

 パンツだけは穿いた、紳士だからだ。

 デイパックから水筒を取り出し、水を汲む。

 サバイバルで一概大切なのは飲み水の確保だとか。

「問題は、メシだよなぁ……」

「せめて超能力で出せればいいんだけど。アタシは専門外なのよね」

 大翔は、ぐうぐう、と腹が鳴っている。

 食料の確保が必要だった。

 エージェント達も、食べなければ体力が減る。

「カレーにハンバーグに寿司、天ぷら……なんてわけにはいかないもんなぁ……」

「じゃあ、電気ショックを使う?」

「遠慮する」

 ついさっきまで大自然最高!

 なんて思っていたのに、あっという間に文明が恋しくなってきた。

「なけりゃ作ればいいだけだ! 見てろっ! 大場大翔の大自然自炊っ!」

 バシャンとまた顔に水をかけて、気合いを入れる。

 まずは、食料調達からだ。

 大翔はデイパックからナイフを取り出し、早速作業を始めた。

 狼王は斧で竹を切り倒した。

 崖下に生えていた竹から、細めのものを選んだ。

 大翔に渡した後、大翔はあぐらをかいて座り込み、竹から伸びた枝をナイフで落としていく。

 これで、一本の長い竿になる。

 両手で握り、感触を確認……よさそうだ。

 次は、糸だ。

 デイパックから、ツル植物を取り出した。

「……ちょっと、太いかもなぁ」

 ふと、足首に絡みついていた糸に気がついた。

 鬼グモの糸の切れ端だ。

 竹の先端にナイフで穴を開けると、糸を通して、しっかりと結び付けた。

 試しに糸をひいてみると、竹がしなった。

 後は……金属製のクリップが使えそうだ。

 祖父のメモ書きを挟んでいたのを外すと、ぐにっと曲げてJの字形にして、糸の先に結んだ。

 仕上げに、重り代わりの小石をくくりつけて完成。

「じゃんっ! 釣り竿っ!」

「まあ、素敵」

「なかなかね」

 大翔は出来上がった竹の釣り竿を掲げた。

「エサは、と……」

 大翔は竹の切れ端をスコップ代わりにして、ザクザクと土を掘った。

「いたっ」

 ミミズを見つけた。

 ツノが生えている、鬼ミミズだ。

 小さな牙をむいてのたくっている。

 気持ち悪いが、あの鬼昆虫の群れや鬼カブトや鬼クワガタを見た後だと、

 どうって事はない気がする。

「……鬼でもミミズはミミズなんだから大丈夫だろ」

「確かにな、だが油断するなよ」

 掴み上げ、クリップ針に刺した。

 小川に投げ込んで、しばらく待つ。

 釣りには忍耐が必要だ。

 少しすると、竹竿の先端がしなった。

 慎重に、竹竿を引き上げていく。

 鬼グモの糸は丈夫で切れる心配はなさそうだった。

 ビチビチと跳ねながら、魚が水面から釣り上がってきた。

 中サイズのヤマメだった。

 大翔はぴゅいっと口笛を吹いた。

 クリップを外して、平らな岩の上に置いた。

「六人分釣らなきゃな、時間はかかるけど」

 小夜子達は、少し離れた岩陰に隠れて、大翔が帰るのを待っているはずだ。

 またミミズをつけ、クリップ針を小川に垂らした。

 すぐに反応があり、釣り上げた。

―ガッチガッチガッチガッチガッチ……

 口を激しくガッチガッチと噛み合わせている謎の魚が釣れた。

 牙が生え揃い、目玉がやたらと大きい。

 当然のように、ツノが生えていた……鬼ザカナだ。

「もう、なんなんだよこの島は……。鬼のバーゲンセールかよ……」

「だからこそ、俺達の出番だな」

 大翔は釣り上げた鬼ザカナを見て、溜息を吐いた。

 エージェントなら超能力を使えるので、鬼を簡単に撃退できるが。

「食えんのかなぁ? これ……」

「大丈夫でしょ」

 とりあえず、とっておく事にする。

 ヤマメと共に、岩の上に並べた。

 鬼ザカナは、ガッチガッチガッチガッチ……只管、口を開け閉めしている。

「で、調理、か。……焼かねえと駄目だよな」

「パイロキネシス、使えないからね」

 自然の魚には寄生虫がいる事があり、生で食べるのはキケンなのだ。

 刺身にするわけにはいかない。

「火が必要だな。……へへっ。楽勝だぜ」

 魚が釣れて、俄然、テンションが上がってきた。

 サバイバルでの火の付け方は、有名だ。

 以前、大翔はマンガで読んだ事がある。

 大翔は、丈夫そうな木の枝を二本折り取ってきた。

 一本にナイフで小さく窪みをつけると、もう一本を嵌め込む。

 両手のひらで枝を掴み、ぐるぐると回す。

 こうすると、木と木が擦り合わさって、摩擦熱で火がつくのだ。

 大翔は一心不乱に、木の枝をこすり合わせた。

「……あれ、つかねえ。マンガだと、簡単についてたのに。どうしよう……」

「電気で火をつけようかしら?」

「いらねぇよ」

