73 桃鬼を追って
「……そうか、失敗してしまったか」
「申し訳ありません」
阿藍は依頼主である有栖の双子の弟・章吾を守れなかった事を報告する。
司令官は鬼が関わっている事を知っていたのに、それに気づけなかったなんて……と落胆する。
「だが、失敗は成功の基と言う。決して失敗を悔やんではならない。それを次に生かすのだ」
「……はい」
章吾を守れなかったなら、今度こそ章吾を取り戻せばいいのだ。
司令官に言われた阿藍は何とか調子を取り戻した。
「有栖……大丈夫だろうか」
そうは言われても、阿藍は有栖が気がかりだった。
弟を取り戻せなかった有栖は、きっとショックを受けているのだろう。
「……さて、次の任務じゃが、そなたらは『桃鬼』を追ってほしいのじゃ」
「桃鬼?」
「地獄には、色を冠する鬼が多数存在する。赤鬼、青鬼は最も有名じゃろう。
その中の一人として、桃鬼がおる」
名のある鬼は単純な力だけでなく、自分達のような超能力を使える者もいる。
黒鬼も、赤鬼や青鬼同様、色を冠している。
なので、決して手を抜いてはならないと司令官はエージェントに言った。
「何故、桃鬼を?」
「鬼について知るためじゃ」
「それなら、司令官だけで十分ですよ」
「……儂はこの島から動けぬ。故にそなたらが任務を遂行するのじゃ」
司令官は非常に知能が高く、その気になれば完璧に物事を理解できる。
しかし、車椅子に座っていてしかもまだ幼い彼は、この小さな島から動く事はできない。
コードネームの「No.0」――愚者とは、全く正反対の、聡明な彼らしい考えだ。
「……分かりました。して、桃鬼はどこに……?」
「ここじゃ」
一は地図を取り出し、四人に見せる。
桃鬼の居場所は、赤い丸で書かれていた。
「ここに桃鬼がいるのですね?」
「左様。そこに住まう桃鬼を調査せよ。それが、今回の任務じゃ」
「はい!」
桃鬼がどんな鬼なのかは知らされていない。
なので、エージェントが直接見に行くしかない。
「では、行ってまいります」
「待て」
エージェントが桃鬼を探そうとすると、一が急に制止する。
四人は何を伝えようとしているのかと振り返った。
「たとえ、どのような真実が待ち受けようとも……真実の重さに潰されぬ覚悟はあるか?」
「……」
それは、エージェントへの覚悟の問いだ。
真実というのは良いものばかりではない。
それを聞いても、心は揺らがないのか……という、エージェントの強さを試す言葉だった。
阿藍は少しだけ迷った。
章吾が黒鬼になって、有栖が落ち込んだ事で、自分は間違った事をしたと思った。
だとしたら、章吾を助けようとして、また、絶望を叩きつけられるのではないかと。
「どうして落ち込むの?」
そんな阿藍を励ましたのは、仲間の麻麻だった。
「私達は同じ仲間、琉球エージェントじゃない。たった一人に心が揺らぐなんてどうかしてるわ」
はっきりと言い切る麻麻。
エージェントは冷徹であっても、決して冷酷・残酷ではない。
仲間の温かさを大事にしている立派な人間なのだ。
「……麻麻……」
「とにかく、桃鬼を探すのよ。どんな真実が待ち受けていたとしても、私達は仲間なんだから」
琉球エージェントは仲間、それを聞いた阿藍の目から涙がこぼれた。
麻麻は、ここまで饒舌になったのはいつぶりか、と心の中で思っていた。
「ありがとう、麻麻。すっかり忘れていた。仲間以上に大切なものはないって」
「元気になってくれて、ありがとう。……それじゃあ、行くわよ、みんな」
そう言って、麻麻、織美亜、狼王、阿藍は、テレポートで目的地に行くのだった。
「桃鬼……一体、何者なのか……」
その鬼の正体を知った時、エージェントはどうなるのか。
今、エージェントは真実を知ろうとしていた。
8巻は大翔達の修行回ですが、エージェントがメインなのでカットします。
その代わり、オリジナル展開が続くのでご了承ください。