琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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死神との鬼ごっこです。
グリム童話の死神は、某サイトで見た事はありますが、よく分かりませんでした。


69 死神の追跡

「私ね、あなたの姉でよかったと思ってる」

 有栖は章吾と阿藍と共に、学校近くの公園に来ていた。

「章吾は、私が一番守りたい人なの。ほら、超能力者って孤独でしょ?

 でも、守る人がいたら、孤独じゃなくなるわ」

「うぐっ」

 痛いところを突かれて唸る阿藍。

 教えてくれたのは彼で、章吾の様子に、何か思うところがあったらしい。

 あの翌日、病院で働いている看護師に、それとなく訊いてきてくれたのだ。

「……ったく、強引な奴だな。ほんと、尊敬するぜ。真似できねえよ。有栖は自慢の姉だけど」

 地面に半分埋まったタイヤに座り込み、

 章吾は何か眩しいものでも見るように目を細めて、有栖を見上げた。

「この頃、あんたが悩んでるの……その事なんだな」

「だったら、どうだっていうんだ?」

「私と章吾の母さんが病気で死にそうだから、お兄さんが治してくれるの?」

「いや、俺は専門外だ。……でも、何か、力になりたいんだ」

「お兄さんに相談したの。ねえ、章吾……」

「世の中には、どうしようもない事があるんだよ」

「超能力さえあれば可能だ。俺達を信じろ」

「いい加減にしないと、ぶつわよ」

 阿藍と有栖は章吾を説得しようとした。

「……あの黒ローブ、見た?」

「……知らねーな」

「あれは死神よ。倒さなきゃいけないの」

 有栖は片手を開いて、章吾にそう言った。

 姉として、時にはこうしなければならないと。

 

「さて、作戦会議といくか」

「……」

 有栖は、章吾の揺らめく影を、ちらっと見つめた。

 

「はい! これが“死神”についての資料よ」

 でんっ……と、机に積まれた大量の本に、大翔と悠は口元を引きつらせた。

 桜ヶ島図書館、調べ物学習ルーム。

 図書館資料を使って話し合いのできるスペースだ。

 葵が机に本を山と積み、ほとんど将棋倒しのようになっている。

 ドサドサドサッ……と、端の方が崩れ落ちた。

「こ、これ、全部読むの……?」

 悠がうめいた。

「むしろもう読んだわ」

「「読んだの?」」

 二人は卒倒しかけた。

「いや、全文じゃないわよ? ポイントポイントだけ。

 昨日一日あったから、めぼしいものに目を通しておいたってだけよ。

 と、いってもね。残念ながら、参考になりそうなものはあまりなかったの」

 葵は一冊一冊本を手に取り、机の脇に避けていく。

「多かったのは、宗教に関する本ね。

 死神にまつわる信仰の歴史とか、興味深くはあったけど……あまり参考にはなりそうもないわ」

「きっと、その中には魔女もいただろうな」

「そうね……気になったのは、むしろこれかしら?」

 と、葵が手にしたのは、何故か『グリム童話集』だった。

「そこまで有名じゃないから、

 知らないと思うけど……グリム童話の中の一つに、“死神”が出てくるお話があるのよ。

 タイトルは『死神の名付け親』」

 葵は『グリム童話集』のページをめくりながら続けた。

「そのお話の中で、死神が、主人公を洞窟へ連れていくシーンがあるんだけどね。

 その洞窟の中に……人の命を表すロウソクが、たくさん並んでるの」

 大翔と悠は顔を見合わせ、頷き合った。

「うっし! じゃあ、その話を参考にすればいいな。

 作者が、実際に死神を見た事あるのかもしれねえし」

 昔の神話や寓話の中には、時々そういうものがあるという。

 作者の実体験が、時代を超えて、物語の形になって残るのだ。

「んで、葵。その話の中で、主人公は、どうやって死神をやっつけるんだ?」

「……あのねえ」

 勢い込んでいく大翔に、葵は呆れたように溜息を吐いた。

「これ、グリム童話なの。『少年ジャンプ』じゃないのよ。やっつけ方なんて、書いてないわ」

「じゃ、お話は、どうなるんだよ?」

「主人公は、死神に、自分のロウソクの火を消されて死んじゃうの」

「……その後は?」

「それで、おしまい」

「なんですって?」

「他の本も色々調べたんだけど、収穫なし。人間が死神退治に成功する話は見つからなかったわ。

 鬼退治の話はたくさんあるのに、死神退治の本ってないの」

 大翔、悠、有栖は唸った。

 葵は、それで思ったんだけど……と続けた。

「そもそも……やっつけていいようなものなのかしら? 死神って」

「当たり前だろ? 人を死なせるんだぜ?」

 何言い出すんだ、と首を傾げる大翔に、葵は難しい顔をして腕を組む。

「でも、仮にも神様なのよ?」

「神様ったって、死神だろ?」

「死神だけど、神様でしょ? グリム童話でも、死神は悪としては描かれてないの。

 むしろこの説は、死神を騙した主人公が、その報いを受けるって話なのよ。

 悪いのは、分をわきまえない人の方として描かれてる」

「よく言うな」

「死神だけど、神は神。人が死神を退治する昔話は見当たらない。

 ……きっとそれは、昔の人は、

 人が死ぬのは自然の摂理だって、分かっていたからなんだと思うの」

「だとしたら、超能力者(おれたち)はことごとく、自然の摂理に反しているだろうな。

 神様だって殺してみせる……とよく言うし」

「……あたし、あの黒ローブの人影が、そんな悪い奴だとは思えないの」

「何言うんだよ。救急車で運ばれてきた人、あいつにやられちゃったんだぞ」

「でも、あの人はもう死にかかっていたでしょう?

 死ぬ運命(さだめ)の人間を、あの世へ連れていく――それって、悪い事なのかな」

「俺はあいつに襲われかけたんだぜ」

「襲われたんじゃなくて、何か訊かれたんでしょ?」

 葵は訂正する。

「あたしの推理なんだけど……元々死期の近づいた人には、死神の姿が見えるんじゃないかしら。

 だからあの時、黒ローブ……死神は、大翔とお兄さんに近づいてきた。

 死神の事が見えてる大翔とお兄さん、あの世へ連れていくべき人間だと思って」

「そういや、悠、葵、有栖はあの時、どうしてたんだ?」

「僕、目、逸らしてたんだ。何となく、見ない方がいいと思って」

「あたしも」

「私も」

 大翔は肩を落とした。

 じっと見ていたせいで、大翔と阿藍だけ死神に目をつけられたらしい。

「でも死神は、すぐにおかしいって気づいたんじゃないかな。

 だって大翔とお兄さんは、どう見ても死期の近づいた人には見えないもの」

「むしろもう100年くらい生きそうだよね、ヒロトは」

「それで、問いかけていたんじゃないの?

 『どうして死神の姿が見えるのか?』とか、『お前は死にかけているのか?』とかそんな事を」

 確かにあの時、死神は、ずっと問いを発していた。

 辛抱強く大翔と阿藍に何か訊いているようだった。

 向こうにその気があるのなら、すぐに二人の火を消していたはずだ。

「死神には死神のルールがある。それは、運命とか天命とか言うかもしれない」

「だからこそ、逆らうと罰が下るのか」

 

 超能力者は、自然の摂理を無視するチカラを有するのを、阿藍は知った。




人間は運命や自然の摂理には逆らえない、という事が分かりましたネ。
しかし、エージェントはそれにも逆らえる恐ろしい存在なのです。
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