テストの結果は…ゴミカスでしたが……
<お知らせ>
この作品は1週間に一本のペースで投稿する予定ではありますが、当方、気を抜くと普通に死ぬ学校に入っているため、更新が不定期になる場合があります。
あらかじめご了承ください
夕焼けの赤い日が、バスの左側後方、窓際で黄昏ていた怜をスポットライトのように照らした。
外はいつもと変わらない風景。怜が体験した摩訶不思議なことがまるで嘘だったかのように思えるくらい、いつもと同じ。
自分以外の乗客がいないバス、見向きもされない森林、時折見える木々の間から見える海、何も変わらないいつもの世界。
日向怜はバス通学である。
毎日、片道1時間弱の路線バスに揺られ、讃州市からほどほどに遠い坂出市の郊外にある家から、讃州中学へ通っている。
最初こそは慣れずに連日、筋肉痛や疲労でナイーブになっていたが、流石に一年も同じ生活を繰り返していれば自ずと慣れるものだ。
バス通学自体は中学生から始まったことでもない、小学校の頃から怜はバス通学だった。小学生の頃は、同じ方向に帰る子供も多かったが、決まって最後は今のようにバスに一人ぼっちだった。
「はぁー」と大きなため息をこぼす。当然、誰かが反応してくれることなどない。そのかわり、エンジン音とタイヤが地面を捉える音が規則的にバスの中を満たした。
別に一人ぼっちが嫌だったわけではない。
むしろ一人でいるのが好きなタイプではあった。
だがそれも、誰かが近くにいるから、一人ぼっちでいるのが好きだっただけで、元来、自分の性格は寂しがり屋だった事に、つい最近気づき始めた。
寂しさを紛らわすために、こうして黄昏ていても、出るのはため息だけで生まれるのは無駄な疲労感だけだった。
人気のない山道でバスが停車する。
ここが怜の家の最寄りのバス停だ。
そそくさと荷物をまとめ、白髪混じりの運転手に一礼してからバスを降りる。運転手は、怜に軽く一礼すると、バスを走らせて下り坂の裾に隠れていった。
「美空丘」と書かれた錆だらけの看板を背にして、車一台分くらいの未舗装の道を歩き始る。
バス停から家までは大体15分。カラス達の声を聞きながら、傷だらけの体に鞭を打ち、家を目指す。
ただ歩くのもつまらないので、いつものように鼻歌を歌う。
今日は疲れて気分が沈んでるから、明るめの曲でいこう。
という事で、婆ちゃんが教えてくれた昔のアイドルグループの曲をうろ覚えではあるが口ずさむ。
やっぱり、なにかやっていた方がただ歩くだけより、苦痛が少なくなる者だ。そういえば、誰だかが「音楽は人間の最大の発明」と言っていた気がする。あれは誰だっただろうか?蘭や望とかではないのは確実ではあるのだが……
「消えそーな願いを繋ぎ明日の日を夢見てー…」
「おう、怜。お帰り」
「あ、爺ちゃん!ただいま!」
鼻歌混じりで歩いていると、向こうからガタイのいい老人がやってきた。
今年で78になる怜の祖父の
山の見回りでもしていたのだろうか、祖父の手には軍手とゴミ袋が握られていた。
「どしたの、ゴミ袋なんか持って」
「最近、缶やらビニールやらのゴミが多くてな、自分の家にゴミがあるのもあれだろう?」
「あー、まだいたんだ、勝手に捨ててく人…」
怜の家、正確に言えば怜の祖父と祖母の家は、かなり土地面積のある家で、ここが私有地だと分かっていない人が多く、看板を立てたり柵を立てたりして対策をしてはいるが、ゴミや不法投棄が後をたたず、日向家の問題となっていた。
なんでも今日は、パンクしたタイヤが捨てられていたらしい。さっき家のガレージまで持って行って、明日捨てに行くようだ。
そして、ちょうど時間だからと怜のことを迎えにきてくれたらしい。
そんな話をしていると、鼻腔をくすぐるいい匂いがしてきた。
この匂いはなんだろうか……味噌の匂いがするが………
