今回は新しいパターンを試してみたが・・・これもしんどかった。(笑)
ちなみに今回は、ちょっとアレな表現があります。すまない。
今日は朝から本社へのクレーム付けである。
昨日の夕方の本社からの人事連絡、92式とエルを寄越せとの件についてだ。
『・・・と言うわけで、本社は何考えてんですかね。ヘリアンさん!?』
うちの隊長を二人持っていくとか、遠回しな指揮官暗殺ですかね?と嫌味を追加しておく。
両隊長を同時に持っていかれたら戦力ガタ落ち、鉄血にすり潰されますわ。
「確かに二人の異動連絡が出ているのを確認した」
「これは成績に応じてコンピュータがピックアップするシステムなんだ。貴様の基地の評価が高かったと胸を張っていい」
『その説明で納得しろと!?馬鹿にしてるんですか?』
さらりと言い放つヘリアンにイラつきを覚え、上官に対する態度とは思えぬ返事をするナイル。
「まあ、話は最後まで聞け。確かに貴官の言う様に同時に二名は酷な話だ」
「コンピュータの選定とはいえ訂正して、1名としよう」
ふむふむなるほど、一人なら・・・・
いやいやいや、無理無理。うちの基地の規模で隊長一人でもキツイよ。
『いやいや、ヘリアンさん、一人でも・・・・』
「ナイル指揮官?・・・今回は貴官の嘆願で特別に、本当に特別にだ、一人に変更した分けだがなお指示に従えぬと?」
あ、この丁寧だがドぎつい言い方はあかんやつだ。これ以上ゴネると始末されるパターンのやつだ。
素直に了承するしかなかった。
「貴様の言いたいこともわかる。補充兵は送る。それで我慢しろ」
「以上だ」
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と、言うのが朝イチの本社とのやりとりだった。
正直参った。指揮官としての俺のミスだ。
R-14,15基地合同の鉄血工場破壊作戦を先に話しておくべきだった。
先に交渉を始めてしまい改めて指示が確定してしまってからでは今更追加の主張は出来ない。さすがに悪手だ。
『はぁ〜〜』
午後の書類整理のタイミングでAMのやりとりを思い出して、無意識にため息を吐いていた。
司令室ではG36Cとウェルロッドが事務仕事を手伝っていたが、盛大なため息を聞いたところで手を止めて指揮官を注視する。
『あー、ごめん。なんでもないから気にしないで続けよっか』
「指揮官様、休憩を入れましょう」
G36Cはそう言うとお茶の準備を開始する。
「指揮官、そのため息もう5回目ですよ。いい加減悩みがあるなら話してもらわないと困ります」
ウェルロッドが半眼で伝えてくる。
うむ、悩んでいる事がバレてら。
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『
ナイルは他言は無用とした上で、92式かエルを差し出せとの指示について話す
正直、出したくないし人形達も困るだろうと付け加える。
その話を聞いて、本人専用ポッドで淹れた紅茶を喫んでいたウェルロッドが口を開く。
「指揮官、ひとつだけ訂正させていただきますが、本社栄転を人形達はネガティブにとらえておりませんよ」
「もちろん基地から離れる寂しさが無いと言えば嘘となりますが」と付け加える。
『えっ。そう・・・なの?』
「そうですね指揮官様。ウェルロッドさんの言う通りですわ」
「本社栄転なんて本当に一部の人形しか得られませんから。大変な栄誉ですわ」
お茶の準備がおわったG36Cは俺にマグカップのドリップコーヒーを差し出す。
彼女は取手付きの丸っこいポッドから寸胴の持ち手のない歪なマグカップにお茶を注いでいる。最近はジャパンから取り寄せたグリーンティーにハマっているらしい。
『うーむ、そうなのか・・・』
勝手に転勤=迷惑、と決めつけていたわ。それが思い違いであるというなら、恥ずかしい話だ。
「それに、指揮官としてもデメリットばかりではありませんよ」
『え?』
