中年指揮官と零細基地の日常   作:へなころ

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お久しぶりです。
ゲームやっててバレンタインイベントを楽しみ、ふと思いついたので書いてみました。
間話、と言う事でお願いいたします。
けど、どうしてこうなった?と迷走したような気がします。
皆様が楽しんで頂けたら幸いです。

SPEC様の作品である「S10地区司令基地作戦記録」の基地と、Px4さんにご登場頂きました。
↓URL貼ります
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=186365

SPEC様の作品はいいですよ。本当にいい。私は大好きです。
是非ご一読いただければと思います。
(先方の方が有名ですので、紹介するのも変ですが(笑))



間話.地獄の季節

 みなさん、こんにちは。ナイル・ルースです。

 いやはや気がついたらもう3月ですね。グリフィンに来てから色々あったけどあっという間だった。

 

 ・・・・ふー 

 

 しかしまあ、初めて知った。いや・・・体験したと言うのが正しいか。

 

 

 そう、あの"反省会"で知り合った小太りのオッさんと冴えない兄ちゃん。(49.有名人 参照)

 あの二人とはその後も定期的に映像通信で会話をしていた。まあ指揮官同士だし、色々と情報交換をしようということですよ。

 ん? 傷の舐め合い? いえいえ、励まし合いと言うことにしといてください。

 

 そんな情報交換会の中で出てきた話題だった。

 

 

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 1月末の頃の話。

 

「は〜〜〜。毎年恒例のこの時期が来ましたな・・・」

 

 小太りのオッさん指揮官がしんどそうな疲れた顔で零す。

 

「ええ・・・例年通りのですよね・・・」

 

 こちらも辛そうな泣きそうな顔で呟く兄ちゃん。

 

 しかし、その二人の態度を見ても俺には分からない。一体どうしたと言うのだろうか? 

 いつもは気持ちを共有できるこの二人と、今回ばかりは全くわからない。

 首をかしげながら、はて? 何かあっただろうか? と思案していると、兄ちゃんが気づいたようだ。

 

「ルース指揮官? ・・・・あれ? まさかルース指揮官今年度の入社? でしたっけ?」

 

「え、ええ。今年度入社ですけど・・・それが何か?」

 

 分からない。何を言っているのか本当に分からない。

 困惑している俺を見て、小太りのオッさんが気持ち悪くニヤつきながら話しかけてくる。

 

「ルースさん、今年が初めてかぁ。そーかそーか、そりゃ分からんよな」

 

 ますます気持ち悪くニヤつくオッさん。本当に気持ち悪いったりゃありゃしない。

 困惑する俺と気持ち悪いオッさんをみて兄ちゃんが、まあまあととりなす。

 

「ま、じゃあ次の会は3月末だな」

 

「そうですね」

 

 と明らかに楽しんでいるニヤけ顔のオッさんと気の毒そうな顔をする兄ちゃん。

 明らかに俺にマイナスな何かが見えている二人。一体何だと言うのか。

 

 しかし、俺は彼らの言う"この時期"の地獄を味わうことになる

 

 

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 その日は何と言うこともない一日中だった。オッさんと兄ちゃんとの会話も忘れていたある一日。

 

「ふー、午後の仕事もひと段落だな。お茶にするか?」

 

 普段なら軽くお茶でもするよい午後のティータイム時期だったが、なんか戦術人形達がソワソワしていることにこのタイミングまで俺は気づいていなかった。

 そんな時突然事態が動く・・・

 

「指揮官!」

 

「ん? どうした? ウェルロッド?」

 

 突然立ち上がり、頬を赤く染めて話しかけてくるが、何なんだ? 

