もちろん、オリキャラも大活躍しますよ。
むしろ、大翔達以上に大活躍するかもしれません。
大翔と有栖は急いで桜ヶ島小学校へ向かった。
夜の闇にぼんやりと、小学校の校舎が浮かび上がっている。
校門を軽く飛び越えグラウンドを横切って走った。
昇降口の扉を抜けて、校内の階段を駆け上がっていく。
大翔のポケットには、呪符が数枚、入っている。
葵と悠に作ってもらった、『浄』の符、鬼を封印する『封』の符、
脚力を高める『跳』の符、体を守護する『護』の符。
そして、有栖のポケットの中から、黒いオーラがゆらゆらと立ち昇っている。
大翔と有栖はポケットを押さえつけると、ぎゅっ、と拳を握り締める。
(決着をつけてやるぞ……)
(私は、章吾を止める……)
屋上へ通じるドアのカギは壊されていた。
大翔と有栖が屋上に出ると、黒鬼が気づいて振り返った。
「……やっと、来たか。遅えぞ……」
もたれかかるようにフェンスに手をつき、苦しげに息を吐いている。
「さあ、決着をつけようぜ……有栖、大翔……」
血走った赤い目が、大翔と有栖を睨む。
ひくひくと瞼が震える。
「……どうしたの?」
「もう一度、鬼ごっこだ。有栖、大翔……」
黒鬼は、有栖の問いかけを無視して言った。
「場所は、小学校の敷地内……。制限時間は、15分……。ただし、今度は、攻守交代だ……。
お前らが俺を追いかけるんだ……。見事捕まえられたら、戦いはやめるよ……」
「そうね」
「絶対、捕まえてやる」
大翔はポケットに手を突っ込んで、呪符を掴み出した。
有栖は精神を集中し、超能力を使う準備に入る。
腰を落として構えを取ると屋上の床を踏み込んだ。
「捕まえて……」
「「ぶん殴る!」」
スタートダッシュ、トップスピードへ。
一直線に黒鬼に飛びかかっていくと、角へ向かって右手を伸ばした。
「また、真正面からかよ」
黒鬼は、フッと消え去った。
「単純バカめ」
「それはどうかしら」
「ぐっ!?」
有栖が黒鬼の動きを超能力で止め、大翔は足を突き出すと、
ぐるんっ! とコマのように体を反転させた。
後ろへ回り込んだ黒鬼の額へ、右手を伸ばす。
黒鬼は上体を逸らして避けた。
何度も手を突き出したが、全てかわされる。
「ほらほら、タッチしてみろよ。できるもんならな」
と、黒鬼は床を蹴って高く飛び上がった。
満月を背に、ベエッと舌を出して、
「鬼さんこちら♪」
「いってやらあっ!」
大翔は「跳」の根を足に貼りつけると、床を蹴りつけた。
札が光り輝いて、大翔の体は高く飛び上がった。
黒鬼に突っ込んでいくと、右手を伸ばした。
「全然当たんねーぞ!」
「うわああっ!」
―バシン!
何か柔らかいものに、強かに頬をはたかれた。
大翔は頭を下にして、一直線に落下していく。
校庭の遊具が小さく見えた。
「くっ!」
「危ない!」
有栖は超能力を使い、大翔の前に瞬間移動した。
大翔は有栖の身体にしがみつくように這い上がり、何とか屋上へ飛び降りる。
はあはあと息を切らして、黒鬼を睨み上げた。
黒鬼は翼をはためかせ、空の上から大翔と有栖を見下ろしている。
「ふん。空は飛ばないでおいてやるか……」
「完全に舐めてるわね」
黒鬼は翼を畳み込むと、屋上へ着地した。
有栖は黒鬼から視線を逸らさない。
「さあ、来いよ。大翔、有栖」
苦しげに息を荒らげながら、手招きする。
有栖には、その様子が、弟に重なって仕方ない。
「……あなたは、鬼?」
「ヒトの心が、戻って……」
大翔と有栖は黒鬼に問いかける。
「ムダな、おしゃべりをしてる、余裕があるのか……?」
黒鬼は、断ち切るように言った。
「俺は、鬼だよ……残虐で、冷酷な、黒鬼だ……グルル……」
黒鬼の喉の奥から、獣のような唸り声が漏れる。
ハアハア……と荒い呼吸が混じる。
「だから、ヌルいこと、考えんじゃねえぞ……。本気で、かかってこい。
本気の、鬼ごっこをしようぜ……」
そう言って笑う黒鬼の目の中に、大翔と有栖は見つけた。
人を喰いたい、ぶっ壊してやりたい。
鬼に染まった心の中に、最後に残った
(章吾……鬼になって、苦しんでいるのね。分かるわ……だからこそ、助けないと!)