「本社に自身の部下が行くというとは、強いツテやパイプができるわけですから。必然的に本社への発言力も強くなります」
『なるほど・・・』と言ってP.38課長代理の事を思い出す。
確かに、本社登用された人形を通してなら意見も通りやすいだろう。
そうかそうか、人形にとって悪い話ではない。という話には救われたわ。
基地の戦力が大きく減るのは事実だが、幾分肩の荷が降りた。
「それで・・・指揮官はどちらを選ぶかは決めているご様子ですが?」
ウェルロッドが興味があると言わんばかりに聞いてくる。流石ブックメーカーが盛んな国出身なだけある。紅茶の茶請け代わりという事なのだろう。
『あ、ああ。他言に無用だが・・・・・ここはあえてウェルロッドを推そうと思う』
キリッとした顔で言ってやる。まあ、気の利いた冗談ってやつだ。
俺の答えを聞いたウェルロッドは一瞬目をパチクリした後に無言で立ち上がり、ゆらりとこちらに近づいてくる。まるで人殺しの様な目で。
『あれれ?冗談面白くなかったかな。てへ』とおちゃらけてみても止まる様子はない。やばい。
「指揮官?ご自分の立場を分かっているのですか?それともいちいち説明しないと分かりませんか?」
キスをするのでは?くらいの距離に顔を近づけられて脅される。そこらのゴロツキなどションベンちびるレベルの凄みがある。可愛い顔なのにやることがエゲツない。
「今までどれだけ社に迷惑かけたのか分かってないのですか?本社情報部からお目付役が張り付く指揮官など貴方くらいですよ」
「今一度、自分の置かれている状況を理解していただきたいです」
結局この後お小言をいただいた上で謝罪させられ、正直にゲロさせられるナイルであった。
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翌日の朝、司令室に第一小隊とM1911が呼ばれていた。
エルとウェルロッドの両隊長にも集まってもらった。
「指揮官、第一小隊全員集合しております」92式が敬礼しながら報告する。
うん、さすがの安定感だ。
「おはよう!ダーリン。今日は朝からですか?」ニッコリ顔のM1911
いや、何が朝からだかわかりません。隣の92式さんや隊長たちからの怖い視線を感じてください。お願いします。
とはいうものの、配属当初よりは落ち着いているのでよしとして流す。
『集まってもらったのは人事連絡のためだ。本日付けでイングラムを第一小隊長に任命する』
「ちょっと指揮官、それは・・・」突然の隊長指名にイングラムがまったを掛けるが、
『92式は第一小隊から外れ指揮官付きとする。そして三日後に本社所属の戦術人形に異動となる』
『おめでとう!92式。所謂栄転だ。普段からの君の仕事が評価された結果だよ』
『本日から異動の準備をしてくれ、荷物等はG36Cと相談してくれ』
「指揮官・・・ありがとうございます」
一瞬微妙な顔をした様に見えたが、良い笑顔を見せる。
他の隊員からも囲まれて祝福の言葉をかけられていた。しばらく落ち着くのを待ってナイルが続ける。
『92式が抜けたところへはM1911が入ってもらう。頼むぞ』
「任せてください。指揮官様。ナイスチョイスですわ」
ウインクして返すM1911。うん、アイドルみたいでかわいい・・・危ない危ない。この思考は危険だ。頭を振って意識を戻す。
『エルとウェルロッドにも色々影響はあると思うがよろしく頼む』
イングラムと92式に引き継ぎの指示をして、朝の司令室集合は解散となった。
上手くまとまってよかった。
戦力低下は痛いが、ジャスティンのところとの共同作戦に支障が出ない様にイングラムには頑張ってもらおう。
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92式の異動を翌日に控えた夜、ナイルの個室。
"コンコン"とドアのノックが聞こえた。
はて?誰じゃろか?