「爺ちゃん、今日の晩飯何?」
「今日はな、土井垣んとこの息子がアサリ持ってきたから、煮味噌だな」
「へー、てか土井垣さん来たんだ…」
土井垣さんは、坂出市で漁師をしている人だ。その人のお父さんが爺ちゃんと知り合いで、今でもたまに家に飲みに来るくらいには仲良しである。そして決まって、女をナンパしまくっただの、怪獣みたいな鰹を数時間の格闘の末一本釣りしたなど、若い頃の武勇伝を怜に大袈裟に言って聞かせるのだ。一言で言えば、お酒と昔話が好きな気の良いおっちゃんである。
ちなみに、土井垣さんの子供と、怜は同い年で小学校も一緒だった。
怜にとっては、家に来たらちょっと驚いて、その後は特に気にしなくなる、それくらいの距離感と関係性の人である。
だが、今の怜にとっては知っている人が、今日もちゃんと生きていることがほんの少し嬉しかった。
ただいまと、木枠の玄関扉を開け、旧時代_教科書によれば昭和_チックな玄関で、靴を脱ぎ捨て、いい匂いが立ち込める居間へと向かう。
机の上の箸入れから、決まった箸を分けていると、台所から白髪の老婆が大きな器を抱えてやってきた。
「あら、おかえり怜くん」
「婆ちゃん、ただいま。重いでしょ?僕持つよ?」
この白髪の老婆は、怜の祖母の
祖母から器を受け取り、机へと運ぶ。味噌のいい匂いが鼻腔をくすぐる。
しばらくして、祖父も来たので「いただきます」とともに夕飯を、胃袋に掻き込む。
今日は、白米に大根と油揚げの味噌汁、アサリの煮味噌、たくあん、それと作り置きのきんぴらごぼう。今日も随分と豪勢な夕食だ。
それにしても、あれだけ派手に投げ飛ばされて体中が痛くても、ちゃんとお腹は減るし、減った分だけご飯を食べられる。不思議だ。漫画やアニメでは、ぼこぼこにやられた主人公が、食べても内臓が受け付けず吐く、なんてことが常なのだが現実は違うらしい。
「怜、今日は何の写真撮ってきたんだ?」
アサリをごっそりと自分の皿に移しながら、祖父が怜に訪ねてきた。
…あ、分葱よけた。ずるい。
「え、あ今日は裏山でちょこっとかな。なかなかいいのが取れたんよ」
カメラを祖父に渡し、今日撮った写真を見せる。
「いい写真だ」と言って、褒めてくれた。祖母も写真を見て「綺麗だね」と言ってくれた。
祖父と祖母はとっても優しい。
いつでも自分のことを気にかけてくれくれる、13になる今まで育ててくれた。怜にとっては唯一で、誰よりも大事な家族。
だからこそ言えない。
今日自分は、写真を撮っていただけではないのだと。
今日自分は、巨人になって怪獣と戦っていたのだと。
そして、みっともなく負けたのだと。
もし、言ったら心配してくれるだろう。…あの時のように。
それはだめなのだ。
怜はあの日誓ったのだ、もう祖父母の前で弱音は吐かないと。
二度と心配をかけないと。
幸い、ポーカーフェイスは得意なので決してバレることはないだろう。
口直しのたくあんをほおりこむ。
視界の端で、自分のカバンがもぞもぞと動いているのを怜は見逃さなかった。
15分後、自室にて。
怜の目の前にはカバンから取り出した扇型の神器_「ウルトラゼットライザー」があった。
「あの、ゼロさん?人のいる前で動かないでくださいよ」
用があるのは、ゼットライザーの中にいる宇宙人、「ウルトラマンゼロ」だ。
この宇宙人、普段はこのゼットライザーの中にいるらしく、直接会って話すには怜が飛び込んだあの光の扉_ヒーローズゲートというらしい_をくぐって、怜とゼロをつなぐ
別に、インナースペースに行かなくてもゼットライザーを介して、会話できるので問題ないのだが、いかんせん傍から見るとおもちゃに話しかけているようにしか見えないので、ちょっと、いや、かなり恥ずかしいのだ。
