琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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黒鬼になった章吾との鬼ごっこです。
ここでは琉球エージェントも活躍させたい、と思いました。


83 始まり

「一つ、任務は出来る限り遂行すべし」

「二つ、人喰い鬼は滅ぼすべし」

「三つ、能力の乱用は控えるべし」

 織美亜、狼王、阿藍、麻麻はそう言いながら、大翔達を追いかけていった。

 

「一旦逃げるぞ!」

 大翔達は部屋を飛び出すと、全力ダッシュで廊下を引き返し、階段を駆け下りていった。

「ヒロトと金谷さんの事だから、意地でも引かないんじゃないかと思った!」

「どう引きずっていこうかと思ったわよね!」

「だって私の弟だもの」

「引きたくは、ねえけどさ!」

 『浄』の符が効かなかった以上、一旦引いて作戦を立て直すしかない。

 荒木先生と合流すれば、きっと何か方法があるはずだ。

 階段を降り切って、玄関ホールを駆け抜けていく。

 と、玄関扉の向こうから、のしのしと歩いてくる鬼の姿が見えた。

 地獄の獄卒、牛頭鬼だった。

 太い腕を伸ばすと、外から扉をギシギシと閉めていく。

「や、やばいっ!」

 大翔達は慌てて駆け寄った。

 その鼻先で扉は閉じられた。

「お、おい! 開けろ!」

「閉じ込めないでようっ!」

 ダンダンと扉を叩き、タックルするが、びくともしない。

 牛頭鬼が向こう側から扉を押さえつけているのだ。

「やるしかないか?」

 狼王は異空間から斧を取り出し、扉を破壊しようとする。

「やめて。別の出口を探しましょ……」

―ギシッ……

 床の軋む音が響いて、八人は振り返った。

―ギシッ、ギシッ……

 上の方から、階段を降りてくる。

 狼王はすぐに身構えた。

 黒鬼が踊り場に現れたところだ。

―ギシッ、ギシッ……

 ゆっくり通りてくる。

 薄闇に閉ざされた玄関ホールに降り立つと、立ち止まった。

 それ以上進んではこない。

 考え込むように首を傾げている。

(な、何してるんだ……?)

 黒鬼は、くるりと背を向けた。

 壁に向き合うように立ち、そのまま動かずにいる。

(……気づかれてはいないみたいだな)

(今のうちに、別の出口を探すわよ)

(場合によっては戦うけどね)

 大翔達は頷き合うと、壁伝いに歩き始めた。

 黒鬼が立っているところを大きく回り込むようにして、奥の廊下へ進んでいく。

 通り過ぎる時、黒鬼が何か声に出して呟いているのが分かった。

「……ご。……ろく。……しち」

 数を数えているのだ。

 壁に向かって、目を瞑って。

「……はち。……きゅう。……じゅう」

 黒鬼が振り返った。

「なんだ。まだそんなところにいたのか。しかも、斧まで出しやがって」

 迷いなく八人の姿を見つけて言った。

 フッと姿が掻き消える。

 瞬きする間に、眼前に立っていた。

「鬼が数を数えてる間に、もっと遠くまで逃げるべきだろう。やった事ないのか? 鬼ごっこ」

 呆然と立ち尽くす四人と、戦闘態勢を取る四人に構わず、一方的に告げた。

「始めるぞ。俺が『鬼』で、お前達が『子供』、そしてお前らが『能力者』だ。ルールはこうだ」

 

 ルール1:子供は、鬼から逃げなければならない。

 ルール2:鬼は、子供を捕まえなければならない。

 ルール3:能力者は、鬼と戦わなければならない。

 ルール4:決められた範囲を超えて、逃げてはならない。

 ルール5:時間いっぱい鬼から逃げ切れれば、その子供は勝ちとなる。

 

