琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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6巻編はこれで終了です。
エージェントは子供ばかりで頼りにならないと思っています。


66 地獄島からの脱出

「よかった、無事だったんだね!」

 大翔達は、丘の上で悠達と合流した。

 四人とも、ピンピンしていた。

 聞けば、悠達は昨夜、海岸で野宿したらしい。

 大翔達と感じように、釣り竿を作って魚を釣り、焼いて食べた。

 さらに植物をとってきて、サラダにした。

「焼き魚、美味しかったんだよ~」

 悠がぺろりと舌なめずりして言う。

「金谷君が海水から塩を濾してくれたから、塩焼きにしたんだよ」

「釣れたて新鮮で、身がひきしまって、すっごく美味しかったわ」

「サラダもよかったのよね」

 葵がうんうん頷く。

「みんなでフルーツをとったの。金谷さんが海水を蒸留して、真水も保ってくれたし。

 不自由はなかったわね」

「夜はみんなでハンモック作って眠ったんだよ!」

「心配してソンしたわ」

「そっちは、どうだったんだ? 大翔」

「お、おう。こっちだって、魚釣って、焼いて食ったんだぜ」

「何が釣れたんだ?」

「ヤマメと……鬼ザカナ」

「もっといいのが釣れるスポットがあったんだがな。腹減ったからって、鬼とか食うなよ。

 その釣り竿も、作りがあめえぞ。いいか、大翔。釣りってのはな……」

「章吾、大翔に説教は馬の耳に念仏よ!」

 有栖が章吾を注意する。

 釣り初心者だったのに、一夜でもう達人レベルになってしまったらしい。

「で、お兄さんやお姉さんはどうなの?」

「問題ない」

「ご飯作って、お風呂焚いて」

「空いた時間で、イカダも作っちまったんだ」

「金谷君と金谷さんが二人でパパパーッて、作っちゃったんだよ」

「有栖がいなかったら時間がかかってたな」

「ありがとう。海岸においてあるから、いつでも脱出できるわよ」

 最早、大翔はずっこけた。

 

「じゃ、行きましょ」

「お、おう。よし! みんな! 脱出するぜ!」

「本当に仲がいいんだね、みんな。……羨ましいな」

 小夜子は楽しそうに笑っている。

 エージェントは何が何でも彼女を守りたかった。

(大丈夫、安心して。それがアタシ達の任務だから)

(お兄さん、お姉さん、わたしを島から連れ出して)

 小夜子は、そう言ってエージェントをじっと見つめた。

(死んでから、随分時間が流れたもの。流石にもう、この世に未練もないんだ。

 その間に、ママもパパも、死んで天国に行っちゃった。

 きっと、わたしがいなくて心配してる。二人とも心配性だったもの)

 エージェントは頷いた。

 それが、彼らの任務だからだ。

 

「イカダは浜辺に隠してある。行こうぜ」

 大翔達は、海岸へ向けて丘を降りていった。

 鬼だらけの島で一夜を明かして、みんな、どこか肝が据わった感じだった。

 海岸までもう数百メートルというところまで差し掛かった時……問題が起こった。

「……げっ! あれは……」

「さっきまでは、なかったのにい……」

 遠目に見えたのだ。

 海岸までの間の地面に……たくさんの穴が開いているのが。

 半径50メートルにも及ぶ穴ぼこ地帯が、海岸の真ん前に出現していた。

 鬼モグラのテリトリーだ。

「やばいぜ。穴、まだ新しい……」

「迂回しましょう。西の草地を大きく回り込めば、海岸に出られるはずよ」

 葵が西を指差した。

―ズガガガガガガガガガガガガガガッ!

―ジャキンッ! ジャキンジャキンッ!

 草地の方から、轟音が響いてきた。

 鬼カブトと鬼クワガタが、相撲を取っているのだ。

「じゃ、じゃあ東の林を回り込んでいこうよ……。

 あっちからでも、海岸に出られるはずだよ……」

 悠が言った。

―ギッチギッチギッチ、ギッチギッチギッチギッチ!

―ミンミンミーンミン! ミンミンミーンミンミン!

