琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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8巻編の後編です。
織美亜達が追っている、桃鬼の正体が明かされます。


74 真に優しき鬼

 集まった織美亜達は桃鬼の居場所を調査していた。

 

「自分で調査しろ、ですって?」

 織美亜は肝心な事を言わなかった司令官に文句を言うが、これも自分で考えろという。

「とりあえず、超能力を使うか」

 本当は自分の足で探したいが、一般人が鬼の事を知っているわけがない。

 そのため、阿藍は超能力で世界にアクセスし、桃鬼の居場所を探そうとしているのだ。

 超能力者は常に孤独な道を歩まなければならない。

 しかし、エージェントには仲間がいる。

 仲間との絆があれば鬼の力を上回り、鬼に狙われる子供を救う事ができるのだ。

「アタシ達を信じてね、阿藍」

「辛くなったら、オレ達が負担するからな」

「だから、無理しないでね」

「ありがとう……」

 織美亜、狼王、麻麻は阿藍の手に自分の手を載せ、自分達が仲間である事を現した。

 阿藍は三人の絆を改めて感じ、精神を集中した。

 

「……」

 精神を集中している阿藍を、織美亜達は見守った。

 彼の周りには光が集まっている。

 まるで、自分達を鬼のもとへ導く標のようだった。

 

 しばらくすると、阿藍の中に情報が入り込む。

 桜ヶ島郊外の洋館を改築した洋館に、桃鬼はいる。

 その場所は、桜ヶ島小学校から8時の方向にある。

「8時の方向か」

 きっと、そこは遠い場所にあるのだろう。

 しかし、テレポートが使える超能力者にとって、距離と言うのはあってないようなもの。

 全員、先程の阿藍と同じように、精神を集中した。

 瞬間、四人の姿は一瞬にして消えるのだった。

 

 すたっ、と桃鬼が待つ洋館に降り立つ四人。

「ここに、桃鬼がいるのね……?」

 きょろきょろと辺りを見渡す織美亜。

 早速、洋館に向かってみるが、

 あるべきはずの洋館はまるで区画ごと切り取られたようになくなっている。

 超能力者である四人には、鬼の結界が張られている事が分かる。

「鬼も結界を張るのね……」

 織美亜がぼやいた後、狼王と阿藍が前に立つ。

 狼王は空間から斧を取り出し、破壊しようとする。

「とりあえず、壊すとするか」

 狼王が斧を振り下ろすと、結界は音を立てて砕け散った。

 伊達に「力」の能力者ではない事が証明された。

「入るわよ」

「……」

 織美亜が先導する中、何故か麻麻は黙っていた。

 洋館の中は薄暗く、不気味なほどに静まり返っている。

 その広いホールには、桃色の髪をツインテールにした、一人の女性が立っていた。

 彼女の額には鬼を象徴する一本の角が生えている。

「あなたが……桃鬼?」

 それまで口を開かなかった麻麻が、ゆっくりと口を開く。

 女性は小さく頷いた。

「そう、私は桃鬼。地獄に住む色鬼の一人。あなた達は何の用でここに来たの?」

「司令官の任務。あなたを探しに来たの」

 麻麻は桃鬼に自分達の目的を話す。

 彼女と戦うつもりはなく、ただ、彼女を見つける事だけが目的なのだ。

 だが、何故か桃鬼は首を振っていた。

「私に近づかないで」

「どうして?」

「どうしても知りたいというのなら……覚悟は、できている?」

 覚悟はできている、という桃鬼の言葉を聞いて、エージェントは全員、頷いた。

 司令官から同じ事を言われたからだ。

「そう……なら、私の口から言わせてもらうわ」

 桃鬼はエージェントの目を見た後、ゆっくりと口を開いた。

 

