結構時間が掛かりました。こんな話、どうだろうか。
ある日の夜、指揮官や当直当番以外の戦術人形が晩御飯を終えて寛いでいる頃、ウェルロッドは基地の研究棟で一人残業をこなしていた。
「は〜〜・・・。私は一体何をやっているんだろう」
分析用の機器に囲まれて目の前の機械に向き合っているが、なかなか作業は捗っていない。思わず自身が置かれている状況にボヤキが出てしまう。
計測に用いていたテスターを作業机の上に投げるように置き、作業椅子から立ち上がり伸びをする。
「う〜〜〜ん」
「は〜〜、疲れた・・・お風呂入って、紅茶を飲んで寝よう」
伸びをした後に思わず再びため息が漏れる
もう晩御飯を食べる気も起きない。さっさと寝る準備をしてゆっくりする事とする。
明日の朝もいつも通りの業務があるのだ。疲れが残ると日々の仕事にも影響が出てしまうのでそれは良くない。
作業部屋の電気を消して宿舎へとトボトボと歩いていく。いつものウェルロッドらしく無い姿であった。
一体何があったのか? 事の発端は数日前に遡る。
──
────
──────
────────
司令室に簡易レーダー基地からの通知が届き、確認兼脅威の排除として出動した第二小隊のエル達から連絡があった。
「指揮官、鉄血兵を確認しました。敵は・・・・」
『なに! ついに来たか!!』
ナイルは司令室の机を叩き、ガバッと立ち上がる。
その報告を聞き、興奮を抑えられなかったようだ。
カタログで見て興味深かったアイツ。そう、ドラグーンですよ。
鉄血兵の中でも独特なやつ。二足歩行のバイク型機動兵器に鉄血兵が搭乗して操縦している。
バイク型機動兵器には連装機関銃が搭載され、機動力・火力とも侮れない性能を持っている。
「サブリナ牽制をお願いします。62式は周りのヴェスピドとリッパーの始末を」
「任せてよ! ショーの始まりだよー」
「了解! 直ぐに片付けられる筈だよ」
サブリナと62式が素早く動き先制攻撃を行う。62式の弾幕を受けて鉄血兵が次々にガラクタへと変わる。
一方で、3体のドラグーンの前にサブリナが立ちはだかり攻撃を引き受ける。連装機関銃の弾丸は斜めに構えた盾に弾かれて有効弾にはなっていない。
さらにエルのマシンガンによる指切りセミオートによる牽制射撃でドラグーンの足をとめていく。
攻守共に釘付けにされたドラグーンは本来の性能をまるで出せておらず、不利な戦いを強いられていた。
「スカウト、アストラ、始末してください」
「トレフォイル。余裕かしら」
「任せて〜!」
少し離れた狙撃ポジションに陣取っていた二人。スポッターのアストラの情報を元にスカウトが狙撃を行う。
スタンディングの狙撃姿勢からの射撃でドラグーンの搭乗兵の頭部を綺麗に撃ち抜く。
搭乗兵が狙撃に気付き、顔を向けるがそこまでだった。素早くボルトハンドルを操作して3発連続でヘッドショットを決めて始末する。
見事な連携であっという間に戦闘は終了した。
「では帰投します。指揮官の要望通りドラグーンの搭乗員と機動兵器を持ち帰ります」
もう一台バギーを呼び、予定通り荷物を回収して滞りなく任務を完了した。
──────────
『エルに第二小隊の皆、ご苦労だった。とりあえず楽にしてくれ』
そう言うと、第二小隊の面々は司令室のソファーに座ったりしてくつろぐ。
ウヒョー、ついに手に入りましたよ。
あの機動兵器は上手くやれば高く売れそうじゃない?
