中年指揮官と零細基地の日常   作:へなころ

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お待たせしました。
今回は転勤した92式さんの日常です。
ナイルさんが絡まないためか、筆が進まない進まない(笑)
前半は1人語りチックになってしまい、いつもと違う雰囲気になってしまった。
とりあえず、元気に楽しくやっているようですよ。



74.92式の日常

『ん〜〜〜ん・・・・』

 

早朝に目を覚ましてベッドの上で伸びをする女性。そう、R-15基地から本社へ転勤してきた92式だった。

 

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92式はR-15基地から本社に異動したその日、本社に着いてすぐにヘリアンの机に向かった。

ヘリアンは本来の役職から考えれば個室が当てがわれるが、部下とのコミュニケーションを重視してオープンスペースの共同部屋にデスクを置いていた。彼女自身近づき難い雰囲気を自覚しているからなのだろうが、逆に周りが緊張するのではないかと思う。

出頭した92式に興味深い視線が集まる。それもそのはずだ。「あの」彼方此方で指揮官自ら問題起こすことで有名なR-15基地からの栄転者なのだから。きっととんでもなく無茶苦茶なんだろうと期待している訳だ。まあ、真面目な人形としては風評被害以外の何物でもない。

野次馬達も「全然普通じゃん? つまんね」と散って行くわけだが92式にとってはいい迷惑である。

 

「貴官には新人教育の教官をやってもらう。豊富な実勢経験を若手に伝えてやってほしい」

 

ヘリアンからそんな辞令をうけ、所属は本社ビル近くの本社基地に決まった。

本社基地は非常に広大な基地で多数の即応部隊、重装部隊、多目的活動隊などの後方支援部隊、そして配属前の新人教育の部門がある。

グリフィン最大の基地であり各部隊毎に指揮官が居る特殊な基地である。

92式たち新人教育の教官は人形と雖も当然待遇が良く個室があてがわれている。前線基地の指揮官と同等の待遇であると言っても過言では無い。戦術人形が目指す理想の一つとも言えた。

 

ちなみに、ウェルロッドの推薦で情報部にも所属することになった。

突然物置小屋の様なところに呼び出され、そこで情報部部長から簡単な面接をうけ無事に採用となったわけだ。

特定の事務所を持たないからとはいえ、物置小屋で面接とはまるで漫画の秘密組織の様で92式は思わず笑ってしまいそうになっていた。

 

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ベッドから降りた92式はスポーツブラとショーツ姿である。引き締まったボディに女性らしい美しいライン、まさに女性アスリートのような美しさがあった。

一方で、ブラウンのボブカットに少し眠そうな目は身体つきとは違い可愛らしさが漂う。アンバランスさが92式の魅力を高めているのかもしれない。

 

92式は部屋の壁に設置された姿見の前に立つと、深くゆっくりの深呼吸と共にゆっくりと手足を動かす演舞を行う。そう太極拳である。

人形は生まれながらのスペックがあり筋トレや体力トレーニングは意味がない。しかし太極拳の様な身体の精密動作を鍛える訓練は効果がある。身体と電脳およびメンタルの最適化が進むからだ。

最適化が進めば進むほど素早く精度良く動く事ができる。多少の成長では違いは些細なものだが、積み重ねるとその違いは凄まじいものとなる。この最適化の度合いにより動かせるダミー人形の数が変わるのだが、92式は4体のダミーを難なく動かせるようになって久しい。

 

『ふ〜〜〜・・・』

 

深く息を吐き、演舞を締める。

息が上がるほどではなく薄らと汗をかく程度、身体のアクチュエーター類が程よく温まり暖気完了となる。

温まった身体が冷える前にランニングウェアに着替えて日課のランニングに出かける。

実は人形が走っても筋肉が付くわけでは無いのであまり意味がない。太極拳と同じように最適化を目的としている。

では、何の最適化なのか? 92式はHG人形なので武器も軽量であり普通に走っても効果はほぼ無い。なので味方の救助などを想定して各種銃器、ダミー人形、アンモボックス、各種資材、などを担いで毎日5km程を走っていた。

で、今日のテーマは・・・・「スプーンにピンポン玉を載せて走る」になったのだった。

 