「本気で追ってこいよなあッ!」
「当たり前よ!」
黒鬼は吠えると、屋上を飛び出していった。
「くっ!」
大翔と有栖は、黒鬼の後を追って走った。
有栖には超能力があるが、ともかく、呪符を貼りつけなければ。
薄暗い校舎の階段を三段飛ばしで駆け下りていく。
月明かりがぼんやりと、伸びた廊下を照らし出している。
誰もいない小学校に、三人の足音だけが響き渡っていく。
黒鬼が図書室に駆け込んでいく。
大翔と有栖も後を追って飛び込んだ。
―ガタン! ガタンガタンッ!
並んだ本棚が、倒れかかってきた。
黒鬼が走りながら、弾いているのだ。
「俺をいつも気にかけている双子の姉の、有栖!」
乱暴に本棚を薙ぎ倒しながら、黒鬼が吠える。
次々に倒れてくる本棚に潰されかけながら、大翔と有栖は黒鬼の後を追う。
「有栖がいなかったら、俺は、俺は……!」
大翔と有栖は、ぐるっと部屋を回り込んだ。
黒鬼が軽々と本棚を持ち上げて立っていた。
「うああああッ!」
有栖は念動力でバリアを張り、投げられた本棚を防ぐ。
壁に当たって壊れた本棚から、本がバラバラと降ってくる。
「ぐうっ……。オオアアッ!」
黒鬼が、苦しげな呻き声を上げた。
ぶるぶると首を振ると、図書室を出ていく。
大翔と有栖は本の山を乗り越え、後を追った。
「グッオオオアアアアっっ!!」
黒鬼が吠え、校舎が震えた。
パンパンパンッ、と、窓ガラスが砕け散る。
「腹が減った……減ったああァァっ!」
黒鬼はふらふらと廊下を歩いていくと、並んだ教室の一つに入った。
大翔と有栖も後を追って、飛び込んだ。
「!」
雫が肩にかかった瞬間、有栖は身を投げ出した。
一瞬前までいた場所を、天井から飛び降りてきた黒鬼の鉤爪が抉る。
「グルルルルルルルウ……ッ!」
黒鬼が牙を向いて
ボタボタとヨダレが垂れ落ちる。
「喰わせろ……。ありスの肉、喰わセろよオォっ!」
「お断りよ!」
「ああ!」
大翔は蹴って飛び込んだ。
黒鬼の角へ手を伸ばし、呪符を貼りつける。
―ボッ
呪符は一瞬にして燃え上がり、灰になって崩れ落ちた。
「だから! 『浄』なんか効かねえって言ってんだろうがあっ!」
「うっわあああーっ!」
黒鬼が、今度は大翔の右腕を掴んで引っ張った。
大翔の体は野球のボールのように、ぶんっ! と投げ飛ばされた。
教室に並んだ机を、盛大に巻き込んで倒れる。
「ぐああ……」
「本気でこい……。殺す気で来いよ……。でなきゃ、許さねえぞ……」
「当たり前よ、私は章吾を止めたいから」
黒鬼が机を乱暴に押しのけて、近づいてくる。
大翔の足を掴んで引きずり出すと、宙吊りにして吠えた。
「殺す気で来ねえなら……ブっ殺すからなあッ!!」
黒鬼は鉤爪を振り下ろしたが、そこには有栖のバリアがあり、
鉤爪が命中するとバリアは砕け散る。
「このチカラは、章吾を助けるためにあるのよ! 大翔、早く章吾に呪符を!」
「章吾……元に戻れ!」
大翔は黒鬼の角に手を伸ばし、符を貼りつけた。
「う……ぐうッ……」
黒鬼が、掴んだ手を離し、よろよろと後ろへ後退していく。
ビシッ、ビシッ……と、体が石になっていく。
「お前、ほんと、話、聞かねえよな……」
―ボッ
『封』の札は青い炎に包まれて燃え上がり、石になった部分がパラパラと砕け散った。
「そうじゃねえって言ってんだろうがああァァッ!」
黒鬼が腕を薙ぎ払い、大翔は必死に避け、有栖は超能力で攻撃する。
「『滅』だ……俺を止めるには、『滅』しかねえぞッ!」
血走った目で、有栖を睨みつける。
「鬼の心が、喚くんだよッ! 家族がいて! てめえなんか、喰っちまえってよッ!