しかも、このゼットライザー、ゼロの意思で自由に動けるらしく(ゼロ曰く、ウルトラ念力という超能力によって浮かしているらしい)さきほど、カバンがもぞもぞ動いていたのも、ゼロがゼットライザーを動かしていたからである。
『なんでだ?』
「そりゃバレたらまずいからに決まってるでしょ!」
もしかして危機感のない種族なのだろうか、怜は怪しんだ。
バレたら怪しい黒服の男たちの連れていかれて、解体されて調べ尽くされるのがオチだ。もちろん、持っていた怜もただでは済まないだろう。まだまだ若いのだ、怪しい組織につかまって人生をもてあそばれるなんてハードSF小説の主人公みたいな境遇はたどりたくないのだ。
「はぁー」
思わずため息が漏れてしまった。
『‥‥‥一つ聞きたいことがある』
ふと、ゼロが呟いた。
「なんですか?聞きたいことって」
『いや、そんな大したことじゃないんだがな。…どうして、あの時お前は戦ったんだ?』
「え、…‥‥‥」
全く予想していなかったことを聞かれた。
何故、戦ったのか。
確かに、あの時、僕には戦わないという選択肢もあったはずだ。
膝を抱えて、戦いが終わるのを待っていればよかったのだ。誰も怜のことをあの場所で見ていないのだから、誰にも責められることはない。
あの勇者たちが死ぬかもしれないのだって、最悪の場合だ。最悪なんてそう簡単には起きないものなのだから、見ているだけでも良かったはずだ。
だが怜は怖かったのだ。
自分の手の届くとことで、知っている誰かが死ぬのが怖かった。
怜は知っている。自分の手が届くところで、救えなかった時の絶望を。自分の手が届かないとことで、大事な人が一方的に奪われる恐怖を。
左頬に冷たい感触が蘇る。思い出そうとすれば、毎回怜を襲う冷たさ、きっとこれからも続いていく否定できないもの。
『言いたくないなら言わなくてもいいんだ』
俯いた怜を見て、ゼロが優しく声をかけてくれる。
いつか言えるのだろうか、こんな過去。今まで誰にも言ったことなんかないのに。
いつか話せるだろうか。きっと誰も聞きたがらないだろう、こんな話聞いたところで面白くもなんともないんだから。
「お風呂入ってねー」
祖母の声が、廊下に響く。
着替えをもって、風呂場に向かう。
何でこんな焦ってるんだ、僕
「風呂は命の洗濯」
最初にこう言ったのは一体誰なのだろうか。
なんとなく、日本人が言った気がするが、湯船にどっぷりと浸かって、天井の水滴を眺める怜には確かめられない事だ。
元々、風呂というのは宗教的なところから始まる、いわば儀式の一つのようなものだ。冷たい水を用いて体を清めるため、まさに命を洗濯するための行為なのだ。
それが、温水を用いることによる一種の新陳代謝を狙ったり、老廃物の排出のためのものに変わってきた。
だが、しかし、古代において個々人のためにそれぞれ風呂の湯を沸かすというのは並大抵の労力ではない。そのため、一度に大人数が入れる大衆浴場が古代における風呂だった。だがそれも、キリスト教の浸透により裸で同じ場所に人々が集うという行為が忌避されるようになり、廃れてしまったのだ。
皮肉にも、宗教的概念から発展した風呂という概念は宗教により淘汰されてしまったのだ。
その後は、教会へ行く時の清めのために大きい桶に貯めた温水をかける程度のものにまでなってしまった。さらに追い討ちをかけるように14世紀のペストの流行で風呂がペスト菌を体に取り込む行為と間違った解釈がなされたため、より一層、風呂文化の衰退に拍車をかけてしまった。
その後、長い時が立ち、医学の進歩とともに健康に良いものとして民衆に受け入れられたのは18世紀ごろで実に400年ほどは、人々は風呂に対してよくないイメージを持ったまま生きていたということになる。
こう言ったことから、現代における風呂というのは、宗教的というよりどちらかと言えば、健康を守るための行為へと目的を変えているのだ。
