ここでは琉球エージェントも活躍させたい、と思いました。
「一つ、任務は出来る限り遂行すべし」
「二つ、人喰い鬼は滅ぼすべし」
「三つ、能力の乱用は控えるべし」
織美亜、狼王、阿藍、麻麻はそう言いながら、大翔達を追いかけていった。
「一旦逃げるぞ!」
大翔達は部屋を飛び出すと、全力ダッシュで廊下を引き返し、階段を駆け下りていった。
「ヒロトと金谷さんの事だから、意地でも引かないんじゃないかと思った!」
「どう引きずっていこうかと思ったわよね!」
「だって私の弟だもの」
「引きたくは、ねえけどさ!」
『浄』の符が効かなかった以上、一旦引いて作戦を立て直すしかない。
荒木先生と合流すれば、きっと何か方法があるはずだ。
階段を降り切って、玄関ホールを駆け抜けていく。
と、玄関扉の向こうから、のしのしと歩いてくる鬼の姿が見えた。
地獄の獄卒、牛頭鬼だった。
太い腕を伸ばすと、外から扉をギシギシと閉めていく。
「や、やばいっ!」
大翔達は慌てて駆け寄った。
その鼻先で扉は閉じられた。
「お、おい! 開けろ!」
「閉じ込めないでようっ!」
ダンダンと扉を叩き、タックルするが、びくともしない。
牛頭鬼が向こう側から扉を押さえつけているのだ。
「やるしかないか?」
狼王は異空間から斧を取り出し、扉を破壊しようとする。
「やめて。別の出口を探しましょ……」
―ギシッ……
床の軋む音が響いて、八人は振り返った。
―ギシッ、ギシッ……
上の方から、階段を降りてくる。
狼王はすぐに身構えた。
黒鬼が踊り場に現れたところだ。
―ギシッ、ギシッ……
ゆっくり通りてくる。
薄闇に閉ざされた玄関ホールに降り立つと、立ち止まった。
それ以上進んではこない。
考え込むように首を傾げている。
(な、何してるんだ……?)
黒鬼は、くるりと背を向けた。
壁に向き合うように立ち、そのまま動かずにいる。
(……気づかれてはいないみたいだな)
(今のうちに、別の出口を探すわよ)
(場合によっては戦うけどね)
大翔達は頷き合うと、壁伝いに歩き始めた。
黒鬼が立っているところを大きく回り込むようにして、奥の廊下へ進んでいく。
通り過ぎる時、黒鬼が何か声に出して呟いているのが分かった。
「……ご。……ろく。……しち」
数を数えているのだ。
壁に向かって、目を瞑って。
「……はち。……きゅう。……じゅう」
黒鬼が振り返った。
「なんだ。まだそんなところにいたのか。しかも、斧まで出しやがって」
迷いなく八人の姿を見つけて言った。
フッと姿が掻き消える。
瞬きする間に、眼前に立っていた。
「鬼が数を数えてる間に、もっと遠くまで逃げるべきだろう。やった事ないのか? 鬼ごっこ」
呆然と立ち尽くす四人と、戦闘態勢を取る四人に構わず、一方的に告げた。
「始めるぞ。俺が『鬼』で、お前達が『子供』、そしてお前らが『能力者』だ。ルールはこうだ」
ルール1:子供は、鬼から逃げなければならない。
ルール2:鬼は、子供を捕まえなければならない。
ルール3:能力者は、鬼と戦わなければならない。
ルール4:決められた範囲を超えて、逃げてはならない。
ルール5:時間いっぱい鬼から逃げ切れれば、その子供は勝ちとなる。
遊ぶ前にゲームのルールでも説明するように、淡々と読み上げていく。
「鬼にタッチされると、アウトだ。こんな風にな」
と、黒鬼が右手をパーの形に開いて、手を伸ばしてきた。
反射的に構えた大翔の脇を抜け、背後の柱に掌を触れた。
―ビシッ! ビシビシビシ……
太い柱に、みるみる亀裂が入っていった。
中途からへし折れ、床に崩れ落ちた。
四人は呆然とし、四人の闘志に火がつく。
(どうやら、あいつはやる気みたいね)
(オレ達はタッチされてもアウトじゃない。何故なら、体力があるからな)
(……たとえ、相手が子供でも)
(やるのが、私達琉球エージェントなのよ)
「では、鬼ごっこ開始だ。さぁ、逃げろ。おっと、大事なルールを忘れていた」
黒鬼は、牙を剥き出しにして笑った。
ルール6:鬼に捕まった子供は、[削除済み]
「に、逃げろっ!」
「ふん、それだけか?」
大翔達は、弾かれたように走り始めた。
玄関ホールを飛び出して、死に物狂いで廊下を走り抜ける。
悠、葵、有栖も、顔色が真っ青だ。
あれは、鬼だ。
有栖の双子の弟・章吾ではなく、生まれたばかりの、黒鬼だ。
「……こうすれば、いい!」
阿藍は光を纏った拳で黒鬼を攻撃したが、黒鬼の肌を掠った程度で少しも応えていない。
四人はすぐにテレポートして、黒鬼から離れた。
背中越しに響く足音はすぐに小さくなっていった。
走らずに、歩いて迫ってくるつもりらしい。
「外に出るぞ! 森に逃げ込めば、いくらでも隠れられる!」
「裏口があるはずよ!」
「戦う気はないの?」
「いやいや、戦うのは無謀だって!」
走っていくと、廊下の奥にあった。
裏口扉の前には、馬頭鬼が立ちはだかっていた。