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『ハッ、ハッ、ハッ・・・・これは、やり甲斐があるわね』

 

身体の微妙なコントロールが難しく何度も何度もピンポン玉を落として拾っていた。落とさぬように微調整をしながら走るが普段やらぬ動作を続けたためにインバータとサーボモーターに負荷がかかり猛烈に疲労感が溜まる。常に力が入るためモーターが発熱し身体の蓄熱量が増えオーバーヒート防止の呼吸型冷却器も作動している。

難易度が高く暫くはいいトレーニングか出来そうだ。人形は一度マスターすると忘れる事が無いので新たな課題を探す必要がある。このような所は人間より便利であるようで不便なのかもしれない。

 

息を整えながらスポーツブラとショーツを脱ぎ洗濯カゴに投げ入れる。全裸になった彼女はそのままシャワールームに入り汗を流す。戦術人形の流す汗は冷却機能を高めた専用液を体内で合成して出すが、人間の汗と同様にベタつくので運動後は流すのが一般的だ。と言っても自由にシャワーが使える人形は少ないのだが。

 

 

『あーさっぱりした。やはり運動後のシャワーは格別よね』

 

シャワーから上がった彼女は、髪を乾かしながら整えて普段の戦闘服に着替える。黒のトップスに紫のミニスカート。所謂ヘソ出しルックであり普段真面目な彼女にしては過激な格好と言えるだろう。しかし、どういう訳だかこの格好が妙に落ち着く。これは人形達に標準の服が登録されている為でありその服を着る事でメンタルが落ち着くように作られているからだ。

ちなみに、人形によっては特別な専用衣装が用意されており指揮官が給与を使う事で買えるらしい。特に愛のある人形に大枚をはたいてプレゼントする指揮官もいるとかなんとか。前所属先の指揮官はいつも金欠だった為そのようなものに縁は無かった訳だが。

 

戦闘服に着替えた後に92式は最低限の化粧を行う。戦術人形に化粧など必要ないと言えばそうだ。当然戦闘部隊の人形達はそんなものに時間を使えない。その為もあり彼女達は化粧をしなくても、すっぴんでも美人になるように造形されている。だが、そんな素で美人な彼女達が化粧をすればより映えるものである

92式は新人教育の教官であることから、身だしなみには気を遣っていた。その理由としては教官としての威厳もさることながら新人人形達に「頑張ればいい生活できるよ」と夢を見せる必要があると考えていたからである。まあ、逆効果になることもあるのだが。

 

 

『では指揮官、行って参ります』

 

92式が見つめるテーブルの上には写真立てがあり、2枚の写真が置かれていた。

一つは、R-15でのパーティーの時に全員で撮った集合写真だった。満面の笑みのサブリナと苦しい顔の指揮官の対比がいつ見ても可笑しかった。

もう一つは、指揮官と自分のツーショットである。

パートナーの居ない92式は写真の指揮官に挨拶をして出かけるのが日課となっていた。

 

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始業式一時間ほど前に出た92式は基地の食堂に立ち寄り朝ご飯を済ますのが日課となっている。基地では多くの人形が働いているので、人間用だけでなく人形用の食事も提供している。

 

『今日の午前は新人訓練で・・・・午後は打ち合わせのみ、か』

注文した中華粥を食べながら、本日の業務を確認して行く。今日は少し余裕があるようである。

 

「おはよう、教官! 一緒に食事いいかな?」

「教官さん、おはようございます。私もご一緒させていただきます」

声をかけられた方を見ると、ハンドガン人形のCZ75とSpitfireが立っていた。

CZ75は赤色の髪をハイツインテールに纏めた小柄な子だが、ハンドガンだけでなくトマホークも装備している少し変わった子だ。体型に似合わず不良っぽい話し方をする。

もう一人のSpitfireはキリッとしたロングヘアの美人だが意外にもマイペースな人形だった。ドレス調の服に大きなシルクハットが特徴の戦闘服でどこかマジシャンっぽい格好である。CZ75が大好きで鞄持ちの様にくっついている。

 

『ええ、どうぞ』

声をかけられた92式は断る理由もなく二人が座れる様に席を詰める。

 

