琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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葵が鬼について話します。
多分、成績順としては、葵>>>悠>>>大翔だと思っています。
ちなみに、一応、織美亜と狼王は最低でも中卒です。


6 競技の名前は鬼退治

 夢中で飛び込んだその部屋は、理科室だった。

 黒い長机が並び、宙を埃が漂っている。

 壁際の棚には、薬品の入った瓶や骸骨の標本が並んでいた。

「あのオンチ鬼、なんだったんだよう……」

 怖いなら見なければいいのに、わざわざ骸骨標本に近づいて顔をひきつらせながら、悠が言う。

 

「……多分、ギュウキ、だと思う」

 答える葵の声は冷静だ。

「ギュウキ?」

「なんだ、それは?」

「牛の鬼と書いて、牛鬼。色んな昔話の中で語られてる、メジャーな鬼の妖怪ね」

 葵は腕を組んで言った。

 ぱちぱちと瞬きする大翔達に、テストの答えでも解説するように続けた。

「一口に鬼、といっても、色んな種類のものがいるのよ。

 赤鬼、青鬼、みたいな有名どころから、餓鬼、邪鬼、夜叉、羅刹……様々ね。

 中でも牛鬼は有名なものの一つで、牛の頭を持った鬼の妖怪よ。

 人間を襲って食べると言われているわ」

「へええ。……ってアオイ、どうしてそんなに詳しいの?」

 悠が不思議そうに首を傾げた。

「作り話の妖怪の事なんて、頭のいい子は、馬鹿にしてそうなのに」

「ふっ。本当に頭のいい人間は、作り話を馬鹿になんてしないものよ。

 伝承や逸話というものには、人間の知恵や時代時代の世相が込められているのだもの。

 何事も、素直に学び、吸収する。

 この姿勢こそが、学問を志す者として最も大切な事であると、あたしは思っているのよ」

「ヘー。よく分かんないけど、やっぱりアオイは凄いんだなぁ……」

 大翔は、葵が一時期妖怪もののギャグアニメにハマりまくって、

 妖怪の閲連本を片っ端から集めていた事を知っていたが、口に出すのはやめておいた。

「そもそも『おに』っていうのは『おぬ』が転じたもので、

 姿の見えないものや、この世ならざるものを意味したの。

 そこから人の力を超えたもの、災いの象徴となっていき、

 さらには陰陽思想や浄土思想など色々なものが混じり合っていって……つまりは……」

 「ガリ勉宮原」の本領発揮だ。

 大翔と悠がうんざりする中、葵は得意そうに鬼のうんちくを話し続けた。

「さらには……。ついでに言えば……。もっと行ってしまえば……」

 狼王は、真剣に葵の話を聞いていた。

 

「……とまぁ、そんなわけで、一口に鬼と言っても、色々いるわけなのよ」

 ようやく長い長い話が終わり、大翔と悠は時計を見上げた。

「……悠、何分経った?」

「20分。これだけ長話を続けられるって、女子の口は一体どうなってるんだ。鬼より怖いよ」

「デリカシーがないな、女にそんな事を言うのは禁句だぞ」

 二人がぼそぼそ言い合うのと、狼王が突っ込むのに構わず、葵はうーんと腕を組んだ。

「後、話してないのは、牛頭鬼(ごずき)の事かなぁ」

「まだあるの?」

 悠が涙目になる。

「短く終わる?」

「泣くほど嬉しい? そんなに聞きたいなら話すけど、牛頭鬼は地獄の獄卒なの」

「獄卒って何?」

「……地獄の檻から人間が逃げ出さないように見張る、看守の事」

「……」

 四人は窓から、外を見やった。

 周囲を囲うフェンスと針山。

 固く閉ざされた門。

 子供達を捕らえた、地獄の檻。

「牛頭鬼は地獄の獄卒のリーダーなのよ」

 低い声で、葵は続けた。

「獰猛で残忍、怪力と性質(たち)が悪いわ。出会えば必ず理由なく人を殺すって言われてる。

 伝承の中では、何人もの人間が牛頭鬼の犠牲になっているわね……」

「……」

 大翔、悠、狼王は、ごくりと唾を飲んだ。

 葵はしばらく青くなった三人を見つめていたが、やがて、ふっふっふー、と満足そうに笑った。

(……葵、怪談話で人を怖がらせるの、好きだな)

「そんな顔しない。人間がそうした鬼を退治する話だって、たくさんあるんだから」

「退治する話も?」

「もちろん。伝承にいくつも残ってるわ。『太平記』では、源頼光が牛頭鬼を退治してるわね。

 愛媛県では、修行僧がホラガイを吹いて真言を唱え、鬼を怯ませて退治した話が残ってる」

「ホラガイかぁ……」

 悠がうーむと唸りながら理科室の棚を漁り始める。

「……これかな?」

「それはホラガイじゃなくてアンモナイトの化石。0点」

「0点かぁ……」

 その時、ガラッと理科室のドアが開いて、三人は飛び上がった。

 狼王は斧を取り出そうとしている。

 慌てて振り返ると、大きな人影が立っていた。

「大場、宮原、桜井、無事か!? ……そして、高校生も来ているのか!?」

「オレは高校生ではない!」

 高学年担当の体育教師、荒木先生だった。

 朝、みんなで待っていた先生だった。

 まだ学校に、大人が残っていたようだ。

 荒木先生は部屋に飛び込んでくると、立ち尽くす三人と、身構えた狼王を、

 がばっとまとめて抱え込んだ。

 見上げる体は熊のように大きく、がっしりと広い肩幅。

「怪我はないか! 大丈夫だな?」

「ああ、問題ない」

 部屋の入り口に、もう二つの人影があった。

 伊藤孝司と、島袋織美亜だ。

 孝司は眼鏡はきちんとあるし、怪我もしていない。

 職員室で鬼に襲われた後、織美亜が傷を癒してくれたのだ。

「へへっ、どうだ!」

「うふふ、ただいま」

 織美亜は鬼を撃退できたようで、笑みを浮かべる。

 孝司は三人を見て、荒木先生を目で示すと、にっと笑って親指を立ててみせた。

 ピンチに駆けつけた、正義の味方のように。

「三人とも、よく頑張った。怖かったろう」

 荒木先生は、力強く頷きかけた。

「もう大丈夫だぞ。安心しろ。後は先生が、何とかしてやるからな」

「アタシも力になってあげるわ。狼王、協力してね」

「……ああ」

 安堵に足から力が抜けて、三人はぺたんと床に座り込んだ。




先生は頼りになりますが、デスゲームものでは……。

でも私はひねくれものです。
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