琉球エージェントの死遊戯紀行   作:アヤ・ノア

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オリキャラの有栖が、ライトノベルではよくある展開になります。
始めは弱かったけど成長する……凄く燃える展開ですよね。


85 サイキッカー・有栖

 黒鬼がいなくなった館の中は、しんと静まり返っていた。

 玄関ホールにも、廊下にも……あれだけたくさんいた鬼達が、一匹も見当たらなくなっている。

 大翔達は廊下を進んでいくと、ドアを開けた。

 

「あ、見つかっちゃった~」

 荒れ果てた部屋の中に残っていたのは、杉下先生の目玉だけだった。

 他の鬼達は、姿を消していた。

「パーティの後って、寂しいものだよね。みんな、もう帰っちゃったよ」

 無言で見下ろす大翔達を、楽しげにニコニコと見上げている。

「それじゃあ、みんな、お疲れ様でした☆ ボクも地獄に帰るね。まったね~♪」

 コロコロと転がって、部屋を出ていこうとする。

 その目玉の前に、葵が靴を突き出した。

 通り道を塞がれて、目玉が止まる。

「それじゃあ、ボクも地獄に帰るね。まったね~♪」

 葵の靴を避けて、転がっていこうとする。

 その目玉の前に、悠が靴を突き出した。

 通り道を塞がれて、目玉が止まる。

「ちょっと、ちょっと。気をつけてよ~。ジャマだよ~」

 ピョンピョン跳ねて、抗議する。

「それじゃあ、ボクも地獄に帰るね。まったね~♪」

 悠の靴を避けて、転がっていこうとする。

「死ね」

 目玉の前に、有栖が靴を突き出す。

 有栖の靴を避けて、転がっていこうとする。

 その目玉の前に、大翔は立ち塞がった。

「……今から俺達が訊くことに答えろ」

 じっと目玉を見下ろすと、四人で足を持ち上げた。

 エージェントは、精神を集中している。

「答えなければ、踏み潰す」

「踏み潰すわ」

「踏み潰すしかないね」

「殺す」

「あはは。みんな、コワイ。目がコワイ。ボクの目を見習ってよ。こう、キラキラ~☆ って」

「誰のせいで」

「こうなったと」

「思ってるんだ」

「クソが」

 てんでに踏みつけてやると、目玉はコロコロ転がって、子供達の足の間を逃げ回った。

「荒木先生、助けて~。子供達が、か弱い目玉をいじめるんです~」

「それは良くないですな、杉下先生。俺が代わりに踏み潰してあげましょうか?」

「あ、酷い。荒木先生ったら、血も涙もない。

 こんなに可愛い目玉をいじめるなんて近頃の学校教育はどうなっているのかな? 抗議します」

「訊く事に答えなさい」

 有栖は、右足を高々と持ち上げた。

「章吾に、何をしたの?」

「そ、そう怒らないでよ~」

 目玉はパチリと瞬きして答えた。

「章吾を苦しめて、姉の私が怒らないとでも? 今の私には、力があるんだから」

「黒鬼の力を、譲り渡しただけだってば♪」

「一昨日会った時は、あんなじゃなかったわ。黒鬼の後継者になんかならないって言ってたわ」

 有栖が目玉を睨みつける。

「あれから一体、何があったの? 章吾に、何をしたの?」

「ひ・み・つ♪ な・い・しょ♪ 英語で言ったら、シークレット★」

―ドンッ