友達だの仲間だの信じてて! てめえなんか、大嫌いだってッ!
鬱陶しい! ぶっ壊しちまえってさああッ!」
足を振り上げると、サッカーボールのように大翔を蹴り飛ばした。
大翔は二階の窓を破って宙に投げ出され、中庭に叩きつけられる。
シャツの下に貼っていた『護』の符が、灰になって散った。
「……やるしかないわ」
残る札は、有栖が持つ札のみ。
「グオオオオオオオオアアアアッ!」
黒鬼がベランダに現れて吠えた。
「有栖! 『滅』の札を出せッ!」
「章吾!」
「その名で呼ぶんじゃねええッ!」
「章吾っ!」
「俺は鬼だ! 黒鬼だッ! お前の弟ではない!!」
「章吾ぉっ!!」
―ブンッ!
黒鬼が飛び降りざま、鉤爪を振り下ろした。
有栖はバリアで攻撃を防ぎ、超能力で黒鬼を締め上げる。
「いいわ……いきましょう、章吾。私が、滅ぼすから……!」
そう言って、有栖は「滅」の札を取り出し……自分の身体に突きつけた。
彼女の身体から光が溢れ出し、空に舞い上がり……そして、花火のように弾けて完全に消えた。
「……このチカラは、あの人達だけでいい。私には、過ぎたチカラだから」
この瞬間、有栖は自身の超能力を完全に失った。
有栖はチカラで誰かを傷つけないように、自らそのチカラを滅ぼしたのだ。
「有栖……!?」
「間に合ったわ」
その時、中庭の窓が開いた。
黒鬼は気づいて振り返り……ハッと息を呑んで立ち尽くした。
「「はーっはっはっはっは!」」
高笑いと共に現れたのは、二人組の男の子だった。
とうっ! と渡り廊下から中庭へ飛び降りると、ふふんと得意げに胸を張っている。
「遅くなったな! 関本和也、ここに参上だぜっ!」
「同じく、伊藤孝司、ここに見参っ!」
ビシッ! と、よく分からないポーズを決めて、鼻から荒い息を吐いている。
「遅れてすまねえ! 病院から連れ出してくるの、手間取っちゃってさあ!」
「看護師さん達が、勝手に患者を連れ出しちゃダメ! って、怖い顔して迫ってくるんだもん!」
「ま、ゴーインに振り切ってきたんだがな!」
「今頃、家かケーサツに連絡いってるかもね! 泣きそう!」
はっはっは! と、二人で偉そうに笑っている。
黒鬼は、反応しなかった。
目を丸く見開いて、二人の後ろに控えた人を見ている。
痩せた体つき、入院着の上から羽織ったカーディガン。
少しやつれているが、綺麗で優しそうな女の人。
「一体、何をやってるの? 章吾」
有栖と章吾の母だった。
立ち尽くす黒鬼を、腕組みをして、睨んでいる。
「あなたが学校に来てるって有栖に言われて、関本くんと伊藤くんに、連れてきてもらったの。
今まで、何してたの?」
家出した子供を叱るような口調で、唇を尖らせる。
「黙っていなくなるし。連絡よこさないし。挙句、そんな姿になって。学校壊して」
まくしたてる母を、黒鬼はぽかんと見返している。
有栖は、満面の笑みを浮かべている。
「……なんで?」
震える声で、言った。
「お母さん……。死んだんじゃ、なかったの……?」
「勝手に親を殺さないでちょうだい」
母が溜息を吐いた。
「でも、あいつが……」
いいかけ、黒鬼はハッと息を呑んだ。
「まさか……」
「そ。オレ達、章吾がいなくなってから、ずっと病院で見張りしてたんだけどさ」
「だから、杉下先生がお母さんのところに来た時、その場にいたんだ。見てたんだよ」
「ショックを受けたお母さんが、死んじゃったなんて大嘘だっつうの」
「どころか、お母さん、カンカンだったんだよ!」
『鬼になった!?!?!? あの子、何考えてるの!