 

「今日はバレンタインですよ。だから・・・・どうぞ」

 

 眼を逸らしながら渡してくるそれは、旧英国の有名ブランドらしい。後で調べて知ったんだけどね。

 

「義理ですよ。義理! ・・・勘違いしないで下さい」

 

「いや、まだ何も言っていないけど・・・・ありがとう」

 

 お礼を言うとすぐにプイッと振り向き自身のデスク戻ってしまった。

 何なんだよ一体。

 なんて考えている間も無く、ウェルロッドの行動を皮切りに次々とチョコの襲撃を受ける。もう仕事も休憩もないしっちゃかめっちゃかだ。

 

「指揮官。いつもいつもお疲れ様です。これからもよろしくお願いします」

 

 丁寧な挨拶と共にチョコを渡してきたのはエルだった。

 DIYの包装を開けると、素朴な手作りチョコが入っていた。大きなハートと小さなハートが二つ。

 

「大きなチョコは後で楽しんで下さい」

 

 そう言うと小さなチョコを取り、一つを俺の口に入れる。もう一つはエルの口へ。

 ・・・・

 やべえ。超美味い。それに照れながら微笑むエルも超可愛い。俺が20年若かったらコロっと行ってますよこれ。

 

 

「ハイハイ。恋人の雰囲気出すのやめて下さい。後ろの人形が渡しづらくなるでしょ」

 

 ちょっと呆れ顔のイングラムが声をかける。それに合わせてウェルロッドとG36Cからうっすら殺気が出ているのは見ないことにする。

 

「私からはこれ。普通の安い既製品ですけどね。色々気を遣ったのがバカみたい」

 

「ああ、ありがとう」

 

 イングラムらしい言葉と共に既製品チョコを渡されるが、これはこれでいいと思う。

 

 各小隊長から渡されてひと段落のはずが・・・・甘かった。

 

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「イヤッホ〜! 指揮官楽しんでます!?」

「お疲れ様で~す!」

 

 肩を組みながら二人の人形が司令室に傾れ込んでくる。56-1式と62式だった。

 あまりにも陽気すぎるけど・・・。

 

「指揮官〜。バレンタインのプレゼント。ちょっと変わってお酒だよ」

 

「ああ・・・・ありがとう」

「え・・・今飲むのはマズ・・・・・うぷっ」

 

 渡すだけではなく無理矢理口に瓶を突っ込まれラッパ飲みさせられる。

 横では62式が「一気! 一気!」と煽っている。

 

 ・・・まあ、すぐにエルとイングラムに止められ、めちゃくちゃ説教されるわけだが。どうしてこうなった? 

 エル達の尋問を横で聞いていると、なになにR-13基地のローズマリー上級指揮官の所のシノに相談したと。したら、

「バレンタインはフェスティバルです。派手にやった人の勝ちです。無礼講です」

 と教えられたと。

 いや、どう考えても嘘だろ。まあ、一度騙された俺が言うのもなんだが。

 後で苦情いうか? ローズマリー上級指揮官相手だから薮蛇になりそうなんだよな。

 

 

 なんて考えていると、サブリナとOBRが入ってくる。

 

「指揮官! バレンタインのプレゼントだよ。二人で準備したんだよ〜」

 

「指揮官、どうぞ」

 

 渡されたチョコはしっかりした包みに入った少量のものだった。

 一口大のそれを一つ手に取り、パクリと食べる。

 

「なんだ・・・これ? ・・・・滅茶苦茶うまい!」

「すごいな、このチョコ・・・」

 

 こんな美味いチョコ生まれて初めてだ。思わず心の声が漏れてしまっていた。

 

「OBRちゃん、大成功だね」

 

「うん! よかった。さすがホッカイドー産の天然素材生チョコだね!」

 

「えっ!」

 

 は? ホッカイドー産の天然素材生チョコだと? お前いくらすんだよそれ! どうやって手に入れたんだよそれ! 

 この世界が汚染された世紀末の時代の、天然素材の食品は天井知らずの金額に跳ね上がっている。

 

「お前・・・・まさか? ・・・・」

 

 俺は嫌な予感がして思わず聞いてしまう。その金の出所を。

 

「うん! 60回ローンだよ! 高かったんだよ〜」

 

 自信満々に胸を張って答えるOBR。

 いやいや、なにしてんのよ。先日借金が無くなったばかりでしょ。しかもお前の借金のけつ拭いてるの俺よ! 