 有栖は無言で足を踏み下ろした。

「ひぃぃ。コワイよ~。真の黒鬼になるために、必要な事をしただけだってば~」

 目玉は半泣きになって答えた。

「必要な事って何? 目玉焼きになりたくなかったら答えなさい」

 有栖は念力を使おうとする。

「うふふ。みんな、鬼♪ ボクよりよほど鬼♪

 鬼になるために必要な事といったら、ヒトの心を捨てる事に決まってるじゃないか」

「ヒトの心を……」

「心が鬼になれない限り、いくら体を鬼に近づけたところで、黒鬼にはなれないんだよ。

 もっとも、桃鬼は例外だったけど。

 ……だから、心をヒトの形に繋ぎ止めるものを、断ち切る必要があったんだ。

 キミ達人間が、『絆』って呼ぶものをね」

 目玉は、コロコロと転がって続けた。

「特に厄介なのが、『親子』の絆だ。

 人間の親が子を想う気持ちっていうのは、ボク達鬼にとっては、毒みたいなものだからね」

「だけど、桃鬼は子供を慈しんでいた……。これも、彼女にしかなかった事なのね」

「だからボクは、章吾君の持っていた親子の絆を断ち切ってあげたんだ。それだけだよ」

「断ち切ったって……」

「決まってるじゃない。キミと章吾のお母さんの命を奪ったのさ」

 こともなげに言うと、目玉は喋り始めた。

 入院している有栖と章吾の母のところに、見舞いのふりをして行った事。

 安静にしていなくてはならない母に、章吾が鬼になった事を知らせた事。

 わざわざ写真まで用意して。

 ショックを受けたお母さんは容態が急変し、亡くなった事。

 その事を、全身が鬼になって、意識が朦朧としている章吾に告げた事を。

「うふふ。キミ達の事を裏切ってまで守りたかった、大切なお母さんだったのに。

 自分が鬼になった事で、失ってしまった。

 その絶望に呑まれて、彼のヒトとしての心は、消えてしまったんだよ」

 目玉は嬉しそうに語りながら、大翔達を見つめた。

「……外道が」

 有栖は目玉を見て舌打ちする。

 超能力者に覚醒した事で、精神干渉が効かなくなったのだ。

「悲劇のフィナーレはこれからだ。

 残った姉と友達の絆を断つ事で、章吾君は黒鬼として完成するんだ」

 目玉はニコニコと笑って続けた。

「彼が姉を、友達を、捕まえて喰う。それが、この鬼ごっこの結末なんだよ」

「そんな事は絶対にさせないわ! 私は、鬼を超えるチカラを得たから!」

 

「ともかく、こんなところさっさとおさらばするぞ」

 荒木先生は、大翔の左肩を消毒して包帯を巻くと、子供達とエージェントに頷きかけた。

「街までは、どうやって戻る? 先生の車、壊れちゃったろ?」

「ボクの車を使っていいよ」

 と、ペットボトルの中から、目玉が言った。

 よっぽど踏み潰してやろうかと思ったが、捕まえて運行する事にしたのだ。

 目玉はアップルジュースの中に、プカプカと浮かんでいる。

 全員、ジト目で目玉を睨んだ。

「ワナじゃないでしょうね?」

「酷いなあ。ボクが今まで、一度でもみんなをワナにかけたことがあった?」

「……」

「あ、ムシだ。

 『むしろ罠にかけられた事しかないだろ!』ってツッコんでほしかったのに、完全ムシだ。

 目玉は悲しいです。安心してよ。罠じゃないから。車、乗ってってよ」

 