『二人は・・・・導入訓練は先日終了していましたね。良い成績だった様で教官としても嬉しいです』

 

「それは・・・教官のおかげだ。態度悪かった私を矯正してくれたから」

バツが悪そうに視線を外し恥ずかしそうに話すCZ75。

CZ75は導入訓練初日のハンドガンの訓練の時に教官の92式に喧嘩を売っていた。曰く、★3の弱小人形に教わることは無いという事だった。取り巻きのSpitfireもそれに合わせていたし、他にもナメていた訓練生も多かった。

口で言っても分からないだろうと判断した92式はきっちり射撃訓練で練度の違いを見せつけ、その後特別にキルハウスでの個別指導が行われ100ゲーム連続して一発のヘッドショットで沈めていた。最後はCZ75が泣いて謝っていた事は皆の中での秘密だ。

この後は、訓練生皆が真面目に92式の言うことを聞き真剣に訓練を行ったのは言うまでも無いだろう。

 

『私のレアリティが低いのは事実です。貴方方が経験を積めば私の能力を大きく超えるでしょう』

『ただし人形には得手不得手があります。得手を伸ばして指揮官のお役に立つのが私たちの仕事です。レアリティに囚われず努力すれば必ずお役に立てますわ』

 

「教官もまだ努力を続けて居るのですか?」

Spitfireが何気なく振ったその一言はよくなかった。

 

『ええ。毎日継続していますわ』

 

「そうなのか教官! 私たちもつきあってもいいかな?」

向上心の高いCZ75が頼み込む。

 

『ええ。いいですよ。早速明日からどうですか』

真顔でやるか? と問う92式。話をきいてSpitfireはヤバいかも。と思うがCZ75がやると言う以上どうにもならなかった。

かくして、翌日から毎日日が昇る前に起きて太極拳と変則ランニングをやる事となったCZ75とSpitfire。

この後、新人指揮官の元に配属される頃には、ダミーを余裕で2体動かせるほどになっていた。配属後は活躍する二人だが、それはまた別の話である。

 

──────────

 

午前の訓練を終え午後の打ち合わせも終わらせて、今日必要な業務は終わっていた。

基地を歩いていると、屋外のシューティングレンジから派手な撃発音が聞こえてきた。単発のその音からボルトアクションライフル系の人形が訓練をしているのだろう。ちょっと見てみる事とした。

 

シューティングレンジを覗くと銀髪ロングヘアで白を基調に黒いリボンがついた戦闘服を纏う戦術人形が、身長を超える馬鹿でかい対物ライフルで射撃訓練をしていた。そうグリフィンの木星砲(ジュピター)と揶揄されるIWS2000である。

彼女は1000m以上のターゲットを難なく落として行く。その実力は素晴らしいの一言だった。

 

(素晴らしい腕ですわね。・・・・でもここは新人の訓練施設、ですよね?)

 

違和感を感じながらも暫くその射撃に見惚れる92式。

射撃を終えてIWS2000が立ち上がり「ふうっ」と一服したときに自身を見ていた92式に気がつき驚く。

 

「ハンドガン課程の92式教官、ですよね。い、いつからそこに!?」

なにか悪いことをしていたのを見られた子供の様にあたふたしていた。

 

『ほんの数分前です。しかし、いい腕をしていますね。お見事です』

92式の褒め言葉を聞いたIWS2000は憂のある目で視線を下に移す。

 

「いえ、ダメなんです・・・・そこで見ていてください」

 

そう言うとIWS2000はクルリとシューティングレンジの方に向きかえると、地面に寝そべり自身の銃を構えて射撃を開始する。

派手な射撃音が鳴るが、ターゲットが倒れる事は無かった。一通り撃ち終わるがついぞターゲットに当たる事は無かった。

IWS2000はそのまま無言で立ち上がると、92式の方を向き自笑気味に伝える。

 

「人が見ていると・・・緊張なのか全く当たらなくなるんです」

 

IWS2000の話を聞いて、92式はライフル課程の教官のWA2000の話を思い出していた。

曰く、気になる子がいると。腕はすごく良いのだが人が見ているとからっきしダメになってしまうと。

色々調べたが原因不明。どうもASST(烙印システム)の繋がりが異常に高すぎるのでは無いか? との推察らしい。ちょっとした精神的な乱れで烙印システムが正常に動作しなくなっている可能性があると。