 それに戦術人形に60回ローンって貸す方も狂ってるだろ? 基地もろともバックアップが吹き飛んだらその貸付焦げ付くんだぜ。

 いや待て。こんな特別な高級品の手配、その異常な貸し付け。まさか・・・

 

「あのさ、この品って・・・・まさかS10基地の・・・・」

 

「そうだよ〜。S10のPx4さんに協力してもらったんだよ〜」

 

 ですよねー。何故か脳裏にあの金髪美女が、笑顔にウインクでサムズアップしている姿が浮かぶ。

 いや、まあ今回はPx4は特に悪いことしていないけどさ。

 しかしまあ、不審に思わずつい開けてしまう箱のデザイン。開封したことが分かる内蓋構造。確実に開封済みにして返品を受け付けない作りになってやがる。流石抜け目がないな。

 

 

「あのねサブリナね、S10とは指揮官同志の関係もあるからね。依頼前は絶対に俺に話通してね。頼むからね」

 

「うん分かってるよ。けど、今回はサプライズだからしょうがないよね」

 

 おーい、サプライズを優先すんな。

 反省を微塵も感じさせずニッコリ微笑むサブリナを見て頭を抱える。

 は〜、またエルと一緒に指導しないと、か。任務には忠実で優秀なんだがな。

 あとOBRの借金もだ。ウェルロッドに対処方法を相談しないと・・・

 

 そんな感じでボーッと考えている時に最後の爆弾が飛び込んでくる。

 

 

 

「指揮官さま〜! バレンタインのプレゼントですわ♪」

 

 ウイーンとドアが開いた瞬間に可愛らしい声が響く。そうM1911 MOD3だった。

 けど・・・いつものスケスケスカートではなく赤いリボンを身体に巻いて腰に大きな蝶結びを作っている。巻いているリボンも腰のくびれと大きなお尻、丁度よいサイズと良い形のバストを隠すだけの、まるで雑誌のヌードモデルのような姿である。

 

 皆が唖然としている隙に、俺の方に走って来て胸に飛び込んできた。

 

「指揮官さま〜♪ バレンタインのプレゼントは・・・わ・た・し♪ 」

 

 そう言うと、俺が何か言う間も無く彼女の唇で口を塞がれる。

 

「〜〜〜〜」(ヤバイ、これはヤバイ)

 

「うふっ♪ さあ、リボンを解いて下さい! そしたらお布団行きましょう。ね、ダーリン♪ 」

 

「ひ、ひぃぃぃ」

 

 思わず悲鳴が俺の口から漏れる。

 あまりの突然のことと、俺に抱きつく彼女の向こうに鬼の形相の戦術人形達が見えていたからだった。

 

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 この後は司令室は文字通り物理的にしっちゃかめっちゃかのグチャグチャになり午後の業務は中止にならざるを得なかった。

 数名の戦術人形達が修復装置を使う事になったので、状況としてはかなりヤバイ。

 ちなみに俺もさりげなく軽傷です(泣)。

 

 は〜。あのオッさんと兄ちゃんの指揮官コンビが言っていた"この季節"と言うのはこう言う意味だったのか。

 来年はバレンタイン禁止としたいが、しかしそうもいくまい。

 会社としてバレンタイングッズの販売もしているし、職場は俺以外女子ばっかだからな。止めるのは無理だろう。

 一年後が憂鬱で仕方がない・・・

 

 

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 と言うのが、2月中頃の話なわけです。

 で、3月になってやってきましたよ。ホワイトデーなる催しが。

 バレンタインでもらったプレゼントのお返しをするイベントだってさ。たく、どこのどいつだ! こんなくだらんイベントをセットで考えたのは。

 

 文句言っても始まらんので、とりあえず人形達へのお返しを考える。OBRの借金も考えたら高級な物を送る余裕すらない。こっちは毎月のお給料から養育費の支払いとかあるんですよ。会社からの懲罰の引き落としもあるから、実質低収入となってるわけで。

 適当に材料買ってキャンディを作ることにしたわけです。

 みんな平等に分けて差をつけない。これ肝心です。キャンディの個数は皆一緒。

 おかげで皆さま揉めずにホワイトデーのイベントは終わりそうです。

 

 

 なんて甘い考えでした! 