手に持った槍をビュンビュン回して威嚇している。
「強行突破するか!?」
「する!」
四人のエージェントは身構えて、馬頭鬼に戦いを挑んだ。
「せいやぁぁっ!」
狼王は思いっきり斧を振りかざし、馬頭鬼に叩きつける。
彼の怪力は、鬼をも圧倒するのだ。
「光よ……」
阿藍は馬頭鬼を光で攻撃しようとするも、馬頭鬼が槍で光を防いだ。
織美亜は回復の力を逆流させて、馬頭鬼に僅かな傷を与える。
「ぐあぁぁっ!」
「うあぁぁっ!」
馬頭鬼は槍で狼王と阿藍を薙ぎ払う。
その威力は凄まじく、狼王と阿藍に深い傷を負わせた。
「二人とも、しっかりして! 電撃投射!」
麻麻の電撃が馬頭鬼の急所に直撃し、その隙に織美亜は阿藍に治癒の力を使う。
だがなおも馬頭鬼は槍で狼王と阿藍を薙ぎ払う。
狼王は勢いよく斧を振り下ろし、馬頭鬼の槍を弾き飛ばしそのまま馬頭鬼に叩きつけようとした。
しかし、馬頭鬼は狼王の攻撃をかわすと、思いっきり拳で狼王を殴った。
「ぐ……っ!!」
この瞬間、エージェントは馬頭鬼を倒せない事を悟った。
エージェントは、大翔達を追うのだった。
『アハハ、アハハハ!』
勝手口の前では、ピエロ姿の鬼が笑い声を上げている。
『ごっはん、ごっはんん!』
非常口の前では太った餓鬼が、扉を塞いでいる。
―ギッチギッチギッチギッチ……
窓ガラスに群がっているのは、人肉食の鬼昆虫の群れだ。
さらに廊下を駆け抜けていくと、窓の前に牛鬼が立っていた。
『とお~りゃんせ! 通りゃんせぇ!』
「こうなりゃ、強行通りゃんせだあっ!」
『ゲエエッ!?』
大翔はデイパックにくくりつけていた木刀を振りかぶり、牛鬼へ飛びかかった。
牛鬼はギョッとして逃げていった。
「ここから出るぞっ!」
窓をよじ登り、外へ飛び出そうとして……大翔達は、慌てて踏みとどまった。
窓の下の地面が、沼になっていたのだ。
ボコボコと泡が立ち昇り、生き物の骨がプカプカと浮いている。
「決められた範囲を超えて、逃げてはならない」
声が響き、八人はハッとして振り返った。
廊下の曲がり角の向こうから、黒鬼が姿を現した。
ゆっくりと歩いてくる。
「外へは逃がさん。ルールを守って、鬼ごっこしようぜ」
「電撃投射!」
「ぐっ」
「う、上へっ!」
麻麻が電撃を放った後、大翔達は階段を駆け上がった。
こうなったら、二階から飛び降りるしかない。
「他の鬼達には、手を出さないように言ってある。これは、俺の遊びだからな」
と、黒鬼が手を突き出し、傍らにいた餓鬼の角に触れた。
―パンッ!!
餓鬼の体が、風船のように弾け飛んだ。
パラパラと土くれになって散る。
「に、逃げろっ……!」
「自衛のためなら、攻撃してもいいよな?」
大翔達は走り出した。
「はあっ、はあっ……!」
だんだん、息が切れてきた。
向こうは歩いているだけなのに。
悠と葵も、かなりキツそうだ。
有栖達は超能力者なので、織美亜の超能力で何とか体力を回復しているが、
精神力がもつかどうかは分からない。
廊下を走り抜けると、壁際で身を休める。
「休んでいるヒマなんてないぞ」
ほんの少し立ち止まっていただけなのに、黒鬼が姿を現した。
「逃げろよ。喰うぞ」
「光よ!」
「く……眩しい」
阿藍が光を放って黒鬼の目を晦ます。
その隙に大翔はスリングショットを構え、ビー玉を番えた。
引き絞って撃ち、黒鬼の足に当たった。
「鬼ごっこで鬼を攻撃するのは、ルール違反だ」
「そんなの、ルールにないじゃないか」
「能力者は攻撃してもいいんだぞ」
「そうだ、そうだ!」
大翔は、もう一発撃った。
黒鬼が手を掲げると、ビー玉は宙で止まった。
「返そう。バーン」
「危ない!!」
麻麻が電撃のバリアを張り、ビー玉を弾き返した。
「そら、走れ。逃げるんだ。逃げるのを捕まえるのが、オモシロイんだからな」
「くっ!」
「アタシ達が何とかするからアナタ達は逃げなさい」
織美亜にそう言われた大翔達はまた走り出した。
足音に追い立てられるようにして、屋敷の中を逃げ続ける。
織美亜、狼王、阿藍、麻麻は、黒鬼を睨み続けながら牽制を続けた。
「どうした? もっと速く走れ。遅くなってきたぞ」
どこまで逃げても、足音は突然現れ、追ってきた。
のんびりとした足取りで、一歩一歩、追い立ててくる。
「面白いな、鬼ごっこ。こんな面白い遊び、初めてだ。楽しいぜ」
振り切れない。
どれだけ引き離したと思っても、振り返ると黒鬼が姿を現す。
「有栖は辛いだろうな。お前が変わってしまって」
阿藍は、有栖の名前を呟いた。
彼女は阿藍と共に、彼を取り戻そうとした人物だ。
「……アリス……?」
「ああ、お前のもう一人の家族だ」
「……家族……?」
有栖の名前にも動じない黒鬼を見て、阿藍は「ああ、やはり無理か」と自嘲した。
ふと、織美亜はあの黒鬼を思い出してこう言った。
「確か、あの黒鬼ってどんな力を持ってたのかしら」
次回も黒鬼との対決です。