琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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黒鬼との対決はまだまだ続きます。
ここで、オリキャラの有栖が……。


84 追う黒鬼

 四人は階段を駆け上がった。

 

「ぜえっ、ぜえっ、ぜえ……っ」

 限界だ。

 心臓がバクバクと暴れ回っている。

 息が上がって、足に力が入らない。

「はあっ、はあっ……! も、もうっ、駄目だようっ!」

「あたしもっ、ムリ……っ!」

「私も……」

「一旦、どこかに隠れるぞ……!」

 伸びた廊下にずらりとドアが並んでいる。

 どこかに隠れて、やり過ごすしかない。

 葵が廊下を奥まで走ると、階段へバッグを放り投げて戻ってきた。

 別の階へ逃げたように見せかけるフェイントだ。

 

「中へ!」

 四人はドアの一つを開くと、部屋に転がり込んだ。

 ドアを閉め、鍵をかけようとして……思い留まる。

 鍵をかけたら、この部屋に隠れていると宣言しているようなものだ。

 そこは、だだっ広い寝室だった。

 天蓋付きのベッドや、テーブルが置かれている。

 バスルームへのドア。

 ガラス戸の向こうにはベランダがあるが、窓には木板が打ちつけられている。

「ど、どこに隠れる……? 有栖に、託したぜ……」

「有栖は超能力者でしょ?」

「あの人達より弱いの」

 有栖は精神を集中し、しばらくして、隅のクロゼットを指差した。

 四人で中に入り、戸を閉めて身を縮こまらせる。

 見つからないよう、祈るしかない。

 

―ギシッ

 足音が響いてきた。

 閉まったドアの向こう。

 伸びた廊下の突き当たり。

 階段の板を、一歩一歩踏み締めて歩いてくる足音。

―ギシッ、ギシッ……

 近づいてくる。

 階段を登り、廊下を歩いてくる。

―ガチャッ

 ドアを開ける音。

「……いない」

 黒鬼の声。

 部屋の中を探っているのだ。

 一つ一つ部屋に踏み込み、大翔達がいないか確認するつもりだ。

―ギシッ、ギシッ……ガチャッ

「いない」

―ギシッ、ギシッ……ガチャッ

「いない」

―ギシッ、ギシッ、ギシッ、ガチャッ

「いない」

 近づいてくる。

 四人は、クロゼットの中で息を殺した。

―ガチャッ

 ドアが開いた。

 四人が隠れた部屋のドアだ。

「どこに隠れた……? バッグはフェイクで、この階に隠れてるんじゃないかと思ったんだが」

―ギシッ、ギシッ……

 部屋に侵入してきた。

―ザクッ!!

 と、ベッドに鉤爪を突き立てた。

 悲鳴を上げそうになったのを大翔は必死に塞いだ。

 黒鬼が鉤爪を引き抜いた。

「いない」

 バスルームのドアを開けた。

―ガッシャアアンッ!

 ガラスの砕け散る音が響き渡った。

 ぶるぶると震える葵と肩を組む。

 大翔と有栖の体も震えた。

 バタン、とバスルームのドアが閉じた。

「いない」

―バキッ! ベキッ! グシャッ!

 部屋の中を薙ぎ払う音が響いた。

 もう何を壊しているのかも分からない。

 四人はきつく抱き合った。

「いない」

 黒鬼が、クロゼットの前に立った。

 ぼそぼそと囁く声が聞こえる。

「どこにもいない。どうやら、見失ってしまったようだ。面白い。なんて面白いんだ、鬼ごっこ」

(か、神様っ……!)

 大翔達は必死になった。

 ドクドクと打ち続ける心臓の音すら、外へ漏れ出しているのではないかと思った。

 

「……深読みをしすぎたか。別の階へ逃げたんだろうな」

―ギシッ、ギシッ、ギシッ……

 足音が、寝室から遠ざかっていく。

―ガチャッ、バタン

 扉を開け閉めする音。

 それきり、静かになった。

 もう足音は聞こえてこない。

 それでも四人は息を殺したまま、動かなかった。

 たっぷり5分は待ってから、ようやく、息を吐き出した。

 

「び、びびったわ……」

「し、心臓が止まるかと思ったよう……」

「……章吾……私は……」

「へへ……。さ、流石有栖推薦の隠れ場所だな……」

 胸を撫で下ろし、頷き合う。

 

 と、何の前触れもなく。

―ガラララッ

 クロゼットの戸が開いた。

 

「いた」

 黒鬼が立っていた。

 クロゼットの中に座り込んだ四人を、腕組みして見下ろし、ニヤニヤしている。

「出てったふりして、戻ってみたんだ。足音を消すくらい、簡単なんだよ。

 駄目じゃないか、油断したら」

 ひらひらと右手を振ってみせる。

「さあ、逃げろ。一斉に逃げれば、一人くらいは助かるかもな?」

 手を伸ばしてきた。

 悠も葵も、動けない。

 

やめて!!

 瞬間、有栖の身体から衝撃波が放たれ、黒鬼のみを吹き飛ばした。

 彼女の超能力は、弱いはずなのに。

 

「有栖!?」

「わ……私の力が、目覚めてる……?」

「……!?」

 これには流石の黒鬼も驚きを隠せない。

 だが、実は有栖の中で、密かに超能力が強まっていたのだ。

 超能力者のエージェントと共にいて、鬼祓いの修行もして、

 その結果……有栖の強い感情により、超能力が覚醒したというわけだ。

「どこぞの漫画じゃあるまいし……」

「……私は、馬鹿だった。きちんと相談しなかった私が馬鹿だった。

 弟の気持ちを理解しなかった私は、一番の馬鹿だった!