 

 

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「指揮官! これ何かな?」

 

 キャンディを渡し終えた後に箱の底に残っていたお菓子を目ざとく見つけたサブリナである。

 

「ああ、キャンディ作るついでに作ってみたんだよ」

 

 キャンディ作ってたら、お菓子作りが楽しくて試しでクッキーを作ってみたんだよね。

 いや〜料理って意外に楽しいんだな。ガキの頃から戦争一色だったから全然知らなかったよ。

 この年になって新しい趣味が見つかるとは思わなかった。しかもこんなに平和な趣味が見つかるなんて。

 人生、新しく始めるのに遅すぎる事はないって言うけど、本当だな。よかったよかった。

 なんて考えていると

 

「指揮官、サブリナが貰ってもいいかな」

 

「あ、ああ。欲しければ・・・・

 

 なんて軽く答えようとしたら・・・・

 

「「「指揮官、私も欲しい!!!」」」

 

 全員が欲しいと名乗りを挙げてきたんだよね・・・・

 え、これ、どーするの?? 

 

 何て考えていたら、人形達が勝手に決めましたよ。

 "第一回 クッキー争奪戦"だってさ。

 いやいや、子供の頃散々読んだ昔のジャパンコミックじゃないんだからさ。って中止だ中止! 

 

「指揮官様。皆の技能が向上する模擬戦なら良いのではないでしょうか?」

 

 珍しく俺に異論を唱えるG36C。彼女もやる気満々の様だ。どうやらこの基地で反対しているのは俺だけらしい。

 しかも模擬戦にかこつけてきやがった。指揮官として止める理由がなくなるじゃないか。

 

「まあ・・・業務に支障のない範囲なら、いいけど」

 

 それだけ返すのが精一杯だった。

 

 

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 幹部人形達の取り仕切りでトーナメントが組まれて連日キルハウスで試合が行われる。

 最初の頃は見学させてもらったが、各人の気合いの入り方がハンパない。かなりヤバイので一日で見学することをやめたよ。一応、試合のVTRを録画して後で見れるようにはしてもらった。

 VTRで確認するが・・・S10教練組の戦闘力がえげつない。地力が一回り以上高く、アッサリと試合を片付けて行く。結局ベスト4に残ったのはS10関連の戦術人形達だけだった。スカウト、エル、G36C、サブリナだ。

 

 準決勝、スカウトとエルの試合。序盤、相性的に有利なスナイパーのスカウトが有利に進めるが、エルが確実に追い詰めていく。エルは被弾を許すも巧みに急所へのダメージを外し追い詰めたスカウトを機関銃の斉射で血祭りに上げてエルの勝利となる。

 

 

「くっ、勝てない試合じゃなかった・・・」

 

 心底悔しがるスカウト。エルとの本気の勝負は初めてで改めて隊長の実力を知ることとなった。隊長の壁はまだまだ高いようだ。

 

「スカウト、腕を上げましたね。けどまだ私にも届きません。貴女なら私を完封する実力があるはずです。S10の師匠に続けて教えを乞い続けなさい」

 

 スカウトに助言を与えるエル。教練以来、多少素直になったスカウトは認めた者の助言を聞くようになった。これからもどんどん強くなって行くのだろう。

 しかし・・・ガチでやりすぎじゃないのかね・・・

 

 

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 一方の準決勝はサブリナとG36Cの試合である。大方の予想はサブリナの勝利だったが・・・・

 