ちょっと連れてきてください! いい加減、叱りつけてやらなくちゃ!』
と、母は、杉下先生に食ってかかったらしい。
「それでオレ達、ホウキとか持って、病室に踏み込んでやったんだ!」
「杉下先生、追っ払ったってわけ!」
「鬼の癖に、弱っちかったよな~。それともオレらが強すぎんのか? な? 孝司」
「焦ってスタコラ、逃げてっちゃったもんね。きっと僕らが強すぎなんだよ、和也」
だよな~っ! と、二人でハイタッチしている。
「仕方ないじゃないか。親が子を想う気持ちっていうのは、毒みたいなものなんだから」
……と、杉下先生の声が響いた。
渡り廊下へ顔を向けると、悠と織美亜がぴょこんと顔を出した。
揚げたペットボトルの中から目玉が、恨めしそうに母を睨んでいる。
「ほら、みんなに謝りなさい」
「騙してゴメンナサイって」
「はいはい。ごめんごめーん。
お母さん死なせるの上手くいかなかったから、死んだって嘘つきましたあ~。これでいい?」
目玉が、不満たらたらな声で言う。
「これだから『親』は嫌なんだ。
子供が鬼になったと知ったら、ショック受けて死んでくれる予定だったのに。
まさか、掴みかかられるとは。そういう事されると、ウゲエェェ……ってなるんだよ。
うざい。親うざい」
「……よかった……」
麻麻以外のエージェントは天涯孤独の身、故に親に庇護されない「大人」。
織美亜達は痛感しながらも、一安心する。
「子供がピンチと聞いて、ショック受けて死んでる暇なんてないでしょうに。
むしろ自分が病気だって事、忘れちゃったわよ」
有栖と章吾の母が、呆れたような声を出した。
「意味分かんない。理解不能だよ」
「でしょうね」
麻麻が言う。
逆に言えば、親がいない子供は、超能力がなければ無力だが……。
目玉は、拗ねたようにジュースを掻き回しながら続けた。
「仕方ないから、章吾君には、暗示でもかけようかなって」
「暗示……?」
「ほら、杉下先生の目には、人を操る力があったでしょ? アタシ達には効かないけど」
黒鬼は、ハッとした。
杉下先生がその力で、桜ヶ島小の人気教師になっていた事を思い出したのだ。
「その力で、金谷君に、お母さんは死んだって、信じ込ませたんだよ、この目玉は」
「うふふ。あの時の章吾くん、意識が朦朧としていたからね。
暗示をかけるのも、簡単だったんだよ」
「偉そうにしないの」
「うん、卑怯ね」
悠がペットボトルをシャカシャカ振った。
やめて、目が回るよ~、と目玉が喚く。
黒鬼は、黙り込んでいる。
「そんなわけで、お母さんは無事よ、章吾、有栖」
織美亜が黒鬼に頷きかける。
「無事どころか、鬼に掴みかかるくらい、ピンピンしてんだ」
和也がニシシと笑って言う。
「病気の調子も、どんどん良くなってるんだよ」
孝司が言い添える。
「「「だから、戻ってきなよ」」」
声を揃えたが、黒鬼は首を振った。
「もう……遅えんだよ……」
グルルルと、呻くように言い、喉の奥から、唸り声が漏れる。
威嚇するように牙を突き出し鉤爪を振りかざした。
「俺は、鬼になったんだよ。人間になんて、もう、戻れねえッ!