機動兵器として流用してもいいし、武器外して乗り物として売ってもいいし、で、ドールハウスを通さなくても行けそうじゃん! うまく売りに出せばボロ儲け出来る臭いがする。
元手は弾薬と配給のみで、売値は高く行けそうだしで、ドラグーンの可能性は無限大ですよ。これは夢が膨らみますな。
と言うわけで、搭乗員はいつも通りメンテナンスルームの調整室に送り、機動兵器は研究棟の分析室へ送っている。これは機動兵器は純粋にマシンだからだ。自立人形とは扱いが異なるからである。
しかし、この機動兵器にはセキュリティがかかっており鉄血兵でなければ動かせない。
なんらかの工夫を行わないと全く役に立たない。そのままでは中古人形会社のドールハウス社にゴミとして引き取ってもらうくらいしかない。
だからなんとしてもセキュリティを破らなければならないのだ。
(ふっ、バカめ。俺には作戦があるのだよ)
そう心の中でほくそ笑むと、ナイルは司令室に詰めていたウェルロッドの後ろに移動して、ウェルロッドの肩を揉む。
『ウェルロッドちゃ〜ん♪』
「ちょ、ちょっと・・・」
ウェルロッドが急なセクハラに抗議の声をあげようとするがそれをナイルが制す。
『あの機動兵器のセキュリティを破ってくれないかな♪』
サラッと、とんでもないことを言い出すナイル指揮官。
「はぁ? 私、システムエンジニアじゃないんですけど!」
どう考えても戦術人形に依頼する仕事じゃない。無茶振りも甚だしい。
『え? ウェルロッドは電子戦得意でしょ。なんとか行けるっしょ』
ウェルロッドは"む〜"と怒った顔をするが、『ねっ、お願い♪』とナイル指揮官はしつこくお願いしてくる。
「はぁ〜。分かりましたよ。どうせ何がなんでもお願いしてくるんでしよ」
「それに・・・指揮官がそんなにお願いするなら・・・しょうがないですね」
顔を赤くして照れているようだ。どうやら押しに弱く頼られるのが嬉しい性格らしかった。
「でも、無茶なお願いなんだからお礼は弾んでもらいますよ」
『おう。
「約束ですよ。楽しみにしてますからね!」
しょうがない人だと諦め顔に笑顔を混ぜた、いつもは見せない顔のウェルロッドだった。
────────
──────
────
──
と言うのが数日前の話で、それからウェルロッドは通常業務後に残業に勤しむ事となるのだが、この時はそこまで大変とは思っていなかった。
研究棟へ運び込まれたブツを前に方針を決める。
最終的に機関銃は取り外すことは決まっているが、まずは起動できないと話にならない。まずは起動して自由に動かせるところまで進めよう。
そう決めてドラグーンの乗り物に乗り、早速起動を試みる。もちろんX線透過装置で爆発物など有害なものが無いことは確認済みである。
(スターターはこれかしら? ・・・えい!)
ポチッと押すが、ディスプレーには起動不可のエラーメッセージが出る。
「やっぱりそうよね。セキュリティくらいあるわよね」
となると、ソフトをいじるか、制御ハードまで変えるか・・・。しかし流石に中身の全交換は無理だ。動作モーションとか含めて全部やり直しで製品開発レベルになるからだ。であれば、鉄血の制御をベースに人間やグリフィン人形が使えるようにカスタムする形が落とし所だろう。
しかし、制御ハード設計など専門外どころか素人同然。ソフト改良だけでなんとか出来ればいいが・・・・
そんなふうに考えながら、X線透過画像を元に外装を分解していき制御部を露出させる。
「うわ・・・・・これは・・・」
中身を見たウェルロッドが顔を顰める。
鉄血オリジナルの基盤類と配線の山が露わになり、一筋縄じゃいかないことを思い知らされる。一際大きい演算素子が乗っている大きな基盤がメインの制御基盤だろうことは推測出来るが、他の基盤類が全くわからない。どうしたものか・・・。
(プログラムの解析を先に片付ける? いや、どのみち基盤の理解は必須・・・・)
正直手詰まりだが、止めるわけにもいかない。指揮官に頭下げて謝るなんてプライドが許さない。
それに・・・せっかく期待してもらったのに・・・。出来ませんでした、とは言いたくない。
とにかく、手探りになっても続けよう!