というのが、西洋における風呂の歴史で、日本では風呂嫌悪文化的なものは特にはない。
だから、こうして今日も浴槽に並々と貼ったお湯に足を伸ばして入れる幸福を、「日本人でよかった」と噛み締めるのだ。
「はぁ〜、やっぱ風呂は命の洗濯だぁ〜」
疲れを癒やし、惚けた顔をしていると、脱衣所からフヨフヨと浮かぶ何かが入ってきた。湯気でよく見えないが、人ではないのは確かだ。目を凝らし侵入者を見つめる。
『やっぱ、そんないいもんなのか?』
「ってうぇッ!?ゼロさん!?」
なんと、侵入者はゼットライザー…もっと正確にいうならば、その中にいる若干強面の宇宙人のゼロだった。
慌てて、局部を手で隠す。日向怜中学2年生、そこまで自分のあそこに自信があるわけでも、他人に見せるほど精神が幼稚ではないのだ。
「な、なんで入ってきてるんですか!?」
慌てる現役中学生に宇宙人はさも当然というばかりに
『いや、お前がやたら変な声出してたから心配になってな』
と答える。いい人?宇宙人?なのはわかるが、人が入っているときに声もかけずに入ってくるのはどうかと思う。
そもそも、宇宙人に地球、それも島国の日本の文化を強要するのも酷な気もするが……
「あ、はい。それなら大丈夫です。別になんともありませんから」
とりあえず、帰って欲しいと視線で訴えてみる。…無意味っぽい。
この際だからと、体勢を整えた。
「ちょうどいいですし、聞きたいこといっぱいありますし、僕の質問に答えてくれませんか?」
『あぁ、構わないぜ。何が聞きたいんだ?』
湯船の中で、向かい合う少年と宇宙人が入った神器という、筆舌に表しがたいシチュエーション。
なんともシュールである。
「あぁーえっとですね………」
怜が質問したのは主に5つ。
1つ、あなた_ウルトラマンゼロとは何者なのか?どうして地球にいるのか?
1つ、今日戦ったあの場所はいったいなんなのか?
1つ、あの怪獣は何者なのか?
1つ、どうして、勇者部の人たちが怪獣と戦っていたのか?
1つ、これから自分は一体どうすればいいのか?
ゼロはその質問に一つ一つ丁寧に答えていく。
まず自分が何者なのか、この地球に来た理由、………
ウルトラマンゼロは遠く宇宙の彼方、別の次元、地球から300万光年のところにある光の国という場所から、ある目的のためにはるばる時空を超えてこの地球に来た。その目的というのが、バロッサ星人という窃盗や略奪を種族単位で行なっている宇宙人に奪われたアイテムを取り返すためらしい。バロッサ星人星人自体の対処は特に問題ないのだが、その盗られたアイテムがかなり問題らしい。なんでも、開発中の強大な力を持つアイテムで使い方を間違えれば、星すら簡単に壊してしまうほどの威力だそうだ。
さらに、そのバロッサ星人が次元を超えて逃亡したらしく、たまたま予定が空いていたゼロに回収の任が与えられた。
バロッサ星人の痕跡を追跡した結果、この地球にたどり着いた。
だが、その地球はゼロでさえ見たことのない惨状が広がっていた。
人間がいないのだ。
ゼロはすぐにフューチャーアースでのことを思い出した。そこではバット星人によって最強のゼットン_ハイパーゼットンを作るために餌として人々が捧げられ、街には人っ子一人いない静寂に包まれた星になっていた。ゼロはそこで、仲間達と力を合わせ、ゼットンを倒し、人々を解放した。
だが、その地球はフューチャーアースとは似てはなる状況だった。
人々は捧げられたのではなく、殺されていたのだ。
もう、どうしようもないくらいに世界中の人間という人間が蹂躙され、殺されていた。
「ちょっ、ちょっと待ってください!?」
あまりのスケールの大きさに思わず、話を中断してしまう。
人間が蹂躙され、殺された?それも世界中の?
全くもって意味がわからなかった。
じゃぁ、今のこの世界は一体?