もう……引き返せねえんだよおッ!」
そう言って、章吾が鉤爪を突き立てようとした時。
「……男の子って、めんどくさいわねぇ」
「ま、オレ達は面倒ではないがな」
「みんな、よく頑張った」
「私達には、チカラがある」
と、呆れたような声が響いた。
葵、狼王、阿藍、麻麻の声だった。
「遅くなったわね。集めるのに時間かかっちゃって」
葵達が小走りにやってくると、ぴょいっと中庭に飛び降りた。
その後ろから、荒木先生が歩いてくる。
結衣は超能力で保護されていたため、無事だった。
「金谷のおにーちゃん、どうせまた、おねーちゃんとケンカでもしたのかなって思って」
ニコ~ッと笑って、結衣が言う。
「あのね。なかなおりしたいなら、ごめんなさいって、いえばいいんだよ」
「5歳児が正しいな」
「ま、金谷君も金谷さんも姉弟揃って強情だからね」
荒木先生が溜息を吐き、葵が肩を竦めた。
「お兄さんやお姉さんのテレパシー、ちゃんとみんなで受け取ったわ」
「みんな……?」
黒鬼が眉を顰める。
すると、遠くから、ざわざわと声が聞こえてきた。
グラウンドを横切り、昇降口を抜け、集まってくる話し声。
小学校でいつも聞いていた……子供達の声。
「……え?」
黒鬼は、ぽかんとした。
「心をヒトの形に繋ぎ止めるものが絆なら、多い方がいい」
阿藍がニコッと笑って言った。
「仲間は、何もアタシ達だけじゃなくていいわよね」
織美亜が、ふふっと笑って言った。
「『アナタの友達、学校に集合!』ってね」
「……俺の、友達? そ、そんなの……」
黒鬼が目を瞬く。
「……金谷、帰ってきたってえ?」
男の子が一人、ひょいと顔を出した。
有栖と章吾と同じクラス、6年1組のクラスメイトだ。
立ち尽くした黒鬼を見やると、げ、と唸った。
「うわあ……。鬼になっちまったって、マジだったのか。
優等生ほど、グレると危ないっていうもんなぁ……」
道、踏み外しすぎだぞお……と、呆れ顔で黒鬼を見ている。
その後ろから、別の女の子が顔を出した。
「金谷君、行方不明になってる間に、鬼になったって本当!? きゃっ! コワイ……!」
6年3組の生徒で、確か、章吾のファンの一人だったはずだ。
黒鬼の姿を見て、びくびくと震え……あれ、でもよく見れば……と目を瞬いた。
う~ん、と腕組みをして、首を捻って、
「……その路線も、ワイルドでカッコいいかも。うん。ロックかも。
男子は、ちょっとワルの方がいいよね」
何やら、ふんふんと頷いている。
その後ろから、さらにぞろぞろと、子供達が顔を出してきた。
「おーっす」
「来たよ~」
「章吾、帰ってきたって~?」
みんな、桜ヶ島小の生徒達だった。
黒鬼の姿をしげしげと見つめて、うおおお……と盛り上がり始める。
「章吾は凄い奴になるだろうとは思ってたけど……まさか、鬼ってなあ……。驚いたぜ……」
呆れる男子生徒。
「そうかー? 金谷って姉ちゃん共々、元から人間離れしてたし。
今更人間やめたって言われても、あんま驚かねーや」
誰かが言った言葉に、頷く人が数人。
「鬼って、小学校には通えるの? 給食とか、みんなと同じでいいの?」
「やっぱり、お肉多めがいいんじゃね? 学校は……先生、怖がりそうだよなあ」
誰かが訊けば、誰かが答える。
「やっぱり、人間に戻った方がいいんじゃない?」
「えー。鬼のままでもいいじゃん。強そうでカッコいいし」
「何言ってんの! 鬼のままじゃ、結婚だって、できないんだよ!」
「それはお前が章吾と結婚したいだけだろ。ま、義理の姉にいびられるだろう」
「何よそれ」
「鬼って結婚できないの? できるんじゃない? 法律に、駄目って書いてないだろうし」
「章吾より、俺と結婚しよーぜ!」
「絶対、嫌!」
「ちょっとみんな! 静かに! 静かーに!」
好き勝手話し始めた子供達に葵が声を張り上げた。
「忘れないでよ! 用意してたもの、あるでしょ!」
「そうだ、そうだ!」
と、子供達は頷いた。
一人が焦って、カバンから何か取り出した。
特大サイズの、横長の画用紙だ。
巻き物のように、クルクルと巻かれている。
広げると、みんなで手に持って掲げた。
「「「じゃんっ!」」」
【おかえり☆ 章吾!】
太いペンで書かれている。
その脇に、たくさんのメッセージやイラストが、ごちゃごちゃと賑やかに描かれている。
黒鬼は立ち尽くしている。
「章吾がいなくなった後、みんなで作ったんだ。
帰ってきたら、おかえりしてやろうって、話し合ってさ」
子供達が頷いた。
「章吾、いなくなる前、なんか怖かったからさ。
遠巻きにしてたの、良くなかったなあって……反省したんだ」
「金谷君がお姉さんとお母さんの事で大変だった事、全然知らなかったから。ごめんね」
「お前、姉ちゃん以外に付き合い悪いからさあ。
いけ好かない奴だな~って思ってたけど……ま、色々あるよな」
「……」
「うんうん。お前も人の子と分かって、安心したぜ。ま、今は鬼だけど」
「それで、みんなで話し合ってね。帰ってきたら、何も訊かずに、まずはおかえりしようって」
「ということで、章吾、おかえり!」
「金谷君、おかえり!」
「おかえりなさい!」
「おっかえり~!」
「お帰りなさい……私の最愛の弟、金谷章吾!」
―パンパンパンッ!