 すると、がさがさと草むらを掻きわける音が近づいてくる。

「なかなか戻ってこないから、来ちゃったよ。どう? 水は呑めそうだった? きゃあっ!」

 現れた小夜子の声は――途中から悲鳴に変わった。

「どうした!?」

 大翔は慌てて木の枝を放り出し、弾けるように立ち上がった。

 油断なく周囲を伺いながら、ダッシュで小夜子に駆け寄った。

「小夜! 大丈夫か?」

「大翔君、格好!」

―パチンッ!

 そっぽを向いた小夜子が、真っ赤な顔で後ろ手に大翔を指差している。

 大翔は思わず、下を向いた。

「ごごごごごめん! ちょ、ちょっと待って!」

 慌てて、木の枝にかけて置いたシャツとズボンをひっぺがして着込む。

 まだ湿りまくっているが、気にしない。

 それに、超能力があるから。

 

「もう。女の子が一緒にいる事、忘れないでよね」

 大翔が着替え終わると、小夜子は溜息を吐いて近寄ってきた。

 小夜子は幽霊なので、服はちっとも汚れていないし、

 泥なんてついてないし、汗一つ掻いていない。

 それはエージェントは周知の通りだが、大翔は当然、知らなかった。

 小夜子は両手に小さな赤い実を持っていた。

「それは?」

「木の実。よく食べたの覚えてるの。この島でしか取れない種類の実なんだって」

「ふうん……?」

「大翔君だけじゃ食科、見つけられないかと思って。そこの人達も戦う事しかできなさそうだし」

「おい」

「なんだよ。ちゃんと捕ったんだぜ? ほら」

 大翔は、並べた魚を指差した。

―ガッチガッチガッチガッチガッチ……

「……何、あれ……」

「……鬼ザカナ。普通の魚もあるから大丈夫だよ。ただ、火がつかなくてさ。

 パイロキネシスも使えないし」

「マッチとか、ないの? スプレー探ってた時に、花火見たよ」

 大翔は慌ててデイパックをひっくり返した。

 線香花火と一緒に、ライターが転がり出てきた。

 数百円のライターを、こんなにありがたく感じるのは始めてだ。

 大翔は駆け回って木の枝をかき集めると、地面に組み上げた。

 焚き火の基本、内側に小さく燃えやすいものを、外側に大きく長く燃えるものを配置していく。

 小枝にライターで火をつけると慎重に差し込んだ。

 やがて、火はゆっくりと燃え広がり始めた。

 後は絶やさないように木の枝を足していけば大丈夫だ。

 いざとなれば、麻麻が電撃を使い、静電気の要領で火を付けられる。

 つまり、バーニングスパークだ。

 小夜子がぱちぱち拍手する。

「凄いじゃん、大翔君。流石、男の子だね」

「別にこんくらい、大した事ないって」

(強さに性別なんて関係ないのに……ま、50年前の幽霊だし、仕方ないか)

 大翔はへへっと鼻の下をこすった。

 

―グウウウ

 腹の虫が盛大に鳴った。

 小夜子がクスクスと笑い、大翔は赤くなった。

「じゃあ、早速焼くぜ!」

「おう!」

 ごまかすと、木の枝を六本、小川で洗い、手早くナイフで尖らせた。

 六匹の魚に刺して、焚き火の脇に立てる。

 これで焼きザカナと、焼き鬼ザカナになるはずだ。

 後は待つだけだ。

 パチッパチッと火の音が響く。

 じっと待っていると、急に静けさが気になった。

 大翔は、ふと、視線を感じて顔を向けた。

 小夜子がすぐ横に座り込んでいた。

 膝を抱えて、じいっと、大翔の事を見つめている。

「……ほんとにそっくりだなあ。ひろくんと」

 懐かしいものでも見るように、目を細めている。

 その瞳に、大翔は何だか、どきりとした。

「ど、どんなやつなの? そいつ」

 大翔は慌てて顔をそらすと、木の実を手にとってかじった。

 体がぼうっと火照ってくるのは、きっと焚き火のせいだろう。

「わたし、生まれつき体が弱かったっていったでしょう?」

 膝を抱えて焚き火を見つめながら小夜子が呟いた。

「……」

「生まれた時から、長くは生きられないって、言われてたみたい。

 お医者さんの見立てでは……中学生には、なれないだろうって」

 何でもない事のように言う。

 大翔は息を呑み、狼王は何故力がなかったんだと無力感を抱く。

「今の時代なら、医学も進歩してそうだけどね。当時は、どうしようもなかったみたいなんだ」

「伝染病も魔女が広めたんだと思ったのよね」

「しかし、適当な事を言う医者だな……」

「魔女狩りよりはマシだけど」

 小夜子の顔色はいいし、昼間は走り回っていた。

 お医者さんの見立ては、ハズレたという事だ。

 大翔や小夜子が生まれた頃より、今は医学も進歩しているんだろう。

「だからね。わたし……友達、作らなかったんだ。だって、そうでしょ?