 大翔達は屋敷を出ると、裏口の脇に停められていた車に乗り込んだ。

 だが、エージェントは車に乗らず、全員テレポートした。

 ピカピカの高級外車を見つめ、鬼って儲かるんだな……と荒木先生がぼやく。

「それで、これからどうするつもりなんだい?」

 車はのろのろと走っていく。

 屋敷を後にし、木々に挟まれた狭い小道を戻った。

 陽は暮れ、辺りは真っ暗だ。

 車の中は、重い沈黙に包まれている。

 その沈黙を一切気にせず、目玉がペラペラと喋りかける。

「黒鬼君に、『浄』の符は効かない。打つ手はない。どうやって逃げ回るつもりなんだい?」

「打つ手なら、まだある」

 大翔は言い返した。

「あいつはまだ、完全な鬼じゃねえ。

 絆が心をヒトの形に繋ぎ止めるなら、俺達がいる限り、あいつの心は鬼になり切れないはずだ」

「確かに彼の中にはまだ、ヒトの心がほんの僅かだけ残っているみたいだ」

 目玉は林檎ジュースの中で、クルクルと回った。

「でも、『浄』の札も効かない程度だ。何の意味もないね。

 親子の絆に比べたら、友達や、姉弟(きょうだい)の絆なんて儚いものだ」

「『浄』よりも、もっと強力な札があったらどうだよ?」

 と、大翔はニヤリと笑った。

 運転席の荒木先生へ向き直った。

「先生。さっきの札、俺にくれよ」

「そうだよ。あの真っ黒な札、何だったの? 先生」

 悠が後部座席から身を乗り出した。

「金谷君、あの札と有栖にだけは反応してた」

「私、聞きたかったの。よっぽど強力な札なんでしょう?」

 有栖が質問するが、荒木先生は、黙っている。

「行きの車の中で、先生、言ってたもんな。

 『浄』の札が効かなかったら、その時は俺が何とかする、ってさ」

 大翔は、ぐっと拳を握り締めてみせた。

「あの札の事なんだろ? あの札なら、今の章吾にも効くんだろ?

 あんなもの、どこで手に入れたんだよ?」

「……あの札は、鬼祓いについて調べていた時、とある神社で譲り受けたもんだ」

 荒木先生が、ようやく口を開いた。

 フロントガラスの向こうを見つめたまま、続けた。

「何百年もの間、祀られ、霊力を込められてきた強力な呪符だ。

 お前らが即席で作るものとは、パワーが違う。どんな鬼にも効く」

「そんな呪符持ってるなんて、先生、一言も言ってなかったじゃないか」

「そうだよ。もったいぶらずに、教えといてくれればよかったのに」

 大翔と悠は、唇を尖らせた。

 荒木先生と、超能力者の有栖は黙っている。

「私に預けて。私が章吾に貼りつける」

 有栖は先生に頷きかけた。

「今の章吾に札を貼るのは難しいかもしれない。でも、希望はある。私は、章吾をヒトに戻す!」

 有栖が意気込み、大翔、悠、葵が、うんっ! と頷く。

 荒木先生は、黙ったままだ。

 子供達と目を合わせない。

 険しい顔でフロントガラスの向こうを睨みつけ、口を引き結んでいる。

 