子供達が紐を引っ張ると、一斉にクラッカーが弾けて銀紙が舞った。
みんな、ニコニコ笑って、黒鬼を見つめている。
黒鬼は、みんなの輪の中心で、俯いて、呆然と立ち尽くしている。
背筋を震わせて、ひらひらと舞い落ちる銀紙を、鬼の体に貼り付けて。
「……どうして」
絞り出すように言った。
「どうして、俺なんかのために……」
「まだ分からないのね? 章吾」
有栖は、大翔に目配せする。
「さあ、今度こそヒトに戻ってもらうぜ。みんな、呪符を頼む! 『浄』だ!」
「「「おうっ!」」」
と、みんなが声を揃えた。
葵が筆ペンを取り出すと、みんなが掲げた画用紙に、ササッと『浄』を書きつけた。
「じゃあ、力を込めるよ~!」
悠が画用紙を額に当てた。
織美亜達は、子供達を見守っている。
「お祈りするよ! みんなもご一緒に! 金谷君が、人に戻りますよーにって!」
「「「おうっ!」」」
(私はもう、普通の女の子になっちゃったけど……それでも、
章吾を守りたいって気持ちは、超能力を使えていた頃と同じよ)
みんなも目を閉じ、祈りを捧げた。
友達が、弟が、帰ってきますようにと。
その祈りに応えるかのように、画用紙が、ぼうっと、淡い光を放ち始めた。
「こ、こんな呪符があるかよ……」
黒鬼が、気圧されたように後ずさる。
「ふふ。『滅』なんかより強力な特大呪符よ」
「逃がさないわよ? 章吾」
葵と有栖が腕組みし、逃げ道を塞いだ。
「えへへ。金谷君の慌てるところ、見てみたかったんだよ~」
悠が、ニコニコと笑って逃げ道を塞ぐ。
「年貢の納め時って奴だぜ、章吾」
「たまには金谷君にも、痛い目見てもらわないとね。金谷さんの気持ち、分かった気がするな」
和也と孝司が通せんぼする。
子供達が、ぐるりと黒鬼の包囲を固める。
荒木先生は苦笑して、有栖と章吾の母は嬉しそうに、子供達と黒鬼を見つめている。
「分かったろ?」
大翔はニヤリと笑って、黒鬼に手を伸ばした。
「お前は、一人ぼっちなんかじゃねえんだよ。そもそも、
「くそッ!」
黒鬼の背から、バサリと翼が生えた。
宙に飛んで逃げようと……。
『駄目だよ、章吾。逃がさない』
と、声が響いた。
黒鬼は、ハッとして地面を見下ろした。
影鬼に影を踏んづけられ、足が地面に繋ぎ止められて飛び立てない。
『お前は鬼として、失格だ。強い鬼には、なれそうもない』
クスッと笑って続けた。
『だって、こんなにたくさん、友達がいるんだもん。お姉ちゃんも、心配してるんだもん。
お前なんか、人間に戻っちゃえ』
「さあ、みんな! 貼っちまえーっ!」
「「「おうっ!」」」
子供達は画用紙を掲げると、ニヤニヤ笑って、包むように黒鬼に巻きつけた。
『浄』の画用紙が光り輝いた。
ピカピカと、七色に、みんなが書き込んだメッセージが光った。
黒鬼の体も、光り輝いた。
小学校に、明々と、光の柱が立ち昇った。
……眩く照らす光が消えると、そこにはもう鬼の姿はなく。
有栖の双子の弟、章吾が立っていた。
泣きそうな顔をして、章吾は立ち尽くしていた。
「任務完了!」
織美亜、狼王、阿藍、麻麻は、子供達に向けて手を振り、テレポートで帰還した。
次回は、小学生編の最終回です。
どんな結末なのか、楽しみに待っていてください。