「――はい注目! これから作戦会議を始める! この戦いには、我々野クルの未来がかかっている! 皆命懸けで取り組むように!」
マップ内の探索を五分ほどで切り上げ、陣地である図書室に入った五人。千明は黒板にチョークでマップを書き、パンパンと手を叩きながらみんなに言った。
「たいちょー!!」なでしこが元気よく手を挙げて席から立ち上がった。
「はい各務原隊員!」
「負けたら一生キャンプ禁止ということは、キャンプ場に行ってテントを張ってご飯を食べるのもダメなんでしょうか!?」
「キャンプ的なことは全部禁止だから、当然ダメだろうな! ではまずマップの情報を整理する!」
「たいちょー!!」
「はい各務原隊員!」
「テントの代わりに車に泊まるのもダメなんでしょうか!?」
「キャンプ的なことは全部禁止だから、当然ダメだろうな! では次に我がチームの作戦を決める!」
「たいちょー!!」
「はい各務原隊員!」
「お庭にテント張ってソーセージを食べるのもダメなんでしょうか!?」
「だからキャンプ的なものは全部禁止だっつってんだろーがいま大事な話をしてるんだからオメーちと黙ってろや!!」
「すいません!!」
なでしこはおでこに手のひらを当ててびしっと敬礼をすると席に着いた。長机を挟んで正面に座るリンは小さくため息をつく。付き合いが長くなってきたのでそれなりに慣れては来たが、やはり野クルのこのノリはニガテだ。千明からは何度も勧誘されているが、どうしても入る気にはなれない。
「えっと、いいかな?」と、リンの隣の席に座る恵那が手を挙げる。リンと同じく野クルには属していないが、リンと違い野クルメンバーとも馴染んでおり、困惑している様子は無い。「あたし、こういうゲームに詳しくないからコツがよくわからないんだけど、みんなはどう? これって、エアガンとかでやるサバイバルゲームみたいなものかな?」
「いや、サバゲーというよりは、テレビゲームやスマホゲームの、シューティングゲームみたいなものだろうな」千明が答える。「いま、eスポーツでも人気のジャンルのひとつだよ。まあ、あたしもインドア系は範囲外だから、詳しくないけど」
「あ、うち得意やで」と、あおいが手を挙げた。「妹と家でようやってるわ。ずっとやってるからめちゃめちゃ上手になってな、今度世界大会に出場するで」
「ホントか!?」
「ウソや」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
千明はあおいの肩に手を置き、うんうんと頷いた。「この危機的状況でもいつも通りの無意味なウソがつけるお前の精神的強さを、部長として頼もしく思うぞ」
「おおきに」
リンは恐る恐る手を挙げた。「あ、あたし、ちょっと詳しいかも」
「ホントか?」
「ゲームはあんまりやったことないけど、攻略本はよく読んでる」
「なるほど。ゲームをやらずに攻略本を読んでやったつもりになるタイプか」
「いいだろ別に」
「まあ本好きなリンらしいけど――」恵那がリンを見る。「なんか、攻略法みたいなの、判る?」
「ん、えーっとね――」リンは席を立つと、黒板の前でチョークを持った。「アサルトのニュートラルボムは、爆弾を奪い合うのが最大の特徴。ゲーム開始時にマップ中央に爆弾が置かれてるから、まずはそれを入手しないといけない」
リンはマップ中央にチョークで丸を書いた後、左上の自陣から中央に向けて矢印を書いた。
「でも、敵も当然爆弾を取りに来る。そうなると戦わなければいけないんだけど……」
続いて右下の敵チーム陣地から中央に向けて矢印を書き、矢印がぶつかったところで大きく×をつけた。
黒板を見ていた千明が腕を組んだ。「敵は銃を持ってるから、正面からの戦いになるとこちらが断然不利、というワケか……」
「そういうこと」
「コマンダーに、武器があまりにもお粗末と言われたくらいだからな」
全員で図書室のうしろを見た。運営が転送したリンたちの持ち物がたくさん置かれている。全てキャンプ道具で、飛び道具はもちろん、戦闘に特化したものは何一つない。これで銃を持った相手と戦えというのはムチャ振りもいいところだ。
「まあ、それはもう文句を言っても仕方ないよ。今ある物でなんとかしないと」
リンは諦め口調で言った。先ほどのアリスの冷たい態度と運営のデタラメな対応では、文句を言っても改善されることはないだろう。作戦会議の時間をムダにするだけだ。
「そうだな。使い方次第で、なんとかなるかもしれない。とりあえず、転送された物をチェックしておこう」
ということで、五人は転送された持ち物をチェックした。
チーム野クル所持アイテム
■折りたたみ自転車
リン愛用の折りたたみ自転車。たくさんのキャンプ道具を運ぶため、後部に荷台を取り付けている。
■雨がっぱ×4