『……やめるか?』
「いえ、続けてください」
こほんと、咳をひとつつき、ゼロは再び話し始めた。
世界中が蹂躙され、誰もいなくなった世界見つめ、ゼロは苦虫を潰したような顔をしていた。
もし、自分がもう少し早くこの世界を訪れていれば……
ウルトラマンとはそのほとんどが善性の存在である。だからこそ、体も心も大きな彼らは、救えなかった存在をその心の中に刻みつけ続けるのだ。たとえそれが、自分の知らない場所で滅んでしまった存在であったとしても……
しかし、まだこの世界は死んではいなかった。
極東の島国_日本上空を飛んでいると、結界で覆われた場所を発見した。
世界に対してあまりにも小さい、たった一つ残された人間が生きているかもしれない証拠だ。
すぐに向かった。
そして、ゼロは目撃した。
結界で覆われた世界に攻め込もうとする怪獣達。
そして………
怪獣に立ち向かう、戦装束に身を包んだ少女達と、
彼らと共に戦う赤と銀の巨人…………ウルトラマンを。
「……それって、この世界に、昔、ウルトラマンがいたってことですか?」
『あぁ、俺も知らないウルトラマンだった』
どこか懐かしむような、悲しむようなそんな声だった。
「じゃぁ、今でもどこかにいますかね?」
『いや、あいつは俺と違って人間だったからな。多分もういない…』
「……………………」
『続けるぞ』
少女達は自分たちのことを「勇者」と呼んだ。
神樹という地の神々が集った集合意思生命体のようなものから力を与えられ、結界で包まれ、たったそこだけ残された世界を守るため、天の神が送り込んでくる使い_バーテックスと戦っているらしい。
とても勇敢な少女達だった。
自分よりも何十倍も大きな怪獣に対して、勇気を持って立ち向かっていた。
いまでも、全員の顔を覚えている。
責任感が人1番強い者、暗い過去を抱えた者、いつも笑顔だった者、人一倍周りを見ている者、物語が好きな者、いつも頬に土をつけていた者、海を愛し海に生きていた者、どこか寂しそうな目をした者……
個性豊かで、誰一人として同じ人間はいなかった。
いつも助け合い、懸命に生き抜いていたことを今でも思い出す。
ウルトラマンに変身していた少年は、勇者から常に一歩引いたところにいた。
いつも辛そうな目をして、笑顔を貼り付けていた。
勇者達の闇を一人で全て背負い込み、誰にも弱音を吐かなかった。
誰よりも人類の希望の光で、ヒーローであろうとしていた。
少年はいつも「自分がウルトラマンなのか人間なのか」悩んでいた。
当たり障りのないことしかいえなかった。
ゼロの大きな体では、元からウルトラマンだったゼロの言葉では、ウルトラマンと人間の狭間で悩む少年の、背負い込んだ闇の重みで今にも壊れてしまいそうな彼の心を壊さないようにするので精一杯だった。
結局のところ、ゼロは彼を救うことはできなかった。
その後、ゼロはとある目的のため地球の空を飛んでいた。地球を覆いたくさんばかりの量のバーテックスを退治するためである。
結果だけ言えば、バーテックス退治自体は成功した。
しかし、ゼロは勇者達の元に戻ることができなかった。
帰還中、謎の存在に襲われた。
おそらく、"ソレ"が今回の事件の元凶。
力量差は歴然だった。
一瞬にも満たない刹那、迎撃もタイプチェンジも間に合わなかった。
まず、ウルティメイトブレスレットが封じられた。
ついで、漆黒の光線の雨がゼロを襲った。
それはレゾリューム光線の嵐。
ウルトラマンを殺すための光線、それがレゾリューム光線。
それが宇宙をおおい、雨のように降り注いだ。
回避不能の致死級の攻撃。
だからこそ、だれもバリアを張って迎え撃ったゼロの行動を責めることはできない。
彼の後ろには地球がある。
レゾリューム光線は対ウルトラマン用の光線ではあるが、単純な威力としても星を砕くほどの威力は備えている。
だからこそ、ゼロはその身を呈して守るしかなかった。彼がウルトラマンであるから。
それこそが"ソレ"の狙いだった。
バリアーを貼り続けるゼロのエネルギーは瞬く間に消耗する。