「……あなた達を“作った”のは、私」

「え……それって、どういう事?」

 織美亜は桃鬼が自分達を作ったと聞いて、軽い衝撃を受けながらも目を逸らさなかった。

 桃鬼は静かに話を続ける。

「私は、来るべき時のために、あなた達を拉致した。

 それまでの名前は捨て、新たな名前と私の力を与えた。あなた達が超能力と呼んでいる力を」

「そ、そんな……!」

 鬼を圧倒する力の由来が、鬼の力だったとは。

 ショックを受ける四人をよそに、桃鬼は麻麻の顔を見て言った。

「あなたには、きょうだいがいるでしょう?」

「ええ……」

「上原家は私達鬼を祓う我妻家の分家だったけど、何の力も持っていなかった。

 だから、私は上原家に力を与えて、結果的に我妻家より強くしたの」

 麻麻は三人きょうだいの末娘だ。

 確かに、他のメンバーは家族の事を一言も話さなかったが、

 自分が鬼祓いの家の血を引いていた事に何も言えない麻麻。

「桃鬼、どうしてそんな事をしたの?」

「私が人間だった時、かつて、家族がいた」

 桃鬼は元々人間だった。

 恋人が鬼になり、彼女を討ち取った阿藍は、その事実に呆然としている。

「けれど、世界には鬼という、子供を食糧としか思っていない存在がいた。

 戦おうにも、私はただの人間で、鬼に対抗する力は持たなかった。

 だから、大切なものを守るために秘術を身に着け、私は鬼になり、家族を捨てた。

 鬼は怯えている子供の肉を好む……それなのに、私は何も変わらなかった。

 それどころか子供は守るものと思うようになった。

 ……私は子供を守るために力を授けようと思った。そして、あなた達を拉致した。

 だけど、それがいけなかった。他の鬼達は子供を守る私を忌み嫌った。

 子供は食糧、それなのに守るなんて、どういう事なんだと。

 こうして、私は人間からも鬼からも逃げた。逃げて逃げて逃げて……ここに着いたの」

 桃鬼は鬼の中では極めて善良だった。

 それ故に、鬼の中では異端として扱われ、人間もまた鬼を嫌っているのは当然である。

 こうして、人間からも鬼からも忌み嫌われる彼女は引きこもったという。

「ここまで聞いたら……あなたは私を倒すの?」

 鬼は倒すべき存在だ。

 そう、司令官から何度も聞かされていた。

 しかし、善良な鬼も倒していいのだろうか。

 織美亜達には、そんな事はできなかった。

 

「……そう、戦わないのね。ならば……帰りなさい。私はこれから、永い眠りに……」

「待って! どうして、自ら眠りを選ぶの?」

 麻麻は珍しく、慌てて眠ろうとする桃鬼を止める。

「私は人間からも鬼からも嫌われているから。

 どちらにも受け入れられないならば、いっその事、眠りを選ぶ方がマシよ」

「ダメ! 確かに、私達は鬼を倒すのが仕事なの。

 だけど、あなたは子供を食べたくないんでしょ?

 私達にみんなを守るための力を与えたんでしょ? だったら、眠らない方がいいわ!」

 声を張り上げる麻麻。

 普段は明るくも落ち着いた彼女だが、ここまで感情的になるのは珍しかった。

 エージェントの超能力者は桃鬼由来だから、彼女が眠りにつけば力を失ってしまう。

 そんな事は絶対に、麻麻は許さなかった。

 

「……そこまで私を心配しているなら、私はずっとここにいるわ」

 そんな麻麻に負けたのか、桃鬼は思いとどまる。

 あくまで調査が目的なので、彼女とは戦闘せず、できれば和解したかったのだ。

 それが叶った事で四人はほっと胸を撫で下ろした。

 

「さあ、分かったなら帰りなさい」

「ありがとうございます」

 四人は自らの出自を教えた桃鬼にお礼を言った。

 桃鬼は「どういたしまして」と言って、テレポートで帰還する四人を見送った。

 

「あの人達なら、きっと、鬼を止めてくれる。結界で封じてくれたら、いずれ……」




次回は9巻編です。
小学生編も、いよいよ終わりを迎えようとしています。
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