エージェントも活躍させたいと思って、きちんと書きました。
「矢が飛んできたんだ。あっちの方からだ」
「……何?」
大翔は道路の反対側を見上げた。
ガードレールの反対側は、山の斜面になっていて、背の高い木々が立ち並んでいる。
杉の木の枝の上から、こちらを見下ろしている小柄な人影があった。
全身をすっぽりと、ぼろい外套に包み込んでいる。
背中に矢筒を背負い、手には弓。
目深に笠を被っていて、顔は見えない。
「あの人が助けてくれたってこと? 危ないところ、ありがとうございまーす!
助かりましたー!」
悠がぶんぶんと手を振った。
「あたしとしては、そんなに都合よく助けが来るとは思えないんだけど。
あれも鬼なんじゃないの?」
「都合よく助けが来るのは、アニメだけで十分よ」
「……童に、異能者か」
「え? どうして、アタシ達を……」
人影が、ぼそりと呟いた。
しわがれた、老人の声だ。
「引き返せ、童ども。この先は、人の身で来るべきところではない。
そして、異能者もまた、いるべきではない」
ひょいと笠を持ち上げた。
ボロボロの包帯を目隠しにして両目を覆っている。
皺に埋もれた口元から、小さな牙が覗いている。
そして、額に生えた二本の角。
「ワシの名は叉鬼。
人の頃より野山を巡り、強き獲物を狩る事を無上の喜びとしてきた地獄の狩人。
黒鬼より招待状を受け、参上した」
「人の頃より……だから、アタシがチカラある者と知ってたのね」
鬼に力を与えられた織美亜が、複雑な表情をする。
人影――叉鬼は言ってひらひらとカードを振った。
誕生会の招待カードだ。
「短い夢だった……」
「そんなわけないわ。アナタを、倒す」
悠ががっくりと肩を落とし、織美亜が叉鬼に拳を向ける。
「黒鬼の仲間なら、どうして私達を助けてくれたの……?」
有栖は、警戒しながら訊いた。
「仲間ではない。むしろ、黒鬼のやり方は好かんわ」
「要するに敵の敵は味方にあらずか」
「左様。奴は、獲物を
無益な苦痛や殺生を好まぬ、ワシのやり方とはまるで相容れぬ。
ちょいと邪魔をしてやろうと思うて、助けたのだ。
ぬしら、鬼になる仲間を止めに行くらしいの?」
「当然よ、私の弟だもの」
有栖は頷いた。
「協力してくれるの?」
「いいや、やめておけえ。貴重な命、むざむざ散らす事はあるめえ」
叉鬼は、ゆるりと首を振った。
「童は童らしく、家に帰れえ。家に帰って、飯食って、風呂入って宿題して歯ぁ磨いて寝れ。そ
して、異能者もこれ以上関わるな」
「嫌よ」
「や、やなこった!」
織美亜と大翔は首を振った。
「アタシ達は、任務で来ているの。任務を放棄するのは、エージェントじゃないわ」
「危険は承知で来てんだ! 今更、引き返すかってんだ!」
「ふむ。……耳の一つでも落とせば帰りたくなるかの?」
叉鬼は呟くと、流れるような動きで弓に矢を二本番え、悠と葵に向けた。
二人はぽかんとした。
―ひゅんひゅんっ!
「大丈夫だ」
阿藍は素手で二つの矢を同時に取った。
光を使う阿藍のスピードは、全エージェント中最速である。
ならば、叉鬼の矢を掴むくらい難しい事ではなく、阿藍は地面に矢を投げ捨てる。
「なるほど、それが異能者か……やはり価値がある」
再び叉鬼が矢を飛ばすも、阿藍はそれらを素手で受け止め、投げ捨てる。
あまりの速さに、子供達は驚きを隠せない。
と、その時、合唱が響いてきた。
首を向けると、道路の向こうから、何台もの鬼タクシーが走ってくる。
『はっぴ ばーすでー とぅー ゆうー!! はっぴ ばーすでー とぅー ゆうー!!
はっぴ ばーすでー でぃあ 黒鬼章吾くぅ~ん!
はっぴ ばーすでー とぅー ゆぅぅ!!』
「……招待客が多すぎる。芸能人の誕生会だってこんなに来ないぞ」
荒木先生は冷や汗をかき、四人はうん、と頷く。
「仕方ない。お前ら、先に金谷のところへ向かえ。そっちの斜面はまだなだらかだ。
駆け下りて森を突っ切れ」
「せ、先生にそこの人は?」
「戦う」
車のトランクレバーに、拳を叩きつけた。
ごちゃごちゃと物が詰め込まれたトランクからロープを取り出し、ガードレールに巻きつけた。
そしてバットを取り出し、ぶんぶんと素振りする。
「さあ、行け。俺は後で追いつく。急がないと、金谷の弟が心配だ」
「でも……」
「エージェントは死なない。だって、チカラがあるんだから」
大翔達は頷いた。
「さあ、行け!」
矢が飛び、鬼達の合唱が近づいてくる。
大翔達は、車の陰から飛び出した。
ガードレールを飛び越える。
ロープを握り締め、急な斜面に足を踏み出す。
「任せたぞっ! 金谷の弟を救えっ!」
荒木先生の声を背に、転がるように森へ降りていった。
「エージェントには体力がある。だから、負けない」
「異能者は鬼に優しくないんでね」
鬼との戦闘が、始まった。
「いくぞ……はぁぁぁぁっ!」
狼王はタクシーの中から現れた餓鬼に斧を勢いよく振り下ろして真っ二つにした。
織美亜は餓鬼を何とか取り押さえ、阿藍が光を当てて倒した。
「電撃投射!」
麻麻に餓鬼が群がるも、彼女は攻撃をかわして電撃を浴びせる。
電撃を浴びた餓鬼が麻痺した隙に、阿藍が光の力を使って餓鬼を倒した。
残っている一際大きな餓鬼の群れに、織美亜と麻麻の女性エージェント達は立ち向かう。
細胞を破壊する力と、電撃を操る力により、餓鬼の群れは追い詰められていく。
「ぐおっ!」
餓鬼が棍棒を振り下ろして阿藍を思い切り殴りつける。
かなりのダメージだが、阿藍はまだ倒れていない。
それどころか、すぐに決着をつけるようだ。
「狼王……」
「分かってる、食らえーーーーっ!!」
そう言って狼王が斧を振ると、餓鬼の群れはゴミのようになぎ倒された。
こうして、エージェントは餓鬼を全て倒した。
「お、鬼をあっさり倒すとは……」
エージェントの戦闘能力に唖然とする荒木先生。
同時に、自分は何の力も持たない、普通の人間なんだ、と思い知らされた。
あの小学校での出来事は、夢ではなかったのだ。
「荒木先生、アタシ達も追いかけましょう」
「そ、そ、そうだな」
荒木先生は慌てながらも、エージェントと共に先を急ぐのだった。
同時に、超能力スゲー、と思ったとか。
叉鬼は狩りを極めた結果、鬼になった存在です。
だから、慣れ合う事を好まないんですよね。