当然だ。この世界はどんなものでも等価交換で成り立っている。バリアーを貼ればエネルギーを消耗する。誰でも簡単に理解できることだ。
やがて、彼の胸のカラータイマーが赤い点滅と共に警告音を鳴らした。
彼が別次元でも問題なく活動できるのは、彼の左手で輝くウルティメイトブレスレットのおかげと言っても過言ではない。常時、ブレスレットからエネルギーが送られることで彼は無尽蔵に近いエネルギーを使うことができるのだ。
それを封じられた今、彼のエネルギー総量は通常のウルトラマンと同等クラスになってしまった。
そしてついに、バリアを貫いて一条の光線がゼロの体を焼いた。
消滅する寸前、ゼロは自身をゼットライザーに封じ込めた。現状、それが生き残る唯一の可能性だった。
待ってましたとばかりに"ソレ"はゼットライザーへと手を伸ばし、「封印」した。二度とゼロが復活できないように念入りに封印を施した。
ゼロが最後に見たのは、空から見た地上の景色。
3つの流星が降り注ぎ、巨人がたった一人で闇に立ち向かうそんな景色。
ここでゼロの意識は途切れる。
次に目覚めたのは闇の中、何かの建物か何からしい。
そこから少なくない時間を経て、怜が門_ヒーローズゲートを潜った。
これが、ゼロが地球に来てからの大まかな流れ。
「ゼロさんも苦労してるんですね……」
『まぁな。宇宙を飛び回ってりゃこんな目にあうこともある』
しばしの沈黙。
「でも、この世界が続いてるってことは、その男の子、世界を守れたんですね」
『!……そうだな……』
ゼロがぽつりと誰かの名前を言った気がするが、怜にそれは届かなかった。ただ、少しばかり申し訳なさそうな顔をしているのが、なんとなくわかった。
続いて、怪獣の説明に入った。
こちらはかなり簡単な話だった。なんせわかっていることが少ないのだから。
怪獣の名前、というか、群体名は「バーテックス」。頂点を意味する言葉をその身に宿す生命体。
その新たな頂点存在によって、自らを霊長と呼び、地球の王座にふんぞりかえっていた人類は天辺から蹴落とされた。
彼らの目的はただ一つ、人類を滅ぼすこと。この一点に尽きる。
彼らが神樹様に触れた時、神樹様の力は失われこの背化は滅びる。勇者はその滅びを回避するため彼らと戦う。
しかし、その防衛線も一筋縄にはいかない。彼らの形状や大きさは個体ごとによって異なり、上位個体なんかもいるらしい。いわゆるボスである。さらにその取り巻きに無限に等しい
居力な大型と数の多い小型、そのどちらも一度に相手にするのだ。一筋縄ではいかない。
そして、そのバーテックス達を迎え撃つために神樹が作り出した戦闘空間が、「樹海」。今日、怜達が戦ったのもそこである。
樹海はバーテックスとの戦闘で世界に及ぶ被害を最小限に抑え、人間がバーテックスを見た時に発症する「天空恐怖症」の防止を兼ねている。
たが、樹海も万能なものではない。
樹海へのダメージは、元の世界へ影響を及ぼす。つまり…
「つまり、これから戦う時は樹海への被害も考慮しないといけないってことですか」
『あぁ、これからは続くバーテックスの侵攻に対して、この時代の勇者達と力を合わせて戦う。これが今、お前がやらなきゃいけないことだ』
『頼む、お前の力を貸してくれ。今の俺じゃ、一人で戦えない』
無茶な話だと、怜は思う。
今日、自分は、あの怪獣に対して何もできなかったのだ。
今まで喧嘩の一つだってしたことはなかった。
自分の好きな音楽を聴くことが好きで、写真を撮るのが好きで、ずっと逃げてきた自分があんな化け物と戦わなくてはいけないのか。
理不尽だと思った。
だってそうだろう、怜はまだ中学生なのだ、まだ13歳なのだ、まだ大人に守られていい歳なのだ。……それはあの勇敢な勇者達も同じだけれど……
天井から水滴が落ち、湯船に波紋をたてた。
沈黙
白い湯気の中で、俯いた少年はぼそりぼそりと呟く。
_ずるいですよ、そんな事、勝手に押し付けて………怖いに決まってるじゃないですか…、死にたくないに決まってるじゃないですか……、でも、ゼロさんはこう言うんでしょ?