「……先生?」

「黒い札?」

 と、目玉が声を出した。

 ジュースの中で、クルクルと回っている。

「あのー。横からすみません。黒い札って聞いて、気になって。荒木先生、ひょっとして」

「言うな」

「『滅』の札の事、ですかね?」

「だから言うなって」

「……『滅』の札?」

「あれ、『滅』の札っていうのか?」

「あ、いけない! 教えてないんだ? 子供達には、ナイショだったんですね? 荒木先生」

 目玉が、驚いたような声を出した。

 子供達は目を瞬いて、黙り込んだ荒木先生と目玉を交互に見つめた。

「大丈夫ですよ、荒木先生。ナイショにしますよ。

 『滅』の札は、鬼をヒトに戻す札じゃない、って事は、言いませんよ。

 それどころか、鬼を、元になった人間諸共、滅殺するための札なんだ、ってことは、

 決して言いませんよ。……あっ、行っちゃった~」

「……やっぱり潰しておくんだった、このクソ目玉」

 有栖が唸った。

「『滅殺』ってどういう意味?」

「滅ぼして……殺すという意味よ」

 悠が首を傾げると、葵が固い声で呟いた。

「つまり荒木先生は、章吾君をヒトに戻すんじゃなくて……殺してしまおう、

 って言ってるわけなのでした~」

 目玉がうきうきと言った。

「……ウソだよな? 先生」

 大翔の問いかけに、荒木先生は答えない。

 子供達と目を合わせようとしない。

 道路の向こうを、睨みつけている。

「ウソだ……って言えたらよかったんだが」

 ぼそりと答えた。

「金谷の弟を止めるためには、もう……滅殺するしかねえんだ」

「な、何言ってんだ! 自分が何言ってるか、分かってんのかよ先生!」

「……」

 大翔はカッとなって、運転中の荒木先生に掴みかかった。

 有栖は「やめて」と大翔を止めようとする。

「章吾を、見殺しにするって言ってんだぞ!?」

「他に手がない。『浄』の符が効かなかった以上、これしか方法がない」

「私が身代わりになればよかった」

 荒木先生は、自分に言い聞かせるように言った。

 有栖は皆に聞こえない、小さな声で呟く。

「鬼になった金谷の弟は、お前らを狙うだろう。金谷の弟を滅殺しなきゃお前らが喰われるんだ」

「そういう『目には目を』的な考え方、良くないと思いますよ。目玉が言うのもなんですが」

「キミはちょっと黙っててね」

 悠がペットボトルをシャカシャカ振った。

 やめて、目が回るよ~、と目玉が喚く。

「荒木先生が僕らを心配してくれてるのは分かった。でも、僕も反対だよ。そんな札、使えない」

 悠も、きっぱりと言った。

「宮原。何か言ってやってくれよ。こいつらバカだから、他に方法がないの、分からないんだ」

「それがね、先生。バカって、移るみたいで」

「そんな、風邪みたいに言うなよ」

「あたしもそんな札、使いたくない。他に方法はないの?」

「あったらこんな札、持ってこない!」

いい加減にして!

 今まで俯いていた有栖が、口を荒らげ、荒木先生から黒い札を奪った。

「あなた達は甘すぎるわ。そんなので章吾を止められるとでも思ったの!?

 確かに友情は大切よ。悪い奴から友達を助ける事もできるかもしれない。

 だけど、それだけで解決できない問題だって世の中にはたくさんあるのよ。

 あなた達はまるっきり、成長してないわ! 少しは折り合いをつける事も学びなさい!」

「……!」

 有栖は悲しい目をしていた。

 弟を止められなかった責任を、自分自身で取るために。

 そして、大翔は思い出した。

 自分達の甘い考えのせいで、章吾が鬼になってしまった事を。

「だから私は、黒鬼ごと章吾を滅殺する! これ以上、私を止めないで!

(それが……成長なのか……? 章吾とやってる事が、同じじゃねえか……)

 大翔は有栖の言葉に疑問を抱く。

 だが、もうこれしか手段がなさそうだった。

 有栖の言う通り、もう、『滅』の札を使って、章吾を滅殺するしか道はないのか……。

 

「……鬼祓いの秘技が通用しないなら、別の力を使えば……」

「え?」

「有栖……お前の“チカラ”があれば……」

 チカラ、すなわちそれは超能力である。

 符術で章吾が鬼に戻らなかったなら、超能力を使えば、章吾は元に戻る。

 荒木先生はチカラに目覚めた有栖を信じている。

 有栖は少しだけ迷ったが、しばらくして頷いた。

「……分かったわ。先生には申し訳ないけど、私……このチカラで、章吾を助ける!」

 その気持ちを受け取った有栖は、精神を集中し、どこかにいるエージェントにそれを伝えた。

 

「えっ? 今すぐテレパシーを使えって?」

 最初にテレパシーを受け取ったのは織美亜だった。

―うん、札が効かないなら超能力を使えばいいから。滅ぼさなくても章吾は助かるわ。

 ね、お姉さん、お願いだから。

「分かったわ。みんな、アタシ達に力を貸して」

 有栖とエージェントは、テレパシーを使って、様々な人物に連絡していた。

 関本、伊藤、そして家族……皆がいれば、章吾は人間に戻ると信じているからだ。

 『滅』の札を使う必要はない、と有栖は知り、自身の超能力で皆に呼びかけているのだ。

 

「この声、誰の声だ?」

「分からない……でも、誰かが呼んでいる気がする」

「男の人の声が聞こえる……これって、章吾を助けてほしいって事なの?」

 桜ヶ島にいる人達が、五人の超能力者のテレパシーを受け取っていた。

 どうしても章吾を助けたいという有栖の思いを、超能力者が増幅して届けてくれたのだ。

 大翔、悠、葵の親も、もちろんテレパシーを受け取っていた。

 あり得ない力であっても、誰かが助けを呼んでいるならば、

 受け取らないわけにはいかないからだ。

 

「うん、上手くいったみたい。……みんなを、章吾のところに連れてって!」

 有栖は超能力を解放し大翔達を目的地に飛ばした。




私だったら滅の札を使っていたんですけどネ。
子供達はとっても、とっても、甘いですよネ。

次回はいよいよ、小学生編最後の鬼ごっこです。
最後の最後まで、オリキャラが無双しますので、ご注意ください!
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