琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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この先でもオリキャラが大活躍します。
くれぐれも原作のイメージを崩したくない方は読むのをおやめください。


79 ハンティング

「ちょっと待って、大翔! ストップ、ストップ!」

 悠の言葉に、大翔はピタリと足を止めた。

 織美亜達は、辺りを見渡す。

「また、ヤバイ感じか?」

「うん。その先は、なんとなーく、嫌な感じがするよ……」

 悠が、前方の地面の辺りを指差して言う。

 麻麻が、多すぎるわね、と肩を竦めた。

 森の中だった。

 枯葉が積もり、木々が絡まるように伸びて生い茂っていて、見通しが悪い。

 地面に、特に怪しいところはなかった。

「待て、用意しろ」

「あ、ああ」

 狼王に言われた大翔は、腰のベルトから木刀を引き抜くと、前方の地面に突き刺した。

 慎重に押しながら歩いていくと手応えが変わった。

 力を込めて押すと、バサッ……と、土が落ちる。

 覗き込むと、3mほどの穴の底に、尖った竹が突き刺さっている。

「こんなワナ、引っかかるかってんだ」

 大翔は、ふんっ、と鼻息を吐いた。

「オレ達は……特別な奴だからな」

 森にはたくさんのワナが仕掛けられているが、

 エージェントがいれば、大抵のワナは回避できるはずだ。

 大翔は、空を見上げた。

 真っ黒で重たそうな雲が轟々と空に広がっている。

 陽は隠れ、まだ午前中のはずなのに、辺りは暗かった。

 見渡す限り同じ景色の、だだっ広い森。

 迷う心配はなかった。

 北西の方角に、時折、花火が上がっているからだ。

 ご丁寧に会場の場所を知らせてくれているらしい。

「あんまりアテにしないでね。さっきからずっと、嫌な感じがしてるくらいなんだ」

 悠が、不安そうに辺りを見回した。

「ずっと?」

「うん。森に入って少ししてから、ずっと。背筋がぞわぞわしてる」

「こんな状況じゃ、当然よね」

「いや、そんなんじゃないと思う」

 葵が落とし穴を覗き込んで、眉をひそめている。

 有栖は悠の様子に気づいているようだが。

 

「ともかく、進もう。先を急がなくちゃ」

 大翔は落とし穴をぐるっと回り込んで進んでいく。

「また嫌な予感がしたら言ってくれ、悠」

「うん。そっちの道も嫌な予感がする」

「もうちょっと早く言ってくれえっ!」

 バサッと足元の土が崩れ落ちる。

 狼王はギリギリで大翔の手を掴んだ。

 落とし穴の縁に手をかけ、大翔は口元を引きつらせた。

 

 八人の後方、約100m。

 カサリ、と風もないのに茂みが揺れた。

 