"お前が戦わなければ、あの子達は死ぬって"
本当にずるいですよ……そんなの、戦わなくちゃいけないじゃないですか……誰かがいなくなるのが怖いんですよ…どうしようもないくらい昔から怖いんです……みんなが生きる世界がなくなっていいわけないじゃないですか……
だから_
「……戦います」
「戦って守って見せます。この世界も、勇者部の人たちも」
「必ず、守ってみせます」
だんだんと暖かくなり、生命の営みが最盛期を迎える春の夜、少年はヒーローになることを誓った。
ヒーローになると決めても、特に自分の周りの状況が変わるとかそういったことは何もなかった。
いつものように、目覚まし時計のけたけましいアラームで飛び起き、朝食を食べ、眠い目を擦りながらバスに乗って学校に向かう。
大きなあくびをしながら、たいして面白くもない国語の勉強をし、体育の時間にはバレーボールに顔を殴られた。
何一つ変わらない日常だ。
「おーい、怜。目死んどるぞ。大丈夫か?」
蘭にゆすられる身体に遅れるように首がぐわんぐわんと前後に激しく揺れる。
こうやって、蘭におもちゃにされるのもいつものことだ。
だが、なれるかどうかは全く持って別問題だ。
「やめてくれ、首が吹っ飛んじまう」
ホントにシャレにならないからやめてほしいと心の底から思う。最悪半身不随になる可能性もあるのだから。
そんなことなど知ったことかと、ケタケタと笑いながら今度は右手をぶんぶんと振る天パの友人は怜の体をおもちゃにしていた。
こんな時は、望に助けを求めたいところだが生憎、今は席を外しており怜の後ろの席にマスカット味のゼリー飲料が残されているだけである。
こんなことを言うのはあれかもしれないが、泰雅望という男は肝心な時にいなくなる習性?がある。そして、いなくなったと思ったらいつの間にか戻ってきているのだ。この前も、蘭に「新作のユメノカタマリの実験台になってくれ」と頼まれたことがあった。あの時、確かに数舜前までは隣にいたはずの望が急にどこか得消えたのだ。もはや逃げ足が速いとかそういうレベルではない気がする。瞬間移動とかそういうたぐいのものだ、あれは。…体育の成績は悪い癖に。
「俺は別に運動神経悪かぁ、ないからな」
[うおぉ!?いつの間に…」
ホントこういうのはやめてほしい。心臓に悪すぎる。
「ついさっきだよ」
「あぁ、そう‥‥」
望からは、なんだか不思議な影を感じることがある。それは、自分のような言えない過去とかそういうものがあるというよりかは、誰にも言えない隠し事をしている時のような、他人を騙して心に後ろめたさを感じている時のあの、何とも言えない感じの悪い気持ちに似たようなものだ。
怜と似ているようで、どこか違うそんな不思議な影を望は見せるのだ。
まぁ、だからといって何かするのかと言えばなにもしないのだが。
現在時刻は13:20分。後10分で午後の授業の始まりだ。
ちょっとばかし用を足そうと、立ち上がる。
さすがにトイレに行くときには蘭もお遊びをやめてくれる。物分かりはいいのだから、おもちゃ扱いもやめる旨もすんなり聞いてほしいのだが…
「…‥‥気をつけろよ、怜」
不意に、望に何か言われて気がして振り向いてみたが、スマホでゲームをしていたので気のせいだろう。
余り遅くなるとトイレが混むので、足早にその場を立ち去った。
トイレへ向かう途中、廊下の向こうからよく見た二人組の女子がやってきた。結城友奈と東郷美森だ。
「昨日はありがとう」と声をかけようと思ったが、そんなことをしていいのだろうか?
もし、自分がウルトラマンであることがばれたら怖がられるのではないのだろうか?