────────
と言うのが、冒頭の話の前の事だった。
前日に続き本日も残業。しかし、連日の残業にもかかわらず正直手詰まりで困った。
「は〜〜。参ったわね・・・・憂鬱だわ」
ギブアップがチラつくが指揮官の顔を思い浮かべて頭を振り、その考えを払拭する。
その指揮官と言えば、搭乗員の方の分解に立ち会ったようだ。
しかし、搭乗員は紫のロングヘアで美人系、ブラジャー型のトップスにミニなジャケット、さらにミニなタイトスカート姿と非常にアレな姿だ。
ひと目見た指揮官が『上手く捕らえれば人形風俗とかに売れるかも・・・』なんてウッカリ呟いたようで、それを聞いた副官やエル、サブリナに烈火の如く叱られたらしい。以降、ドラグーンの搭乗員への接近禁止が言い渡されたとかなんとか。その搭乗員の分解調査は第二小隊の面々と副官のG36Cが珍しく率先してやったとの事だ。
聞いた話を思い出して、つい思い出し笑いを浮かべる。
そんなことを考えていた時に研究棟のドアが開く。
「隊長! 何やってるですかぁ?」
「こんばんは隊長! 仕事熱心ですね」
掛けられた声に振り向くとOBRとAR-57の二人だった。
「二人ですか・・・」
「ええ、実は指揮官に頼まれまして
目の前にある解析中の機動兵器を見上げて、指揮官に依頼された内容を話す。
そんなウェルロッドの話を聞き流しながらOBRが機動兵器に近づき制御基盤を見ていく。
「ふんふん」「ほほ〜う」なんて声を上げながら一通り目を通してウェルロッドの方へ振り向き、
「この大きなのがメイン基盤で、こっちのがセキュリティ基盤、でこれが制御基盤、こっちが火器管制基盤ですね」
「見立て、あってますかね?」
恥ずかしそうに半笑いでウェルロッドに答えを聞くが、むしろウェルロッドが知りたい答えであり逆にウェルロッドが驚く。
「え? それが分からなくて困っていました」
「OBRはなぜ分かるんですか?」
ウェルロッドの問いかけに、OBRが恥ずかしそうに話し出す。
OBRがグリフィンに入社する(売り飛ばされる)前に勤めていたのが、限りなくブラックのグレーな電器メーカーだったらしい。
有名メーカーの新製品を片っ端から解析して、パチモノのコピー品をばら撒く悪質な会社だった。
エンジニアとしてあらゆる会社のあらゆる製品の電気部品を解析してコピーしてきたからこその目利きである。
ブラック会社勤務のストレス解消のためにローンによる衝動買いを繰り返した結果、借金地獄に陥ったとの事だ。ボーナスで全部返す予定が、直前で会社が潰れ返済計画が狂い、ローン会社によってグリフィンへ送られたらしい。
ブラック会社が悪いとブツブツ言っているが、借金癖は多分生まれ持ってのものだろうと思う。
「OBR、分かりました。ではセキュリティシステムの交換とか頼めますか?」
「ん・・・あ〜簡単ですね。鉄血のこれはハル電子のセキュリティ基盤のコピーですかね。流石に鉄血も自前では作らなかったみたいですね。これならハル電子の産業機器用カードセキュリティ用基盤に無改造で交換可能ですね。確認用にすぐに一つ注文します」
「では、火器管制基盤の取り外しはどうなりますか?」
「この基盤は見た事ないですが、接続を見たところ取り外してジャンパすれば行けそうですね。プログラムを確認する必要がありますが」
「プログラムの解析は私の方で出来ます。早速調べましょう」
「手隙の私は作業記録と改造図面作成をやります」
横で見ていたAR-57がウェルロッドに伝える。
「二人とも・・・・本当に助かります。作業費としての給与は必ず払います」
ウェルロッドが部下の二人に深く頭を下げる。
「隊長、よしてください。隊長からは受け取れません」
OBRがブンブンと首を振り断る。
「ならば、指揮官に払ってもらうように伝えます」
「あ、はい! それなら喜んで頂きます」
OBRはニッコリ了承する。
指揮官から金を取るのは全く罪悪感がないらしい。ナイルが聞いたら多分怒っていただろう。
「私はどちらでもいいわ」
AR-57が言うが
「じゃあ、指揮官から貰っちゃいましょう!」
OBRが容赦なくAR-57を巻き込んでいく。本当にひどいと思う。
────────
ハードの処理方針が概ね決まったので、翌日からプログラムの解析をおこなう。
制御基盤からプログラムが保存されたロムを取り外し、研究室のスタンドアローンのコンピュータに繋ぎ、プログラムをエミュレートしていく。
プログラムに悪意のあるウィルスの類はなさそうである。
その分析を元に、プログラムの走るコンピュータのセカンダリーレベルへウェルロッドがアクセスする。
そして解析したプログラムをOBRとAR-57に素早く共有する。
OBRとAR-57はウェルロッドの解析の結果を受けてカスタマイズを加速していく。