 どうせ長く生きられないなら、友達作ったって悲しいだけだもの。

 わたしはみんなみたいに、走り回って遊ぶ事もできない。外にも出られない。

 なら、いいや。一人ぼっちで。そう思ってたの」

 大翔は木の実をかじるのをやめて、小夜子を見つめた。

 人形のように綺麗な顔、三つ編みの髪、綺麗な女の子。

「ひろくんはね。そんなわたしを……叱ってくれたんだよ」

 小夜子は、じっと焚き火を覗き込んだ。

 火の向こうに、ひろくんがいるように。

「隣の家に住んでた、幼馴染だったの。よくうちに来て、遊んでくれたんだ。よく言われたの。

 『お前、自分は長生きできないっていうけど、医学は日々進歩してんだぞ。

 中学生になってから、友達、俺しかいないって、泣いたって遅いぞ』って」

「そいつの言う通りだったってわけか」

 パチパチと焚き火が爆ぜている。

 香ばしい匂いが漂ってきた。

 そろそろ、食べ頃だ。

 大翔はヤマメの串を掴むと、小夜子に差し出した。

 織美亜、狼王、阿藍、麻麻は自分の分を食べる。

「わたしはいいよ。食べる必要ないもの」

「遠慮すんなよ。俺は、こっち食っちゃうから」

 小夜子に無理矢理串を握らせると、大翔は焼き鬼ザカナの串を掴んだ。

 目を閉じて、かぶりつく。

 見た目に反して味はいい……なんて事を期待したが、マズかった。

 あんなに食い意地張った鬼達が、共食いしないわけが分かった。

「ど、どう?」

「……うん。なかなかだな。ふわっとしていて、それでいてまろやかで……」

 適当に並べ立てながら、堪えてガツガツと喉に流し込む。

「ほら、小夜も食べろよ。木の実だって、食べてないじゃんか」

「……うん」

 小夜子は頷くと、そっとヤマメに口をつけた。

 

「幽霊は腹なんて空かないぜ」

「……?」

 狼王の呟きに、小夜子はピクリと固まり、大翔は頭に?マークを浮かべる。

 しばらくして、大翔は鬼ザカナをたいらげると、腹いっぱい、と腹を叩いた。

「ひろくん、よく、おにぎり持ってきてくれたんだ。自分が握ったから、食べろって。

 湿気になるおにぎりだからって」

 小夜子は俯いた。

「……病気、だんだん悪くなっていってね。

 わたし、だんだん、何も食べられなくなっていってね。

 ……でも、ひろくんのおにぎりだけは、食べられたんだよね。思い出すなあ……」

 喋りながら、小夜子はぽろぽろと泣き始めた。

「お、おい。大丈夫か? 泣くなよ……」

「ごめん。ママも、パパも、ひろくんも……誰とも会えなくなっちゃったから。

 ひ、人と一緒にご飯食べるのなんて、ひ、久しぶりで……っ」

「ふふ、アナタにはそうかもね」

「お姉さん……」

「任務……というのもあるけど、アタシ達はアナタが大好きなの。天国に導いてあげるわ」

 織美亜は小夜子に頷いてみせた。

「……ありがとう」

 小夜子はにっこりと微笑んだ。

 織美亜は、やはり、彼女は幽霊なんだなと思った。

 何しろ、生気が感じられないからだ。

 

 寝床は、岩陰に作った。

 上が屋根のように突き出している場所で、雨が降っても大丈夫。

 六人で落ち葉や、柔らかそうな草を集めてきて、地面に敷いて敷き布団にした。

「……こうしてると、何だか新婚さんの初夜みたいだねぇ?」

ーぶふへっ!

 大翔は激しくむせた。

 真っ赤になった大翔に小夜子は笑った。

「冗談だよ。大翔くん、お子様だねぇ」

「お、お前だってお子様だろうがっ」

「同じお子様でも、年季が違うのだよ。ふっふっふ」

「じゃ、交代で見張るわ。二人とも、安心して寝てていいわよ。

 超能力は意識がないと使えないからね」

 大翔と小夜子が眠りについた後、エージェントは交代で見張り番をした。




今後は、このようなミスがないようにします。
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