「……引っかからんか。よほどカンのいい童に力ある異能者がいるようだ」

 現れたのは、叉鬼だった。

 大翔達が歩き去るのを待って、足音もなく近づいてくると、地面に屈み込んだ。

 じいっ……と、目隠し越しに地面を見つめている。

「……なるほど、この童に、異能者か」

 覗き込んでいるのは、足跡だった。

 目を凝らさないと分からないような、うっすらと土に残っただけの、八人への足跡だ。

 叉鬼は、足跡を指でなぞった。

「15歳、158cm、三体数は84、56、86。16歳、180cm。19歳、177cm。

 17歳、160cm、三体数は86、57、87」

 まず、叉鬼はエージェントの足跡を確認する。

「11……12歳か。身長140cm後半、体重40kgというところか。

 マイペースで、気の優しい童だの。臆病だが、危険を察知する感覚が鋭い。

 無意識に、ワシの気配に感づいとるようだ」

 と、別の足跡を指でなぞった。

「こちらも12歳、身長151cm、体重は……女童か、言うまい。三体数は74、54、75。

 あの童とは双子のようだ。小さいが、異能を授かっておる」

 次に、別の足跡を指でなぞった。

「こちらも12歳。身長150cm、体重は……こちらも女童か、言うまい。三体数は72、55、74。

 気が強く、頭の良い童だ。冷静さを失わず、仲間を案じて気遣っている。

 ふぇふぇっ。なるほど、なるほど」

 満足そうに頷いている。

「……これは存外、バカにしたものでもないかもしれぬ」

 と、茂みがガサガサッと揺れて、仔犬がぴょこりと顔を出した。

 小さな体に、まるで似合わないトゲだらけの首輪をつけた仔犬だ。

 つぶらな瞳で叉鬼を見上げ、パタパタと尻尾を振っている。

「ケルか。獲物のにおいは覚えたか?」

 仔犬は、ハッハッと舌を出汁、叉鬼の足に頭をすりつけた。

 ねだるように、せっせとお手をしている。

 叉鬼は首を振った。

「ならん。獲物は自分で狩らねばならん。働かざる者喰うべからずだ。それが猟犬というものよ」

 仔犬は、不貞腐れたように叉鬼に尻を向けた。

 叉鬼は、また屈み込んで足跡を探った。

「153cm、45kg。運動能力に優れた童だが……何より、強い意志があるな。面白い……」

 叉鬼は、忍び笑いを漏らした。

 仔犬が、キュウン? と首を傾げた。

「ふぇふぇっ……。よい。なかなかの獲物達だ。

 不屈の意志を持った獲物を追い立て、追い詰め、命を狩り取る……血が滾るというものよ」

 外套の下から鉛色の笛を取り出しにやりと笑った。

「いくぞ、ケル。狩りの時間だ」

 仔犬がお座りをして、ワンッと吠えた。

 

「ん……?」

 大翔は、背の高い木にひょいひょいとよじ登ると、向こうの様子を伺った。

「どうした?」

「……頼むから、俺の前で光を出すのはやめてくれ」

 阿藍が空気を読まずに光を出したのは、大翔は少し傷ついたようだ。

 濃い霧が立ち込めていて、花火の下に何があるのかは見えない。

 風で雲は流れていくのにその霧はまるで晴れない。

 目的地までのルートを確認する。

 上から見る限り、目的地に辿り着くためには、

 両端を崖に挟まれた細い一本道を通らなければならない。

「……黒鬼の奴、ほんと、ふざけてるよな」

「ああ、叩きたいくらいだ」

 双眼鏡を覗き込んで、大翔は溜息を吐いた。

 その一本道に、たくさんの餓鬼が待ち構えているのが分かったからだ。

 メッセージの書かれた横断幕を掲げ、道の両脇に、ずらりと整列して待ち構えている。

 

『お誕生会会場、この道の先←』

『絶対に襲わないから安心して通り抜けていってね』

『絶対に襲わないよ』

 

「100%襲ってくる、に、おこづかい全部賭けるわ」

「明らかに見え見えの罠。すぐに見破った」

「僕も襲ってくる方に、持ってるゲーム全部賭ける」

 木を降りて大翔が報告すると、葵、有栖、悠が口々に言った。

 大翔も同意見だ。

「そこを通らないで済むルートはないの?」

「霧が濃くて、よく見えないんだ。あったとしても、全部、あんな感じなんじゃねえか?」

「ともかく、もう少し近づいてみましょ」

 八人は森を進んでいった。

 進むごとに、ワナは増えていった。

 落とし穴の他、トラバサミがたくさん仕掛けられている。

 また、牛鬼や餓鬼が、ガサガサと落ち葉を踏みつけながら、森をうろついている。

 エージェントが超能力を使いながら避けたが、もう避けるのは難しいだろう。

 