 林から、大量の鬼昆虫達の鳴き声と羽音が響いてきた。

「……やるしかないわ!」

 エージェントは一斉に身構えた。

 超能力で、鬼を一網打尽にしようとするのだ。

「あんなたくさんの鬼を、どうやって!?」

「大丈夫、私達には特殊な力がある。押しても引いてもダメなら……ぶつかるだけよ!」

 

 戦いは、大翔達の目から見れば一瞬だった。

 鬼は相当数が多く、力も強かったのだが、超能力の前では無力だった。

 とある世界のとある地獄島では、超能力を自在に操る者は真っ先に排除すべき参加者だが、

 この並行世界では超能力などの特殊な力を持つ者も認められる。

 そう、この四人のエージェントのように。

 

「よし、今だ!」

 海岸へ出た。

 全員、息を弾ませている。

「くそ、なんも見えねえっ!」

 海上には濃い霧が立ち込め、一面真っ白だ。

 対岸にあるはずの島が見えない。

 波が高かった。

 ざぶざぶと勢いよく浜辺に打ち寄せている。

「イカダは無事よ!」

 岩陰に隠していたイカダを有栖が引っ張り出した。

 竹を並べ、ツル草で結んだもので、オールまで用意してある。

「霧が出てるわ。今、行くのはキケンよ!」

「波も荒いよ。収まるまで、待った方がよくない?」

「だったら、超能力を使うまでだ」

 狼王は小夜子の手を掴む。

「それなら、安心だな。よしっ! 全員、しっかり掴まってろ! 振り落とされんなよっ!」

 砂底からオールを放すと、イカダは波に揺られ始めた。

 九人も乗っているのに、壊れる気配はない。

「うわあっ!」

「きゃあっ!」

 波は高く、荒かった。

 突き上げられ、ギシギシと軋む。

 振り落とされないようにみんなで手を握り合った。

 上下に、左右に、大きく揺れながら、イカダは島を離れていく。

 

「……ヒ、ヒロト。あれ……」

 悠が青い顔をして、海の向こうを指差した。

 大翔は悠の指差す先を見た。

 海面から、大きなヒレが突き出して、こっちへ向かってくる。

「ヒロト……。あれ、多分、あの生き物だよ……」

 悠が口元をひきつらせている。

「ほら、海難パニックホラー映画でおなじみの……。ホオジロとか……」

「悠、言うなよ……。聞きたくねぇよ……」

 バシャンっ、と、そいつが海面から顔を出す。

 鬼ザメ、肉食、大きな口、生え揃った乱ぐい歯。

 大口開けたまま、こちらへ向かってくる。

「じょ、冗談はスティーヴン・スピルバーグだけにしてようっ!」

 悠が錯乱する。

「俺が光で目晦ましするからな!」

「電気にも弱いわ! 水は電気を通すけど、それでも私は戦う!」

 阿藍と麻麻が身構える。

 二人は同時に光と電気を放ち、鬼ザメを怯ませた。

 その隙に、みんなでイカダを漕ぐ。

 ふと、大翔は、霧の向こうにぼんやりと、何かが見えているのに気づいた。

 ボートのように小さな舟だ。

 その上に、背の高い人影が立っているのだった。

 櫂を漕いでいる。

 霧に隠れて人影のはっきりした姿は見えなかった。

 

【天国へご用の方は渡し守の案内に従ってください】

 

「……お別れだね」

 ポツリと、小夜子が言った。

 振り向いた大翔の……目の前。

 小夜子は、にっこりと微笑んでいた。

「みんな、ありがとう! ちょっとしか遊べなかったけど……すっごく楽しかった!

 ひろくんに、よろしく伝えてね!

 わたしの分まで長生きして、こっちに来たらまた遊ぼうねって!」

 それから、じっと大翔を見つめた。

「……大翔くん」

 大翔の額に、そっと……唇を寄せた。

 

「……とってもカッコよかったよ」

 

 小夜子はブンブン手を振ると、バシャンと海に飛び込んだ。

 霧の向こう……小舟の方へと泳いでいく。

 小舟に乗っていた人影が手をかざした。

 

「小夜!」

 その瞬間、光がほとばしった。

 普通の人間なら眩しさに目を開けていられないほどの光のうねりが、

 小舟から広がって辺り一帯を包み込んだ。

 大翔達はぎゅっと目を閉じた。

 振り落とされないように、必死にイカダに掴まって、手を握り合う。

 

「小夜ッ!」

 大翔は眩しさを堪えて、目を見開いた。

 小船に乗り込んだ小夜子。

 權を持った人影の横にちょこんと座り込んで、笑ってこちらに手を振っている。

 

 小船は、海の上にいなかった。

 どんどん、どんどん、天高く、空を飛んでいた。

 渡し守が、小夜子を、あの空の向こう、天国へと。

 爆発するように、また光が広がった。

 

 再び、大翔が目を開いた時。

 空の色は、青に戻っていた。

 澄み渡るような、深い青空。

 海で釣りをしている時に見上げていた、夏の空。

 

「任務完了」

 エージェントはテレポートで去った。

 小夜子が言っていた「ひろくん」とは、大翔の祖父、大場博の事だったのだ。




次回は7巻編です。
母親を救うために鬼になる事を選んだ章吾は……?
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