リンの所持品ひとつと野クル備品みっつ。突然の雨でも安心。
■ドーム型テント(高級品)
リンが愛用しているテント。二人から三人用でかなり広い。
■ドーム型テント(安物)
野クル備品。一人用で狭い。
■鉈
リン愛用の鉈。主に薪を割るときに使うが、他にも用途多数。
■たき火台
野クル備品。四本の足フレームにメッシュシートを取り付ける簡易タイプ。
■まつぼっくり
その辺に落ちていたまつぼっくりを乾燥させたもの。天然の着火剤と呼ばれるほど火が点きやすい。なでしこがいつも拾ってくるのでたくさんある。
■点火棒
野クル備品。棒状のライター。
■レギュレーターストーブ(小)
リン愛用のガスバーナー。お湯を沸かしたり、ちょっとした料理に使用可能。
■スキレット
千明愛用の厚みがあるフライパン。シーズニング済み。
■クッカーセット
リン愛用のクッカー。900mlポットと400mlカップのセット。コンパクトに折りたためて持ち運びに便利。
■マグボトル
リン愛用の水筒。保温性に優れる。
■カップラーメン(カレー味)
なでしこの大好物。
「武器になりそうなものは、リンの鉈とあたしのスキレットくらいか……」千明は鉈とスキレットを両手で持って見比べる。
「たき火台も充分な武器になるんちゃう?」と、あおいがたき火台を取り、折りたたんでぶんぶん振り回した。「これで殴ったら、結構痛いと思うで」
「よし、それはあたしが使おう。イヌ子には、あたしの命の次に大事なスキレットを託す」
「調子のええこというて、ちょっとでも強そうな武器が欲しいだけやろ? まあええけど」あおいと千明はたき火台とスキレットを交換した。
リンはマグボトルを取った。「水筒も、水を入れればそれなりに重くなるから、武器になるかも」
続いて千明がクッカーセットを取る。「クッカーは軽いしリーチも短いから、武器にするよりかぶって防具にした方がいいかもな」
「じゃあ、あたしこれもらうー!」なでしこはカップラーメンを取ると、まるでワールドカップに優勝したかのような満面の笑みで頭上に掲げた。
千明は目を細めてほほ笑む。「……お前には最強の武器だな」
なでしこは「へへへ」と笑うと、カップラーメンに頬ずりをした。
「じゃあ、とりあえず装備してみる?」
ということで、リンが鉈を持ち、千明がたき火台を肩に担ぎ、あおいがスキレットを構え、なでしこが頭に鍋をかぶって両手にマグボトルとカップラーメンを持ち、ポーズを取った。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ゾンビ相手ならイケるかもしれないけど、銃を持った人間には通用しそうにないね」リンはがっくりと肩を落とした。
「それ以前に、あたしたちが愛するキャンプの道具を、人を傷つけるために使うなんて……心が痛む……」
両目に腕を当てて泣く仕草をする千明を、なでしこがよしよしと頭を撫でて慰めた。
あおいがリンを見た。「リンちゃんも、そんなごつい鉈なんか持って、大丈夫なん?」
「そうなんだよね。あたしの持ち物だから何となく選んだけど、これで人に斬りつける精神力は、ちょっと無いかな」
千明が顔を上げた。「それに比べ、敵チームは何度もバトルを繰り返してるみたいだから、こっちが初心者だからといって攻撃をためらったりはしないだろうな。武器よりも、その辺の精神力とか覚悟とかの方が問題かも」
そんな四人をよそに、恵那は一人、黙々と道具をチェックしていた。点火棒のスイッチを入れて火が点くのを確認した後、今度はレギュレーターストーブの火を点ける。
「……恵那は、そういうの気にしそうにないな」千明が小声で言った。
「だね。相手が殺す気で来るなら、ためらいなく反撃するタイプだよ」と、リンは頷く。
「改造して火炎放射器でも作るつもりかな。そうなら心強い限りだが」
レギュレーターストーブのチェックを終えた恵那は、続いて雨がっぱを広げる。二枚広げてじっくりと眺めた後、なぜか天井を見上げた。しばらくそのまま天井を見た後、かっぱを置き、続いて千明が持つたき火台やなでしこが持つマグボトルとカップラーメンを指さしては何か考えるような仕草をして、さらにリンや千明の顔も指さしていく。
「人を指さすな」とリン。
「あ、ゴメン」恵那は一瞬目を丸くして我に返った表情だったが、すぐにまた道具のチェックに戻った。今度はまつぼっくりを一つ一つ確認している。
「完全に自分の世界に入ってるな」千明はリンに言う。「どうだ? あれは、期待していいのか?」
リンは肩をすくめた。「さあ? あたしにもなんとも」
全ての道具をチェックし終えた恵那は、あごに手を当て、しばらくぶつぶつと独り言をつぶやいた後、ぱん、と、手のひらたたき。
「……これ、勝てるかも」
自信に満ちた笑顔でみんなを見た。