琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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ついに章吾が××になってしまう……!? なお話です。


10章 決着の地獄小学校
81 黒鬼誕生


 道案内は、超能力により行えた。

 鬱蒼とした森の中を、右に折れ、左に折れ、先導して走っていく。

 エージェントの後についていけば、ワナにも他の鬼にも出くわさない。

 実際、もうしばらく走っているのに、鬼の気配はなかった。

 

 歩いていく中で、エージェントは嫌な予感がしていた。

「……絶対にあいつは……章吾に何かしている。間に合わなかったら……消すしかない……」

「何を言っているの、お兄さん」

「……」

 

 ハッピバースデー トゥー ユー♪

 ハッピバースデー トゥー ユー♪

 ハッピバースデー ディア 黒鬼くーん♪

 ハッピバースデー トゥー ユー♪

 

 耳障りな合唱が響く、部屋の中。

 彼は、眠りから目を覚ました。

 明かりはなく、真っ暗な闇が部屋によどんでいる。

 目が慣れず、何も見えないが、たくさんの気配が満ちているのは分かる。

「自分は誰なんだっけ?」

 考えてみるが、思い出せない。

「どうしてここにいるんだっけ?」

 思い出せない。

 

「やあ、目が覚めたようだね。お誕生日おめでとう」

 貼りつけたようなニコニコ顔が、彼を覗き込んだ。

「大丈夫。徐々に意識が覚醒してくるよ。生まれたばかりだから、混乱しているんだ。

 まずはローソクの火を吹き消そう」

 彼の目の前に、ケーキを差し出す。

 彼は体を動かそうとしたが、上手くいかなかった。

 床の上に寝かされて、四肢を黒鎖で繋がれているからだ。

 ニコニコ顔は、ローソクの入った箱をカシャカシャと振った。

 

「ローソクは、何本立てる?」

 ――この鎖を外せ。

「自分で外せるはずだよ。鬼として、きちんと覚醒できればね」

 ニコニコ顔が答える。

 彼は体を動かそうとしたが、やはり上手くいかなかった。

「俺の名前は、なんていうんだ?」

「キミの名前は、黒鬼だよ」

 ニコニコ顔が答える。

(こいつ、キライ。喰ってやろうか)

「他に名前があったはずだ」

「ないよ」

「あったはずだ」

「ないよ。他に質問はあるかい?」

「俺の大切な人達は、どこにいるんだ?」

「キミにそんな人達はいないよ」

「いるよ」

「いないよ」

「いるよ」

「いないよ」

「友達と、家族がいるよ」

「家族? ああ、お母さんとお姉さんのこと?」

 お母さん、お姉さん。

 その言葉を聞いた途端、彼の胸の奥で、何かが疼いた。

 鬼となって、氷のように冷たくなった体の中で、僅かに残った温かいものだ。

「有栖とお母さんは、どこにいるんだ?」

「お母さんは、病院。お姉さんは、地上だよ」

 有栖は無事か、なら、お母さんに会わせてほしい。

「ボクが会ってきたよ。キミが眠っている間に、お見舞いに行ってきたんだ」

 彼の前に、分厚く膨らんだ封筒が差し出された。

 彼は手を伸ばそうとしたが、やはり、叶わない。

 天井や壁には、闇が蠢いている。

 ギョロギョロ……無数の目玉や口が蠢いて、興味深そうに彼を見下ろしている。

「キミの写真、たくさん撮ったろう?」

 ニコニコ顔は、周囲の様子を気にもせず続けた。

「子供が成長していく姿、親ならさぞかし気になるだろうと思ってね。

 プリントアウトしたものを、キミのお母さんに見せてあげたんだ。ほら、これだよ」

 封筒から、バサッと紙束がぶちまけられた。

 プリント用紙には、何十枚も彼だったものの姿が印刷されている。

 最初はただの人間の子供。

 そこに鉤爪が生え、牙が生え……ゆっくりと、じわりじわりと、

 バケモノに変わっていくところ。

「最愛の息子が、立派な鬼に作っていく成長の過程だよ」

 声は笑っている。

「おじさん、喜ぶと思ってね。見せてあげたんだ」

 彼はぶるぶると首を振った。

「どうなったと思う?」

 彼は首を振った。

「おばさん、見た途端、顔色が真っ青になっちゃったんだ……。

 うふふ。腕を押さえて、苦しみ出しちゃったんだ……。

 うふふ。緊急手術になっちゃったんだ。それでね」

 彼は首を振った。

 全身が、たちまち氷のように冷たくなっていく。

 

「キミ達のお母さんは、死んじゃったよ」

 鎖が弾け飛んだ。

 彼は鉤爪を突き出した。

 ハッピーバースデーの歌が響き渡っていく。

 

(――章吾!)

 有栖の叫び声が、心の中で響いた。




次回は黒鬼になった章吾との鬼ごっこです。
双子の姉・有栖は章吾を救えるのでしょうか。
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