 鬼を避けて回り道しながら進むと、森の中に拓けたところがあった。

 丸太でできた小屋が二つ、並んで建っていた。

 一つは、キャンプ場でよく見るコテージだ。

 張り出したベランダに、木のテーブルと、イスが数脚置かれている。

 レンガで組んだ焚き火台もある。

 もう一つは、やたらシンプルな作りの小屋だ。

 大きな箱に、屋根をつけただけの形をしている。

 大きな縦穴が空いただけの入り口に、中はだだっ広い床が広がり、ボロ布が敷かれている。

 屋根の下には、『Kerberos』と彫られた木板が貼りつけられていた。

「なんだ? この建物」

 小屋の周りには、背の高い金網が張り巡らされていた。

 ところどころ破れて、めくれ上がっている。

 辺りに鬼の気配はなく、静まり返っている。

 まるで、鬼達がこの一帯を避けているかのように。

 

「ここには、番犬がいるようだな」

「犬は嗅覚が鋭い。気をつけて」

 狼王と麻麻が大翔達に警告する。

「番犬? 何の事だ?」

―グルルルル……

 と、後ろから唸り声が聞こえた。

 振り向くと、ガサガサと茂みを掻きわけて、仔犬が進み出てきた。

 小さな体に、似合わないゴツい首輪をつけている。

 四股を踏ん張って八人を睨み、小さな牙を剥いて唸り声を上げる。

 その額には、これまた小さなツノが三本。

「ほんとに鬼だらけだな。離れろ!」

「……」

 大翔は、スリングショットを構え、ビー玉を番えて、仔犬に向ける。

 この距離なら、外さないだろう。

「……キュウン?」

 仔犬は唸るのを止めると、ぴょこんと首を傾げて大翔を見た。

 シッポをくるんと丸めて、股の間に挟み込むと、ころんと仰向けになって、腹を丸出しにする。

「キャウン、キャウン……」

「降参らしいわ。お腹を出すのは、『参りました』ってポーズ。襲ってはきたけど」

 大翔は肩を落とした。

 仔犬は、パタパタとシッポを振ると、悠の足元にまとわりついてきた。

 ハッハッと舌を出し、お手をしている。

 だが相変わらず、狼王は警戒を続けている。

「大丈夫だよ~。怖くないよ~」

「……」

 悠は仔犬の頭を撫でると、リュックからクッキーを取り出して与えた。

 仔犬は嬉しそうにシッポを振って、ガツガツと食べている。

「それじゃ、行こうか」

「待て!」

―ピピイッ!

 と、どこからか甲高い音が響いた。

「何だ? 今の……」

「気をつけろ、犬笛だ」

 狼王が油断なく辺りを見渡す。

「犬に命令を出すために使う笛だ。人の耳には聞こえない周波数の音を含んでい……!」

 狼王が足元を見ると、さっきの仔犬がいた。

 ガツガツとクッキーを食べ終えると、もっとくれ、というように頭を上げて吠えた。

「ワワンッ!

 仔犬の頭は二つ、一つの胴体から枝分かれするように二本の首が伸びているのだ。

 さらに頭がまた増え、三つになり、仔犬の全身の毛が、針のように逆立った。

 巨大な風船のように、体が膨らんでいく。

 短い腕が、みるみる長く、太くなり、胴が膨れ上がって、1m、2m、3m……。

 大翔達は、ぽかんとして、エージェントは鋭い目で睨みつけた。

 仔犬を見下ろしていたはずなのに、あっという間に巨犬に見下ろされている。

 

「……なるほど。それでKerberosか」

 葵が頷いた。

「神話に登場する地獄の魔犬ケルベロスは、三つの頭を持つ猛犬なの。これ、犬小屋だったのね」

「予想通り」

 ケルベロスは行儀よく座って、じっと八人を見下ろしている。

 巨大な三つの頭の額には角。

 口から覗く牙は、子供なんてすり潰してしまいそうに太い。

「…………お手」

 悠が恐る恐る、手を差し出した。

―ピピピッ!

ウオオオオオオオオオオンッ!

―ピピイッ!

「お前らは、早く逃げろ!」

 笛の音と同時に、三つ首が吠えた。

 狼王の掛け声で、大翔達は、一目散に逃げ出した。

 

「さあ、行くぞ!」

 狼王は空間から斧を取り出し戦闘の合図を出した。




鬼には一切容赦しない、それがエージェントです。
次回のゲームは、子供にはキツいと思います。
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