 遊ぶ前にゲームのルールでも説明するように、淡々と読み上げていく。

「鬼にタッチされると、アウトだ。こんな風にな」

 と、黒鬼が右手をパーの形に開いて、手を伸ばしてきた。

 反射的に構えた大翔の脇を抜け、背後の柱に掌を触れた。

―ビシッ! ビシビシビシ……

 太い柱に、みるみる亀裂が入っていった。

 中途からへし折れ、床に崩れ落ちた。

 四人は呆然とし、四人の闘志に火がつく。

(どうやら、あいつはやる気みたいね)

(オレ達はタッチされてもアウトじゃない。何故なら、体力があるからな)

(……たとえ、相手が子供でも)

(やるのが、私達琉球エージェントなのよ)

「では、鬼ごっこ開始だ。さぁ、逃げろ。おっと、大事なルールを忘れていた」

 黒鬼は、牙を剥き出しにして笑った。

 

 ルール6:鬼に捕まった子供は、[削除済み]

 

「に、逃げろっ!」

「ふん、それだけか?」

 大翔達は、弾かれたように走り始めた。

 玄関ホールを飛び出して、死に物狂いで廊下を走り抜ける。

 悠、葵、有栖も、顔色が真っ青だ。

 あれは、鬼だ。

 有栖の双子の弟・章吾ではなく、生まれたばかりの、黒鬼だ。

「……こうすれば、いい!」

 阿藍は光を纏った拳で黒鬼を攻撃したが、黒鬼の肌を掠った程度で少しも応えていない。

 四人はすぐにテレポートして、黒鬼から離れた。

 背中越しに響く足音はすぐに小さくなっていった。

 走らずに、歩いて迫ってくるつもりらしい。

「外に出るぞ! 森に逃げ込めば、いくらでも隠れられる!」

「裏口があるはずよ!」

「戦う気はないの?」

「いやいや、戦うのは無謀だって!」

 走っていくと、廊下の奥にあった。

 裏口扉の前には、馬頭鬼が立ちはだかっていた。

 手に持った槍をビュンビュン回して威嚇している。

「強行突破するか!?」

「する!」

 四人のエージェントは身構えて、馬頭鬼に戦いを挑んだ。

 

「せいやぁぁっ!」

 狼王は思いっきり斧を振りかざし、馬頭鬼に叩きつける。

 彼の怪力は、鬼をも圧倒するのだ。

「光よ……」

 阿藍は馬頭鬼を光で攻撃しようとするも、馬頭鬼が槍で光を防いだ。

 織美亜は回復の力を逆流させて、馬頭鬼に僅かな傷を与える。

「ぐあぁぁっ!」

「うあぁぁっ!」

 馬頭鬼は槍で狼王と阿藍を薙ぎ払う。

 その威力は凄まじく、狼王と阿藍に深い傷を負わせた。

「二人とも、しっかりして! 電撃投射!」

 麻麻の電撃が馬頭鬼の急所に直撃し、その隙に織美亜は阿藍に治癒の力を使う。

 だがなおも馬頭鬼は槍で狼王と阿藍を薙ぎ払う。

 狼王は勢いよく斧を振り下ろし、馬頭鬼の槍を弾き飛ばしそのまま馬頭鬼に叩きつけようとした。

 しかし、馬頭鬼は狼王の攻撃をかわすと、思いっきり拳で狼王を殴った。

「ぐ……っ!!」

 この瞬間、エージェントは馬頭鬼を倒せない事を悟った。

 エージェントは、大翔達を追うのだった。

 

『アハハ、アハハハ!』

 勝手口の前では、ピエロ姿の鬼が笑い声を上げている。

『ごっはん、ごっはんん!』

 非常口の前では太った餓鬼が、扉を塞いでいる。

―ギッチギッチギッチギッチ……

 窓ガラスに群がっているのは、人肉食の鬼昆虫の群れだ。

 さらに廊下を駆け抜けていくと、窓の前に牛鬼が立っていた。

『とお~りゃんせ! 通りゃんせぇ!』

「こうなりゃ、強行通りゃんせだあっ!」

『ゲエエッ!?』

 大翔はデイパックにくくりつけていた木刀を振りかぶり、牛鬼へ飛びかかった。

 牛鬼はギョッとして逃げていった。

「ここから出るぞっ!」

 窓をよじ登り、外へ飛び出そうとして……大翔達は、慌てて踏みとどまった。

 窓の下の地面が、沼になっていたのだ。

 ボコボコと泡が立ち昇り、生き物の骨がプカプカと浮いている。

 