「副官さん・・・・やるね。今回は負けかな」

 

 手足の関節の動きを停止させられ、倒れるサブリナが負けを宣言する。

 G36Cの5.56mmNATO(ペイント)弾ではサブリナのシールドと義体へのダメージは微少。一方でG36Cが受けるサブリナのバックショットのダメージはかなり大きい。そんな不均衡な状況からG36Cは勝てないと予測していたが、G36Cは巧みな立体機動でサブリナの高速リロードからなる散弾の連射を躱して防御の弱い手足の関節にセミオートの射撃を丁寧に集弾させる。そして遂にはサブリナの義体の破壊判定を得ることが叶ったのだった。

 

 戦闘終了後はお互い健闘を讃えあったりで意外に爽やかな一戦だった。

 これはこれでいいのかも。

 

 なんて思っていたら、決勝戦が酷かった・・・・

 

 

 ──────────

 

 決勝ということで、人形達に呼ばれLive観戦することとなった。

 

 決勝の流れだけど、エルもG36Cも互いに銃弾を数発命中させダメージを与えるが倒すには至らない。一時間以上かけて両者弾切れになる。

 お? 引き分けで終了? なんて思ったが甘かった。むしろここからが本番だった。

 

 キルハウスの中央にペイント弾と土に塗れた両者歩みより、互いに銃を投げ捨てる。

 何を始めるのか見ていたら、二人してファイティングポーズをとり、向かい合っている。

 あ、そうですか引き分けではなくてボクシングが何か分からんが殴り合いで決めるんすね・・・・

 

 

 素早い動きと手数で勝るG36C

 硬いガードと1発1発の重さで勝るエル

 互いに一進一退殴り合いを繰り返す。人間ではないのでインターバルは無い。時間無制限の殴り合い。スポーツというよりほぼ戦闘、見ているこちらがキツイ。

 

 事態が動いたのはエルの右ボディブローがG36Cの左脇腹に突き刺さった時だった。

 "ゴキ"とか"バキ"といった嫌な音が俺の耳にまで届く。

 おい・・・あれ・・・フレームや内蔵機器がイッてるだろ・・・・・。

 G36Cは目を見開き、「かはっ」という吐息と共に口から人口消化液を撒き散らして崩れ落ち、左脇を押さえながら悶える。

 斃れたG36Cをエルは鉄血の人形を見るかのような冷徹な眼で見下ろしている。

 

 しばらく呼吸を整えてから立ち上がるG36C。苦痛に耐える鬼の形相で正直言って怖すぎる。しかし彼女はファイティングポーズを取りまだやる気だ。

 だが、義体のダメージが大きく明らかにG36Cの動きが悪い。

 トドメを刺すべくエルが動く・・・が、ワンチャンそれを待っていたG36Cがカウンターでワンツーを叩き込む。ここ一番のいいパンチだが、ダメージからか勢いが足りない。ダメか? 

 と思ったらG36Cは自身の頭をエルの顔面に叩き込んだ。滑ったとかではなく明確に狙ったバッティング。明らかな反則だ。反則を交えた3連撃がG36Cの狙いだった。

「くふっ」と声が漏れ、叩き潰された鼻から盛大に擬似体液を吹き出しながら崩れ落ちるエル。地面に跪いたエルの目の焦点が合っていない。恐らく想定外の強い衝撃で電脳が瞬時リセットされたのだろう。

 電脳が落ち着いた所で立ち上がるエル。反則をアピールしても良いだろうがエルはそれをしない。反則だろうと綺麗に攻撃を入れられた事に対してプライドが許さないのだろう。

 両者ボロボロで、血みどろで、満身創痍。互いを睨みつける鬼の形相。明らかに模擬戦の域を超えていた。

 

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 そこからしばらく満身創痍のタイマンの殴り合いが続いていたが、最後はエルの渾身の右ストレートがG36Cの顔面を捉えて決着がつく。G36Cは地面をバウンドして転がりながら30m近く吹き飛ばされていた。まるでダンプカーにでも撥ね飛ばされた轢死体のように。