思わず顔を俯かせ、なるべく距離を取って通り過ぎる。
何か言われるかと思ったが、特にそんなこともなかった。当然だ。彼女たちがあの場所で会ったのは、怜ではなくウルトラマンゼロなのだから。彼女たちとっては、怜はただのクラスメイトの一人に過ぎないのだ。所詮は大勢いる誰かの中の一人、気にしてもらえると思うほうがおこがましいというものだ。
そう思うと、自信過剰気味な思考をしていた先ほどの自分がとても恥ずかしく思えてきた。
かぶりをふってトイレへ向かう。
…恥ずかしい。
トイレで用を足していた時、それは起こった。
最初に感じた違和感は、周りの音が消えたこと。
トイレの中には怜一人しかいなかったが、それでも昼休みの喧騒はわずかながらでも、この個室を満たすものだ。
それがぱたりと消えた。
瞬間、思い出したのは昨日の事。同じなのだ。いきなり世界の音が不自然に消えて、世界に怜一人ぼっちになったようなこの感覚。
慌てて、トイレを出る。
止まっていた。
廊下を歩く生徒たちは、まるで一枚の絵に描かれた人物のように眉一つ動かさず、その挙動、生命活動ととれるすべての行動を停止していた。
まるで、世界の時計の針が誰かの手で止められたようなそんな不思議な状況。
いや、正確に言うならば、無限の一瞬の中で怜だけが取り残されてしまったと言ったたほうがいいのかもしれない。
間違いない、これは昨日と同じ世界が変貌する予兆、樹海化の合図だ。
怜が自身の状況を理解するのと同時に、世界は光に包まれ再びその姿を大きく変えた。
やはり、怜が目を開けるとそこには昨日と全く同じ、木の根のような(おそらく神樹様の根だと思われる)物体が波のように世界を満たすこの世のものとは思えないあまりにも現実離れした戦闘空間「樹海」が広がっていた。
となるとおそらく…
遥か彼方より、地を震わす悪魔の轟音が鳴り響く。
黒い悪魔_スカル・ザ・ワンが樹海へと進撃を開始していた。
思わず、後ずさりしそうになる。迫りくる死の恐怖で足がすくみそうになる。
『戦って守って見せます。この世界も、勇者部の人たちも必ず、守ってみせます』
昨日の自分の言葉を思い出す。
(なにやってんだ、日向怜!?昨日誓ったばっかりだろう?守るって、僕がヒーローになるって!)
両手で頬を叩き、弱気になりそうな自分を追い出す
『怜!』
ちょうどその時、超高速でゼットライザーが怜めがけて飛んできた。
『行くぞ、怜!』
「はい!ゼロさん!!」
左手の神器から伝わる頼もしい言葉に、怜の気合も上がってきた。
トリガーを押して、ヒーローズゲートを開く。
空間を斜めに引き裂いて現れた光の扉は、昨日よりも随分と近く、怜にはそれが自分の覚悟を認めてくれた証のように思えた。
僕が夢見た明日の世界、例え僕を呼ぶ人がいなくても、一人ぼっちじゃできないことだとしても、それでも何とかしたい。
いつか、君に胸を張れるように。
駆けだした少年には、昨日にはない確かな覚悟がその目に宿っていた。
静止した世界の中、男はひとりスマホを耳に当てていた。
「…はい、予定どうり彼はバーテックス迎撃に向かいました。‥‥‥えぇ、大丈夫です。勇者たちの監視も問題ありません。それで”彼女”の投入は?‥‥わかりました。えぇ、分かっていますよ」
「俺も大赦の一員ですから」
<人物解説>
・日向怜(ひゅうがれい)
身長157センチ、好物うどん、金平牛蒡
本作の主人公で、偶然ゼットライザーを拾ってしまった少年。貧乏くじ体質で、何やら重い過去があるらしく、周りにはいえない類の話らしい。
・ウルトラマンゼロ
身長49メートル、必殺技ワイドゼロショット
ゼットライザーの中に入っている光の巨人。一人でなんでもできてしまう超人だが、その力の大部分を担っているウルティメイトブレスが封印されているため、現在のスペックは、ジード本編に毛が生えた程度。それでも高いことに変わりはないが……