大翔達とエージェントのその後を書いています。
それから後の出来事について、大翔は簡単に記しておく事にする。
まず、章吾は、母にかなり怒られる事になった。
母は章吾の耳たぶを掴んでグラウンドの隅に引っ張っていくと、
火山の噴火の如く声を張り上げて怒った。
有栖はニコニコ笑みを浮かべながら見守っている。
まるで、あの時の杉下先生のように。
「どうして鬼になんてなろうとしたの?
困ったら友達やお姉ちゃんを頼りなさいって、言っておいたじゃないの!」
「家出するにしても、連絡くらいはよこしなさいよ! 手紙を出した?
鬼に手紙渡したって、握り潰されるに決まってるじゃないの! 少しは考えなさい!」
「お母さんを助けたかった? 子供が親の心配するなんて、十年早いの!」
「ていうか、学校色々壊しちゃって、どうするのよ、これ……」
ポコン、ポコン、と章吾の頭にげんこつを落として、叱りつけている。
怒られてしょんぼりしている章吾を、大翔達はニヤニヤと見つめていた。
庇ってやるつもりはなかった。
母に怒られている章吾が……とても、嬉しそうだったからだ。
(やっぱり、なんだかんだで一番大事なのは、お母さんだったのね。もちろん、私も同じだけど)
くすっと笑みを浮かべながら、有栖は双子の弟の様子を見守った。
ひとしきりまくしたてると、有栖と章吾の母は、はああーっと息を吐き出した。
それから、章吾の頭に、ぽんと手を乗せた。
「今までごめんね。心配かけたよね」
「……」
「もう大丈夫よ。
有栖の言う通り、手術は上手くいったし、
有栖とあなたの顔を見たら、すっかり元気になっちゃった」
「お母さん……」
「「また、一緒に暮らしましょう」」
「有栖……お母さん……!」
章吾の瞼に、涙が浮かんだ。
そして、有栖は心の中で呟いていた。
(ちょいブラコンの私が言える立場じゃないけど、章吾ってば、本当にマザコンね。
これに懲りたら、誰かを信じるのも大事だという事を学びなさい。
章吾は、私がいなかったら半人前なんだから。そして、チカラをなくした私もまた半人前。
いずれ、新しいチカラが欲しいわ)
弟を守りたい、という気持ちは、有栖の中でさらに強まっていった。
「三人だけにしてあげましょ」
と、葵が大翔と悠を引っ張った。
「何だよ、いいとこなのに。
あいつがお母さんにわあわあ泣きついてるとこなんて、もう見られないぜ」
「記念に、写真とか撮っておきたいよねえ」
「意地悪ね」
葵が強引に、大翔達を引きずっていく。
他の子供達も興味津々だったが、結局そのまま解散する事になった。
大翔達は連れ立って帰路に着いた。
「鬼になっても、お母さんに怒られちゃいちころだよなあ」
背中ですやすやと眠っている結衣を背負い直した大翔がそう言った。
「お母さんが怒ってくれる、か。考えてみれば、いいもんだよな。うらやましいぜ。うん」
「うらやましがるまでもなく、大翔もこれから、たっぷり怒られると思うけど?」
「帰り遅くなっちゃったし、ボロボロだし……カミナリ落ちるよね」
「げげ」
実際、家に帰ってからたっぷり怒られた。
やはり、怒られるのは嫌だという。
影鬼は、次の日、グラウンドの隅に大翔達を呼び出すと、色々ごめんね、と謝った。
『章吾と有栖にも、ごめんねって伝えておいて』
「自分で言えばいいのに」
『合わせる顔がないんだ。えへへ。ちょっと人間っぽいだろ?』
鬼は笑って、大翔達を見上げた。
『おまえ達のやり方、見せてもらった。
鬼のおいらだけど……友達の作り方、ちょっとだけ分かったような気がするよ。人間はいいな』
眩しそうに大翔達を見上げると、バイバイと手を振った。
『もしもまた会うことがあったら、その時は友達になってね。またね』
影鬼は寂しそうに笑うと、走っていった。
校庭で遊ぶたくさんの子供達の影に紛れて、すぐに見えなくなった。
章吾が戻ってしばらくの間、大人達は、只管首を捻る事になった。
なんせ小学生が長い間、行方不明になって、ひょっこり戻ってきたと思ったら、
学校を壊して大暴れしたのだ。
完全に事件だ。
子供達は、教師や警察に事情を訊かれたが、よく知らない、と惚けた。
章吾当人は突っ込んで追及されたようだが、何故
ただ、問題はさして大きくならなかった。
「日頃の行いがいいと、こういう時、楽だな」
「私も、それなりに何とかしたわよ」
章吾は肩を竦め、有栖は笑みを浮かべた。
数日が過ぎ、一週間が過ぎる頃には、学校はもういつも通りになっていた。
二週間が過ぎる頃、有栖と章吾の母は退院した。
病気はすっかり良くなって、人間の生命力というのは凄いものだと、医者も驚いていたそうだ。
有栖も「ね、言った通りでしょ」と笑みを浮かべていたそうな。
「さ、行くわよ、章吾」
有栖と章吾は、母と一緒に暮らし始めた。
毎日のお見舞いがなくなったので、放課後、ちょっと遊んだりしている。
ちなみに有栖は、堂々とみそラーメンを食べているとかいないとか。
そして、琉球エージェントはというと。
「皆の者、よくぞ健闘した。黒鬼は退けられ、桜ヶ島から鬼の脅威は消えた」
司令官・糸村一から、多大な賞賛が贈られた。
実質ただ働きも同然だったが、彼らは元から報酬などほとんど望んでいないので、
エージェントの顔に負の感情はなかった。
いや、たとえ負の感情を持っていたとしても、
エージェント達は仲間だから、乗り越えられるだろう。
「鬼の脅威は消えましたか……」
「うむ。これで、しばらくの間、任務はない。ゆっくりと、身体を休めるがよい」
「はい!」
黒鬼を倒し、その後継者の章吾も元に戻ったので、これ以上鬼が襲ってくる事はなかった。
一はエージェントを任務に出す必要がない、と判断し、エージェントを休ませたのだ。
ただ働き同然だが琉球エージェントは地獄と違い、
所謂「ブラック企業」ではない事が証明された。
「まあ、たとえ鬼や鬼より怖い人間がいたとしても」
「オレ達エージェントには、チカラがあるからな」
「それが四人もやってきたら、色鬼もまたいで通るかもしれないな」
「だって、一度は黒鬼を倒したんだもの。それでも、また鬼は現れるかもしれないわ」
エージェントは余裕を持ちながら決して油断せず、次の戦いに備えて休む事にした。
こうして、黒鬼騒動は幕を閉じた。
琉球エージェントの任務は、一先ず全て完了した。
もう鬼が桜ヶ島を襲わないと信じて、彼らは今日も、琉球の小さな島で過ごしている。
たとえ鬼が公正なゲームをする気がなくても、こちらが力で対抗すればいい。
エージェントはそう決めるのだった。
……新たな仲間と脅威を知らないまま。
「次は、私の出番かもしれない」
琉球エージェントの死遊戯紀行
~完~
……?
これにて「琉球エージェントの死遊戯紀行」はおしまいです。
とにかく、超能力を持ったエージェントが無双しまくるという、
「絶望鬼ごっこ」の二次創作にあるまじき展開でした。
でも、しっかりやり切った事で後悔はしませんでした。
世の中は二次創作を放置してばかりなので、それを反面教師にして、完結するようにしました。
中学生編に関しては、原作が終わったら連載する予定でいますので、お楽しみに!
それでは、ありがとうございました!!