「決められた範囲を超えて、逃げてはならない」

 

 声が響き、八人はハッとして振り返った。

 廊下の曲がり角の向こうから、黒鬼が姿を現した。

 ゆっくりと歩いてくる。

「外へは逃がさん。ルールを守って、鬼ごっこしようぜ」

「電撃投射!」

「ぐっ」

「う、上へっ!」

 麻麻が電撃を放った後、大翔達は階段を駆け上がった。

 こうなったら、二階から飛び降りるしかない。

「他の鬼達には、手を出さないように言ってある。これは、俺の遊びだからな」

 と、黒鬼が手を突き出し、傍らにいた餓鬼の角に触れた。

―パンッ!!

 餓鬼の体が、風船のように弾け飛んだ。

 パラパラと土くれになって散る。

 

「に、逃げろっ……!」

「自衛のためなら、攻撃してもいいよな?」

 大翔達は走り出した。

「はあっ、はあっ……!」

 だんだん、息が切れてきた。

 向こうは歩いているだけなのに。

 悠と葵も、かなりキツそうだ。

 有栖達は超能力者なので、織美亜の超能力で何とか体力を回復しているが、

 精神力がもつかどうかは分からない。

 

 廊下を走り抜けると、壁際で身を休める。

「休んでいるヒマなんてないぞ」

 ほんの少し立ち止まっていただけなのに、黒鬼が姿を現した。

「逃げろよ。喰うぞ」

「光よ!」

「く……眩しい」

 阿藍が光を放って黒鬼の目を晦ます。

 その隙に大翔はスリングショットを構え、ビー玉を番えた。

 引き絞って撃ち、黒鬼の足に当たった。

「鬼ごっこで鬼を攻撃するのは、ルール違反だ」

「そんなの、ルールにないじゃないか」

「能力者は攻撃してもいいんだぞ」

「そうだ、そうだ!」

 大翔は、もう一発撃った。

 黒鬼が手を掲げると、ビー玉は宙で止まった。

「返そう。バーン」

「危ない!!」

 麻麻が電撃のバリアを張り、ビー玉を弾き返した。

「そら、走れ。逃げるんだ。逃げるのを捕まえるのが、オモシロイんだからな」

「くっ!」

「アタシ達が何とかするからアナタ達は逃げなさい」

 織美亜にそう言われた大翔達はまた走り出した。

 足音に追い立てられるようにして、屋敷の中を逃げ続ける。

 織美亜、狼王、阿藍、麻麻は、黒鬼を睨み続けながら牽制を続けた。

「どうした? もっと速く走れ。遅くなってきたぞ」

 どこまで逃げても、足音は突然現れ、追ってきた。

 のんびりとした足取りで、一歩一歩、追い立ててくる。

「面白いな、鬼ごっこ。こんな面白い遊び、初めてだ。楽しいぜ」

 振り切れない。

 どれだけ引き離したと思っても、振り返ると黒鬼が姿を現す。

 

「有栖は辛いだろうな。お前が変わってしまって」

 阿藍は、有栖の名前を呟いた。

 彼女は阿藍と共に、彼を取り戻そうとした人物だ。

「……アリス……?」

「ああ、お前のもう一人の家族だ」

「……家族……?」

 有栖の名前にも動じない黒鬼を見て、阿藍は「ああ、やはり無理か」と自嘲した。

 ふと、織美亜はあの黒鬼を思い出してこう言った。

 

「確か、あの黒鬼ってどんな力を持ってたのかしら」




次回も黒鬼との対決です。
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