 有栖の念動力は黒鬼を締め付け、ぐぐ、と黒鬼は悶える。

 強い感情に応じて、超能力は強まり、黒鬼を殺そうとしている。

「やめろ、有栖……これ以上やったら……」

 有栖は自分の超能力が暴走したまま、黒鬼をなおも攻撃し続けている。

 黒鬼の身体がちぎれそうになった時。

 

何やってるんだ!!

 部屋のドアが、吹っ飛ぶように開いた。

 飛び込んできたのは、荒木先生だった。

 野球のバットを掲げて叫んだ。

「なんなんだこの館は! どの入り口も鬼が塞いでるし! 仕方ないから、壁を壊してきたぞ!」

 ぶんっ! とバットを振って、部屋に踏み込んでくる。

「おまえら、無事かっ!」

「無事だぜ、先生……」

「無事すぎて泣きそうだよう……」

「ほんと無事……」

「……」

 超能力が消え、黒鬼は解放された。

 有栖は超能力を使いすぎて、ぐったりしていた。

 荒木先生は頷いた。

「……無事そうで何よりだ」

 それから黒鬼に目をやった。

「金谷の弟だな? 完全に鬼になったか……」

「そういうお前は、おかわりの肉か?」

 黒鬼は荒木先生を見やると、興味なさげに顎をしゃくった。

「あの異能者のせいだな。死ぬはずなのに、生きている」

「あいつら、牛頭鬼とやり合ったからな」

 荒木先生が抗議する。

「宮原、桜井、金谷の姉。『浄』の符は、どうだったんだ?」

 悠と葵は、ぶるぶると首を振った。

「やっぱり、効かなかったんだな。予想はしてたが……」

「あんな子供騙しの札が、俺に効くわけないだろう」

 黒鬼が肩を竦めて見せる。

「そうだな。お前に通じるのは、こっちだよな」

 荒木先生は上着の懐に手を入れた。

 紙切れを一枚取り出すと呪符を掲げた。

「二度言わすな」

 黒鬼が、苛立たし気に首を振った。

「そんな呪符など、俺には――」

 と、言葉を切った。

 じっと目を細めて、呪符を見ている。

 その札の色は……真っ黒だった。

 模様のような複雑な字が描かれ、ぼんやりと黒く発光している。

「分かるようだな? この札なら、お前にも効くぞ。切り札だ」

 荒木先生が札を掲げ、黒鬼の方へ歩いていく。

「さあ、この場は退け。さっさと行くんだ」

「……切り札は、隠しておかなきゃ意味がない」

 と、黒鬼が肩を竦める。

 荒木先生が一瞬、気を逸らした隙に、姿を消した。

 先生が目を見開いた。

「しまっ……」

「黙って貼るべきだったな」

 黒鬼の手が、荒木先生の背に触れた。

 今度は荒木先生の体が吹っ飛んで、転がった。

「く、そ……。お前、先生は、労われよ……。お前より、年寄りなんだから……」

「労わって喰うよ」

 黒鬼は近づいてきた。

 荒木先生の体を軽々と持ち上げると、じいっと見つめている。

 また、頭でも痛むように、眉の部分を顰める。

 振り払うように首を振った。

「喰ってやる」

 先生の首筋に牙を寄せる。

「させるかっ!!」

 大翔は黒鬼に飛びかかった。

 破れかぶれのショルダータックルだ。

 四人まとめて、ベランダの柵に当たった。

―バキキッ!!

 ベランダの柵が砕け散った。

 大翔、有栖、黒鬼、荒木先生は、ぽおんと宙に放り出された。

 

「だから、私達がいるの」

 大翔は、バリアの上に落下した。

 阿藍と麻麻が屋敷の外にテレポートして、

 光と雷の力で大翔、有栖、荒木先生の体を受け止めてくれた。

 黒鬼は地面へ落ちていく。

「章……吾」

 大翔と有栖は身を乗り出した。

 落ちていく黒鬼の背から……翼が生えた。

 バサリと空へ舞い上がると、浮かんだ月を背に、大翔達を見下ろしている。

 黒鬼は、気づいたように空を見渡した。

 

 赤く染まっていた空は、いつの間にか、夜の闇色に沈んでいた。

「時間いっぱい鬼から逃げ切れれば、その子供は勝ちとなる。

 ……ここまでにしようか。この鬼ごっこは、お前らの勝ちだ」

 大翔達を見下ろし、ニッと笑った。

「……思い出したぜ。宮原、桜井。……有栖、大翔」

 大翔達は、黒鬼を見返した。

「思い出したら、新しい遊びを思いついた。一息吐いたら、次の勝負といこう」

 と、有栖を指差した。

 有栖は、ハッと息を呑んだ。

 ニヤッと笑う黒鬼の表情が、見慣れた顔に重なって見えたのだ。

 有栖を慕っていた、弟の顔に。

 

「ひとまず休憩だ。せいぜい体を休めておけ。じゃあな――有栖」

 バサリと翼をはためかせると、黒鬼は飛び去っていった。

 そんな黒鬼の姿を見て、有栖は呟いた。

 

「……章吾、私が姉として、助けてあげるからね」




有栖を完全なサイキッカーにしたのは、私の完全な趣味です。
だって女の子が活躍する話が私は好きですもの。
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