ウェルロッドもまたプログラムを改造していく。
二人が来てから作業が加速し、気が付いたらあっという間に改造が完了していた。
──────────
「緊張するね」
「きっと大丈夫です」
これまた気が付いたら、M21、PSG-1の2名、つまり第三小隊全員が来ていた。と言ってもこの2人は応援と称して遊んでいるだけだが。
「では、行きますよ」
機動兵器に乗り込んだウェルロッドが緊張した面持ちでポチッと起動スイッチを入れと、モニターに"Ready"の文字が浮かび消える。
ウェルロッドがスロットルを入れるとマシンが歩き出す。初めはゆっくり動き、スロットルを開けると共に走る動作となる。
その動きをみた4名から「「お〜〜〜」」と歓声が上がると共にハイタッチをしている。マシンの改造が完了した瞬間だった。
研究棟の片付けが完了し、流れ解散になった。
ウェルロッドが帰る足で指揮官に報告しようか。なんて思っていたらAR-57に話しかけられた。
「隊長、このマシンの商品戦略を考えてきました。聞いてもらえますか?」
そう言えば、AR-57は戦略研究が趣味だって言ってたっけ。と思い出す。
戦闘だけでなく企業の商品戦略も確かに戦略ではあるが・・・・彼女なりにこのマシンに愛着があるらしく色々考えていたようだ。
少し聞いてみようと耳を傾けたのが間違いだった。すっかり彼女の話に引き込まれてワクワクが止まらなくなっていた。
──
────
──────
────────
──────────
「指揮官! ご希望の通り完了しました」
司令室に第三小隊全員が集まって報告してくる。
ウェルロッドにしては時間が掛かったな、と思うが、完了したなら重畳ってなもんだ。
でも、ウェルロッドに頼んだのになんで全員でくる?
状況が読めずに頭の上に? を浮かべるナイル。
「まず、機動兵器のコントロールに成功しました」
ああ、頼んだことだもんな。・・・でも頭の"まず"が気になる。
「商品の応用について考えました。まずは2つ。戦力としての利用と乗り物としての利用です」
「細かい事は改めて話しますが、本社にサンプル提供した上で掛け合いまして・・・・本格的な量産を目指すこととなりました」
い? 本社?? しかも量産? どういうこと?
「各部門に根回しも済んでおります」
う? うん? 根回し? なんの根回しかな?
「まずは各地区で破壊されたドラグーンの無傷のマシンを送ってもらう手続きが完了しています。それを改修して販売していきます」
え? なんて?
「今後は、敵工場の殲滅時にドラグーンの生産設備は無傷で回収してR-15基地に設置せよ。との指令が下る予定です」
お? おい・・・・待って・・・
「つきまして我々第三小隊はマシン製造販売会社として子会社を立ち上げる運びとなりました」
「とりあえずはR-15基地の戦術人形部隊として兼務です。あと、子会社の社長はナイル指揮官としておきました」
ウェルロッド以外の四人が「社長!」「就任おめでとう御座います!」とか声を掛けてくるが、お前ら何してくれてんだよ!
社長? しておきました!? じゃねーわ。マジでやめてくれ! 端金で責任取らされる仕事じゃないか・・・・
けど、既に本社に根回しが完了して指示を受けている以上、後戻りは出来ない。
ナイルは思いっきり顔をひくつかせてウェルロッドを呆然と見つめるしか出来ないでいる。
ちょっとドラグーンに乗って遊びたかっただけなのに、なんだこの結果・・・・
想定外すぎるだろ・・・・
机に肘をついて頭を抱えるナイル。
「指揮官、最後にですけど本社からの
『ん? 決済確認書?』
ウェルロッドが差し出した封筒を受け取り、開けて中の書面を確認する。
なになに・・・。
この度の会社立ち上げに際して活動した費用請求に対して、指揮官個人の依頼であったことを鑑み、ナイル・ルース指揮官の俸給から支払ものとする。
支払は金500万円(内訳100万円×5名分)
『おい!!! ・・・って承認は、財務管理課長(代理)かい!』
くそー。久しぶりなのに絶対に嫌がらせだろ!
(はー。ただおもちゃで遊ぶだけが何でこんな大事になるのか・・・・憂鬱だ)
(髪の毛、大丈夫かな?)
ストレスで薄くなり始めた髪がさらに薄くなる予感がして、呆然と天を仰ぐナイルであった。
・子会社
AR-57の案を元にウェルロッドの知識と人脈で練り上げた。
ナイルは何かあった時にクビを差し出す係です(笑)
まあ、優秀なウェルロッドはナイルに迷惑をかけるつもりは無いようです。
社長:ナイル(お飾り)
副社長:ウェルロッド(黒幕、影の社長)
技術部長:OBR
企画部長:AR-57
広報部長:PSG-1
営業部長:M21
一般社員:本社から送られてきた大量の家事ロボ
大丈夫か?この会社(笑)