ドアを開けると、92式が立っていた。
「指揮官様、異動のご挨拶に来ました」そう言うが、どこか悲しげな、切羽詰まった雰囲気を醸し出している。
配属も変わる事で色々心配なのだろう。話しくらい聞こうじゃないか。
『立ち話もなんだし、入りなよ』
と言っても指揮官の個室は狭い。ベッドと机と少しのスペース。それにトイレ付きユニットバスくらい。対戦前の狭めのビジネスホテルの部屋、そんな感じである。
92式を椅子に座らせて、ナイルは電気ポッドからお湯を汲みココアを淹れる。
『ほれ、ココアだ。甘いものを飲めば落ち着くぞ』
テーブルにココアを置き、俺はベッドをソファー代わりに腰掛ける。
ココアをひと口飲んだ92式にいつもの笑顔が戻る。よかった。
「指揮官様、配属されてから今までに色々ありましたね」
『うん、ああ。そうだな』
「初対面の時は泣いているG36Cと焦る指揮官がいてビックリしましたよ」
『それは言ってくれるな。ほんと想定外だったんだよ」
「本社の訓練を終えて小隊長に任命してくれた時は嬉しかったですよ」
『実力と性格と伸び代で決めた。今はもっと実力があると思っている。時間とウチに余裕が有れば中隊規模の指揮訓練もしたかったんだが』
「そこまで買ってくれてたんですね。ありがとうございます」
『君の実力を正しく評価しただけだよ』
この後も色々な思い出話に花を咲かせる二人、サブリナのパーティーのこと、副業のこと、スケアクロウ襲撃のこと、逮捕やウェルロッドとの悶着、話せばキリが無かった。一つ一つのエピソードに喜怒哀楽を表す92式をナイルは暖かく見守っていた。初期からのメンバーはナイルの職歴とほぼ同じなのだから。
思い出話が尽きた頃、92式が立ち上がりナイルの横にちょこんと座り直す。
「でも・・・心残りがあります・・・」
そう言うと92式はナイルをベッドに押し倒す。突然の事に悲鳴も出なかったナイル。
覆いかぶさる形の92式がナイルの胸に顔を押し付け泣いていた。
「この基地で働いていた、指揮官様に愛されていた証が欲しいです・・・お願いです」
胸で泣く彼女は消え入りそうな儚そうな女の子だった。
戦術人形ってなんなのかな。あんなに勇敢に強く戦っても中身は女の子そのものじゃないか。
自身の気持ちを隠し偽り、誰にも明かせず戦場で散っていくなんてあんまりじゃないか。
胸で泣く92式を抱きしめようと両腕を上げて彼女の背に回すが、背中で手が止まる。
指揮官である以上感情に任せてやっていい事ではない。
上官が部下に手をつけるなどナンセンスである。ナイルは昔からそう考えていた。
軍隊の実動部隊は男社会だからその様な機会は少ないのだが、補給や輸送と言った支援部隊や作戦部等の指揮系部隊は女性隊員も多い。それら部隊の風紀の悪いところはあまり良い仕事はしなかった。どうしても公私の甘さに繋がるからだ。
今回はどうだろうか、部隊を去る優秀な彼女たってのお願い。最後の思い出。これは馴れ合いとは違うだろう。
据え膳食わぬは、とも言うし、何よりここまでした彼女に恥はかかせられないだろう。
『・・・・・・』
ナイルは無言で92式を優しく抱きしめていた。
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この日のナイルの個室は、いつもより遅くまで明かりが灯っていたとの記録が残っている。
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ー
「では、指揮官様、お世話になりました。落ち着いたら連絡入れますね」
92式は笑顔で簡潔に挨拶する。うん、元気そうだし大丈夫だろう。
『うむ、92式も達者でな』
早朝のヘリポートで迎えのヘリに乗り込む92式。快晴の空は旅立ち日和だろう。
基地の人形の皆も見送りに集合してきており、それぞれが挨拶や握手をしている。
名残り惜しくもヘリの出発時間となり、迎えのヘリはエンジンを吹かしローター回転を上げていく。送りに来た者達を嬲るように人工の嵐が発生し、それが最高潮に達した時にヘリがふわりと浮かび飛び去っていった。吹き荒れていた嵐も飛び去った92式と共に止み、まるで基地が寂しくなる事を表しているようでナイルもどこか寂しい気持ちになる。
(案外、依存していたのは俺の方なのかもな)
妻に逃げられ子に嫌われ、そんな心の隙間を知らず知らず埋めていたのかもしれない。
たた、ここで気づけたのはよかった。指揮官が兵に依存しているなど話にならない。今一度自分を見直そう。
飛び去ったヘリが見えなくなるまで皆で見送っていたのだった。
92式は基地を離れますが、色々やってもらう予定。
おかしいな。もうゴールしてもいいよね?って思ってるのに、ゴール出来ねえ(泣)。