本来ならI.O.P.に返却され分解調査されるのだが、誰も見ていなければ凄まじ射撃能力である為もったいない。本人がやる気のあるうちは好きにやらせよう。となっているらしい。

 

『・・・・・・』

『私がスポッターをやってみましょう』

そう言うと、IWS2000の横に寝そべる。

 

「教官、無駄です。皆にやってもらい試しましたから」

 

『やってみなければ分からないでしょう。もう一度試しましょう』

92式がそう言うとIWS2000は諦めて射撃態勢に戻る。

 

 

『距離は1200・・・湿度気温は・・・」

と、射撃に必要な情報を伝える。

情報を受けてIWS2000は射撃を行う。派手な射撃音と共に専用のAPSFDS弾弾が飛んでいくが・・・・

標的から大きく外れて着弾する。

 

(ダメか・・・・いえこの子のためにも諦めてはダメ)

 

「やはり私はダメなんです・・・」

瞳に涙を浮かべて自身すら否定する彼女は精神的にも相当参っているのだろう。

 

『そんな事はありません』

そう言うと92式はポケットからケーブルを取り出す。

ケーブルの片方を自身の首筋のコネクタに挿して、もう片方をIWS2000のコネクタに挿そうとするが・・・・

 

「教官! 有線で接続してスナイプするなど聞いたことがありません! 雑音が入り当たるわけがありません」

この教官は常識を知らないのか? と焦るIWS2000。それもそうだ。心を統一して射撃するのが常識だ。気が散ることしながら狙撃するなんてナンセンス極まりない。

 

『常識に囚われていたら何も変わりません。試してみましょう』

そう言うと、IWS2000の首筋のコネクタにコードを挿す。

コネクタが挿さった瞬間、IWS2000の体が一瞬ピクリと動く。

 

『もう一度行きますよ』

『距離は・・・・」

間髪を入れずに92式は射撃情報を伝えていく。

 

──────────

 

射撃情報を聞きながらIWS2000は不思議な気持ちになっていた。

有線ケーブルから何か情報が流れてくるわけではない。チャンネルはオープンだけど無言。

ただ、データには無い、言葉には無い何かが確かに流れてきていた気がした。

 

(なんだろう? 懐かしい気がする?)

 

思いとは別に92式の情報を聞きながら射撃に集中していく。

何故か分からないけど、当たる気がした。

トリガーを引き轟音と共に銃身から吐き出されたAPSFDS弾が綺麗にターゲットへ吸い込まれ粉々に打ち砕く。

 

「・・・・・・」

「できた・・・・教官! 当たりました!!」

あまりの嬉しさに隣の92式に抱きつくIWS2000

 

『ちょ、ちょっと。・・・偶然かもしれないので、続けていきますよ』

92式に止められて"むう〜"と膨れるが、気を取り直して狙撃を継続する。

その後の射撃は全て綺麗に命中させていた。最大有効射程を超える2000m程も命中させていた。

 

『とりあえず、一歩前進ですね』

あの後は色々検証したかが、有線での接続を切るとやはり全くダメに戻ってしまっていた。

これから徐々に検証していこう。と言うところで本日の訓練は終了となった。

 

『暫くは私と訓練をしましょう』

『ライフル課程の教官のWA2000には私から伝えておきます』

 

「分かりました!」

「今日はお礼で晩御飯を奢らせてください」

 

後輩に奢られるわけにはいかないので断ったが結局押し切られてしまった。

92式の手を取り引っ張っていくIWS2000は満面の笑顔でさっきまでの暗い顔は無くなっていた。

中華料理がいいかオーストリア料理がいいか楽しそうに考えている彼女はよほど嬉しかったのだろう。

 

(こうやって、仲間が出来て楽しくやるのは・・・やっぱりいいですね。指揮官)

 

「教官! 聞いていますか!」

 

『聞いてますよ。お店も料理もお任せします』

 

そんなやりとりをしながらIWS2000に引きずられて92式は基地に併設された街へと消えていった。

 

──────────

 

R-15基地から転勤した92式は充実した日々を送っているようでした。

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