 

(ちょっ・・・やりすぎでしょ。これ)

 見てるこっちが痛くなるし、後始末どうすんのさ。

 

「はい、指揮官。終わったんで優勝者に賞品を渡してください」

 

 とイングラムがエルの元へ俺を引っ張っていく。

 荒く息をしているエルは鼻が潰れて疑似体液はで続けているし、で酷い状態なわけでマジで恐いんすけど。それにあのストレートで殴られたら俺ミンチですよ。

 

「あ、ああ。エル、おめでとう、でいいのかな」

 

「指揮官、ありがとうございます」

 

 酷い状態でも笑顔を作ろうとするエルはやっぱり可愛い。

 

「けど、このクッキーにここまでする価値は無いんじゃないかな? な?」

 

 その言葉を聞いてエルの眼が鋭くなる。

 

(ひ、ひぃぃぃ)

 

 危うく悲鳴が口をつきそうになる俺。

 

「指揮官。貴方の料理にどれだけ価値をつけるかは私達次第でしょう」

「そんなに卑下されたら、どんな手を使ってでも勝とうとしたG36Cも勝った私も貶める事になるわ」

 

「そ、そうか。俺が悪かった。優勝おめでとう」

 

 そう言って俺はエルにクッキーを渡す。

(彼女はすごく喜んでいるし、うん、これで良かったんだろうな)

 

 そう思っている俺の横を担架に載せられたG36Cが運ばれて行く。腕が担架から垂れてぶらぶらしている。もうまるで死体にしか見えない。

 彼女を運ぶ人形達の話し声が聞こえてくる。

 

「副官さん、ギリギリ電脳が生きていてよかったですよね」

 

「うん、そうだけど・・・義体は全損だね。完全に」

 

(全然よくねえ! ★5戦術人形の義体が全損って・・・・交換にいくらかかると思ってんだよ)

 

 

 なに? 俺の手料理は★5人形の義体の価値を超えるってか? バカ言うなよ・・・

 じゃあ何か? 俺が手料理作る度にこんな損害が出るのかよ。あり得ねえ。

 あ〜ダメだこりゃ。俺の手料理ダメだ。破産しますわ。

 せっかく新しい趣味が見つかったって思ったのに。マジか〜。

 

「ハ〜。グッバイ俺の新しい趣味」

 

 小声で呟いた俺の声が目の前で喜ぶエルに届くことは無かった。

 

 

 

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「ナイル指揮官? どうでしたか? 2月、3月は?」

 

「楽しめたんじゃ無いですか?」

 

 3月末のオッさんと兄ちゃんとの定例会。二人のニヤけた顔と揶揄いが込められた質問に思わず顔を顰める俺。

 それを見て満足そうな二人。・・・クソッ。

 ・・・ん? なんか違和感があるな。

 コイツらもまだやられてんじゃね? ちと聞いてみるか?? 

 

「ん〜ところでお二人はどうだったんですかね? 先輩方、教えて下さいよ」

 

 うっ。という言葉と顔を顰めるオッさんと兄ちゃん。

 やはりな。コイツらもまだまだ解決策は無いらしい。

 

「今後は3人で対策考えますかね」

「3人集まれば文殊の知恵、と言いますから」

 

 そう、まだ来年の2月まで10ヶ月ありますからね。なんて盛り上がる2人。

 モニターの向こうの2人を見て、こりゃダメそうだなと諦めるナイルだった。

 

 





Q.G36Cのチョコは無いのか?
A.ありましたが地獄の手作りチョコだったため、皆に止められ無かった事にされました。無念。

Q.チョコと言えばFNCはどうなった?
A.チョコ大好きのFNCは、バレンタインチョコ作成中に我慢が出来ず全て自分で食べてしまった。
 今はナイルの部屋に積まれたバレンタインチョコを狙っているとか。
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